↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/64

潮騒の声

「なあ知ってるかい。音は空中より個体、そして水中の順で速く伝わるんだよ。水中を伝わる音の速さは約1,500m/秒で、空気中を伝わる音の速さ約340m/秒。約4.4倍の差だよ」

「俺、別に水中で音聞かないから必要ないよそれ」

「いやいや。なんでこれを艾理に話したかというとね⋯⋯」




















 クオーーーーーン






 コオーーーーーン






 モグリの元に、シオサイの鐘の音が届く。



 気絶していたモグリの意識が





 呼び覚まされた。







「ッッ、だはっ。生きてる」


 モグリは目を覚まし、頭を揺すった。相変わらずクラーケンに強く締め付けられているが、見上げれば水面が見えるので気絶してからそれほど時間は経っていないようだ。


「にしても、なんだ今のは。何か、何かの音に起こされたような⋯⋯」




 クオーーーーン






「はっ、今のだ。今の、んん⁈」


 再度聞こえてきた謎の音に反応するように、モグリの体に力が入る。体の内側から外側に弾けるように力が流れ、モグリの腕の筋肉が雄々しく隆起する。


「訳は分からないが、この力なら。ぐぐっ⋯⋯」


 モグリを巻き付けているクラーケンの足に、徐々に縦方向の亀裂が入り、


「だあ‼︎」

「イガアアア⁈」

 

 破裂した。






 締め落とせたと思った矢先、再び足を引き千切ってきた小さな獲物の存在にクラーケンは怯える。が、海中に浮かぶ足の肉片を美味しそうにパクパク摘み食い始めたその小さな存在に、腹ワタが煮え繰り返ってきた。クラーケンは千切れた足の断面に魔力を込め、足を再生させる。その際生じた水圧によりモグリの摘んでいた肉片がモグリから離れる。


「イ、イガ、イガアアア‼︎‼︎」

「悪かった。お前美味しいよ。変な音とお前のお陰で、元気いっぱいだ」

「イガガガガガッ、ガイ‼︎」

 


 この時、体に力が漲ったのと同時に、鐘の音はモグリの体にとある変化をもたらしていた。



「元気になったのは良いんだけど、あの不思議な音は何故だか、頭に響く」



 クオーーーーン


 コオーーーーン



「まただ、またこの音。体と頭に響く。けれど痛いわけでも不快なわけでも無い。この音は一体なんだ。クラーケンには聞こえ」


 モグリがクラーケンの方に向くと、クラーケンの足による乱打攻撃が眼前に迫っていた。


「て、やば」


 身を捩って避けようにも間に合わない。モグリは咄嗟に目を瞑り、腕を交差して防御の構えを取った。




『特にマッコウクジラのは強力で頭部にある脳油器官で音波を増幅して発射出来るんだ。周囲の探知に仲間との通信、超音波を餌に当てて弱らせたり色々出来るらしい』





 クオーーーーーン





 コオーーーーーン





 頭に響く。




 頭の、意識の深く。その真ん中。


 頭に響いている音は、繊細で優しい、それでいて切ない泣いているような⋯⋯





 声だ。







 カチッ



 カチカチッ





 モグリはその頭に響いて止まない音を、書いて字の如く、止まないように頭で響かせ続ける。仕組みややり方は理解していない。だが、この響く音がモグリの体にそうしろと囁く。モグリは身を任せる。


 カチッ


 カチッ


 カチカチッ



 頭の中で反響させたその音は、





 モグリの鼻先から放たれた。









 カチッ、




 クオオオオオオオオオオオオオンッッ‼︎‼︎





「イガッ」


 モグリから放たれた爆発的な衝撃波がクラーケンを直撃。クラーケンは目をまん丸に見開いたまま硬直し、やがて漏斗や頭と体の隙間から墨や体液を撒き散らしながら絶命した。ゆっくりと足を揺らしながら海の深青に向かって沈んでいく。モグリはその一部始終を眺めていた。


「今の俺か?凄いな」


 モグリは頭を撫でたり、腕の筋肉を張らせたりして自身の体を確認する。


「俺はダメージ無いな。やっぱり今のは俺がやったのか。音波⋯⋯攻撃」


 沈んでいくクラーケンをぼぉっと眺めていたが、


「ああ、もったいない。こいつは化け物だが味は美味いんだ。墨が漏れ出ちゃったのは残念だけど」


 と、手を伸ばしてクラーケンの足を掴んだ。足を交互に動かして海面に向かって上昇する。やはり筋力的な力もさる事ながら、水中では動きの補助が働くらしい。体の表面に触れている水が進みたい方向にモグリを押しているような感覚がある。お陰様でクラーケンの死体を難なく運びながら泳ぐ事が出来る。


「さてと、村の人に一応報告するか」


 モグリは、音が段々と小さくなりながらも未だに響く海の中を泳いでいく。













 ◇ ◇ ◇






 モグリは灯りを頼りにシオサイの港へ泳ぎ辿り着いた。クラーケンの足を桟橋の柱に結びつけると、クラーケンの上によじり登った。その頃には、先程の音は聞こえなくなっていた。


「シオサイの皆さーん、クラーケンは倒しました。ここに置いときますね」

「は?」


 シオサイの村人と海賊達が取っ組み合いを止め、ぷかぷかと水面に浮かぶクラーケンとその上で立っているモグリの姿に驚愕した。ポロボラとクラーケンを戦闘不能にされ、挙げ句の果て海賊船を粉々にされた海賊達は意気消沈。武器を手から落としながら次々と膝から崩れ落ちた。


「おしまいだあ。お頭もクラーケンもいないんじゃ、このガチムチ集団と化け物亜人には勝てない。もう、終わりだ」

「なんだよ、ただの漁村じゃねぇのか」


 ランダスは額の汗を拭うと、


「お前ら、海賊を残さず縄でしばれ‼︎港の外の木に縛って見張れ。逃げ隠れしてる奴もいるかも知れん、数名で村中を見回ってくれ。港は一旦そのままだ。状況証拠にする。だがポロボラは引き上げろ」


 と村人達に指示を出した。


「あいよランダス。ま、ひとまず?」

「ああ。俺達の勝ちだッ」


 村人達はランダスのその言葉に雄叫びを上げた。だがランダスは港を背に向け、クラーケンの上で寝そべっているモグリに視線を移した。村人の1人がランダスに駆け寄る。


「ランダスさん。んで、あの亜人はどうします?やっぱ殺すんすか」

「お前、あの化け物殺せるか?俺には無理だ」

「そっすね。はい」

「話してくる。後片付け、お前らに頼んで良いか」

「了解っす。お気をつけて」

「ああ」









 ◇ ◇ ◇




「なあ、モグリ起きてるか」

「ん⋯⋯はい」


 ランダスは半壊している港の堤防に腰掛け、クラーケンの上で寝そべっているモグリに声を掛けた。モグリは体を起こし、堤防に飛び降りた。


「モグリ、怪我は無いか」

「はい。あったけどこいつ食べたら治りました」

「⋯⋯。そうか。まあ、その。まずはな、」


 ランダスはモグリに頭を下げた。


「礼を言う。娘を、村を守ってくれてありがとう」

「いや、そんな。娘さんは俺のせいみたいな所ありますし」

「違う。コユが勝手に飛び出したんだ。その上、助けて貰ったんだ。あの子にはキツく叱っておく」

「はぁ。俺としてはですね、あなた達がなんで俺を殺そうとしたかを」

「そんなことより、」

「そんなことより?」


 ランダスはクラーケンの死体とモグリを交互に見つめ、深く溜息を吐いた。モグリは頭を傾げながらランダスの隣に腰掛けた。


「君のあの馬鹿げた力はなんだ?クラーケンの足を引きちぎりぶん殴り船を粉砕し、クジラ亜人とは言え、海中でクラーケンを倒すとは。本当に何者なんだ。本当に記憶は無いのか」

「それは⋯⋯」


 ランダスの台詞からして、クラーケンを倒した際に使用したモグリの音波攻撃は村人にはバレていないのだろう。モグリからすれば良くも悪くもある。無駄に詮索をされない点は良い。が、モグリは力と音波攻撃を引き出すに至った先程の不思議な音について問いたかったので会話の掴みを見失っていた。


 第一、本当の事を話して信じて貰えるのだろうか。村は村で自分を始末しに来ていたのだ。海棲亜人という要素で随分と危険視もされていた。


 砂浜に打ち上げられていた自分を助けてくれた分の恩返しは済んだだろう。あとは、それとなく上手いこと言い逃れして、海で暮らそう。クラーケンを倒せるんだ。暮らしていけるだろう。






「どうなんだ。モグリ」


 モグリはランダスから目を背けるように月を見上げながら、海の夜風を命一杯吸った。冷たい空気が鼻から頭へ、思考が冴える気がする。


「なんだか、体が戦い方を覚えていたみたいなんです。敵を前にしたら思い出した、的な」

「鐘の音が聞こえたんだな」

「え」


 驚いてランダスに振り向いたモグリに、ランダスは


「はははは‼︎お前は驚いてばっかりだな。」


 と豪快に笑った。


「図星か?」

「あ、それは、その、」


 ランダスは笑顔から真顔に切り替え、堤防に正座すると深々と頭を下げた。


「お前を殺そうとした事、深くお詫びする。事情を話した所で到底許せるとは思えないが、後で事情は話す。だから今は謝る事しか出来ない」

「ランダスさん⋯⋯」

「だから君は我々を疑っているんだろう。我々が君を警戒するように、記憶の無い君もまた、我々を警戒していてもおかしく無い。なのに我々と来たら刺客を向けた君に助けて貰った。面目無い。君への海賊の反応を見て、君が海賊の仲間では無いとわかった。そういう芝居かも知れないが、クラーケンを1匹潰して船を3隻沈めるのは芝居にしちゃやり過ぎだ」

「は、はあ」

「村の全員が君を疑っていない訳じゃないだろうが、俺はお前をもう疑わないよ。だから次は俺を疑わないで話を聞いてくれ」


 ランダスの真剣な眼差しに、モグリは思わず俯くように目を逸らした。まだ出会って1日も経っていない人を信じられる程、モグリは素直では無い。あの日から誰も彼も疑って生きてきた。命の恩人とはいえ、そう簡単に心を開く訳にはいかない。


 が、このままでは話が進まず、自分に起こった事象も謎のままだ。嘘だろうが真だろうが、話は参考程度に聞いておくことにした。


「殺されかけた事はまだ引っかかりますが、一旦話は聞きますよ」

「助かるよ。で、聞こえたんだな」

「聞こえた、のが皆さんと同じ物かはわかりませんが。聞こえました。あれを聞いたら全身の力が漲ってきて、クラーケンの足から逃れられたんです。んで⋯⋯はい」

「そうか。やはり君には明確に効いたのだな。どんな音が聞こえた?」

「どこか悲しいような虚しいような、それでいて優しい切ない音でした」

「うむ」


 ランダスは再度堤防に腰掛けて腕を組み、沖の方を向いた。


「あれはシオサイの鐘。我が村に昔から伝わる特別な鐘だ。いつもは祭り事でしか鳴らさない。だがあの時は親父、村長が鳴らすように命じたんだろう。あの鐘の音は我々シオサイの村人にとって力の源だ。あれを聞いたら海が我々に味方してくれるような気がして不思議と力が、生きる活力が湧いてくるんだ。お陰で海賊を推し戻せた」

「ですが、俺はシオサイの村人じゃないです」

「今、ここで詳しくは話せないが、どうやら言い伝えによれば、あの鐘は君のような特定の亜人には別の波長が当たるらしくてな。それが君の力を引き出したんだろう。我々は気がするだけだが、君は実際に力が湧いたのだ。君は恐らく特別な亜人だ」

「はあ。なるほど。俺が特別な亜人かはさて置き、シオサイの鐘には不思議な力がありそうですね」

「村長に、君と話をする場を設けてもらうつもりだ。まずはこの騒動を片付けなければならない。海賊と船の後始末に、アバルバントへの報告。島周辺の船行治安も荒れるだろう、しばらく漁も行けん。なあ、モグリ。申し訳無いがしばらく島に居てくれないか」

「え」


 明らかに嫌な顔をしたモグリを、ランダスは鼻で笑った。



「わかりやすい奴め」



「理由は2つあってな。1つ目に君は重要参考人だ。アバルバントから使者が来た際に証人として話し合いの場に居てもらわなければならない。今回の件、どう君の存在を隠して説明したところで、チャランポランになる。それに既に俺を含めて、シオサイの皆んなはお前に恩を感じているだろう。だからせめて事が落ち着くまでしばらく島にいて欲しい」

「え、えぇ?重要参考人?いやまあ、そうですけど」

「で2つ目。普通に海賊からシオサイを守って欲しい。君は強い。勿論、その間の生活は我々が保証する。そうそう、君はイカが好きなのかな」

「イカ、ああ。そうみたいです」

「すまないがクラーケンはこれ以上食べないでくれよ。証拠品だから。嬉しそうに運んできてた上、忍びないんだが」

「まじか」

「その代わり、当分漁には行けないが」


 ランダスは懐から干したスルドイカを取り出してモグリに手渡した。


「これは好きなだけ食べていいぞ」

「ほう」




 ◇ ◇ ◇




 ランダスとモグリが港の前の広場に着くと、拘束した海賊達を地下牢に運ぶ所だった。村人達がランダスに気付いて駆け寄ってきた。


「ランダスさん、今からこいつらを地下牢にぶち込む最中です。ですがポロボラは何処にも居ませんでした。港の海の中から村の隅々まで探し回ったんすが」

「争いのどさくさの中で逃げたんだろうな」


 ランダスと村人が話していると、連行中の海賊が噛みつきそうな形相で身を乗り出してきた。


「ポロボラの野郎、俺達を置いて小型潜水船で逃げやがった‼︎あの野郎俺達を捨てやがってッ」

「そうだ、俺達はあいつに命令されて仕方なくやっただけだ‼︎」


 騒ぎ出した海賊に村人達が銛を向けて警告するが、一向に鎮まる気配が無い。ランダスが溜息を吐きながら腕を組んだ。


「何もしてなくても海賊な時点で逮捕だ。まだ暴れ足りないなら、このクジラ君が相手するが?」


 ランダスが真顔のモグリの肩を叩くと、海賊達は顔を青ざめて一斉に鎮静化した。背中を丸めてトボトボと歩き出す。


「勝手な事を言ってすまないモグリ」

「いえ別に。しかし逃してしまいましたか」

「君のせいじゃ無い。君はクラーケンの相手をしていたのだからしょうがないだろう。だが奴が海賊の拠点に戻れば、間違い無く仕返しに来るだろう。今回より勢力を増やしてな」

「嫌ですね」

「ああ嫌だな。だから対策を早急に取る。君だけに頼る訳にはいかないからな。とりあえず君は村長に会ってくれ。俺はここで後片付けの指揮を取る。おーい、誰かこの恩人を村長の元に案内してくれ」


 ランダスの呼びかけに、何かを紙に記録していた村人が手を挙げた。大量の紙を抱えながらこちらに駆け寄る。


「私が案内しますよ。ちょうど役場に戻るところでした」

「じゃあ頼む」


 モグリが村人の後を着いて歩き出すと、作業中の村人達が一旦手を止めて口笛や拍手をし出した。


「よっ、村の英雄‼︎」

「殺そうとしてすまん‼︎」

「クジラ様のご帰還だぜ~」

「ありがとな‼︎」

「酒飲もうぜ」


 村人達からの称賛の声にモグリは戸惑いながら俯いた。助けようとはしたが、モグリ自身何が起こったか理解出来ていない。素直に言葉を受け取る事も不得意で俯いてしまった。前を歩く村人は、そんなモグリの様子に気付いて振り向いた。


「そういう性格じゃないのはわかりますけど、お手を振るぐらいは良いのでは?シオサイの村は、あなたに感謝してあなたを歓迎しています」

「え⋯⋯」


 モグリは村人の言葉に顔を上げ、辺りを見渡した。その目に映ったのは、笑顔でこちらに感謝を伝える村人達であった。大きな身振り手振りをする者、傷の手当てを受けながらも感謝の言葉を述べる者、酒を持って行こうとして周りに止められている者。


「少なくとも、あなたは既にこの村にとっては英雄です。胸を張ってください」

「そう、ですかね」

「あ、でも役場に入る前にこれを被ってください」

「ん?」








 ◇ ◇ ◇






 モグリが役場に着くと、役場は避難してきた村人や忙しく働く役場の人でごった返していた。なるほど、ここでモグリがいる事がバレると大騒ぎになって動けなくなる。モグリは被っていたフードをより深く被り、案内人の後を着いていく。


「村長、彼をお連れしました」

「そうかご苦労。そなたがモグリ殿か」


 村長は、顔を隠して鼻先しか見えないモグリをまじまじと眺めると、「ふむ」と頷いた。


「モグリ殿、申し訳ないがしばし待たれよ」


 会議室で慌ただしく報告を受け指示を出していた村長は、汗を拭いながらモグリにそう言うと側近であろう人に後を託した。そしてモグリを手招きする。



 モグリは村長の執務室に案内された。案内人の村人は執務室の外で待機中である。村長は椅子に腰掛けると、モグリにもソファに座る様に勧めた。モグリがおずおずと座りフードを脱ぐと、村長は頭を深々と下げた。


「礼を言う。村を救ってくれてありがとう。君が居なければ今頃、シオサイは海賊の手に堕ちていた」

「いえそんな。ランダスさん達が守ったからですよ」

「勿論、村を守ろうと死に物狂いで戦った村人達のお陰でもある。だが君が居なければあのクラーケンはどうにもならんかった。改めて礼を言う。ありがとう」


 モグリは照れながらも頭をぺこぺこし


「いやまあ、はい。受け取っておきます」


 と言うと、村長も顔を上げて微笑んだ。


「そうか。しばらく村に残ってくれるのか」

「はい。ランダスさんに言いくるめられた気もしますが、事情聴取があるなら仕方ないですし。それに行く当ても今のところないですから」

「ふむ。行く当て、か。それも追々話そうや。ひとまず、この村で過ごすと良い。村の皆も歓迎じゃろう」

 

 村長は島の地図を見ながらモグリに語り掛ける。報告書を片手に、次々に地図に印やメモを付けていく。モグリは頂いていたお茶をテーブルに置き、村長の手元を伺った。


「村長、忙しいようなら俺、出直しますが」

「いや失敬。モグリ殿も静かな所で休んだ方が良いかと思ってな。今は村の何処を歩いても声を掛けられて落ち着かんぞ」

「⋯⋯確かに」

「すでに手遅れですって顔だな」


 村長はモグリの浮かない顔を見て笑っていた。が、報告書とペンを机に置くと手を組み、深呼吸する。


「君の事はランダスから聞いた。記憶が無いのだったかな」

「はい。気付いたら砂浜で」

「目覚めてその日の内によく戦えたな、クラーケンと」

「ッ......」


 村長の鋭い眼光と言葉に、モグリは冷や汗を流した。目覚めてすぐ戦えたのは転生前の記憶と転生後の体の両方のお陰だ。どう説明しようにも辻褄が合わず、面倒な事になる。どう答えたものか。




 あ、そうだ。これは嘘じゃない。




「音、音が聞こえたんです」

「音?」

「海の中に居たら、不思議な音が。それを聞いたら体から力が湧いてきて」

「やはりそうか。貴殿はやはり⋯⋯」

「はいそうなんで、はい何が?」


 村長はモグリの発言に、腕を組みながら目を瞑って唸り始めた。モグリは何か発言に穴があったかと焦り、目を泳がせる。


「あ、あの、いや、音って言うか鳴き声?って言うか、いや、もうあの、なんでもないって言うか」

「鳴き声⁈」

「なんでもないです」

「そうか鳴き声に聞こえたか。やはり貴殿は⋯⋯」

「じゃあ俺は失r」

「モグリ、貴殿が海中で耳にしたのは我が村に昔から伝わる『シオサイの鐘』の音じゃ」

「シオサイの鐘。先程、ランダスさんから少しだけ説明を聞きました。村の人を勇気付けるために鳴らしたそうですね」

「そうか。うむ、シオサイの鐘は普段なら祭りや祝い事の際に鳴らす、神聖な鐘。我が村の宝だ」

「なるほど。とても大事な物なんですね」

「ああ。この村にとって。そして、」



「この世界にとっても」



「こ、この世界?」

「そうじゃ。貴殿が鐘の音を聞いて力が湧いてきたのもその為じゃ」

「どういう事ですか。村と世界の宝が俺の力にどう関係があるんですか」

「うむ。シオサイの鐘の本当の力、そしてこの島の真の姿。それを貴殿には話さなければなるまい」

「えっ」

「何故ならモグリ。貴殿はもしかすると⋯⋯」







「海神様かも知れぬのだ」




 続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。