贈り物
「さて⋯⋯」
ルタイスがブドウジュースをモグリのコップに注ぎ入れる。
「わぁ、まだ入ってるよ?」
「うるさいうるさい、難しい話はここまでだぜ。なぁ親父?」
「だな。おいミエラ、そろそろあれ渡そうか」
「そうね。コユ、いらっしゃっい」
「うん。モグリ様ちょっと待ってて」
「ん?うん。あ、ルタイスそのアジフライ俺のだから」
「わーったよほら。あれ?テイオウエビの殻は?」
「丸呑みしたから無いよ?」
「あ、はい」
◇ ◇ ◇
しばらくすると、コユが何かを持って戻ってきた。モグリのそばに駆け寄ると、
「モグリ様ぁ」
と声を弾ませる。
「これ、モグリ様に私達からプレゼントだよ」
「え?本当?ありがとう」
「早く開けて開けて」
「うん」
包みを丁寧に開けると、2本のナイフが出てきた。
一方は半透明に輝く白色両刃のダガーナイフ。黒い持ち手には青い宝石が埋め込まれている。
もう一方は深い青色片刃のサバイバルナイフ。こちらも黒い持ち手に青い宝石が埋め込まれている。
「綺麗なナイフ」
「白いのは最高級スルドイカのナイフ。もう一本は周辺の海底洞窟からしか採石出来ない蒼海岩のナイフだよ。鞘と腰巻きも渡しておくね」
「美味しそうだ」
「あ、白い方食べちゃダメ」
「でもこんな高そうな物、良いんですか?」
ミエラとランダスが微笑み、ランダスがモグリに向き直る。
「俺達、シーロア家からの贈り物だ。お礼と仮冒険者登録の前祝いとして受け取ってくれ。まあ、お前は肉弾戦主体だから戦闘じゃ使わないだろうがな。冒険者ならナイフは必需品だ。白い方食うなよ」
「ありがとうございます。有り難く受け取ります。ってか、皆さん名字あったんすね」
「ん、ああ。言わなかったな。すまんすまん。まあ、変わらず名前で呼んでくれよ。白い方食べんなよ」
モグリは白い方のダガーナイフを手に取り刃の腹を指で撫でる。滑らかな指ざわり。握ってわかる握り心地と程よい重量感。青い方のサバイバルナイフも手に取る。同じく感動する感触。
「その持ち手に埋め込まれた魔石はそのナイフを魔道具たらしめる。無くても使い心地に問題は無いが、その魔石は持ち主の魔力を覚えていく。投擲しても手元に戻ったり、持ち主の証明にもなるから無くしても安心だぜ。白い方食うなよ?」
「凄い便利っすね」
「それに装飾として綺麗でしょう?モグリ君、白い方食べないでね」
ルタイスが壁に立て掛けてある銛の切先を指差した。
「俺の銛の素材と同じ原料、同じ鍛治氏が手掛けた業物さ。村の工房に案内したかったが、また今度な。白いナイフ食べんなよお前」
「凄い人が居るんだね。そうか、そんな業物なら大事にしなきゃ。その鍛治氏や工房の方達にもお礼言っといて下さい」
「ああ。ワシから伝えておくよ。気に入ってくれたようで何よりじゃ。白い方食べるでないぞ」
モグリはナイフを鞘にしまうとシーロア家の顔を順々に見てから、深々と頭を下げた。
「重ねてお世話になりました。これからも、なんだか口車に手八丁によいしょな気しかしませんが、お世話になります。このお礼はいつか必ずお返しします」
皆が「へぇ」と言う顔でモグリを見つめていたが、一斉に吹き出し、大声で笑い出した。モグリはナイフを抱えたまま、きょとんとした顔で首を傾げる。コユがモグリに抱き付き、ルタイスがモグリの肩に腕を掛ける。
「モグリがそんな事を言うとは驚いたぜ‼︎可愛い奴めっ」
「モグリ様が活躍して下されば、それが恩返しですわよ」
「なんか、思ってた反応とちゃうな⋯⋯」
笑って出てきた涙を拭いながら、村長は杯を掲げた。
「モグリの成長に、乾杯‼︎」
ルタイス達も改めて杯を掲げた。
「乾杯‼︎」
「乾杯‼︎まだまだ飲むぞ~」
「モグリ、お前の年が分かればなあ。酒飲めんのにゃあ」
「お兄ちゃん。アルハラだよ」
「多分17才、な、気がする。」
「じゃあ飲めるな。16才から飲めるから」
「⋯⋯あ、いや15だったかも」
「ごまかすな」
やれやれ。
騒がしいし、なんだか面倒くさい事に巻き込まれてる。
今後より巻き込まれるんだろうが⋯⋯
何だか悪い気はしない。
この人達の為なら⋯⋯
社会の荒波とやらにしばらく揉まれてやらんでも、
あ、
でもマジでめんどくさくなったら海に逃げよう。
いつの間か再度取っ組み合いを始めたルタイスとコユを他所に、モグリはイカメンチを頬張った。
(でも、キングクラーケンを受け取るまでは何が何でも粘ってみるか)
お別れ会は、日を跨ぐ前まで続いた。
第3章 アバルバント編に続く。




