乱射魔
同時刻。
カズミが部屋に戻り、ジェイスは簡易ベッドで寝転がって煙草を吸っていた。
その表情はあまり晴れやかではない。
彼は今、この事件における自分の立ち位置を振り返っていた。
ただの一憲兵として、職務としてここにいるのではない。父を壊した沖縄という地を、己の眼で見たいという至極個人的な感情を持ってここに来た。
だが、とうの昔に沖縄は戦争を忘れていた。
復興し市街地はアメリカナイズされ、幻想の中にしかあの時の沖縄はない。
戦争は二十五年前に終わったのだ。
自分のように個々で思うことはあっても、終わったことは純然たる事実。
なんにせよ、それを受け入れなくてはならない。そして、前へ進まなければならない。
いつまでも過去に、トラウマに囚われていてはいけない。
しかしながら、あの島の連中は――。
と、ジェイスがそこまで考えた時。爆発音と衝撃波が窓ガラスを震わせた。
「!」
慌てて身を起こし、窓の外を見た。
キャンプのあちこちで黒煙が上がっていた。続いて連続した炸裂音が響き渡る。
「銃声!?」
ホルスターからGIコルトを引き抜き、安全装置を解除する。
炸裂音は建物の外だけでなく、建物の中からも聞こえてきていた。
GIコルト片手にジェイスは会議室を飛び出し、音がする方へ駆けた。
「……食堂か」
食堂に近づくにつれ、パニックの度合いが濃くなっていく。
「乱射魔だ!」
「逃げろ!」
「助けてくれ!」
「……乱射魔?」
ジェイスは炸裂音が銃声だと気が付いていたが、乱射となれば話は変わってくる。
基地内で銃を携行出来るのは、警備兵か憲兵といった一部の兵士に限られる。しかも、身に着けているのは拳銃ぐらいで、フルオート射撃が可能なライフル等は厳重に保管されている。
普通に考えれば、乱射などそう簡単に出来る訳が無い。
だが、現状はどうだ。基地のあちこちで爆発が起きている以上、通常でないのは確か。
非常ならば、何をもって「非」であるかを己の目で見る必要がある。
パニックの渦を抜け、ジェイスは食堂へ突入した。
食堂は死屍累々、血の池地獄といった有様であった。幾つもの死体がいたるところで折り重なり、濃い血の臭いを発している。
この惨状を作り上げた張本人は、まだ食堂内にいた。M14ライフルを手に、血走った眼をギョロギョロとさせてウロウロとしている。
逃げ遅れた者、彼からしたら獲物を探しているようだ。
このままにしてはおけない。ジェイスは軽く息を吸い込み、GIコルトを構えながら叫んだ。
「憲兵隊だ! 武器を捨てろ!」
乱射魔はビクリと身体を振るわせるや、M14の銃口をジェイスへ向ける。
ジェイスはすばやく柱の陰に身を隠した。
重たい銃声と共に7.62ミリNATO弾が柱を削っていく。
今や軍の主力小銃となっているM16が用いる5.56ミリNATO弾よりも口径が大きい、その分弾も大きいということだ。つまり威力も高い。
着弾の衝撃を背中で感じながら、弾切れのタイミングを待つ。
銃声が途切れたタイミングで、ジェイスは陰から右半身を出し乱射魔を狙う。
乱射魔はリロードを諦め、腰に挿していたM10のスナブノーズを掴んだ。ダブルアクションで撃てる銃だが、構えるよりも先にジェイスが発砲する。
胸に一発喰らいながらも乱射魔はM10を構えようとしたが、もう一発喰らい、崩れ落ちた。
ジェイスは乱射魔へ駆け寄ると、その手にあったM10やそばに落ちていたM14を蹴飛ばして離した。
(こんな物、何処で手に入れた?)
続けて彼はかがみ、乱射魔の脈を確認する。脈は既に止まっており、完全に無力化したことが分かる。
「憲兵隊だ! 乱射魔は無力化した! もう大丈夫だ!」
ここで柱の陰や遺体の下などに隠れていた者が姿を現す。生存者にジェイスは何があったかを訊ねる。
「何が何だか……飯を食いに来たら、厨房から急にソイツが、ライフルをぶっ放しだしたんだ。他のスタッフも皆殺しにしてな」
ジェイスは何人かに詰め寄られた。
「それに、爆発音や銃声は他からもするし……何がどうなってるんだ!」
「……それは、俺にも分からない。とにかく、安全な所を見つけて、籠るんだ。俺は外の様子を確認してくる」
そう言い、ジェイスは食堂を後にする。飛び出してみれば、建物の外は混乱しきっていた。
取り乱した兵士達が右往左往し、迷子の消防車がサイレンを鳴らしたまま立ち尽くしている。
この分では、指揮系統が生きていることに期待出来そうになかった。
「ジェイスさん!」
カズミの声にジェイスは振り返る。
彼女も彼と同じく部屋で落ち着いていたところ、爆発音や銃声を聞きつけて飛び出してきたのだ。手にはM10リボルバーがある。
「何が起きてるんです?」
「俺にも分からん。乱射魔が出てるらしいから、それを収めるのが先だ。近場から掃討していくぞ」
「拳銃が心もとないですが……やるしかないですよね」
聞えてくる銃声を頼りに、二人は駆け出した。




