03:ラザ村の避難民とマヤ
フェリアンヌ・オルブラントは、長い赤髪を少しウェイブ状にした髪形で、豪華なローブの下には、制服のような服を着こんでいる。その目は釣り目気味で、性格は高飛車という感じだろう。腰には教鞭のような杖を携帯しており、本人曰く一流の魔術師であるという。
ちなみにここでの愛称は、フェリ姉ちゃんとなった。
その従者ラルフ・テイラーは、フェリ姉ちゃんの執事で、護衛でもあるという。その佇まいは執事そのものだ。白髪交じりの初老の男で、腰には剣を帯剣している。
まあ呼び方は普通にラルフさんでいいだろう。
「ご用向きは何でしょう?」
ワタシはそんな2人に、この猫砦にやってきた要件を尋ねた。
ワタシの後ろにはセリアちゃんとメルちゃんがたたずみ、その様子を見ている。セリアちゃんは少し不安げだが、メルちゃんは何が嬉しいのか満面の笑顔だ。
カロンはワタシの横で、公箱座りをして、欠伸をしている。まさにその行動は猫そのものである。
「そうね・・・・。実はこの森の先にラザ村があるんだけど、そこに避難民がいるのよ。彼らはこの辺りにあるという、洞窟が避難場所に相応しいか、調べたいと言っていたの・・・・」
フェリ姉ちゃんは少し考えた後に、そう説明を始めた。
ラザ村といえば、たしかセリアちゃんとメルちゃんが、いた村だったはず。2人はその村が賊に襲われて、この猫砦に非難してきたのだ。
「ラザ村なら私達がいた村です!」
「あら? そうだったのね? そう言えば貴方達も獣人だものね・・・・」
ラザ村は獣人の村と聞いている。そのためフェリ姉ちゃんはそう口にしたのだろう。
「あの・・・・お父さんは・・・・30代くらいの犬の獣人なんですけど・・・いませんでしたか!?」
そう言えばセリアちゃんは、ラザ村を出る時に、お父さんと逸れたと言っていた。ならそのお父さんが、そのラザ村の避難民の中にいた可能性はある。
「悪いけど私が見たのは年寄りや子供、女ばかりだったわ・・・・」
「そうですか・・・・」
フェリ姉ちゃんの言葉を聞いたセリアちゃんとメルちゃんは、あからさまにがっかりするが、お父さんが無事だといいね。
「えっと・・・・この海辺にある洞窟でしたら、避難先には向かないと思います・・・」
「あら? それはなぜかしら?」
「あの洞窟は狭くなっていて、子供数人が入るのがやっとなんです・・・」
海辺の洞窟といえば、岩山にある小さな穴のことだろう。
確かにあの洞窟に入れば、巨大なデスキャンサーは入ってこれないだろうし、しばらく身を隠すにはうってつけの場所だ。
ところが大人が大勢いるとなると話は別だ。姿勢を低くしないと入れないし、入れても2~3人がいいところだ。
「それは残念ね・・・・」
「あの・・・・この砦じゃあだめかなあ?」
そう遠慮げに提案してきたのはセリアちゃんだ。セリアちゃんは同じ村の人達を、出来るだけ安全な場所で、過ごさせてあげたいのだろう。
ワタシも避難民がいるなら、出来るだけ助けたいとは思っている。それがセリアちゃんの知り合いというならなおさらだ。だが実際問題それも人数しだいとなる。100人以上とかになると、この砦の拡張も必要になるし、受け入れには時間がかかるだろう。
「えっと・・・その人数はどれくらいですか?」
この猫砦の面積はだいたい250000平方メートルくらいだ。この広さであれば、普通に考えれば1万人以上は暮らせる広さになる。窮屈でよければ20万人以上はいけるだろう。だが猫砦は畑が占める面積が大きいため、人が住めるようなスペースは、ほとんど残していない。
「20人はいるわね・・・・。ちょっとここでは手狭になるかしら?」
「なら少し広げましょう・・・・」
ゴゴゴゴ・・・・・
ワタシは砦の壁に手を当てると、土魔法の【操土】を使い、さらに2メートルほど移動させた。これから建てる避難民の家の広さと、その前の通路のことを考えると、これでも少々手狭になる可能性はある。もう2メートルはあった方がいいか?
「ちょっと! 砦に隙間なんかできたらデスキャンサーが・・・・!」
すると猫砦に隙間ができて、そこからデスキャンサーがこちらを覗き見ていた。ところがデスキャンサーがそこからこちらに侵入することはない。なぜならこの猫砦には、四方の壁隅に結界の魔道具が設置してあるからだ。
結界の魔道具は、猫砦の東西の壁の中の両端に入っている。
先ほどワタシが東の壁を移動したために、結界の魔道具も移動し、その結界も広がったのだ。そのため先ほど壁が移動して空いた隙間も、結界で覆われているのだ。
ここの結界は、四隅にある結界の魔道具を、取り囲むように出現する仕様となっているからね。
「驚いた・・・・。もしかしてこれは魔物を阻む結界なのかしら?」
フェリ姉ちゃんはその露わになった結界を見て、驚愕の表情でそう口にした。
「これくらいのスペースがあれば、20人くらいの受け入れは可能なのではないでしょうか?」
ワタシは壁が移動したことで広がったそのスペースを指し示しながらそう口にした。
「貴女が色々可笑しいのはわかったわ。心臓に悪いしまだ気が早いから今は元に戻してちょうだい?」
どうやらフェリ姉ちゃんは、あの隙間から覗き込んでいる、デスキャンサーが気になるようだ。そしてワタシはそんなに可笑しいのだろうか?
「ならいったん戻しましす・・・・」
ズズズズ・・・・
ワタシはそう言うと、動かした壁をもとの位置に戻した。
「なら受け入れ自体は了承ってことでいいのね?」
「はい。セリアちゃんの知り合いが不自由しているのを黙って見過ごせませんから」
ワタシがそう言うと、セリアちゃんもメルちゃんも、満面の笑顔を浮かべた。
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