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仇討の島  作者: タヌキ
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フィールドワーク

 捜査を再開した二人が向かったのは、民政府の庁舎であった。

 終戦直後、沖縄を統治していた当時の軍政府は沖縄の島々を測量、記録した。

 統治する土地のことを知っておく建前があったが、実際のところは旧日本軍の残党狩りが主な目的である。

 ゲリラを一人でも残せば、後の統治に余計な懸念を残すことになる。だからこそ、草の根掻き分け、綿密に島々を調べ回ったのだ。

 ジェイスとカズミの目当ては、その記録だ。島々を周るにしろ、細かな地理を頭に入れておきたいし、薬物の精製工場ないし銃器を隠しておける場所に目当てをつけておきたいというのが理由である。

 ランパート自身の城と言えど、開かずの間と化していたカビ臭い地下の資料室は眼中に無かったようでノーチェックで入ることが出来た。

 口だけ達者で、詰めが甘い。

 二人揃って袖で口元を押さえながら、茶けて湿気を吸って崩れかかった埃まみれの紙束を引っ張り出す。

 良い具合に古い紙というのはバニラにも似た甘い匂いを発するものだが、ここにあるのはちょっと吸うだけで肺を病みそうな臭いの物ばかりだ。

 いつぞや入った警察の資料室とは雲泥の差である。あの部屋は、設備が足りないのをきっちりと整理整頓と徹底した管理で補っていた。

 呆れるのもそこそこに、ジェイスとカズミは資料を持ち出す。

 資料を読み込む必要があるので腰を据えられるところで読みたいという心と、いつまでもそこの資料室にいては本当に肺を病みかねないという懸念からだ。


 島々の地図と向き合い、チェックリストを作り出して数時間。

 沖縄諸島に含まれる島は百十弱ほどあり、その内有人島は二十弱。岩礁に毛が生えた程度の島を除くにしても、かなりの島を見て回らねばならないことになる。

 窓の外の日は傾き、オレンジ色の明かりを差し込ませている。

 ジェイスは窓のブラインドを下げると、腰を押さえて伸びをした。


「休憩するか」

「はい」


 ジェイスは煙草に火を点け、カズミは眼鏡を外して目頭を揉んだ。

 煙草が焦げる音と、カズミが冷めてしまったコーヒーを啜る音だけが部屋に静かに響く。

 ジェイスが灰皿に吸殻を押し付けたタイミングで、カズミが口を開いた。


「ジェイスさん」

「なんだい」

「ふと、思ったんですけど……薬物の元締めって、何処かの島に潜伏してる旧日本軍の軍人達なんじゃないですかね」


 カズミの突拍子もない言葉にジェイスは少しの間ポカンとし、それから腕を組んで考え込んだ。


「……無理がありますかね」


 カズミは慌てて持論を引っ込めようとしたが、ジェイスはそれを引き留める。


「面白い。どうしてそう思ったか、聞かせてほしい」


 そう言う彼の眼は好奇心に満ちており、表情は少年めいてすらいた。

 そこまで言われて引っ込める訳にもいかず、カズミは咳払いを一つしてから話し出した。


「まず……私が着目したのは金よりも武器と弾薬を欲しがっている点です。先の日本との戦争では、日本軍は物資不足に悩まされていました。これは勝敗を分けた一因でもあります」

「だから、二の舞を踏むことがないように、溜め込んでいると」

「はい。米軍への恨みも十分ですから、ばら撒こうとする動機もあります」

「……二十五年もの恨みか。この地図作った当時の米軍の追跡逃れて、潜伏なり溶け込むなりして、その時を待っているって訳か」


 二十五年もの間、潜伏する。長いと思うだろうが、歴史的に無い訳ではない。

 有名どころで言えば、グアム島に潜伏していた横井庄一とフィリピン・ルバング島に潜伏していた小野田寛郎だろう。

 横井・小野田両名とも日本軍人で、終戦しても諸事情から復員せずに現地に留まっていたのだ。

 横井は1972年、小野田は1974年に捕らえられて日本に帰国している。

 1970年からすると二人はまだ潜伏中なのだ。

 そう言う意味では、マリアの推察もあながち間違いとは言えないのである。


「……現実味があるような、ないような」


 しかし、そんなことを露にも知らないジェイスの反応は渋い。


「流石に、ないですかね?」

「事実は小説よりも奇なり、なんて言うしな。なんでもかんでも否定は出来ないよ」


 とは言いつつ、表情は渋いままだ。実際問題、見てみない分には信じられない事象というのもあるが。


「……でもまぁ、島に行ってみれば分かることだな。どれもこれも」


 重くなった雰囲気を紛らわすように、ジェイスは表情を幾分か和らげて言った。


「ですね」


 カズミもそれに同意した。

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