苦悶の炎①
「グランド・ハイオーク。なんでこんな奴がここに」
迫ってくるグランド・ハイオークの威圧感に気圧されながら、ルタイスは歯軋りする。
「ハイオークの時点でおかしいが、こんな怪物を使役出来るやつがいるのか」
「ポロボラもクラーケンを操ってたよ」
モグリがルタイスにそう言うと、ルタイスは「いやぁ?」と首を捻った。
「だとすればそいつもこいつも使役してんのはオクトランスかもな。魔道具で一時的に使役権をポロボラに譲ってんだろう。クラーケンを操れるなら、本人も同じくらい強い筈だ。ポロボラはそんな強くなかったんだろ?」
「うん。じゃあもし本当にオクトランスがハイオークやグランド・ハイオークを使役してるとしたら」
「ああ」
「オクトランスはこいつらより、強い」
「来るっ」
リッカが剣を構え直し、ルタイスとモグリもグランド・ハイオークを注視する。グランド・ハイオークは赤黒い眼光を3人に向け、ズシンッと床を踏みしめた。
「ガア⋯⋯、アッ」
「ッ‼︎‼︎」
何の変哲も無いただの一歩に見えたその踏み込みで、一瞬にしてグランド・ハイオークは3人の目前に高速移動した。
「何っ⁈見えなかっ、モグリ‼︎」
「ぬうッ」
グランド・ハイオークの拳を、モグリが両手で掴んで止めた。グランド・ハイオークはそのままモグリを押し出すと、脇腹目掛けて回し蹴りを繰り出す。
「伏せてっ」
リッカが縦に振り下ろす斬撃を回し蹴りにカチ合わせた。が、簡単に弾かれたリッカは壁に激突した。その隙に伏せていたモグリがロケット頭突きをグランド・ハイオークの胴を目掛けて放つ。しかし、グランド・ハイオークは素早く飛び退いてその攻撃を交わした。
「オラァ‼︎」
グランド・ハイオークの着地する直前のタイミングを狙い、ルタイスが水を纏った銛の突きを繰り出した。
「ガア」
「ん、んだとぉ⋯⋯⁈」
その突きを、グランド・ハイオークは炎を纏ったナックルで後ろに薙ぎ払う。着地すると同時に足を蹴り上げ、ルタイスの顔面に膝蹴りを打った。
「くそっ、属性有利も糞も無いなッ」
ルタイスは相打ち覚悟で銛を薙ぐ。
その銛が、膝蹴りが、それぞれに直撃するスレスレにモグリが全力タックルをグランド・ハイオークにお見舞いした。ルタイスから奴を引き剥がす。
「ふんっ‼︎‼︎」
「ガア、クククク。ガアアアア‼︎」
壁を崩し、二部屋ほど家具や壁を倒しながら突き進んだ所でグランド・ハイオークが両脚で踏ん張った。砂煙を立てながら段々と減速し、遂に両者はその場で拮抗し始める。
グランド・ハイオークはタックルのダメージにより口から血を吐いているが、嬉しそうな表情を浮かべている。モグリはグランド・ハイオークを睨み上げながら舌打ちした。
「こいつ、クラーケンより単純な力も強い。それにスピードは俺以上か。とすれば」
モグリは背後に居るであろうルタイスとリッカに向けて声を張り上げる。
「ルタイス、リッカ、先に行け。こいつは俺がやる。ポロボラを逃すなッ」
リッカは「ああ」と静かに頷き、ルタイスは
「任せろ‼︎死ぬなよモグリ‼︎‼︎」
と激励を飛ばし、2人は別の部屋に向かった。
「ルタイス、お前もね」
モグリはそう言うと、もう一段強く力んだ。グランド・ハイオークの指がミシミシと音を立て始めたが、すかさずグランド・ハイオークがモグリの胴を蹴り上げる。
「ぐっっ」
鈍重な痛みと腹から上がってくる鉄の匂い。モグリはその苦しみに、何故か笑みを浮かべてしまう。ニイイッ、と口角を上げるとグランド・ハイオークの右肩と首の間に四角くい頭を振り下ろした。
ドゴオッッ
「ガアッ⁈ ⋯⋯クククク」
軽く意識が落ちそうになったグランド・ハイオークも、それでも再度笑みを浮かべた。粉砕した右鎖骨と肩を再生させながら、モグリの首に噛みつきに掛かる。
「ガアアアアッ、ア。ア⁈⁈ア、アギャア⁈」
のを、逆にモグリも大きく口を開けて迎え撃ち、グランド・ハイオークの頭蓋に噛み付いた。相手も噛みついてくるのは予想外だったようで、組み合う手の力が緩む。モグリはグランド・ハイオークから手を離すと、飛び跳ね体を捻った。デスロールの再来である。
(これで頭と体を引きちぎってやる)
が、グランド・ハイオークはそのデスロールの回転よりも速く自身の身体を捻るとモグリの両目を毟ろうと爪を立ててきた。咄嗟に口を離し、グランド・ハイオークに殴り掛かる。向こうも爪でモグリを切り裂こうとする。
ガキン‼︎‼︎
打撃と爪の斬撃がぶつかり、両者は弾かれたように距離を取る。グランド・ハイオークの爪や指先は潰れて消し飛んだ指もあるが、既に再生し始めている。
「ガアガアガア。クククク⋯⋯」
「たはっ。スピード以外なら俺が勝ってるみたいだ」
モグリの左腕にも、拳から肩にかけて爪の斬撃による切り傷が出来、血が流れていた。が、深さ自体はカッターナイフで切れちゃいました程度である。モグリは懐からスルドイカを一匹取り出すと飲み込んだ。胃に入った瞬間から、腕の傷が治り始める。
「俺の体、つくづく都合良いな」
自分の腕を確認しているモグリを、グランド・ハイオークは指差した。モグリもそれに気付き、何か魔法を飛ばしてくるのではと身構えた。
「ガア。オマエ、強イナ」
「喋れるんかーい」
グランド・ハイオークはモグリの体をまじまじと眺め、目を細めて首を傾げた。
「ダガ、何ノ種族ダ。見タコトガナイ」
「マッコウクジラの亜人らしい」
「ラシイ?」
「諸事情により記憶が無くてな。俺からも質問良いか」
「イイダロウ。ツヨキ亜人ヨ」
「オークって喋れるのか?」
「オレガ、特殊ラシイ」
グランド・ハイオークは自身の頭を親指でトントンと叩きながら目を瞑った。
「オレハ特殊スキル持チデナ、万能言語トイウスキルヲ持ッテイル。ダカラダ」
「そりゃ凄い。海賊より話が通じるよ」
「代ワリニ魔力ヤ身体能力ハ、人並ミ、ア。オーク並ダッタンダガ。スキルノオカゲデ、書物ヲヨメタカラ魔法書ヤ体術ノ本ヲ読ンデオークノオサマデノボリツメタ」
「なるほど。ん?あんたもしかして⋯⋯」
モグリがハッとすると、察したグランド・ハイオークが「アア」と呟いた。
「オレハ使役サレテイナイ。ダカラ自由ニオマエトハナセテイル」
「だよな。ならなんで海賊の島でこんな事してるんだ?さっきのハイオークもあんたの配下だろ?」
「ソウダ。オレハ⋯⋯」
すっかり戦うテンションではなくなったらしいグランド・ハイオークは、物ふけな顔持ちを浮かべる。が、モグリは手のひらをグランド・ハイオークに向け、
「すまん。回想に入りそうだから言っておくと、俺急いでるんだ。先行っていいか?」
と断りを入れる。しかしグランド・ハイオークはモグリの言葉を無視した。
「オレハ、仲間ヲ人質ニ取ラレテイル」
「本当、後で話聞いてやるから、え、人質?話変わったな」
「アレハ数ヶ月前⋯⋯」
続く。




