副長のお眼鏡③
ガルバンダーが笑みを浮かべながら資料を手に取る。
「俺はよ最初、モグリが食ったのかな、と考えた訳よ」
「ええ。私もそう考えました」
「だがな、モグリは海産物や水棲生物、またはそれに準ずるモンスターにしか猛烈な食欲を抱かない」
「これに対してルタイス殿、何かご意見は?」
ルタイスは昨日や今までのモグリの食事や彼とのやり取りを思い出す。
「んまあ、確かに。基本的にどんな食べ物に対しても食いしん坊なんですよ。だけど、要するにギルマスが上げた生き物を総じて『シーフード』と呼ぶなら、そのシーフードに対しては一際食い意地が強いんです。だからオークは食べないと思います。何より、真下にキングクラーケンがいるんですから、敢えてそん時に豚肉を食べる必要も興味もモグリには無かった筈です」
「⋯⋯なるほど。クラーケンやキングクラーケンを食らったモグリ殿を見た冒険者や村人、兵士の証言からもその推察はかなり的を射ていると考えます」
「いやまあ本当になんでもよく食べますが、オーク食って美味しかったんなら、あいつ絶対オークも持って帰って来てたと思いますから」
「と、なると現状⋯⋯」
アサバは顎に指を当て、黒板に貼られた海賊島の地図や資料を横目に口を開いた。
「グランド・ハイオークはモグリ殿との戦闘後、何らかの方法により地下牢の群れと共に島を脱出した線が濃厚ですね。島にまだ居て、という事は無いでしょう。隅々まで捜索済みですから」
「ええ。現在も我々アバルバント兵が海賊島を巡回、並びに捜索していますが未だに発見には至ってはおりません。周辺海域や街、村からも報告はありません」
副隊長の発言に、アサバが頷くとランダスが首を傾げた。
「キングクラーケンの腹ん中、とか?」
「いえ。胃袋からは何も摘出されませんでした。何より、キングクラーケンに捕食されていたなら問題ありません」
「まあ確かにそうか。それにオークはともかく、グランド・ハイオークがみすみすキングクラーケンに捕食されるとも考えずらいしな」
「ええ」
ルタイスが頭を掻きながら天井を見上げる。
「俺も俺だけど、あいつもあいつですよ。なぁんで何も言ってくんな⋯⋯あいつ頭ん中キングクラーケンでいっぱいだったか。あいつ⋯⋯」
「そこら辺含めて、ルタイス殿はモグリ殿に冒険者としての常識を教えて頂ければ幸いです」
「お、俺で良ければ」
「先程はあのような話になってしまいましたが、ルタイス殿は普段、冒険者としての業務として何ら不足している点は無いですから」
「あざす。いやぁ、最初にイロハを教えてくれたレオン達に感謝しますよ」
「ええ。彼らは模範的な冒険者ですからね」
ランダスがルタイスの頭を「あざすって何だ」と引っ叩き、ガルバンダーと副隊長が笑った。アサバは無表情のままだが、気にはしていないようだ。ルタイスが頭を摩りながらアサバに尋ねる。
「で、本題ってのは、そのグランド・ハイオークの行方が不明って話ですか?何処に居るか分からず、とても危険という⋯⋯」
「いえ」
「え」
アサバの言葉にランダスとルタイスが固まる。
「確かに大問題です。既に軍やAランク以上の幾つかの冒険者パーティーに働き掛けて頂いています。ですが実は、真なる本題は⋯⋯。話はまず、オークに着いていた使役魔法具についてです」
「使役魔法具?」
「はい。地下牢に囚われていたオークらには使役魔法具が取り付けられ、自由を奪われた上に虐待されていました」
「酷い話だ」
「ええ。グランド・ハイオークは使役されていなかった代わりに、そのオーク達を人質に取られて支配下に置かれていた様です。その魔法具はグランド・ハイオークが解こうとするとオークを殺処分する仕組みだったようです」
「⋯⋯ん?」
「これは地下牢へ確認に向かったアバルバント兵からの証言ですが。地下牢の空間に辿り着くと、地下牢の檻が何本も抜き取られ、床には檻の鉄棒が突き刺さった海賊の死体の山が。オークのいた地下牢は派手に破壊され、床には千切れてひしゃげた魔法具の残骸」
「ちょ、ちょっと待って下さい、そ、それじゃ、まるで⋯⋯」
「地下牢のある地下室に保管されていた食料や水、ポーションや包帯が軒並み入れ物から抜き取られていたとの事」
「え、そ、それってつまり⋯⋯」
アサバは全員に身体ごと向き直り、特にランダスとルタイスに視線を向けつつはっきりとした声で、こう続けた。
「ええ。まだグランド・ハイオークの単独行動による可能性もありますが、数々の証言や証拠から⋯⋯」
ルタイスは全身から汗が吹き出し、眩暈の前兆を感じながらも、アサバの言葉を何とか耳に聞き入れた。
「モグリ殿には、グランド・ハイオークとその群れの海賊島からの脱出を幇助した疑いがあります」
続く。




