海賊島地下
「今、開けてやる」
モグリはオーク達が囚われている牢屋の鉄格子を裏拳で全て外し飛ばした。カランカランと音を立てて跳ねる鉄棒は、やがて積み上がった海賊らの死体の山にぶつかって止まった。
鉄棒が突き刺さり、鉄棒で殴られ折られ潰され切断され捻じ切れられたその肉塊から流れ出る血。
モグリは一切、それらに関心を示さない。
「オ前達、遅レテ済マナイッ」
グランド・ハイオークが牢屋の隅で集まって蹲っているオーク達に駆け寄り、両膝をついた。オーク達も彼の姿を見ると、目に涙を浮かべ腕を伸ばした。グランドオークはそのオークの子供、大人まとめて抱きしめるように腕を広げた。そしてグランド・ハイオークとオーク達は強く抱きしめ合う。
「スマナイ、スマナイ。皆ヲコンナ目ニッ」
「ガアア、ダアダアっ」
「ゴワアっフゴっ‼︎」
オーク達はグランド・ハイオークのように言葉を話せる訳ではないようだが、相互会話は出来るようだ。やがてグランド・ハイオークも、他のオークと同じく、元の鳴き声で話し始めた。一人一人の顔を見ながら頬や頭を撫で、傷の具合や無事かどうかを確認している。
だが。
「⋯⋯」
モグリは目を細め、顔を顰めた。
その場にいるオークの全員が、大小何かしらの傷を負っている。何より痛ましいのは、大人のオークから小さな子供のオークまでの内、数体のオークは⋯⋯。
先程の海賊の下衆な話は本当だったようだ。
手の指や片目、片耳の無い姿であった。雑にも手当てされず、膿んで腐食している。牢屋の中では、腐って酸っぱくなった肉の嫌な匂いが鼻を突いてくる。
モグリは、積み重なった肉塊と化した海賊らの死体の山に振り返る。鉄棒を拾い上げ、横に振りかぶった。
「殺してもまだ、不快な奴らだ。もう一度」
モグリは鉄棒を振るい、怒りのまま海賊の死体を吹き飛ばそうとした。
「炎回復魔法、安ラギノ灯火」
「ッ」
背後から感じた温かい光に、モグリは振りかぶった腕を止めた。
「怪我ヤ痛ミ、炎症ハ治ル。失ッタモノハ、戻ラナイ」
「グワ、ワフゥ」
「ワフゥワフゥ」
グランド・ハイオークの回復魔法により、オーク達の怪我が回復する。欠損した部位は再生しないが、膿は燃えて消えて体力も幾らか回復していく。
「モグリ、皆ノ錠ヲ外シテクレ。ソウスレバ、モウ魔法具ハ発動シナイ筈ダ」
「あ、ああ。すぐ外す。だが本当にもう発動しないのか?はったりじゃないか?」
「皆ニ魔法具ハ埋メ込マレテイナイ。回復シナガラ皆ノ体内ヲ見タカラワカル。コノ錠ガ魔法具ダ。モグリナラ、軽ク外セルダロウ」
「わかった」
「皆、怖ガル事ハ無イ。彼ハ、今ハ仲間ダ」
「もう俺にはお前と戦う気も理由も無いよ」
「ソリャ良カッタ。俺モダ」
グランド・ハイオークが両腕を差し出す仕草をすると、オーク達も真似て両腕をモグリに差し出した。モグリはオーク達に付けられた手錠を、まるで紙を破るかのように取り外していく。
「俺ガ助ケヨウトスル以外、発動シナイカラナ」
「そっか」
錠を全て外すと、オーク達はモグリに
「ワフゥ」
「ワフワフ、ワフゥ」
「ワーフワフゥ」
と鳴き始めた。
「わ、わふ、わ、わあ?」
「アリガトウ、ダ。モグリ」
「そうか。わふぅ」
◇ ◇ ◇
グランド・ハイオークとモグリは地下室の海賊達用の食料や飲料を見つけ、オーク達に与えた。グランド・ハイオークも食事を始めたオーク達を見守りながら干し肉を齧ると、モグリに視線を移した。モグリはパンの入った木箱を置くと、オークに声を掛ける。
「ほら、パンだよ。小さく千切って食べるんだ」
「ワフゥ」
「わふぅ」
「モグリ」
「わ、あ、びっくりした君か」
グランド・ハイオークは干し肉を飲み込むと、モグリに近付いた。
「モグリ。君ハ仲間ノ元へ急ガネバ。」
「うん。そうだね」
「出来ルナラ、礼ニ手伝イタイガ⋯⋯」
「良いんだ。これは勝手に俺がお前らを助けたいから助けただけ。それにお前はオーク達を守らなければ」
「スマナイ」
「だが、この後どうするんだ?冒険者や騎士達は君らの事を知らない。俺が彼らに報せても、この乱戦具合だ。全体が把握してくれるまでには時間が掛かる。海賊お抱えのモンスターと見做して襲ってくるぞ。お前ならどうにか出来るかもだが、オークらを庇いながらは⋯⋯」
「気ニスルナ。ドウニカスル。ドチラニセヨ、シバラクハココデ皆ヲ休マセル。乱戦ハ避ケタイ」
「それが良いな」
「モグリ」
グランド・ハイオークがモグリに手を差し出す。モグリがその手を握ると、両者は目を合わせながら頷いた。
「ワフゥ、モグリ」
「わふぅ。グランド・ハイオーク」
奇妙な縁が出来た。まさかオークと握手するとは、海賊島討伐開始時には思いもしなかった。だが魔族やモンスターにも人間と共存している種がいる世界だ。なんら不思議な光景で無いだろう。それに、こんな海賊らがいるのだ。こいつら海賊の方が余程、『魔』、だ。
オーク達も飲み食いする手を止めてモグリに「ワフゥ‼︎」と手を振り、モグリも「わふぅ」と手を振りかえした。
「デ、ドウヤッテ戻ルンダ?」
「戻るんだから、来た道からだよ」
「⋯⋯ナルホドナ」
続く。




