これで終わり?
会議室へと戻ってきたジェイスとカズミは、椅子へ腰かけるなり身体から力を抜いた。
幾分か回復したものの、激闘の反動はまだ収まっていない。
ジェイスは火の点いていない煙草を咥えながら虚空を見つめ、カズミは眼鏡を外しぼやける視界でそれを見つめていた。
ジェイスが無意識のジッポーの蓋を開け閉めする音だけが、会議室内に響く。
やがてその音も止み、会議室内を沈黙が支配する。
沈黙はしばらくの間続いていたが、おもむろにジェイスが口を開いた。
「なぁ、カズミ」
「……はい?」
ぼんやりとしているせいで、返事は少し気が抜けている。
「君の考え、中らずと雖も遠からずだったな」
カズミは呆けた顔でジェイスを見ていたが、ハッと我に返る。
「……当たっても、あまり嬉しくないですけどね」
自嘲気味に返しながら、彼女は眼鏡を掛け直した。
「あの時は簡単に復讐とか言いましたけど、思い知らされましたよ。真の復讐心の恐ろしさを」
「……二十五年か」
その年月はジェイスからすれば人生の半数以上、カズミに至っては人生以上の年数である。
そんな年数、何かを恨み続けるなんて正気の沙汰ではない。狂ってるとしか表しようがない。
「その間、あの人達は復讐方法を考え続けていたんですよね」
「だろうさ。でなきゃ、薬物密売なんて手の込んだ方法なんて取らんだろう」
やろうと思えば、いくらでも手はある。だが、彼等は確実に相手を蝕み、苦しませる薬物という手段を取った。
そこに彼等の本気さが窺えるものだ。
「……けど、アジトが分かったんだから、これで終わりですよね」
カズミは縋るような、信じたいような口ぶりで言った。
「……だと、いいけどな」
ジェイスはようやく煙草に火を点けた。このまま南袢島のアジトへ強制捜査が入り、連中が検挙されれば彼としては万々歳。
事件は万事解決であり、蒸し暑い沖縄を出て住み慣れたテキサスの地に戻れるのだから。
だが、ジェイスには引っかかっていることがあった。
ヤクザが証言した、島の連中が取引の際に持っていった米軍から流出した武器弾薬の行方だ。
大量の武器弾薬を置いておける場所は、南袢島にはあのガマしかない。
しかし、ガマは薬物の精製施設と化しており、武器弾薬は置かれていなかった。
住宅の一軒一軒に分けて置いておくにしても限度がある。住民が使っている分を差し引いたとしてもだ。
余りにしても数は相当数に及ぶ。それらが行方不明となれば、大変な話になる。
いったい何処にあるのか。
(また、嫌な予感がするな)
ジェイスは溜息交じりに煙を吐き出した。
日が傾き、空はオレンジから紺色へのグラデーションに変わりつつあった。
キャンプ瑞慶覧の厨房は多忙を極めていた。夕食時が近づいているからだ。
いくら出来合いの物を調理するだけとはいえ、量が量だ。日本人スタッフ達は釜や冷蔵庫の間を慌ただしく右往左往している。
そのうちの一人、頭に緑色のバンダナを巻いた若者がふと作業の手を止めた。
すぐさま隣で食材を刻んでいたスタッフが怒号を飛ばす。
「おい、何やってんだ!」
若者は平坦な声で一言、「便所」と告げて持ち場を離れる。
スタッフは「このクソ忙しい時に」と舌打ちをし、作業へ戻る。
厨房を出た若者は便所――ではなく、ロッカールームへと向かった。
ロッカーには「explosive」と焼き印がされた木箱と、大きな油紙包みが一つと小さな包みが幾つか仕舞われていた。
若者は木箱を手に外へ出て、迷いの無い足取りで基地内を歩く。
調理スタッフ用の白衣を着ているが日本人スタッフであることに変わりなく、すれ違っても軍人達は意識を向けない。
彼等にとって日本人スタッフはいるのが当たり前であり、意識を向けるような存在ではないからだ。当然、そんな奴が持っている物などにもだ。
若者は人気が少ないエリアへと進み、ある建物の前で足を止める。そこは基地の中心部に繋がっている変電室であった。
鍵は既に別の者によって壊されており、若者は容易く変電室へ侵入出来た。
そして、explosive――爆薬をセットする。時限信管は十分後。午後六時丁度に炸裂する。
若者は変電室を後にすると、再びロッカールームへと入った。
ロッカーにあった油紙の大きな方の包みを解く。現れたのは、M14ライフル。
更に続けて小さい方の包みも解く。包まれていたのは弾込め済みのM14の弾倉と、S&W M10の二インチモデルであった。
若者はライフルへ弾倉を叩き込み、槓桿を引いて装填した。安全装置を掛けておく。リボルバーはベルトとズボンの隙間へ挿す。
武装した若者は厨房へと戻った。
他のスタッフ達は配膳のためにカウンターへ向かっているので、若者に気が付かない。
若者は安全装置を解除し、セレクターをフルオートにする。
ここまで若者は眉一つ動かしていない。
午後六時丁度。
変電室を始め、キャンプの各所で爆弾が炸裂した。同時にキャンプで働く日本人スタッフの幾人かが銃を乱射し始めた。




