ブリッジ・ハイ
「あの、すいません」
「はいなんでしょうか」
職員に案内されながらギルドの廊下を歩いていたルタイスが、足を止めた。
「モグリがまだ部屋にいるか見てきてもらっていいですか?ギルドから出るなとは言ってあるんで、多分居ても大食堂だとは思うんすけど」
「わかりました。そうですね入れ違いになってもあれですし、お2人はこちらでお待ちください」
「すいませんおねしゃす」
職員がその場を後にし、他にも近くに職員がいない事を確認するとルタイスは細かくガタガタ震え出した。ランダスが、
「⋯⋯良いんじゃないか」
と言った次の瞬間。ルタイスはその場で自分の頭をわしゃわしゃと激しく掻き乱しながらブリッジをし、大声で叫び出した。
「うぎゃあああああああああああああ⁈」
ランダスは息子の奇行と、その奇行に走った理由であるルタイスの抱えてしまった状況に思わず吹き出してしまった。
「ぶっ、ぶわはははは‼︎‼︎お前らは本当、飽きが来ないな」
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああ」
「満足か?」
「ああああああ⋯⋯、ああ。気分が多少はすっきりしたぜ。体調は最悪だ、朝飯を戻しそう」
「それはブリッジしたからじゃないか?」
「親父、これ爺ちゃんに言うなよ?」
「⋯⋯どーすっかな」
「笑い死ぬぜ爺ちゃん。あークソっ」
ルタイスは立ち上がり壁に頭を擦り付けると、そのまま首をぐりんと回し、ランダスを凝視する。
「親父」
「うん?」
「とりあえずあれだ、俺は俺で上手くやるよ。親父は親父で上手くやれよ」
「泣いていいんだぞ」
「母さん居たら流石に泣きついてた」
「はっ。まぁ、一言だけ言うなら後のアバルバントとのやり取りは俺に任せろ。話し合いの場でも必要最低で良いからな、お前は。それどころじゃなくなっただろうしな」
「ありがとパパ」
「⋯⋯じゃあ俺はこの後もギルドに残るが、お前らはあれか。服買ったり宿探したりか」
「ああ。今日はありがとな親父、またな」
ランダスはルタイスから離れながら、まだ壁に頭をくっ付けているルタイスの姿に笑いを堪えていた。
「あ、ルタイスさん。モグリさんどうやら部屋でお休みのよ⋯⋯ル、ルタイスさん?」
「はぁいぃ、いまぁ、いきやーーす」
そんな会議が開かれていたとはつゆ知らず、モグリは執務室で煮干しを咥えながらソファーで昼寝をしていた。
「くかぁ、すぴぃ、くかぁ、すぴぃ」
結局、宿題なんて手に付かずに窓から街並みを見ている内にすぐ寝てしまっていたのだった。
そんな執務室のドアが、ノック無しに開かれた。
ルタイスは部屋にずかずか入ると、呑気にソファーで寝ているモグリの前で立ち止まった。数秒間、眼下ですぴすぴ音を立てている目下最重要案件さんを見つめていたが、会議の内容と今のモグリの姿のあまりの乖離具合に自然に鼻で笑ってしまった。
「⋯⋯ふっ、こいつ」
「くかぁ、すぴぃ、くかぁ、すぴぃ」
「起きろモグリ。シーフードカレーの時間だ」
「くかぁ、す、そうだ良い子のみんな、シーフードカレーの時間だ。あ?ああ、ルタイスお疲れ様。会議終わったの?」
「ああ、終わったよ」
「なんだか顔がやつれてるね」
「⋯⋯」
「?」
「⋯⋯さっさ行こうぜ腹減った」
ルタイスはモグリが大事そうに抱えている煮干しの袋から煮干しを掻っ攫い頬張ると、「早く本片付けろ」とモグリの筆や本を片付け出した。モグリもいそいそと体を起こして伸びをすると、筆や本をリュックに仕舞い始める。
「ルタイスがそんなに腹を空かせてるなんて珍しいね」
「あ?あ、ああ。まぁな、会議が難しくて疲れちまった、あははは‼︎」
「カレーって、昨日ルタイスが変な目で見てたあのカフェでしょ?店員さん目当てじゃん」
「うるせぇ早くしろ金持ち。たまには俺に奢れや」
「ルタイスも金持ちじゃん。俺の4分の1の」
ルタイスは煮干しを飲み込むと、手をズボンで拭きながらソファーに座った。
「じゃかあしいわ。あ、支払証書は銀行、報酬はもう俺の口座に入れといて貰ったからな」
「どうも」
「この後か明日にでも、手持ち分引き出しに行こうか。あー、服もだけど財布も必要だな」
「安いので良いよ。まずはシーフードカレーだよ。ほら何座ってんのさ先行くよバイバイ」
「お前店の場所知らねぇだろ、待て待て待て」
モグリとルタイスは部屋を飛び出し、早歩きでギルドからも飛び出した。
続く。




