戦闘!スライム
「モグリ、止まれ」
「はい」
ルタイスが茂みにしゃがむように身振りし、モグリも隣にしゃがんだ。ルタイスが茂みから視線の先の開けた場所に指を差し、モグリもそこへ目を凝らした。
そこには、ぷよぷよと跳ねたり転がったりしている青い半透明のスライムが数匹いた。楕円形の顔も手足もない半透明な体の中央には、色の濃い球体が浮かんでいる。
「ここには5匹、か」
「丸くてなんだか可愛いね」
「あの真ん中のが、核だ」
「あれを攻撃するんだよね」
「ああ。核を破壊しても魔石は取れるから安心しろ。よし、まずはここで見てろよ」
「はい先輩」
「ん~。俺の銛捌きを見ろ~?」
「先輩。くどいです」
「ん、もう止めるね。⋯⋯よし」
ルタイスは声を顰め、三叉銛を握るとスライムに狙いを定めて茂みから飛び出した。そして驚くスライム達の核をルタイスの銛が容赦なく貫いていく。
「キュ⁈⁈」
「ごめんよ、っと‼︎」
「キュキュ、ギュエエエエ」
「ギョエエエエ」
「ギョワアアアアア」
「ギョンッッ」
「ギャッ」
一瞬で5匹を仕留めると、ルタイスは「ふぅ」と言いながらモグリに振り返ってグーサインを向けた。核を破壊されたスライムはシュワ~、と体を溶かし、核が光って魔石に変化していく。魔石を一つ手に取ると、ルタイスは魔石を見せびらかしながら再度モグリへドヤ顔を向ける。
「なんか、思ってたスライムの断末魔と違ったんだけど」
「まぁ見た目は可愛いが、こいつらも立派なモンスターだからな」
「魔法使わないんだ」
「敢えて使わず、だ。魔法使えば茂みから仕留めてたぜ」
「初心を思い出す為か」
「そうそう。よし、次はモグリの番な。スライムを探すぞ」
「うん」
別のスライム達を探す事、約10分。
「⋯⋯いたぞ」
「本当だ」
同じような森の開けた場所に、今度は8匹のスライムを見つけた。2人は近くの岩場に隠れる。
「よしモグリ。お前は拳闘士だから、そんまま行って来い。撃ち漏らしは俺が片付けるから、まずは1匹を確実に仕留める事を意識しろ」
「はい先輩」
「本当はな、スライムには打撃耐性スキルがあるから、Eランク冒険者は拳闘士やハンマー使いでも別の武器や魔法を使って仕留めるんだが⋯⋯。お前は気にしなくて良いからな」
「うんわかった」
「最悪上手くいかなかったら、ナイフ使え」
「わかった」
「⋯⋯ただ一つだけ」
「え?」
ルタイスは目を細めながらモグリをジトー、っと睨むように見つめる。
「な、何?」
「全力でやんなよ?適度に力抜けよ?じゃなきゃ、森が吹き飛んじまう」
「んな馬鹿な」
「俺達は自然のバランスを保ちに来たんだからな?⋯⋯頼むよ」
「はい気を付けます」
モグリは岩場から物音を立てずに顔を出すと、草の上でぷよぷよしているスライムに狙いを定める。そして、
「よしっ」
と気合いを入れると、1匹のスライム目掛けて飛び出した。スライム達はモグリに気付いて叫び声を上げる。
「キュキュ⁈」
「恨まないでね、そいっ」
そいっ、とモグリは力を抜いた《《つもり》》でスライムにアッパーカットをカチ当てた。
パァアアアアアン⋯⋯
「ギョ、パァアアアアアアアア」
「あら?」
アッパーによりカチ上げられたスライムは、断末魔すら満足にあげる暇も無く、核が魔石に変化する間も無く、全ての組織が水飛沫のように「パァンッ」と消し飛んだ。
スライムの背後の木々と木の葉が拳の風圧により、ガサアアと音を立てて激しく揺さぶられる。スライムが居た場所の地面も生えていた草と地面ごと、数メートル分が削れて土煙を立てている。
他のスライムがその場で固まり、無いはずの目を真ん丸にしている。ルタイスは隠れていた岩にもたれ掛かり、頭を擦り付けた。
「⋯⋯モグリ、お見事~」
「本当?でも、魔石出てこないよ?」
「お前が存在ごと消し飛ばしたからな」
「え?だって核を破壊しても魔石は出てくるんじゃ?」
「そうなる筈の核も消し飛ばしたの」
「失敗?」
「わかんない。ほら、とりあえず残りのスライムも今の内に倒しちゃえよ。強いて言えば、森にもうちょい優しくしろ」
「あそうだった。わかったよ、優しくするように頑張る」
「頑張れ~」
モグリは固まっているスライム達に向き直った。そして近場の1匹のスライムに狙いを定めて拳を振りかぶる。スライム達は慌ててモグリから跳ねるように一斉に逃げ出した。
「キュキュキュキュ~‼︎」
「えっと、さっきより力を抜いて」
「キュ~‼︎」
「それっ」
「キュ、パアアアアア」
「あっ」
跳ね上がったスライムを、真上からハンマーパンチで撃ち落とした。一応、当たる直前に力を加減したが、スライムはモグリの拳が直撃した瞬間に核ものとも破裂し、スライムの肉体は爆発四散。衝撃が地面に伝わり、真下の地面がひび割れた。
「⋯⋯切り替えて行こう」
「キュキュ~⁈」
少し離れた場所で、森の中へ逃げ込もうと跳ね上がったスライムにモグリは一瞬で距離を詰めた。
「ギョエ⁈」
「えっと、そいやっ」
モグリは人差し指をスライムの核目掛けて素早く突き刺した。スライムの核は、
チュンッッッッッ
という高い音と共に粉砕。背後の木々。数十本程にモグリの人差し指の攻撃の風圧による穴が貫通した。取り残されたスライムの肉体はその場に落ち、煙を出しながら溶けていく。
「んー。あ、お?」
穴が貫通した一番前の木の下に、粉々になった状態の魔石が落ちていた。
「お、おお。これか、これだ。もっと今の技の力加減を調整すれば⋯⋯」
「モグリ、一旦後3匹にしろー‼︎」
「え?」
別のスライムを仕留めたルタイスが、銛に付いたスライムの体液を振り払いながらモグリに声を掛ける。
「これ以上は自然保護しに来たんだか、自然破壊しに来たんだかわかんなくなる。な?」
「あー、うん。わかった」
モグリは森の奥まで続く木々の穴から視線を逸らすと、両手の人差し指をピンッ、と張りながら逃げ惑うスライムに狙いを定めた。
「残りの3匹で最適解を導き出すっ」
「頼むな~」
ルタイスは落ちている魔石やモグリによって粉々になった魔石を拾いながら、少し離れた場所でスライムへの力加減に悪戦苦闘しているモグリを見守っていた。
「しかし⋯⋯」
パアアアアアアンンッッ⋯⋯
「あっ、やべ」
「⋯⋯うん」
ルタイスは開けた森の木の間から見える満点の青空を見上げる。
「良い天気だなぁ⋯⋯」
続く。




