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仇討の島  作者: タヌキ
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ささやかな祈り

 三日後。

 ジェイスとカズミの姿は海上にあった。

 島を調査するため、二人は海軍に頼んで哨戒艇をチャーターしていた。

 島々を回るには図体が大きいといけないので、小回りが利きつつ、荷物も積める哨戒艇がベストなのである。

 ジェイスは欄干にもたれかかりながら煙草を吸い、カズミはその隣でぼんやりと海を眺めている。

 戦闘も万が一に考えられるため、二人共背中に銃を背負っていた。

 ジェイスはM1912散弾銃、カズミはM76短機関銃だ。

 無人島ならまだしも、有人島に銃をぶら下げて立ち入るのは憚られたものの、襲われた時のリスクと煙たがられるリスクでは後者の方がマシだと二人は考えたのである。

 そうした諸々を考えながら調査を始め、早二日目。

 チェックリストの十分の一程は消化したが、まだ発見や進展の類は無い。

 だが、二人は焦ってはいなかった。百を超える島を回るのだから、すぐに何か見つかるはずがないいと構えているからだ。

 そんな二人の元へ、哨戒艇の乗組員が一人近づいて来る。


「ご苦労なもんだねぇ、アンタ等も。このクソ暑いに」


 服務規程違反になるニューヨークヤンキースのキャップ越しに、太陽へ恨みがましい目線を投げかけながら乗組員は言う。


「仕事ですから」


 眼鏡を外し、汗を拭いながらカズミは答える。


「これも給料のうちなんで」


 煙草を海へ放り捨てながら、ジェイスは苦笑してみせた。


「そうかい。まったく、憲兵さんってのは真面目だねぇ。百もある島々を一個一個周ってくなんてよ」

「仕方がないですよ。それしか確かめようがないんだから」


 船をチャーターするにあたって、ジェイス達は自らの任務とその目的を明かしていた。乗組員が訳知りな理由はそれだ。


「まぁ確かに。空の上からパッと見て分かるんだったら世話ねぇわな」


 腕組みして、分かったような顔をして頷く乗組員。


「まぁ、なんにせよご苦労なこった。……そうそう、そろそろ次の島に着くから準備しておいてくれ」


 二人の元へやってきた本題を思い出しらしい乗組員は、最後に付け食わるように言って船室へと戻っていく。

 準備と言っても大したことはしない。

 積み込んでおいた原動機付の小舟のそばに行くだけだ。

 港などの接岸設備が無い無人島に哨戒艇で行っては座礁する。なので、沖から小舟に乗り替えてジェイスとカズミの二人で島に行くのだ。

 嵩張る無線機類は二人で管理するには煩わしいので、沖の艇とはスモークグレネードで連絡を取り合うことになっている。

 緑色のスモークは「異常なし、帰投する」の意。

 黄色のスモークは「異常あり、ただし無事」の意

 赤色のスモークは「非常事態。危険。至急、救援求めたり」の意。

 こんな具合にだ。

 二人が小舟にある背嚢などの点検をしていると、艇のエンジンが止まった。

 出発の時間がやって来たのである。


「行くぞ。……せーのっ!」


 二人はFRP製の小舟を海へ落とし、落とした船へ飛び乗る。

 見送りに来たキャップの乗組員へ手を振りながら、ジェイスは船のエンジンを始動させた。


 島は一日ほどあれば一周できるぐらいの大きさであった。

 砂浜に小舟を置き、銃を手に島を周る。

 ここ最近人は来ていないらしく、木々や蔦で鬱蒼としている。引き返しても問題はなさそうだが、そのようなカモフラージュが施されている可能性も無きにしも非ずなので、しっかりと探索を行う。

 ジェイスは腰のケースからM1917銃剣を出し、自身の散弾銃へ着剣した。

 草木を切り払うため銃剣は研がれており、研がれて浮かび上がった紋様が日光を受けて鈍い光を放っている。

 このままリンゴの皮剥きも出来そうなほどだ。だが、刃渡り四十センチもあるので、リンゴに使うにはやや過剰だ。野生化した草木をぶった切るぐらいがちょうどよいだろう。

 ジェイスとカズミはジャングルの様な森を抜け、地下へと続く洞窟を発見した。

 洞窟は沖縄弁で「ガマ」と呼ばれている。そのガマの入り口だが、とても天然にはできない小さな窪みが無数にあった。

 弾痕だ。

 このような先の大戦の爪痕は、探索開始した日から何度も目撃している。

 住民がいる場合に至っては、主に高齢者層から憎しみに満ちた目線を向けられたことも一度や二度では済まない。

 二十五年、いや何年経とうとも戦争があったという事実は土地や人間に深く刻まれると、二人はこの二日間でいたく実感させられた。

 産まれや育ちに戦争が深く関わっているとはいえ、ジェイスは銃後、カズミは戦後の人間だ。

 仕事だって軍人であるが、最前線に立った経験はない。

 身をもって戦争を知っている訳ではないのだ。

 対し、沖縄は太平洋戦争の最前線であり、こうした爪痕も数多く残り、住民も多くが当時の生き残り。

 その眼で、「戦争」を見てきたのだ。

 それが分からない訳ではない二人は、憎しみの視線を甘んじて受け入れ、爪痕を前にしても取り乱したり焦ったりしないように心掛けていた。

 ボディーアーマーのポケットに挿し込んだ懐中電灯を点け、二人はガマの中へ入っていく。

 中は二十五年前から時が止まっていた。

 鉄帽を被ったままの骸骨。

 木製部は腐食し、機関部が錆で真っ赤になった99式短小銃。

 岩肌には、米兵が付けたらしい火炎放射の痕もある。

 二人は無言で奥へと進み、やがて最深部へと到達する。

 そこは少し広くなっており、人骨や装備の破片が散らばり、爆発の痕がそこかしこにあった。

 追い詰められた末に「生きて虜囚の辱めを受けず」と、自決したのだろうとジェイスは推察した。

 ジェイスが胸元で十字を切る中、カズミは自身の足元に手榴弾が転がっているのを見つけた。その手榴弾は陶器で出来ており、割れて中身が漏れている。

 物言わぬ遺骨達へ、カズミもまた祈りを捧げた。

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