苦悶の炎②
グランド・ハイオークが統率するオーク達は、この島から遥か離れたとある森の洞窟で暮らしていた。森の恵みを大事に、自然の中でそれなりに穏やかに過ごしていた。
グランド・ハイオークは近くの街や村から捨てられた本や、盗賊やモンスターに襲われた馬車などから散らかった書物を拾い、万能言語を用いて熟読し黙々と様々な知識を集めていた。
魔法や戦闘技術の知識は、実際に森での狩りや味方とのいざこざの実戦の場で繰り返し試して身に付けた。
やがてオーク、ハイオークと進化した。同胞からの支持もあり、先代リーダーが老衰により彼にオークのリーダーの座を譲った。その際、彼はグランド・ハイオークに進化した。
グランド・ハイオークは人間を襲わなかった。反対する群れの仲間もいたが、グランド・ハイオークは人間によるモンスターへの討伐の脅威を知っていた為、どうにか説得を試みた。
だが、数ヶ月前。
反対派の仲間達が集まり、森の外れの道を走っていた馬車を夜間に襲撃。人間を1人残らず殺戮してしまった。
グランド・ハイオークはすぐさま愚行に走ったオークらを殺害。その首を馬車が襲撃された現場に持ち出した盗品と共に並べ、謝罪文を記した看板を立てた。
が、
その馬車は深淵海賊団のものだった。
数日後。
深淵海賊団がグランド・ハイオークの群れが住む洞窟を襲撃。彼らはなんとか応戦したものの、群れの大多数が襲撃を率いたとある海賊により瞬殺された。グランド・ハイオークは喰らい付いたが、生き残った群れの同胞がその海賊の魔法により使役され人質にされた。
グランド・ハイオークはその海賊に使役こそされなかったものの、海賊の命令に従う事を条件に人質の同胞の命を保証された。
海賊のアジトに連行されたグランド・ハイオーク達はしばらくの間、荷運びなどの労働を強いられていた。つい先月、オクトランスがこの島を新しく縄張りにするとここに全員で連行された。そしてオクトランスがこの島を留守にする間、この島をポロボラに任せる際にグランド・ハイオーク達はポロボラの警備に回された。
体が頑丈なオーク達でさえ、海賊に虐げられた重労働や劣悪な環境により徐々に命を落としていった。今ではもう、20人ほどしか残っていない。それもほぼ子供や女性、怪我人である。成熟した頑丈なオークは、グランド・ハイオークを入れて6人程。
それすら⋯⋯
「オマエ達ガタオシタ二人、可愛イ俺の双子ダッタ」
「息子だったのか」
「キミラハ悪クナイ。群レヲコンナ目ニアワセタ、ワタシノ責任ダ」
「ッ⋯⋯」
身に降りかかる全ての不幸を一身に受け止める覚悟を持った悲痛な表情のグランド・ハイオークの姿に、モグリは居た堪れなくなった。この話が嘘か本当か、モグリには判断出来ない。このグランド・ハイオークが、特別賢い個体である事は間違い無い。人を騙し油断させるように命じられている可能性もある。
しかし。
「なら、なんであんたはさっき助けに来なかったんだ?あの時あんたが乱入してきていたら、殺されていたのは俺達だっただろ」
「コノ部屋カラデルナトイワレタ。ダカラデルコトガ出来ナカッタ」
「ッ⋯⋯。そんなの無視すれば良かっただろ」
「無理ダ。命令ニソムイタラ、オレノ体内ニウメコマレタ魔法具ガ、ポロボラノ指輪ニ反応シテ同胞ガコロサレテシマウ」
「悪趣味な」
「ダカラ⋯⋯」
グランド・ハイオークが拳を握り、震える声でモグリを見た。その瞳には怒りと悲しみが浮かんでいる。
「オマエヲ殺サナケレバナラナイ。オマエハツヨイ。オマエガコノ先ニイケバマチガイナク、ポロボラハ負ケル」
「あの2人は、そうする必要が無いってか?」
「コノ先ニハ、『キングクラーケン』ガイル。アノ人間達ニハタオセナイ。ダガ、オマエハタオセル。オレニハ、ソレガワカル」
「旨そうな名前だね」
「マッコウクジラノ亜人ナラ、潜水艇ニモ追イツケルダロウシナ」
「ここで俺と戦えば、俺かあんた、どっちが死んでも命令に背いていないから同胞のオーク達の命は助かるって事か」
「アア」
「保証は」
「ナイ。ダガ、スクナクトモ、コノ瞬間ニコロサレル事ハナイ。サア、長話ニツキアッテクレテ感謝スル。ツヅキヲ始メヨウ」
グランド・ハイオークは拳から肩にかけて炎をまとい、悲痛な瞳を赤く光らせる。部屋に轢かれた絨毯が彼の周囲から燃え始める。倒れた食器棚にも燃え移り、ガラス窓が音を立てて割れた。
モグリも拳を握り、構えを取る。
「もう一つ、聞いていいか」
「アア」
「他に人質になってる、あんたの同胞のオークは何処にいるんだ」
「コノ島ノ地下ノ牢屋ダ。物置ミタイナ場所デ、鎖ニツナガレテイル。コノ部屋カラ出タ、広場ノ反対側ダ」
「そうか」
「オマエガ知ッテドウスル」
「ポロボラはな、とにかく俺の癪に触るんだ」
「⋯⋯エ」
続く。




