激闘 キングクラーケン③
「なあ知ってるかい。音は空中より個体、そして水中の順で速く伝わるんだよ。水中を伝わる音の速さは約1,500m/秒で、空気中を伝わる音の速さ約340m/秒。約4.4倍の差だよ」
「俺、別に水中で音聞かないから必要ないよそれ」
「いやいや。なんでこれを艾理に話したかというとね。前に君は生まれ変わったら、マッコウクジラになりたいって言っていただろ?」
「ん、まあ。適当に言っただけだけど」
「その時に役立つかも知れないからね」
「生まれ変わったとして、今の記憶あんのかな」
「ん?生まれ変わりには前向き?」
「いや別にそんなんじゃ⋯⋯」
「マッコウクジラに限った話じゃないんだけど、クジラとかイルカは音波で仲間とのコミュニケーションを取るんだ。クイック音とホイッスル音で言うと、ホイッスル音の方ね」
「はい?」
「まあこれは種にもよるし、海の状況次第なんだけど。ホイッスル音は数kmから数十kmまで届くとされているんだ。凄いよね」
「あはあ。それで水中の方が音が伝わりやすいって話ね」
「そう。それに、音を伝える能力も、受け取る能力もある。それが凄いよね。海の何処にいても、仲間の声が聞こえてくるんじゃないかな」
「うるさいかもな、それ」
「あはは。確かに。でもさ⋯⋯」
「ん?」
「きっと、淋しくはないよね」
◇ ◇ ◇
そんな顔すんなよ。
俺と喋ってる最中なのに、そんな、
孤独な顔、すんなよ。
⋯⋯って言えなかったのが、俺の弱さか。
「だからさ艾理」
「え、あ、ああ」
「君がもし、生まれ変わってクジラになったら」
「耳を澄ますんだ」
きっと
君が独りで無いと
誰かが教えてくれるから。
◇ ◇ ◇
薄れて
沈みゆく意識の中。
コォン⋯⋯
(⋯⋯はは。まさか君は、俺の来世まで知っていたのかい)
クォン⋯⋯
(この展開も知っていたのかな)
クオーーーーーン
コオーーーーーン
(いや。まさか南の島のおじいちゃん1人が健気に鐘を鳴らしてくれる事で、俺を助けてくれる展開までは読めてないよな)
クオーーーーーン
コオーーーーーン
(村長。心配かけて済まない)
モグリはシオサイの鐘の音を頭で反芻させる。前の戦いの時よりも入念に、幾重にも繰り返す。
次第にモグリの体に力が漲る。
クオーーーーーン
コオーーーーーン
「ぬぐっ、がっ、うぬぬぬ」
モグリが全身に力を込めると、僅かにキングクラーケンの束縛が緩む。しかし、クラーケンの時のようには容易くいかない。
(流石に簡単には引き裂けない。やっぱり、音波攻撃しかないな)
シオサイの鐘の音を頭で反芻させて増幅し、相手へ放出する音波攻撃。
(これもクラーケンの時の威力じゃ足りないんだろう。なあ、キングクラーケンッ)
「イガガガガガッ‼︎」
あの時は音波攻撃でクラーケンを仕留められたが、キングクラーケンはそうはいかないだろう。だが、今はそれで良い。
なんせ今は、腹が減っているのだから。
キングクラーケンの体がどの向きにあるのかはわからないが、ひとまず⋯⋯
「ゲソを頂くっ」
カチカチカチッ
カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチッッッ
うんざりする程反芻させ、音波の感覚を体に染み込ませた。同時に音波の威力を増幅。
島に当たったら申し訳ないと思いつつ、満を持しての、
音波攻撃。
ガチッ‼︎
グオオオオオオオオオオンッッ‼︎‼︎‼︎
「イギャアア⁈」
モグリを拘束していたキングクラーケンの触手が音波攻撃により弾け飛び、周囲の海中に四散する。キングクラーケン自体も音波攻撃を喰らい、墨と血を吐きながらモグリから弾かれるように引き下がった。
「良かった。島とは反対の方向に発射出来たみたいだ」
モグリは自身の周りを漂うキングクラーケンの肉片を掴む。
「小さくなって食べやすい。あーーん」
細かくなったキングクラーケンの肉片に喰らい付いた。
念願のキングクラーケンのお味は⋯⋯。
クラーケンがご馳走だとすると、このキングクラーケンは、
まさに。
「この世の至宝の味だ。はい。もう誰にもあげません全部俺のもんです。素材にもくれてやるか。キングクラーケン、お前の収納先は」
「イ、イ、イ」
足が破壊され、自身もダメージを喰らい、その破壊された足を喰われ。終いには、その相手が目を青白く光らせながら自身を見ている。突然の出来事に、キングクラーケンは狼狽える。
「俺の胃袋だ」
「イ⁈⁈」
続く。




