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仇討の島  作者: タヌキ
34/50

車上戦

 正夫の家に近づいていく。

 無線からはチラホラと襲撃成功と正夫不在の報が入ってきていた。


「……やっぱり、家ですかね」

「だろうな」


 無線を聞きつつ、これから起きるであろう銃撃戦を想像していると、やたら慌てた声がスピーカーから流れてくる。


『くしから、うーてぃちゅーる車ぬ! (後ろから、追ってくる車が!)』


 その慌てようからただ事ではないと察したジェイスは、カズミに何と言っているか翻訳を求めた。

 カズミは一瞬の逡巡の後。


「敵です!」


 こう叫んだ。それを聞くやジェイスの眼の色が変わり、即座にM1912散弾銃の安全装置を解除する。


「敵か」


 彼がサイドミラーを覗くと、後ろから猛スピードで追い上げてくる三菱のコルトギャランが映っていた。ギャランは速度を上げ、ジープと並ぶ。

 ジェイスはギャランの乗員の人相を確認した。少なくとも、カタギではない顔をしていた。

 ヤクザだと判断する材料は無いが、完全武装した憲兵隊員が乗るジープを煽る奴が一般市民な訳がない。

 ギャランのハンドルを握る男とジェイスの目が合う。男は挑発的な嘲笑を投げかけるや、更にスピードを上げた。


(やる気だな)


 瞬時に判断するや、ジェイスは無線機のマイクを取りカズミの口元へ運んだ。

 何故こちらを既に敵だと認識しているかなど疑問はあるが、答えを出すのは二の次だ。


「トラックを先行させろ。俺達であの日本車を相手取る」

「……了解!」


 カズミとトラックとの通信が終了したのと同じタイミングで、ギャランが前へ躍り出てくる。


「怯むな! 突っ込め!」

「はい!」


 ギアチェンジするカズミの横で、M1912を構えるジェイス。彼はわざと助手席の人影や運転席を狙わず、右側のサイドミラーを銃口の先で捉えた。

 轟音と同時にフロントガラスに拳大の穴が空き、ギャランのサイドミラーがスクラップとなって地面を転がっていく。

 これが宣戦布告の合図だ。ギャランの運転手はそれを受け取り、ジープの進路を塞ぐようにブレーキを踏んだ。

 トラックが加速し、ジープとギャランの横を抜けていく。

 一対一になるや、助手席の窓から男が身を乗り出してM3短機関銃をぶっ放してくる。

 遅い発射速度が生み出す重低音がエンジン音と絡み合う。


「姿勢を低くしろ! そうすれば、そうそう当たらん!」

「は、はい!」


 散弾銃の被筒を引き、薬室から撃ち殻を排出させる。ポカリと空いた排莢口から漂う、火薬の臭いがツンと鼻を刺激した。

 それから、被筒を前へやり新しい散弾を薬室内へ送り、撃った分の散弾をチューブ弾倉へ押し込んだ。

 ギャランは後方への掃射でダメージを与えられなかったとみるや、横からの掃射をしようと速度を落としてくる。

 ジープは戦場での展開速度や製造コストなどの面からドアが無いので、横からの攻撃に弱い。その弱点を突く形だ。

 だが、同時に自身らが被弾する面積も後ろよりも大きくなるので、一長一短だ。

 ギャランはジープの左側に並ぶ。ギャランは日本車で右ハンドルなのに対し、ジープはアメ車で左ハンドル。

 こうすれば、運転手を悠々と狙えるという訳だ。しかしながら、それを容易く許すジェイスではない。


「頭下げろ!」


 カズミに対してそう叫び、散弾銃の銃口をギャランへ向ける。そこから間髪入れずに引き金を引く。

 座ったままの体勢で撃ったので、やや右寄りにズレたがM3の銃口が車内へ引っ込んだ。

 ジェイスはそのまま引き金の指を保持したまま、被筒を前後させる。

 空のシェルが吐き出され、排莢口が閉じた瞬間、再びM1912が火を吹く。

 本来であれば後退しているはずの撃針が前進したままで、薬室内に入ってきた弾の雷管を叩いたために起きる現象。

 これがスラムファイアだ。

 銃声の余韻が消えぬ内に、ジェイスは被筒を前後させる。彼はそれをチューブ弾倉が空になるまで続けた。

 散弾の中には直径約三ミリの鉛玉が約百七十個入っている。チューブ弾倉には五発の散弾が装填出来るので、鉛玉の合計は約八五十個となる。

 その数の鉛玉が一気に放出され、ギャランの側面へ当たる。

 開けられた窓から入り込んできた散弾によって助手席の男は顔面を抉られ、運転手の男は右手を粉砕される。

 助手席の男は即死したが、運転手の男は死に損なった。唐突に身体を巡る痛覚に耐え切れず、反射的に左手で血が滴る右手を押さえてしまう。

 必然的に手をハンドルから離しており、押さえつける手から解放されたハンドルはフラフラと揺れる。

 運転手がブレーキを踏もうとするも、時すでに遅し。

 ギャランは路上駐車してあった63年型のシボレー・インパラに追突した後、電柱へぶつかった。

 走り去ることは出来たが、ジェイスとカズミはジープを停める判断をした。

 ジェイスは弾切れになったM1912の代わりにGIコルトを手にし、カズミはM76短機関銃を手に取って安全装置を解除する。

 衝突の衝撃で助手席の男の肉体はフロントガラスに刺さり、奇怪なオブジェと化していた。

 だが、運転手の男は生きていた。ぶつかった際にハンドルで胸を打ち、あばらを骨折すると共に内臓もいくつか破裂しているが。

 ジェイスはそんな男を車から引っ張り出し、銃口を向けた。カズミを介して彼は男へ質問を投げかける。


「貴方達は何者?」


 男は完全に追い詰められ苦しそうに喘ぎながらも、ジェイス達を睨みゴボッと血の塊を吐く。血の臭いが濃くなった。


「……クソ、憲兵が」

「比嘉派の人間ね」

「……仲間と電話で話してたら……急に銃声がして、何も聞えなくなった……テメェ等の仕業だろ……」

「そうだと言ったら?」

「……ぶっ殺してやる」


 憎々し気に言うが、男は動けない。衝突の衝撃で無事な左の手も折れ、使い物にならなくなっているからだ。

 処理言語を英語に切り替え、カズミはジェイスへ尋ねた。


「……ジェイスさん、どうしますか?」


 ジェイスは即答する。


「放っておこう。応急処置でどうにかなる怪我じゃないし、電話を探している暇もない。……運が良ければ、誰かが救急車を呼んでくれるだろう」


 冷徹ながら合理的な判断に、カズミは躊躇いながらも頷いた。

 去っていくジープを捉える視界が霞んでいく。

 男は自身の死を悟り、最後の言葉を遺そうとするも残されていた力は彼の予想よりも少なく、喉を僅かに鳴らしただけで息絶えた。

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