マリマリヤドヤド
カフェレストラン、『マリマリ』
青と白のストライプ模様がモチーフとして店内の至る所にあしらわれた、所々アンティーク雑貨が飾られた可愛らしいカフェレストラン。
店主が元帝国海軍のとある基地の食堂や船の厨房係をしていたらしく、ランチメニューや軽食の味とボリュームも人気の理由。
そして何より、
「ここは店員さんが皆んな可愛いんだぁ。長過ぎず短過ぎないスカートが目を惹く船乗りモチーフのオリジナル・メイド服。あぁ、良い⋯⋯」
「もぐもぐもぐもぐ」
「その絶対領域、未知の海域⋯⋯」
「もぐもぐもぐもぐ」
目の前の料理そっちのけで、頬杖ついて店員さんらを眺めているルタイス。モグリはシーフードカレーを頬張ると、アイスティーを流し込んだ。
「ルタイス、キモいね」
「逆張んなよ、素直に可愛いって思うだろお前も」
「思うけど、聞こえる声でそういう事言うのはマナー悪いよ」
「まぁ何も言い返せないんですけれども」
サンドイッチを齧ると、ルタイスはアイスコーヒーを飲んだ。ミルクを入れて掻き混ぜながら、カレーで口を汚しているモグリにお手拭きを渡す。
「ああ、ごめん」
「しょうがないだろ。口の形状的に難しいよな」
「うん、特に煮物とか汁物はね。頬が無いから、横から溢れちゃう」
「にしちゃ器用に食ってるよお前は」
「ルタイスはカレーにしなかったんだね」
「あ?あ、ああ。まぁ、サンドイッチも美味いからな」
「ふーん」
モグリはお手拭きで口を拭くと、再び夢中でシーフードカレーを口に運んで行く。
香り高い中辛のルーの中には、カニ・エビ・イカ・ホタテ、炒めたナスやトマトが入っており、上から炙りチーズが掛けられている。
カレーライスあるんだぁ。
ライス、米あるんだぁ。
寿司、あるかなぁ。
「⋯⋯夜は何にしよっかなぁ」
「でさ、モグリ。この後なんだが、あ、モグリちょっと食うのやめれる?」
「無理」
「よしわかった」
ランチを完食後、モグリはヨーグルトアイス、ルタイスはレモンシャーベットと、デザートを食べながら顔を見合わせた。
「モグリ、今は良いか?」
「どうぞ」
「この後はまず宿探しだな。良い所幾つか選んで来たから、実際部屋見て決めようか」
「へぇ、宿なのに内見出来るんだ」
「冒険者の長期滞在ってなると、内見をするのが主流だな。んで、今回選んだのはどっちかって言えば借家?に近いかも」
「手続きとかめんどくさい」
「と、仰られるかと思いました。はい、ギルドではお得な仲介手数料で宿の長期滞在における手続きをなんと、ギルドが、代わりに、やりませーーん」
「だぁー」
「あー汚ねぇ、マナーッ」
ヨーグルトアイスを口から、だばぁーと溢すモグリの顔に新品のおしぼりを投げつつ、ルタイスは人差し指を立てた。
「家に引っ越すわけじゃねぇんだよ、宿のぐらい自分で覚えろ。一緒にやるから、な?」
「うん」
「まぁ焦らず良い部屋見つけようや。で、服だな。服とサイフ。よし、決まり」
「もう行く?」
「ああ。奢ってやるから先に外で待ってろ」
「あんがと」
先に外に出てしばらく待っていたが、ルタイスが店から出てこないのでお手洗いでも行っているのかと振り返って窓から店内を見てみると⋯⋯。
「⋯⋯はぁ」
店員に声を掛け、なんだかカッコつけているルタイスが目に入ってきた。モグリは店内に戻ると、ルタイスの首を片手で掴みひょいと持ち上げた。もう片手で店員達に「すいませんでした」と手切りしながらそのまま店を後にした。
ルタイスとモグリはギルドからのおすすめ宿のリストを見ながらアバルバントの街を歩く。
「お、一つ目は俺の家から近いな」
「じゃあそこで」
「見てからにしろって。あ、そういえば」
「ん?」
ニヤニヤした顔をモグリに向けながら、ルタイスはモグリの肩に腕を回した。
「さっき、店員を見て可愛いって言ってたよな」
「まぁ」
「モグリにもそういう感情あるんだなって思ってよ」
「はぁ」
「で、どんな女の子がタイプなんだよ」
「はぁ⋯⋯」
モグリは面倒くささを全面に出しながらも、仕方なくルタイスの腕を降ろした。そして腕を組む。
「強いて言えば⋯⋯」
「お、おお?」
「色白で」
「ほうほうほうほうほう」
「肌がもちもちして柔らかくて」
「ほー良いね良いね」
「丸くてきらきらした瞳で」
「なるほどね、可愛らしい系がタイプか」
「そのままでも煮ても焼いても」
「うんうん⋯⋯あ?」
「美味しい、イカ」
「イカじゃねぇ、か、YOー‼︎」
一軒目の宿は、ルタイスの家から同じ通りを数分歩いた場所にある昔ながらの造りだが綺麗な宿、『安らぎの森』であった。1階には受付とロビー、2階から5階までが客室。
ルタイスが受付でギルドからの案内状を渡すと、ホテルスタッフが2人を4階の部屋へ案内した。
「こちらがモグリ様にご案内するお部屋になります。」
「ほぉ」
「お、良いじゃんか」
「ルタイスの家のリビングくらいはあるね」
「だな。なんだ知らなかったな俺、この宿。浴槽付きで壁も厚さあるし、ベッドもセミダブルだし⋯⋯」
モグリがスタッフへ、「彼の事は無視して下さい」と言うと、スタッフは愛想笑いしながら案内を続けた。
「セミダブルベッドに机と椅子、そして冒険者様でも満足の収納機能を揃えております。簡単な調理が可能な二口の魔石熱コンロ。何より、こちらの浴槽が売りでございます」
洗面台の部屋の横には、小さめの浴槽とシャワーのある浴室があった。モグリは目を丸くして浴室を見渡す。
「浴室、お湯入れるんですか?」
「ええ。ほとんどのお客様は地下の大浴場をご使用になりますが、この浴槽もご自由にお使い頂けます」
「どんな仕組みなんだ⋯⋯あ、魔石熱?」
「左様でございます」
「モグリ、サイズ大丈夫そ?収まる?」
妄想から帰還していたルタイスが、いつのまにか隣の部屋の便座に座りながらこちらに顔を覗かせる。
モグリは試しに浴槽に入ってみた。
「ん、ジャストサイズです」
「それ以上筋トレしなきゃ大丈夫だな」
「お客様はお身体が立派ですからね。お狭いようでしたら、大浴場までお越し下さい。宿泊者様は無料で利用頂けますから」
「⋯⋯ルタイス。ここだわ」
浴槽にギチギチの状態で体育座りしながらモグリがルタイスに振り向く。冒険服を着たまま浴槽に入っているモグリと、服を着たまま足を組んで便座に座っているルタイスが顔を見合わせると、同時にスタッフに視線を向けた。スタッフは笑いを堪えながら対応を続ける。
「宜しいのですか?他の宿のお部屋をご覧になってからでも大丈夫ですよ。部屋はしばらく押さえておきますから」
「いや、ここが良いです」
「即決だな。モグリ、理由は?」
「ルタイスに迎えに来て貰える」
「決め手浴槽じゃねぇのかよ」
モグリは浴槽から出るとマントのシワを伸ばしながら、スタッフとメインルームに戻った。
「あ、いや、半分冗談です。1人用の木材の温もりを感じる落ち着いた部屋で、ベッドもセミダブルなら大の字で寝れます。そこが良いなって」
「ありがとうございます。では、ロビーにて長期滞在のお手続きを行います」
続く。




