激旨 キングクラーケン①
「凄い魔力反応だ。めっちゃ揺れてるし。流石はキングクラーケン、災害級だな」
「ああ。モグリさん1人なんだろ。大丈夫なのか?」
「今回の作戦には、クラーケン食ったから編成されたんだから大丈夫だろ」
「でもクラーケンの上位種だぞ」
「う~ん。だが、他に対応出来そうな奴居ないし」
「そうなんだよな。けどよぉ、強いのはさっき見たからわかってるが、心配だな」
「任せるしかないべ」
海賊島外部。
海賊の殲滅が完了した討伐隊は、撤収作業に勤しんでいた。捕虜にした海賊と殺害した海賊の回収、敵味方の怪我人の治療。現時点で船に積載出来るだけの押収品の船への運搬など、海賊島の港では冒険者や兵士達が忙しく動き回っていた。
「しかし味方に死者が居ないのは幸運だったな」
「まぁ、へっぽこ海賊のへっぺけ下っ端海賊が相手だったからな。奇襲も功を制したんだろうな」
アバルバント冒険者の船の上。甲板で休んでいる冒険者達が、包帯を巻いたり薬を塗ったりしながら談笑していた。
「ハイオークの相手をモグリさん達がしてくれたのがデカいな。俺らじゃ無理だべ」
「ルタイスは死ぬと思ったが、あいつしぶといな」
「しぶとさは、親父さんに似たんだろ」
「それに⋯⋯」
冒険者達は、少し離れた場所で寝そべっているリッカに視線を向けた。リッカは回復ポーションと応急処置、回復魔法が使える冒険者のお陰で大分具合は良くなっていた。しかしキングクラーケンによるダメージは完全には回復せず、今も自立出来る余力は残っていなかった。
リッカは自身に向けられた複数人の視線に気づいたが、無視して目を瞑った。冒険者達はお構い無しに話を振る。
「あんたがハイオークを1匹倒したんだってな。ルタイスから聞いたぜ」
「グランド・ハイオークとキングクラーケンにも立ち向かって生きて帰って来たんだ。すげぇなあんた、何者だ?」
「Aランク冒険者、いや、Sランクもありえるぜ」
「だが、リッカって冒険者は知らないな」
「そんだけ強かったら有名な筈だよな」
「⋯⋯。」
「よしてやれお前ら。彼女は満身創痍だ」
ルタイスが船内から甲板に戻ってきた。リッカと冒険者の間に座ると、腕を組んで溜息を吐く。
「出航準備が終わった。そろそろ沖に出るぞ。揺れるから気をつけろよ」
「お、ポロボラをとっ捕まえたお二人が揃ったぜ。今回の功労者様だ」
「よっ。次期シオサイの村長様~」
「うるさいぞお前ら。怪我人は大人しく寝てろ」
ルタイスはリッカに振り返ると、リッカの具合を確認した。
「具合はどうだ、先輩」
「軋んで動かないが、呼吸も楽になった。改めて礼を言う」
「だからまだ良いって。治療したのは俺じゃない。それに言うなら、モグリに言ってくれ。俺ら、後始末をあいつに押し付けたんだから。まぁモグリが自主的に狩りに行ったんだけど」
「⋯⋯」
リッカは黙ったまま首を動かし、海賊島を見つめる。ルタイスも海賊島を見ると、深呼吸した。
「彼が心配?」
「モグリが?まあ、そうだな。心配だ」
「そう」
「モグリが物凄い強いのは、目の前で見せつけられたから肌身で理解してる。ハイオークを簡単に潰して、グランド・ハイオークと組み合って、キングクラーケンと正面から殴り合って。あいつは規格外だ」
「出航ー‼︎海賊島の沖合まで移動し待機する‼︎」
海賊討伐隊の3隻は、海賊島から少し離れた沖合まで移動し、モグリとキングクラーケンの戦闘終了まで待機する事となった。
大砲や銃火器、遠距離武器の準備も進め、万が一キングクラーケンが海面へ浮上した際の迎撃体制を整える。ルタイスもその手伝いに向かおうと立ち上がった。
「規格外、か。そうだな」
「あいつのあれは、俺が知ってる亜人の身体能力の高さ以上だ。相当な上澄みだろうさ」
「ああ⋯⋯」
「俺も悔しいんだ」
「え?」
ルタイスは銛を力強く握り締め、海賊島の下方を見つめる。潮風の中、その瞳には複雑な感情が滲んでいた。
「力を貸して貰ってる立場でこんな事言うのは間違ってるのは百も承知さ。承知な上で、俺は悔しい。村の危機は、俺が救いたかった。祖父が親父が、村の皆んなが、先祖代々守ってきた村を」
「⋯⋯」
「その為に村の外に出て冒険者になった。強くなって村を守る為に。それが、このザマさ。そりゃあ、そこら辺の海賊なら苦労せず倒せるくらいにはなったさ。だが、それじゃ足りなかったみたいだ」
「ポロボラを捕えたのは私達だ」
「モグリとリッカのお陰でな。いや、いいんだそれで。仲間との連携で成功したんだから」
「⋯⋯」
「なぁリッカ。一つ、変な質問して良いか」
「なんだ」
「俺がキングクラーケンに立ち向かってたら、どうなってた」
「瞬で肉塊だ」
「ですよね」
ルタイスは両手を空高く上げ、
「もっと強くなるぜーー‼︎」
と声を張り上げた。リッカはそんなルタイスから目を逸らし、再び瞼を閉じる。
「あは。すまん。うるさかったな。あっち行くよ」
「⋯⋯いや、別に」
ルタイスは船尾に移動し、砲弾を運んでいる冒険者の手伝いに向かった。木箱の中で揺れる砲弾を慎重に、バケツリレー形式で砲台まで運んでいく。
「しかし、キングクラーケンに砲弾って効くのか?」
「牽制にはなるだろう。よぉルタイス。大活躍だったな」
「あ、ギルマス」
ガルバンダーがルタイスの肩をバシバシと叩く。
「あだだだだだ、痛いってギルマスッ」
「いやあ、無事だったかルタイス。ポロボラもとっ捕まえたようでなによりだぜ」
「リッカとモグリのお陰でな。勿論、他の仲間もな。あんたらが暴れ回ってくれたお陰で、こっちは随分動きやすかったからな」
「そりゃ作戦通りでなによりだぜ」
「本当に作戦通りかよ。ただ暴れたかっただけじゃねぇの?」
「一石二鳥ってやつだ」
「暴れたかったのはそうなんかい」
「がはははっ。で、モグリは目下、狩りの途中ってか?」
「そうだ」
2人は船の縁から、海賊島とその付近の海を眺める。争いにより荒れて砂埃と火煙が燻る陸地と、穏やかな海面。しかし、海鳥を含めて生き物の気配が少しも感じられない。普段なら豊かな自然が広がっているであろうこの海には、静寂とも感じられる風景が広がっていた。
「キングクラーケンとモグリの戦闘の影響だろう。棲みついている魔物も含めて、周辺の生き物が全部逃げちまってる」
「すぐ元に戻りますよ。ここらの海は俺達が一番知ってんでさぁ」
「頼もしいぜ。流石は漁師の子だな。さてさて、モグリはどんなもんかね」
その時。
ぐらあ⋯⋯
「⋯⋯今、揺れたな」
「ああ。」
僅かに波が立ち、船が大きく揺れた。その揺れの間隔が次第に狭くなり、波も大きく荒くなってきた。異変に気づいた冒険者達が海面を覗き始め、ガルバンダーとルタイスは顔を合わせた。
「モグリとキングクラーケンが上がって来てんのか。ギルマス、はじまるぜ」
「もしくは争いが激化したのか。いずれにせよ、迎撃体制‼︎アバルバント軍にも伝えろ‼︎」
「了解ッ」
ギルドとアバルバントの船が3隻横並びに陣を組み、波が押し寄せてくる方向に警戒を強める。ルタイスは銛を握ると、潮風の向こう側を目を細めて眺める。
「頼むぜモグリ。無事でいてくれよ」
続く。




