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仇討の島  作者: タヌキ
37/50

作戦終了

 踏み込みで床板を破らんばかりの勢いで廊下を駆けるジェイス。

 自身がブリーチングしたドアを抜けると、そこではカズミとハルが取っ組み合いをしていた。

 どうしてこうなったか。

 深い訳はない。

 ジェイスの裏をかいてブロック塀の外側に出て回ろうとしたハルと、居ても立っても居られなくなってジェイスの後をついてきたカズミが鉢合わせたのだ。

 咄嗟に短機関銃を発砲したカズミ。ハルはその掃射を避けるや、彼女へ飛びかかり近接戦を挑んだのである。

 ジェイスは咄嗟にM1912を構えるも、散弾ではカズミも巻き添えを喰らってしまってしまう。というより、銃では誤射の可能性がある。

 ジェイスがM1912の負い紐を外したタイミングで、四つん這いになっていたハルがカズミの首へ手を掛けた。


「ガッ、グッ……!」


 必死に動かしていた手が鈍くなる。顔がうっ血で赤紫にうっすらと染まっていく。

 人を文字通り己の手で殺さんとするハルの表情には、鬼気迫るものがあった。歯を剥き出し、瞳孔が開きっぱなしになっている。

 対し、カズミの顔からは表情が消えつつあった。口が半開きになり、焦点が定まらず胡乱な目をしている。

 彼女から抵抗する力が失われようとしたその時。


「うおぉぉぉぉっ!」


 彼は雄叫びを挙げ、M1912を振りかぶり、それをハルの頭部目掛けて振り抜いた。

 ハルが声に反応して顔を上げるや、その顔面に銃床がぶち当たる。

 衝撃によって首からを手が離れるだけでなく、カズミからも離れた。

 それを良いことに、ジェイスは追い打ちをかける。

 命乞いか、ハルが手を伸ばして制止を求めるも、彼にそれを汲む余裕は無い。

 M1912を振り上げ、脳天へ下ろす。

 銃越しに頭蓋骨がへこむ感覚が掌へ伝わってくる。

 これ一度きりではなく、二度、三度と力の限り振り下ろす。

 四度目の振り上げの時、もはやハルにどうする力も残されていなかった。

 頭蓋を潰され、生きているのが奇跡という有様であった。ここから運良く生き延びても、もう自分の手足を満足に動かし、自我を保つことすらままならないだろう。

 ここでそのことに気がついたジェイスはM1912を放り、カズミへ駆け寄る。


「おい! 大丈夫か!?」


 浅く、喘ぐように呼吸していたカズミであったが、やがて大きく息を吸い込んだかと思えば咳き込みだした。

 何度か咳き込むと、ゼーゼーとしながらも通常の呼吸に戻った。


「ジェイス……さん……」


 顔の圧力が高まったせいで、彼女の瞳は潤んで、表情は呆けているように見える。


「俺が分かるな? よし」


 意識レベルを確認するべく、ジェイスはいくつか質問をした。


「自分の名前と生年月日言ってみろ」

「……カズミ・レイ……1946年、11月……3日」


 首元に見えたドックタグの鎖を引っ張り、タグを確認する。名前と生年月日に齟齬は無かった。


「よし」


 次は彼女の顔の前でピースサインを作る。


「この指、何本に見える」

「二本……です」

「よしよし。とりあえず、大丈夫だな」


 意識レベルがこれほど保てているなら、酸欠による脳へのダメージも無いとジェイスは判断する。

 だが、油断は出来なかった。


「とにかく、病院だ。嘉手納基地まで行くぞ」


 ジェイスはカズミに肩を貸すも、彼女は首を横に振った。


「……どうした?」

「……任務……まだ、終わってません、比嘉……正夫が、まだ……」

「任務は後回しだ。襲撃がほとんど成功してるんだから、後はどうにもなる」

「ですが……」

「いいんだ! もっと自分を大切にしろ!」


 食い下がるカズミに、ジェイスはとうとう声を荒げる。その声にカズミは年頃の女らしく、怯え、肩をすくめる。


「……任務より、使命より、もっと自分を大切にしてくれ。俺が何でこう言うか、分からないはずないだろ?」


 今にも泣き出しそうなジェイスの顔を前に、カズミは彼が話してくれた昔話を思い出す。

 軍に身を置き、壊れてしまった男の話を。

 彼女は自分の弱さからくる頑なさを恥じた。


「……すいません」

「いいんだ。俺も、大声出して悪かった」


 二人が揃って庭を回って表へ出ると、燃えるトラックで塞がっていない方からチンピラ達を乗せたトラックがおっとり刀でやってきた。

 少し苦い顔をしたジェイス達とは違い、チンピラと残党のヤクザ達の顔は眩しいぐらい清々しい。

 何かをやり遂げた人間の顔というのは、きっとああいうのを指すんだろうなとジェイスは思った。


 結局、一連の襲撃作戦で比嘉正夫を捕らえることは出来なかった。

 しかし、ジェイスが言った通り襲撃そのものはほとんど成功しており、比嘉派は潮見派同様壊滅状態へと追いやられた。

 構成員達のほとんどが血祭りに挙げられたものの、何人かの構成員は重傷を負いながらも生き延びており、彼等から比嘉派の薬物ビジネスの証言を得ることに成功する。

 比嘉派は薬物を自前で精製しておらず、米軍流れの武器弾薬や現金で謎の男達から買っていたこと。

 ビジネス自体、その男達から持ち掛けられたものであること。

 男達は沖縄に薬物が蔓延することを望んでいる節があること。

 それらの証言を裏付けるように、比嘉派のアジトや関係施設からは覚醒剤の錠剤は見つかっても、原料や精製する機材の類は一切発見されなかった。

 隠したり処分したりするにも、不意打ちで襲撃された以上、そんなことをする余裕も時間も無い。

 一連の証言を手帳にまとめたジェイスは、因果を表す矢印を「謎の男達」という文字へ集結させた。

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