01:シムザスの街の貴族達・・・・
第三者視点~
シムザスの街の中央には城があり、その城には領主、コスビッチ・モンタルバン伯爵が暮らしていた。
コスビッチ伯爵は、欲深で領民を顧みない領主として有名だ。シムザスの街は聖騎士軍がやってきて、好き勝手した影響で、現在疲弊していた。にもかかわらず毎年領主に納める、税金を下げる気配もないばかりか、さらに追加で税を納めさせる気でいたのだ。そんな領主に領民はからの不満が、ふつふつと沸き上がっているのは言うまでもない。
現在そのコスビッチ伯爵の城には、謁見のためにある初老の男が来ており、あれこれと報告していた。その初老の男はマヤが暮らしているボーロ村の村長である、ネディン・カワードだった。ネディンは村長であるにもかかわらず、危険なボーロ村で住むことをよしとせず、このシムザスの街で暮らしていた。そんなネディンのもとに、毎回村から届く報告により、マヤがシムザスの街にやって来ることを知りえたのだ。
そんなマヤの周囲には、ヴィルを始め、見慣れない護衛までいたという。このままではマヤまでもが、ヴィルとつながりのある、バルタザール家に囲われてしまうと悟ったネディンは、コスビッチ伯爵に報告することで、それを自らの手柄としようと考えていたのだ。
「あの忌み子のつくる作物は、どれも一級品の物ばかりです! そのマヤという忌み子が今、このシムザスの街を、目指しているらしいのです!」
「ああ・・・。以前其方から献上された作物は、どれも良い物ばかりだった。それらをその忌み子がつくったと言うのだな?」
「さようでございます!」
そんな報告を受けたコスビッチ伯爵は、なんとかそのマヤを、自らの利益に出来ないかと思考を巡らす。そしてある答えに行きついた。
「ならば子飼いの冒険者どもに攫わせて、その忌み子を儂の奴隷としてしまえばよい! その手段はいくらでもあるからな!」
そして上機嫌でそんなことを口にした。
さっそくコスビッチ伯爵は子飼いの冒険者クラン、レッドバジリクスに、マヤを攫ってくるようにと依頼を出したのだ。
レッドバジリクスはならず者の集まりのような冒険者クランだ。悪い噂の絶えない冒険者クランで、コスビッチ伯爵やその同じ派閥の貴族から裏の仕事を請け負う、闇の組織だとも噂されていた。実際に彼らはこの街では、コスビッチ伯爵に命ぜられた汚れ仕事を請け負うことが多いのも確かである。
一方同じシムザスの街に住む、有力な貴族の一人に、クリスティアン・バルタザール子爵がいた。彼は冒険者から子爵にまでのし上がった傑物であった。そのため冒険者ギルドとは、深いつながりもあった。
彼のこの領地での役割は、主に領主の護衛である。そのため彼のこの領地での地位は、騎士団長となっているのだ。
そんな彼の出世の裏には、オルブラント公爵家の手助けもあった。ところがオルブラント公爵はコスビッチ伯爵とは異なる派閥に属していた。そんなコスビッチ伯爵の配下になることは、バルタザール子爵にとって、容易なことではなかっただろう。
そんな彼の屋敷に、ある一通の手紙が届いていた。
「旦那様・・・手紙が届いております」
執事は届いた手紙を執務室にいるバルタザール子爵に差し出した。
「ほう・・・ヴィルからか・・・・」
その手紙の差出人は彼の元部下であり、現在ボーロ村で暮らしているヴィルであった。
ヴィルの手紙によると、定期的な納税の際に、ペトラと一緒に、マヤという冒険者志望の子供を、連れて来るとしたためられていたのだ。
「マヤとは例の特殊な子供か・・・・ついに冒険者になるのだな・・・・」
マヤについては以前からヴィルより、数々の信じられない報告を受け、あらかじめその特殊性をバルタザール子爵は理解していた。ところその大部分をバルタザール子爵は、誇張された内容として捉えていた。だが彼にとって影響下にあるこの街の冒険者は、戦力の一つであり、その戦力が増えるという事実は、喜ばしいことでもあった。
なのでバルタザール子爵が、マヤが冒険者になることについて、歓迎していたことは間違いない。
「貴方! ペトラはいつ頃屋敷に参るのですか!? ドレスの準備もとっくに出来ているのですよ!」
その時執務室に、バルタザール子爵の妻エリザベートがやって来た。
ペトラは貴族の生活に慣れさせるために、一年に一度この屋敷に連れて来て、寝泊まりさせる予定となっていた。
ペトラとはヴィルの娘で、幼くして水の魔法に目覚めた才女であった。そんな彼女を周囲の貴族が放っておくはずもなく、彼女の身の安全のために、このバルタザール家の養女とすることとなったのだ。
ところが男ばかり4人も生んできたエリザベートは、娘という存在に憧れ、ペトラを実の娘のように溺愛していた。
そんな彼女がペトラがやって来るこの時期に、大人しくしているはずもなかった。
「この手紙によると、ペトラは到着に少し遅れているようなのだ」
「なんですって!? 盗賊か魔物にでも襲われて・・・・!? ああっ! やっぱりペトラはこの屋敷で暮らすべきだったのよ! すぐに兵の準備をなさい!ペトラを迎えに・・・・!」
「落ち着きなさいエリザベート! この手紙によるとペトラは困った村人達を助けるために、仲間と共にある村に留まっているとある・・・・。5日遅れると手紙にも書いてある」
「まあ! ペトラはなんていい子なのかしら! 到着したらう~んとほめてあげないと!」
「まあその首謀者はマヤという娘のようだがな・・・・」
「マヤ・・・・ですか? 確か以前ヴィルからの報告にあった特殊な娘のことですね? ならその娘もこの屋敷に来るということですね!?」
その話を聞いたエリザベートは、途端に上機嫌となった。彼女は再び娘が増えるであろう出来事が嬉しくてならなかったのだ。
「言っておくが・・・マヤは冒険者になるそうだぞ? それに公爵家の人間がすでにその周囲に居座っているそうだ」
「まあ貴方! マヤは・・・・わたくしの娘は公爵家にとられてしまうというの!? しかも冒険者にされてしまうなんて!」
エリザベートの中ではすでにマヤは、彼女の娘にされているようだ。
ちなみに彼女は忌み子を嫌ってはおらず、黒目黒髪の黒を、聖人様色と口にもしていた。彼女はもと公爵家の令嬢であり、裏では旧神教を信仰しているのだ。同じく夫のバルタザール子爵も、旧神教を信仰していた。
彼が子爵にまで出世した裏には、このエリザベートの活躍があったからに他ならない。なのでバルタザール子爵が、今でも妻エリザベートに頭が上がらないのも事実である。
「貴方! なんとしてもマヤをうちの娘にするわよ!」
「無茶を言うなエリザベートよ・・・・」
その後、暴走するエリザベートに、バルタザール子爵が悩まされたことは言うまでもない。
そんな中マヤは、着々と騒動の渦であるシムザスの街へと、その足を進めていたのだった。
「はふはふ・・・! 焼きいも美味!!」
のんきに皆で焼き芋を食べながら・・・・
そんなマヤをカロンは、ただジト目で見ていた。
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