亜人と神の狭間①
翌朝。
ランダス家の客間のベッドにて、モグリはルタイスに起こされた。
「んえ⋯⋯」
「モグリおはよ」
「うわ朝からキッツ⋯⋯」
「失礼な。俺の家で寝たくせに」
「ランダスさん家だろ」
アバルバントから追加の兵士や役人が来る事を見越し、モグリが宿泊していた宿もその人員用の宿舎となった。その為、昨晩からランダス家に仮住まいさせて貰う事となった。
窓の外を見るとまだ薄暗く、夜明けまで幾分あるように見えた。
「おはようだけど早過ぎない?漁師ならもっと早く起きてる人居るんだろうけど。あ、漁行くの?」
「ちげぇよ。見送りにいこうぜ」
「見送り?」
「冒険者達だよ。ギルドのスタッフ以外は朝一番の船でアバルバントに戻るんだ。一緒に戦った仲間だろ?」
「そっかルタイスも帰るのかお世話になったよ気をつけてねまた会う日までバイバイおやすみなさい」
「俺は戻んねぇよ分かるだろ流れ的に」
「見送りは賛成だけど眠いよぉ」
「ほら行くぞ」
「ふえ~」
◇ ◇ ◇
シオサイの村 東の港。
冒険者達を乗せたギルドの船が出航準備を進めていた。村人が汁物を振る舞い、冒険者達に礼を言って回っている。
モグリとルタイスが港に着くと、冒険者達が2人に手を振る。
「おーい!モグリさーん!」
「モグリさん、アバルバントに来たら飯奢ってやるよー!」
「この雑炊旨すぎだろ」
「おはよー!モグリさーん!」
「またなぁ、モグリさん‼︎」
ルタイスが小石を拾い、船の上の冒険者達に投げ付ける。
「俺にもなんか言え‼︎俺にも奢れや‼︎」
「テメェは依頼者側だろ、お前が俺達に奢れ‼︎」
「こんな大人数に奢れるかッ」
「オークの部屋行く前に約束しただろ‼︎忘れたとは言わせねぇぞ⁈」
「忘れました」
「行くぞお前らあいつ絞めよう」
船から降りてきた数人の冒険者とルタイスが取っ組み合いを始めた。他の冒険者や村人達がそれを見て笑っている。モグリは一連の流れを無視して雑炊を貰いに行った。
「あれ、女将さん。おはようございます」
「おはようございますモグリさん」
宿の女将や宿の従業員が雑炊を炊き出していた。モグリは雑炊を受け取ると、女将に後ろの堤防の階段に座るように言われ、そこに腰掛けた。
「お味はどうですか?」
「海鮮出汁で美味しいです」
「良かったわ。いつもなら、もっと具沢山に出来るんだけどね。ほら、しばらくまともな漁にいけてないからね」
「え、俺頂いて良かったですか」
「良いのよ、後で村の皆んなの朝食用に配るし。しばらくすれば海の調子も戻ってくれるでしょう。そしたらまた朝からあら汁を仕込めるわ」
「あら汁⋯⋯」
「おいモグリ、もう船出るってよ。ってもう食べてんのか」
◇ ◇ ◇
「じゃあなあ~シオサイの皆々様~」
「ありがとうございました‼︎」
「またなんかあったら依頼しろよ~」
「お気を付けて~‼︎」
日の出と共に港を出航したギルド船。冒険者達と村人達が手を振り声を掛け合う。モグリも雑炊片手に手を振る。隣のルタイスが乾いた声で笑った。
「やっぱりリッカは顔出さなかったな」
「だから昨日の夜、わざわざ声掛けに来たんだろうね」
「だろうな。⋯⋯その事だが、モグリ」
「ん?」
「海賊島に着く前にリッカについて話してたのを覚えているか」
「うん。あ、なんか話が途中だったね」
「ああ。リッカだが、おそらくただの冒険者じゃない」
「なるほど」
「リストに記載されていたランクはCランク。だがハイオークを瞬殺し、キングクラーケンの攻撃を凌ぎ続けたのを鑑みると実力は最低でもAランク以上はある筈だ」
「そうなんだ」
「そうなんだ?なんだその反応」
「俺、そのランクとかの指標知らないし」
「まあ、確かにお前はそうか。俺が説明してもまともに聞いちゃくれないだろうから、いつかギルドで説明受けてくれ」
「わかった」
モグリは空になった雑炊の器を炊き出し場に返すと、「へ?」とルタイスに振り返った。
「ギルド?俺は海に出るから行かないよ」
「いや、すまんがそうはいかなくなってな」
「⋯⋯さいならっ」
「あ‼︎皆、モグリが海に逃げるッ」
「何⁈捕まえろ捕まえろ」
海に向かって走り出したモグリに、シオサイの村人達がしがみついたまま引きずられていく。ランダスとガルバンダーは堤防の階段を降りながらその様子を眺める。
「ランダス。ルタイスとモグリを会議室に呼んでくれるか」
「わかった。あの件だろ?早めに話した方が良いからな」
「モグリが大人しく従ってくれるかが心配だが⋯⋯」
「そん時はルタイスに上手く言いくるめて貰おう」
「がははははっ。息子使いが荒いな」
「荒いくらいがあいつには丁度良いんだよ」
◇ ◇ ◇
ルタイスとモグリが会議室に入ると、村長とランダス、ガルバンダーが先に席に座っていた。
「親父、俺もか。話があるのはモグリなんじゃ?」
「お前もだ。まあ座れ」
「ああ⋯⋯」
2人が席に座ると、村長がお茶を一口啜った。そしてモグリの顔を見ると静かに頷いた。
「改めて今回の海賊討伐の礼を言う。お主が居なければ事態はより深刻であっただろう。協力、感謝する」
「いえいえ」
「ギルドからも礼を言うぞ。あんがとよ‼︎」
「いえいえ」
「で、まあ、ここからが本題なんだが。ガルバンダー、説明せい」
「あいあい」
「モグリ、アバルバントに来てもらうぞ」
「嫌です」
モグリが速攻で断ったが、皆そのモグリの反応は想定内だったらしく苦笑いで済ました。
「まあ、まずは話を聞いてくれや。今回の海賊討伐、そして先日のポロボラの襲撃の件。加えてモグリ。お前さんの漂着の件。重要参考人としてアバルバント軍基地への出向要請が出たんだ。勿論、ランダスやルタイスにもな」
「⋯⋯えぇ?」
「海に逃げるのは構わないが、そうすると要請を破棄したとして、お前はアバルバント軍から指名手配される。加えて、シオサイの村にも懲罰が下る可能性がある」
「うえぇ?」
「お前を脅す訳では無いが、大人しく従った方が良いだろうな」
「おぉん」
モグリは返事に困り、隣のルタイスの顔を見る。するとルタイスは何処か気まずそうに目を逸らした。モグリは目を細めてルタイスを睨む。
「⋯⋯昨日の内に知ってたな?黙ってたな?」
「いやだって、昨日の会議で決まったし」
「何で言わなかったんだよ」
「言ったら泳いで逃げてただろ」
「うん」
「だからだよッ」
ガルバンダーが腕を組みながら大笑いし、ランダスと村長も釣られて笑い出した。
「なあに、事情聴取って言っても、お前が犯人じゃないことなんか俺達が知ってらぁ。嘘偽りなく答えれば良いだけさ。出自も記憶が無いで押し切れ。無いもんは無いんだから」
「はぁ。いや、はい。シオサイの村に迷惑は掛けたくはな⋯⋯村長計りましたね⁇」
「はてなんのことやら知らないのう。わしゃ歳じゃて今日の朝飯も覚えとらん~」
「親父。今日は朝飯まだだぞ」
「⋯⋯⋯⋯まあ、あれだ」
「どれだジジイ」
村長はモグリにグーサインを向ける。
「人生経験、じゃな」
「こんな村どうとでもなれッ」
「ああ待て待てモグリッ。じいちゃんもモグリを煽んなよ‼︎」
「あー、おもろいのう」
再度逃亡しようと駆け出したモグリを、ルタイスとガルバンダーがしがみついて阻止する。ランダスは呆れ顔を村長に向け、村長はへらへらと笑った。
「出発は明日じゃ」
「明日⁈は、俺、音波の練習とかした、明日ああ⁈」
「うむ。だってほら、キングクラーケン引き取るのもアバルバントだしのう。」
「あ。そっか。なら、はい」
モグリが急に立ち止まった為、ルタイスとガルバンダーはつんのめって壁に激突した。
「そんでモグリ。お主はこのままワシに着いて来い。ランダス、この後の会議はお前が仕切れ」
「わかった。ルタイス、お前は炊き出しを手伝って来てくれ」
「はいよ」
続く。




