02:猫砦への訪問者とマヤ
賊の襲撃から、気付けば数週間が経過していた。
その頃になると、セリアちゃんもメルちゃんも、身体強化に目覚めていた。獣人の中にも稀に魔力のある者はいて、その大半が身体強化を習得しているという話だ。
だが通常、身体強化は魔法には含められず、スキルとして判別されるらしい。それがどうしてかはわからないが、ワタシの習得魔法一覧の中には、確かに生命魔法として、この身体強化は記されている。カロンに聞いても、これははっきりしなかったので、結局謎のままだ。
「「えい! やあ! えい! やあ!」」
そして今朝もセリアちゃんとメルちゃんは、剣の訓練に励んでいた。当初二人は、剣については、何も教わっていないようだった。そこでワタシに、剣の使い方を教えてくれとせがんできた。
その理由はいつもワタシが、黒塗りの短刀を腰からぶら下げていて、この短刀で魔物を狩っているからに他ならない。
最初に剣を教えてくれとせがまれた時には、ワタシも躊躇したものだ。なぜならワタシの学んできた剣道は、実戦には向かないと、聞かされていたからだ。よく他流試合をしていた薙刀は、剣とは違うし、実戦的な剣でワタシが教えられるとすればもうあれしかない。
実は頻繁にではなかったが、他校にフェンシング部があり、そのフェンシング部とも他流試合をしていたのだ。ところが初戦、フェンシングに大敗したワタシは、その攻略法を探るために、しばらくその部に通いつめ、フェンシングを学んでいた時期があった。他校だったため色々と悶着はあったが、まあ今はそれはいいだろう。重要なのはワタシが、フェンシングを少ない期間ではあったが、習っていたということだ。
そのフェンシングを二人に披露したところ、二人がどはまりしたというわけだ。まあ基本的なことしか、教えられていないので、早々に剣の先生になれる人を見付けたいが、今の状況ではそれも叶いそうにない。
実戦訓練については、カロンの水の精霊が大人サイズになって、相手してくれている。子供同士でもいいかもしれないが、実際襲撃者や賊の多くは大人が大半となる。そのため訓練に意味をもたせるならば、大人サイズがいいということになったのだ。水の精霊は手足が伸びるし、木の棒や剣でついても、ダメージを受けることがないので、延々と戦っていられるのだ。
そんな早朝訓練も終わり、朝食を済ませ、今度は3人で農作業に勤しんでいた。この農作業には必ず魔法を絡めた。その方が魔法の訓練になるからね。土魔法で畑を耕し、水魔法で水やりをし、風魔法で害虫を運び、駆除を行うのだ。
そんな農作業も終わりに差し掛かり、日も高く上り、お昼になろうとする頃、この猫砦に尋ねて来る者がいた。
「ちょっと! 誰もいないのかしら! いたら顔を出しなさい!」
突然高飛車な感じのする、少女の甲高い声が、猫砦の外から聞こえてきたのだ。
「誰だろう?」
ワタシは即座に城壁の上へと、二足飛びで駆け上がった。
また以前のような襲撃者だろうか? にしては声が若すぎるし、セリアちゃんとメルちゃんのような、避難民の可能性もある。
「こんな砦に何のようですか!?」
ワタシは城門の前にいる、2人に声を掛けた。それはローブを着た赤髪の少女と、初老の紳士だった。
「貴女のような子供はおよびでないわ! ここの管理者を出しなさ~い!」
すると赤毛の少女は、そんなことを言ってきた。
管理者? ここの管理者は・・・・造ったのワタシだし・・・・ワタシしかいないね?
「ここの管理者はワタシですけど何か用事でしょうか!?」
「ふざけていないで誰か大人を呼んできなさい!」
すると少女からはそんな言葉が返って来た。ワタシは決してふざけてなどいない。いたって真面目だ。
するとかさこそと遠くから、デスキャンサーがやってくるのが見えた。この時間はまだあいつらが徘徊しているし、大きな声に反応して、やってきたんだろう。
「ええと・・・そこにいるとデスキャンサーに襲われますので・・・・とりあえず中へどうぞ?」
「ちょっ!! はやくここを開けなさい!!」
ワタシは2人が慌て始めたので、急いで下に降りて城門を開け、中に招き入れた。
その様子をセリアちゃんとメルちゃんが、農作業の手を止め見ている。
「今のは土魔法? 貴女その幼さでこんな大きな城門が動かせるのね?」
「ええ・・・まあ・・・」
すると城門を開けたのが、土魔法だと気付いたのか、少女が関心したようにそんなことを口にした。
「私はフェリアンヌ・オルブラントよ! さっそくだけどここの管理者を連れてきなさい!」
少女は名乗りを上げると、再び管理者を要求してきた。名前に苗字が入っているということは、彼女は貴族なのだろう。村に尋ねて来た貴族が、以前こんな感じで、村の代表をよびつけてきたのを思い出す。それがシムザスの街への案内だったので、ヴィルおじさんが大変な思いをして、案内したと言っていたのを思い出す。
きっと彼女は幼い子供であるワタシが、ここの管理者だということが、信じられないのだろう。
「ここに大人はいませんよ。皆村を追われた避難民の子供ばかりです」
まあワタシは避難民というよりは逃亡者に入るが、それを今言う必要はないだろう。
「なるほど・・・・。貴女が魔法でここの城門をこじ開けて、他の子供達を招き入れた感じね?」
ニュアンス的には少し違うが、ここはどう答えるべきだろうか?
『この砦を造ったのはそこにいるマヤだよ。管理者には間違いないね・・・・』
そう言って子猫姿で、のそのそと現れたのはカロンだった。
「その魔力・・・・!? まさか聖獣様!?」
すると少女がカロンを見て、驚いた様子でそう口にした。少女の口ぶりでは、まるでカロンの魔力が見えている感じだが、魔力を見る手段などあるのだろうか? ワタシも精霊は見ることができるのだがね。
『よくわかったね? もしかして君は旧神教の者かい?』
「そうです聖獣カロン! 私はこちらにいる者ともども貴方様を崇める者でございます!」
そう言うとフェリアンヌと名乗った少女と初老の紳士は、片膝を地面に付いて、カロンに頭を下げた。
この創世新教が主流のご時世で、まさか旧神教とはね・・・・
そう言えばヴィルおじさんも旧神教だったし、カロンのことを知っていた。旧神教の信者は、誰しも聖獣のことを知っているのだろうか?
『悪いけどそういう堅苦しい態度は教会だけにしてくれるかい? あまり好きでないんだよ』
「そ、それは失礼しました・・・・」
そう言うと二人は、片膝を付くのを止めて立ち上がった。
「貴女がここの管理者で、建築者だということは理解したわ!」
鶴の一声ならぬ聖獣の一声だなまったく・・・・
「それじゃあ改めて自己紹介するわね! 私はフェリアンヌ・オルブラントよ! こっちが執事のラルフ・テイラー!」
「ラルフ・テイラーでございます・・・・」
「貴女の名前も聞かせてちょうだい!?」
「えっと・・・・マヤです・・・・」
愛称でいいんだよね? この場合・・・・? なぜかマヨネーズとは名乗りにくいし・・・・
「それじゃあフェリちゃんだね! メルだよ、よろしく!」
そうにこやかに口にしたのは、いつの間にか会話に混ざっていたメルちゃんだった。ここはよく挨拶できました偉い偉いという場面なのだろうか? 前世の間隔で言えばそうなのだが、この空気ではなかなか言いづらい。
セリアちゃんなんて、目を丸くして固まっていらっしゃる。
「こ、子供は元気でいいですねえ!!」
ワタシは誤魔化すようにそう口にした。
そんなワタシをジト目で見つめる、フェリちゃんとカロン。まるでお前も子供だろうと言わんばかりである。
「フェリちゃんは勘弁してくれる? せめてフェリ姉ちゃんでお願いするわ」
すると苦笑いをしながら、フェリちゃんがそう答えた。
そこでフェリちゃんよびは無事に回避され、彼女はフェリ姉ちゃんとなったのだ。どうやらフェリ姉ちゃんは、噂で聞くような強欲で悪い貴族ではなさそうだ。
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