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異世界真っ向!〜クジラ亜人、荒波転生録〜  作者: 牡丹鍋
第3章 アバルバント編
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副長のお眼鏡②

「お待ち下さい」



 半ば無理矢理席から立ち上がってお開きにしようとしたガルバンダーの言葉を、アサバが低い声でぶった斬った。ガルバンダーは歯軋りしながら中腰の姿勢で席に座り戻る。


 アサバは眼鏡をくいっと指で押し上げると、別の資料を配り始めるように職員に指図した。ルタイスは配られた資料に目を通し、ギョッと目を丸くする。


「もう少々お時間を頂戴致します。こちらの資料は、討伐された海賊、及び使役されて討伐されたモンスターのリストになります」


 その資料には海賊一人一人の人相や役職、キングクラーケンについてなどの詳細が書かれていた。アサバは資料を片手に口を開いた。


「こちらの資料には討伐されたポロボラの使役モンスターとしてクラーケンとキングクラーケン、ハイオーク2体についての記載がございます。しかし、少々問題がございまして」

「問題?」


 ランダスがそう呟くと、アサバは「はい」と端的に応えて話を続けた。


「捕らえた海賊や拷問して吐かせたポロボラ。作戦に参加した冒険者やこちらにいらっしゃるアバルバント軍副隊長をはじめにした兵士の皆様からの証言。何より押収した資料や現場検証により⋯⋯」




「ポロボラが使役していたグランド・ハイオーク、そして地下で飼育していたオーク十数匹が島から姿を消しました。何の残骸も、魔力の痕跡も無く、です」

「⋯⋯う」

「グランド・ハイオークと見られる個体とモグリ殿が戦闘しているのを、多数の冒険者が目撃したと報告を受けております」

「⋯⋯ウゲェ」


 ルタイスは口に握り拳を当て、冷や汗を掻きながら俯いた。色々起きて頭から抜けていたが、そういえばモグリからちゃんとグランド・ハイオークとの決着を聞いていなかった事、それを報告していなかった事を思い出した。アサバの口ぶりから、恐らくリッカも報告していないのだろう。いや、もしや彼女は⋯⋯。


「時にルタイス殿」

「は、はい」

「貴殿はモグリ殿とリッカ殿と共にポロボラの部屋、または地下室に繋がる部屋にてハイオークと戦闘致しましたね?」

「はい。しました」

「その後は?証拠資料や海賊からの証言により、その部屋にはハイオークの先にグランド・ハイオークが配置されていた筈。証言と時系列から、貴殿らがその部屋に入りハイオークと戦闘。次にモグリ殿とグランドハイオークが部屋から飛び出し、冒険者達はそこで別の場所に避難。その後、ルタイス殿がリッカ殿とポロボラを連れて部屋から帰還。そしてモグリ殿がキングクラーケンと海中より出現」



 アサバはリムレス眼鏡の下から、ルタイスへ背筋が凍るような鋭い眼光を放つ。


「ルタイス殿。知っている事を全て我々にお教え下さい」


 ルタイスは顔を上げ、一呼吸置いてから


「はい」


 と応えた。








「⋯⋯なるほど。ハイオークを2体倒した後にグランド・ハイオークと戦闘に。3人掛かりでグランド・ハイオークに足止めを喰らい、モグリ殿がその個体を引き受けた。そして貴殿とリッカ殿が地下室に向い⋯⋯なるほど時系列には沿っていますね」

「は、はい」

「ですが、この件について貴殿から何もギルドに報告が無かった件については?」

「そ、それは。すいません、グランド・ハイオークやら他のオークの行方なら他の冒険者が把握していたものかと。それに地下牢にオークが複数いたのは、今知りました」

「ええ。諸事情により、その件は伏せていますからね。ですが、モグリ殿と共闘した貴殿には報告責任があった筈では?強いてモグリ殿はその時点では冒険者では無いのですから、付き添いであった貴殿が報告するべきでは?」

「リッカからは、何か報告は」

「今は貴殿への質疑中ですが、リッカ殿が何か?」

「そうですねすいません」

「して、報告を怠った理由は何故ですか?」

「えっとですね」


「なぁ」


 ランダスが腕を組んだまま、アサバに少しドスの効いた声を掛けた。アサバは顔色を変えずにランダスに顔を向ける。


「なんでしょうか」

「アサバさんよ、一体、何が言いたい」

「申し訳ありませんが、如何にルタイス殿がランダス殿のご子息とあれど、これはギルドとしての、」

「そうだな。確かにこの馬鹿は報告を怠った。これは間違い無くこいつのミスだ。俺からも謝罪する。これは違反とまでは行かずとも、重大なミスだ」

「申し訳ありませんが、貴方からの謝罪は本件の質疑には何ら影響はございません」

「だがよ、Cランク冒険者がモグリがいたとは言え、圧倒的な差があるハイオークにグランド・ハイオーク、そしてキングクラーケンと相対したんだ。何らかの心理的外傷があっても不思議じゃないだろ。どいつもこいつもA級や、下手すりゃS級だって簡単に命を弄ばれる相手だぞ?それとこいつは何度も相対した」

「⋯⋯」

「それに目の前でリッカとかいう冒険者が滅多撃ちに会い、身動き出来ない程の重症を負ったらしいじゃないか。その上、彼女とポロボラを背負って」

「⋯⋯要するに何が言いたいのです?」


 自身に向けて目を細め睨みを利かすアサバに対し、ランダスは一切怯まずに腕を組んだまま真っ直ぐアサバを見据える。


「ああそうだな。悪い。要するに、冒険者ってのはいつだって命と隣り合わせだ。あんたも少しは冒険者をしてたなら理解出来ん事も無いだろ?そしてこいつは村の為とは言え、私情を加味せんでも、誰が見ても分かるほどに身の丈に過剰に見合わない無茶をした」

「⋯⋯で?」

「こいつは気丈に振る舞うがな、カッコつけるが」


 ランダスが目を血走らせ、明らかな怒りの感情をアサバに向ける。


「今まで何度要請しても何の救援も寄越さなかったあんたらに痺れ切らしてこいつは生活放っぽって、自らあんたらギルドや軍、領主に働きかけたんだ」

「ええ。そうですね」

「尻拭ったんだよこいつは。お前らの。こっちが詮索しないのを棚に上げてあんたら⋯⋯。これ以上言わなきゃわからんか?」


 アサバは視線をランダスから外し、鼻から、ふぅー、っと息を吐いた。


「⋯⋯それが彼の件と何か直接関係あるのですか?情に訴えかけたかったのでしょうが、残念ながら私には意味がありませんし、先述の通り質疑にも何ら影響は出ません。もう、私に言いたい事はありませんか?」

「ああ、無い。悪かったな」

「いえ。貴重なご意見として頂いて置きます」


 アサバが目を閉じながら少しだけ頭を下げたのを見ると、ランダスは視線をアサバから外さずにルタイスに声を掛けた。


「お前もはっきり答えろ。お前もモグリも変に疑われるぞ」

「すいません⋯⋯」


 アサバがルタイスに視線を向け、


「いえ、私も申し訳ありませんでした」


 と謝罪を入れるとルタイスは「え」と固まった。


「私も少々、取り乱してしまいました」

「い、いえ。悪いのは私です」

「いや、恐らくグランド・ハイオークの動向をご存知無いのは本当でしょうから、これ以上は詮索致しません。本題は別ですから」

「はい、わかりました」


 ガルバンダーが咳払いすると、アサバはガルバンダーに姿勢を向けた。


「お前の悪い癖だ。ランダスの言いたい事はな、俺もお前に常々言っとるが、もっと現場を知れ、寄り添えって事だ。な?」

「はい、大変申し訳ありません。私の不徳の致す限りでございます。冒険者を管轄する副ギルド長として精進致します」

「ったく」

「⋯⋯あなたはもっと事務仕事をこなして下さい」

「ごめんちゃい⭐︎」

「はい。では、気を取り直して」



「本題は、危険度S+以上であるグランド・ハイオークとその群れが跡形も無く姿を消したという事です」





 続く。


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