皮財布
早速、受付を終えた2人は宿を後にする。ルタイスおすすめの服屋に向け、アバルバントの賑やかな街を歩く。
「1カ月契約で6万ミリアルか。立地と浴槽付きを考えると、かなり安いな。破格の域だ」
「アサバさんがリスト作ってくれたんだっけ?有り難いね」
「あ、ああ。本来なら仮冒険者は1人で保証人と別の場所には住めないが、アサバさんが特例状を出してくれたからな」
「へぇ。俺、特例なんだ」
「冗談なら止しとくれい、なんつっt」
「ルタイスの家まで迷わず行けるのが良いよね。宿出て右行きゃ着く」
モグリが自慢げにそう言うので、ルタイスは呆れ顔でモグリの尻を叩いた。
「早く宿からギルドまでの道くらいは覚えような」
「うん」
「まぁ、村で迷子にならなかったし。お前別に方向音痴とかじゃないからな。数日後には覚えられるだろ」
「うん。あ、あの店?冒険者用じゃなくて、一般の人向けの服の店」
「お、そうそう。財布も売ってるから、色々見ようぜ。俺もなんか買おっかな」
「4分の1の報酬で買うの?」
「うるせぇよ。ってか、俺の全財産それ以外にもあるっつーの」
「良かったね」
「ありがとー。よし着いた」
服屋に入店すると、白く明るい広い店内に様々な服飾雑貨が陳列されていた。様々な見た目の客が、服や帽子を手に取って買い物を楽しんでいる。
モグリはルタイスに着いて店内を歩いていくと、男性服の売り場に着いた。
「体の大きな人や、体に特徴がある亜人でも気にせず身に付けられる服があるんだぜ。お前はほら、頭以外はそんな普通の人と見た目には差が無いから、体の大きい人用のを見ようぜ」
「へー、じゃあ俺は帽子無理か」
「あ、そっか。でも紐あれば大丈夫だろ。それに帽子によるんじゃね。ってか帽子欲しいのか?」
「いや別に」
「気になっただけね。まぁ、そういう事よ。欲しい奴が形合わなかったりサイズ無かったら、この店はオーダーメイドやリメイクも受け付けてるしな」
「なるほどね、有り難いね」
「よし、じゃあ色々合わせてみるか。服選びなら、俺に任せろ」
「うん」
「まずはシンプルな服を上下試着して、改めてお前のサイズを測ろう」
「うん」
ルタイスにより、モグリの普段着が次々とカゴに入れられていく。試着と服選びを繰り返し⋯⋯。
「こんなもんかな」
「パジャマも買ったし、充分だよ。ありがとう」
「どういたしまして。しっかしまぁ、ガタイが良いと服の着こなしが良いなぁ」
「俺の肌って紺色だから、似合う色限られない?」
「そうでも無いぜ?大事なのは服の組み合わせさ。お、実はモグリもお洒落に気を使うタイプか?」
モグリは鏡の前でブラウンのオーバーサイズシャツを体に当てて鏡を見たまま、「え?」と答えた。
「違うけど」
「違うんかい」
「それにさ、ルタイスもガタイ良いじゃんか」
「いやぁ、お前と比べるとなぁ。まぁ、これ以上筋肉付けたら俺は俊敏性に影響出るし。何より、女子受けならこれくらいが最適解だからな。知ってるかモグリ、女子ってなゴリマッチョより普通のマッチョが好きな人の方が⋯⋯モグリはどこ行ったんだよ」
ルタイスの話の途中で抜け出したモグリは、少し離れた売り場で財布を選んでいた。ルタイスはカゴを持ってモグリの所に行くと、隣に並んで一緒に財布を吟味し始める。
「俺の話聞いてた?」
「財布はこれが良いなぁ、冒険服と同じ黄色い革素材の財布。色目立つし無くしずらいかも」
「良いね。結構色々入るなこれ」
「じゃあ、以上で」
「あいよ。一旦俺支払って領収書貰うから、額は見といてくれ。後で銀行からお前の財布に金入れる時にこの分引いとくぜ」
「うん。わかった」
2人は服屋を出ると、銀行を目指して再び街を歩き始める。買った服は手提げとモグリのリュックに入れ、ほとんどモグリが持って歩く。
「モグリ、重くないか」
「全然」
「そりゃそうか。さて、こっから銀行は⋯⋯」
「遠いの?」
「少しな。あ、そうだ馬車乗ってくか?乗った事無いだろお前」
「無い」
「よし良い機会だ、経験しとこうぜ。冒険者ならこの先馬車には嫌でも世話になる」
「わかった」
馬車の駅まで、2人は昼下がりの街並みを並んで歩く。カフェのテラス席でお茶会している婦人達や、沢山の木箱を積んだ荷台を前後3人掛かりで押していく商人達。昼間っから酔っ払い腕を組んで千鳥足で歌っている男らに、立派な装備を身につけた冒険者の集団。
ルタイスは街の人々の営みを見た後に、自分より少し背の高いモグリの顔を見上げる。
モグリへの疑いや、モグリの真意。
モグリの目的、素性。
それらの真実は、今のルタイスにもわからない。
だが、本や筆、おやつと服がリュックを背負い、服がパンパンに詰まった手提げを大事そうに両手に抱えて自分の横を歩く彼は、
紛れも無く、この街で冒険者として第一歩を踏み出した⋯⋯
自身と故郷の恩人であり、
友人なのだ。
「⋯⋯なぁ、モグリ」
「ん?」
ルタイスが声を掛けると、モグリは首をゆっくり動かしてこちらに顔を向けた。黒く澄んだ目を瞬きさせ、
「何?」
と、力の抜けた返事をした。
「⋯⋯夜飯は、何食いたい?」
「んー、大概食べたいモノは食わせてもらってるからなぁ。シーフードが良いけど」
「俺、そろそろガッツリ肉食いたいんだけど」
「じゃあどっちも美味しい店行こうよ」
「よし任せろ。俺は知ってますそんなお店。冒険者御用達の騒がしい酒場だが、飯の美味さは俺が保証する」
「お願いします」
「おう」
続く。




