マンマミーア
ギルドを出た3人は、ギルド広場の横の通りを跨いだ先にある飲食店の前にいた。
「ここはグラッチェ・チボリータ。ピザが有名だが、全部旨いぜ」
「ピザ、ねぇ」
「モグリ食べた事無いだろ?」
「う、うん」
ピザ。
前の世界でも見聞きしたし、食べた料理だ。
村での食事や、コユに文字を教えてもらっていた時に既に気付いていたがどうやらこの世界の食文化は、モグリが元いた世界とあまり遜色無いようだ。
イカスミパスタにアクアパッツァ、んで、ピザ。
食材や調理方、食べ方が似ているのは理解出来るとして料理名まで全く同じなのは一体どうしてなのだろうか。
⋯⋯どうしてなのだろうかも何も。
絶賛空腹中のモグリには、一切合切どうでも良い事であった。
店内に入ると、先程までのギルドの大食堂の雰囲気とは打って変わって全面が白い大理石で出来た店内やテーブルから真新しい印象を受ける。
だが賑わいは大食堂と大差ない。ギルドの他部署の喧騒が無い分の静かさはあるが、ギルドに近いのもあって客層は冒険者が半分。もう半分は一般の客のようだ。
案内された席に着くと、ルタイスがメニュー表を見ずにさっさと注文を済ました。お冷を一口飲むとと、頬杖をつく。
「モグリ。ちょっとした騒ぎになっちまってよ、さっきは済まなかったな」
「なんでルタイスが謝るのさ」
「建前だぜ。俺らが悪くない事なんざわかってら」
「建前言って気分良くなりたかっただけ?」
「そゆこと」
「んだそれ」
ランダスがお手拭きで手を拭いながら、ルタイスに訊ねる。
「豪快な尻、だっけか」
「豪鉄の剣」
「どっちでも良いわ。どんな奴らなんだ?まぁたかが知れたがな」
「そこそこ有名さ。素行はご存じの通り悪いが、実力はB級上位。認めたくは無いが、A級になるのも頷ける。⋯⋯が」
「素行が問題なんだな?」
「ああ。A級からはギルドの顔って言っても過言じゃねぇ。A級以上には公的な依頼も優先的に入るからな。見ただろ奴らのあの言動、貴族の祝賀会とか晩餐会でどんな立ち居振る舞いをするか」
「典型的な、荒くれ者の成り上がりって感じだな」
お冷の氷をボリボリ貪りながら、モグリはルタイスに首を傾げる。
「貴族の晩餐会ってさ、どんな料理が出んのかな」
「お前はA級になってもそのままでいてくれよ」
「?」
「氷食ってんのは一旦無視するとして、そんな素行は悪くないしマナーも知らないだけで教えられたらお前は素直に覚えるだろうし」
「そう言うルタイスは?」
「俺は夜のマナーしか知らない」
変な事言い始めたルタイスの口にモグリが氷を流し込み、ルタイスが口をもごつかせながら「マナーッ」とモグリの手を払う。ランダスが腕を組み、店の窓からギルドを眺める。
「B級で終わる冒険者も多い。自主的にも、実力的にもな。だがB級上位ともなれば冒険者としては一流の域だ。向上心があるのは良いが⋯⋯豪胆な獣は、」
「豪鉄の剣。親父わざとだろそれ」
「向上心ってより、地位やら名誉を欲してるタイプだな。昔から必ずいるからなぁ、そういう冒険者は」
「ふーん」
「ピザって最初から切られてんのかな」
「モグリは話聞いてないなこれ」
「豪快なピザが向上心の高い貴族の晩餐会で出されてマナーの悪い冒険者の尻に」
「なになになになになに⁇⁇」
「はっはっはっ‼︎」
「お待たせ致しました。お料理でございます~」
店員が2人掛かりで次々に料理をテーブルに並べていく。
トマトとチーズ、バジルの鮮やかな3色が映えるシンプルなマルゲリータ。
イカやエビ、ふわふわの白身魚が乗ったシーフードピザ。
サラミが所狭しと敷き詰められ、上からのチェダーチーズが罪なサラミピザ。
食べなくてもわかるパリッパリなソーセージと絶妙な焼き加減の玉ねぎやナス、ピーマンがチーズの上で早く食べてくださいとこちらを見上げるミックスピザ。
ランダスの胃のためのフレッシュサラダに、フライドポテト、エビのフリット。そしてシーロア親子用のビールとモグリの白ブドウのスカッシュ。
モグリはシーフードピザを凝視しながらも、ルタイスの耳元で囁く。
「⋯⋯食い逃げすんの?」
「するか馬鹿。これでもまぁまぁ手持ちあんだよ」
テーブルに並べられたご機嫌な山盛りランチに、ランダスは嬉しいやら困惑しているやらという表情を浮かべる。
「おいおい、こんな食い切れるのか?」
「一応ピザは中サイズだし、モグリいるし大丈夫だろ」
「俺そんな食べれないよ」
「あーそーですか。では早速、モグリの謎な謙遜に、かんぱーーい!」
3人は乾杯し、飲み物を豪快に煽る。ブドウスカッシュは、ルタイスが酒を飲まないモグリに少しでも酒に似た飲み物をと注文してくれたのだろう。この世界にはノンアルコール飲料は無くても、炭酸飲料はあるみたいだとかそんなことはもう今は置いといて、モグリは6等分されているシーフードピザを手に取って一口に頬張った。
プリプリもちもちサクサクふわふわ。
「おいちいぃ」
「良かった良かった。そりゃ口に合うだろうが、いっぱい食べろ」
エビのフリットやサラミピザも口に入れてブドウスカッシュで流し込む。ランダスもサラミピザを齧り、ビールを流し込むと満足そうに鼻息を吐いた。
「こりゃいかん。すぐ駄目になるぞこれ」
「母さんのピザには一歩及ばないだろうが、これはこれで旨いだろ親父」
「ああ。こういう店に女の子連れて行くのかお前は」
「そうそう良い感じになったら2軒目はお洒落なバーに行ってその後はあああああああああああああああ」
「ごめん手が滑って」
「マナーッッ」
また変な事言い始めたルタイスのミックスピザに、モグリがタバスコ瓶を素早く振って中身を大量に振り掛けた。
続く。




