(仮)冒険者登録
ルタイスの家を後にした2人は、ギルドまでの道を歩く。ルタイスによるとギルドはここから通りを3本跨いで少し歩いた先の広場にあるそうだ。その広場が冒険者ギルド前広場という名前らしく、その名前の移動用の馬車の駅まであるらしい。
「にしても、ルタイス」
「なんだ」
「この装備、ランダスさんに金出してもらったけどさ。つま先から全部、マント以外はそのお金で揃えた訳だし、かなりしたんじゃないの?」
「したさ。そりゃあ、初心者用より少し良いやつ買ったしな」
「そ、そうなの?」
「普通の初心者用の装備じゃ、お前が準備運動しただけで破裂するわ」
「村がまだ再起し切って無い中で、申し訳ないなぁ⋯⋯」
「は?気にすんなよ、奢られた側は素直に奢られとくもんだぜ」
モグリがそうかなぁ、という表情を浮かべるのでルタイスがモグリの背中を叩いた。
「心配すんな。今回の報酬やら海賊から押収品でかなり親父は潤う筈だぜ。それにお前、さっき俺にエビ買ってもらった時はそんな事一言も言わなk」
「そういう事なら有り難く受け取るよ。お礼言わなきゃね」
「⋯⋯。さて、そろそろ着くぜ」
大通りの横に公園と広場が一体になったような場所が現れ、その奥に大きな建物が聳え立っていた。2人は自然な素材の石畳で出来た広場に足を踏み入れる。中央の大きな噴水を中心に、沢山の人達が思い思いに過ごしている。噴水の上部はイルカの形を模しており、口から水を豪快に吹き出している。
先程までの大通りよりも、武器や立派な装備を携えた冒険者らしき人々が増えて冒険者ギルドがあるのだとより実感させられた。
よく分からない生き物の、よく分からない部位を積んだ荷台を横目に見ていると、ルタイスがモグリへ徐に語り出した。
「まぁわざわざ言わんでも分かるだろうが、あのデカい建物がアバルバントの冒険者ギルド。正式名称は、えっと、あ、そうそう。帝国認定冒険者ギルド・アバルバント支部だ」
「へぇ」
「長ったらしいよな。ギルドだ、ギルド」
「なんて言うか、ガルバンダーさんって偉い人なんだね」
「んー、まぁ肩書きはな。そうは見えないがな」
「⋯⋯」
帝国認定冒険者ギルド・アバルバント支部。その建物は他のアバルバントの基調と同じく、茶色系の石壁で作られている。他と違うのは青い屋根で、周りの暖色系の建物の屋根に対してかなり目立っている。さらに、中央の建物の屋根はドーム状になっており、天窓になっているのが見える。その建物から左右に伸びた棟には何か別の役割があるのだろうか。
ルタイスが頭の後ろに腕を組みながらモグリに振り向いて後ろ歩きし始めた。
「嫌に立派な建物だろ?」
「うん。ルタイスが出禁食らってないのが不思議なくらいね」
「俺なんて随分マシな方だぜ」
「マシ?何してんの普段」
中身の無い会話をしながらギルドに向かって歩いていると、建物から等間隔に掲げられている青い旗に縁と同じ金色で何かの紋章が描かれてのに気付いた。ギルドか街の紋章だろうか。大層立派な建築物だが、想像していたギルドという感じである。
ギルドの大きなオーク調の扉の前に立つと、ルタイスはモグリに振り返った。
「さて、モグリ」
「うん?」
「一緒に島で戦った冒険者もチラホラいるだろうが、もうほとんどはこの街を出てるだろう。冒険者ってのは、大概が少々荒っぽい。お前を見て変な事言われるかも知れんが、」
「気にすんな、でしょ」
「そうだ。毎回言ってたらしつこいから、これ以上は言わないからな。よし行くか」
ルタイスが口角を上げて微笑むと、モグリも頷き返した。
「まずは職員にガルバンダーさんの事を聞く、だっけ」
「ああ、上手くやってくれてれば良いけどよ」
「うん⋯⋯」
「あ、よいしょ~」
ルタイスが扉を開け、2人はギルドに足を踏み入れた。
ギルドの中は冒険者であふれ、賑やかで活気に満ち溢れていた。石造りの天窓ドームまで吹き抜けのロビー内部には、所々の壁や柱にコルク板の掲示板があり、依頼書のような紙が貼り付けられていた。冒険者達はその紙の前であーでもこーでもないと議論している。
左側の棟はここから地続きの構造で、大食堂になっている。オーク調の長テーブルや丸テーブル、カウンター席などの上には酒瓶や磨かれた木目のジョッキと豪快な肉料理や山盛りのパンが置かれている。沢山の冒険者がそこで語らい、酒を飲み交わしている。
右側に目をやると、幾つかの扉で仕切られていた。どうやらそちらには別々の役割を持った部屋があるようだ。ハンマーや十字、後はわからないが、鍛治場と治療室だろうか。
吹き抜けのロビー中央、天窓から差し込む光に照らされた石像をモグリは足を止めて見上げる。ルタイスも足を止め、石像を眺めた。
「これは勇者の石像だ」
「勇者?」
「200年前の頂界戦争を終結に導いた人類側の英雄、サミエル・バルディア・オーバリオン。サミエル様って呼ばれてる」
「ほぇ⋯⋯」
村長が話していた勇者だ。短髪に凛々しい眉と聡明な顔立ち。荘厳で何かの神殿のような装備を身につけ、両手には勇者の剣だと一眼で分かる剣を持ち下に突き刺さして、その場に仁王立ちしている。光に照らされたそれはまるで、ギルドに入ってくる冒険者を見定め、ギルドから冒険に旅立つ者を見守るかのような威厳を感じる。
「今のギルドの仕組みはこの人から始まったんだ。さてと、爺ちゃんみたいなウンチクは置いといてだな。ちょっと待ってろ。すいませーん」
既に周囲の何人かの冒険者がモグリを見つけてコソコソと囁き始めている中、ルタイスは相も気にせずにギルド職員に声を掛けた。
柱に貼られた依頼書を見ながら何かをメモしていた女性職員が、ルタイスと話始める。しばらくして、ルタイスが戻ってきた。その後ろで、女性職員がモグリを見て物珍しそうに目を丸くしている。
「ギルマス、会議室だとよ」
「って事は、今だね」
「よし行こ行こ」
2人は急ぎ足で奥の受付カウンターへ向かう。すると受付前に見覚えのある姿を見つけた。
「親父‼︎」
「おお、ルタイス、モグリ」
「お待たせしました」
2人がランダスに近寄ると、ランダスは腕組みしながらモグリの全身を見る。
「あの、ありがとうございます」
「良いって事さ。冒険者っぽくて良いじゃねぇか。ルタイス、お前中々やるな」
「だろ?」
「さてかっこが決まった所で早速仮登録を済ませるぞ。俺の見立てではガルバンダーの寿命がそろそろ尽きる。ルタイス、仮登録の受付はどこだ」
「あそこだ、急げ急げ」
「寿命ってなんですか、じゅ、寿命?」
仮冒険者登録も、普通の冒険者登録受付と同じ受付場所らしい。一番左端の列に並びしばし順番を待つ。モグリの他にも登録しに来たっぽい人物が並んでいるが、皆それなりに装備を身に付けているので仮なのか本登録なのかは今のモグリには判別付かない。
「次にお待ちの方~」
「はいはい」
「お待たせ致しましたぁ」
ランダスが書類を職員に渡すと、職員は書類に目を通しながら、記載されてた内容とモグリ達を何度も見比べる。
「お手数ですが、ランダス様とルタイス様の身分証をご提示ください」
「はい」
「うい」
なるほど。この世界でも身分証の使い方はあまり変わらないようだ。しばらくすると職員が一度席を立ち裏の事務所に入った。すぐに受付に戻ると、2人に身分証を返却した。
「書類の内容、確認致しました。保証人のカジイ様、保証人代理のランダス様とルタイス様の身元も確認が取れました。内容に問題はございません」
「思ったよりすんなりだな。やったなモグリ」
「うん」
「でですね⋯⋯」
職員が少し不安そうな表情でモグリを見上げる。
「え、ええと希望の役職は拳闘士でお間違えないでしょうか」
「はい」
「サブ武器は2本のナイフという事ですが、今お持ちですか?よろしければ拝見しても?」
「はいどうぞ」
モグリは腰の鞘から白と青のナイフを抜き取ると、カウンターにごとんと置いた。職員は手に取るとしばし眺め、何かを書類に書き足した。
「ありがとうございます。お返し致します」
「はい」
「それではこれから仮冒険者登録を始めさせていただきます」
数分後。
仮冒険者についての注意事項を説明された後、職員が小箱を開けた。そこにはモグリの似顔絵が描かれた仮冒険者証が入っていた。
「お待たせ致しました。こちらがモグリ様の仮冒険者証となります。ご確認下さい」
「はい」
モグリが仮冒険者証を手に取ると、ルタイスが横から覗き込み、ランダスは後ろから首を傾げて覗き見る。
モグリ(男性)
年齢:不明
出身:不明
種族:不明
役職:拳闘士
武器:ナイフ(2本)
備考欄:苗字・身分不明
「お前不明過ぎだろ」
ルタイスがそう笑うと、ランダスも鼻で笑い、モグリは困ったように微笑んだ。
「仮登録は以上になります。お疲れ様でした」
仮冒険登録が終わり、3人は受付を後にした。モグリへの奇怪な目を除けば、随分とすんなり済んだ。それだけ登録制度が整えられているという事だろう。
「さて、親父。この後暇か?」
「あ?今日はもう暇だが。明日から色々話し合いの場に行かなきゃだが」
「じゃあこの後昼飯行こうぜ。モグリの仮冒険者登録祝いも兼ねてよっ」
「良いな」
「ええ?それ村出る前の日に祝っ」
「うるせえよ口実だ口実。それにお前だって腹減ってんだろ?」
「お腹空いてます助けて下さい」
「よし行こうぜ。昼から飲もうぜ親父」
「悪い子に育っちまって。全く何処の俺に似たんだかな」
3人がギルドの出口に向かって歩いていると突然、大食堂の方から大声で呼び止められた。
「よぉ、あんた見かけない顔だな?」
「え?」
振り向くと、程よく酒に酔った男性5人組がこちらを見てヘラヘラと笑っていた。ルタイスがモグリの背中を押し、気にせず歩くように促す。
「クジラの獣人ったあ、珍しいこった。あんたも冒険者か」
「良い体してるな。まるでギルド長みたいだぜ?」
「そのかっこじゃ剣士では無さそうだな。拳闘士か?シーフ、いや、もしかして荷物運びか?」
ランダスが前を向いたまま、
「品が落ちたもんだな」
と呟き、ルタイスも頷いた。
「いや、あ‼︎もしかしてお前⋯⋯」
「深淵海賊団か、魔族か⁈」
モグリはハッとし、目を丸くした。
続く。




