海賊島の激闘①
「見たかよあんたら。ルタイスも中々だが、モグリは噂以上だな。海戦適性にあの身体能力。ありゃ俺のギルドならBランクから登録出来るぜ。いや、下手したら」
海賊島に上陸し既に海賊を10数人打ちのめしたガルバンダーは、先程のルタイスとモグリの快進撃を見て機嫌が良くなっていた。ウッキウキで、ランダスやウィヌに話を振る。
「ああ。我々も負けじと先を急ごう」
「ウィヌは相変わらず話がつまらんな」
うんざりという表情でウィヌに舌打ちすると、背後のランダスに振り返った。ランダスは銛を握りながら、ルタイスとモグリが入っていった岩場を見つめていた。
「モグリはさて置き⋯⋯。ルタイス、強くなったんだな。てっきり俺ぁ、女遊びばっかしてるもんだと」
「いや、もうちょい高く見積もってやれよ。あいつはCランクの上澄みだぜ。今回の討伐の内容次第では、帰還後にすぐさまBランク昇格だろうよ。それに女遊び云々はお前さんも」
「さ、ガルバンダー。俺らも気張ろうか」
海賊島までの海案内役のランダスを始めとした漁師達が、銛や手前の武器を構えた。
「ここに来れない村人皆んなの想いを胸に、やられた仕返しをすんだ。いくぞお前ら‼︎」
「うおおおお‼︎‼︎」
ガルバンダーは近くに居た冒険者に声を掛け、「何人か集めて彼らを守ってくれ」と頼むと冒険者はグーサインしながら走っていった。ガルバンダーも両腕のガントレットを調整しながら後をついていく。
「ウィヌ隊長」
海賊島の内部に入るため、ウィヌと部下の兵士達が島の建物や倉庫を手当たり次第当たり、海賊を片っ端から始末していく。
切り掛かってきた海賊の首と胴を亡き別れにし、剣に付いた血を払ったウィヌに部下の兵士が声を掛ける。
「どうした」
「はっ。モグリの後を付けさせますか」
「ああ。だが、慎重にな。気付かれぬよう」
「承知」
部下が引き下がると、ウィヌは倉庫の棚に置かれている酒瓶を手に取った。
「ヌラポスタ地方のぶどう酒。何故ここに。奴らの取引と流通網は、どこまで根深いのだ。略奪物だとしても遥々遠方のこの島にあるとは」
ウィヌが倉庫から出ると、部下の兵士や冒険者達が仕留めた海賊や拘束した海賊を島の岩壁に並べていた。
「隊長。島の内部への入り口が見つかりました。ただ内部構造が依然としてわかりません」
「海賊も自分の根城をいちいち見取り図片手には歩かないだろうな。誰かに道案内を頼もうにも信用ならん」
「如何致しましょう」
「捕虜にした海賊は逃げられんように鎖に釘打った上に気絶させろ。ガルバンダーは何処だ」
「その、ギルドマスターはですね」
部下がウィヌの背後を指差すと、内部への入り口と思われる岩の扉を破壊しに掛かるガルバンダーと冒険者達が目に映った。ウィヌは「待て待て」と言いながら盾を構えた。
「待てガルバンダー殿。先行してくれるのはありがたいが、爆発したり待ち伏せで弾幕を張られたり、いきなり大勢で掛かって来るやもしれん」
「そうか、そりゃ想定内だ。危険度の高いダンジョンみたいなもんだな。なあお前ら‼︎」
ガルバンダーの呼びかけにテンションの上がった冒険者達がより一層勢いづいて岩の扉を壊し続ける。
「まあ混乱している海賊を迅速に伸していくのも一手ではある。シオサイの漁師らと警護の冒険者らは我々の後ろへ。ガルバンダー殿、侵入した後の手筈は?」
「暴れ散らかす‼︎んで、ポルボラが居たら引っ捕らえる。見つけ次第、あんたらにもすぐ伝えるよ」
「承知した」
「よし、そろそろ行くぞ。おんどりゃああッ」
バガアアアアアンッッ
ドゴオオオン⋯⋯
岩の扉が音を立てて盛大に崩れた。同時にガルバンダーを先頭に冒険者らが島の内部に流れ込む。ウィヌ達も程なくして海賊島の内部へ慎重に足を踏み入れた。
◇ ◇ ◇
一方その頃、モグリとルタイス。
岩を崩して進んだ先は、海賊の抜け道的な出入り口だったようだ。小型海賊船に乗りアバルバントの船を襲撃する為に出航準備をしている海賊の集団に鉢合わせたが、速攻でモグリとルタイスが叩きのめした。
「こりゃここから潰して正解だったぜモグリ。まだこんなにいやがった」
「味方の船が危なかったね。良かった。で、そいつらは何か吐いた?」
「てんで駄目だ。誰もポロボラの居場所を言わない。本当に知らないのか、余程慕われているのか」
「前者だろ」
2人が会話している隙に匍匐前進で抜け出そうとした海賊の背中を、ルタイスが何度も踏ん付けた。
「げはっぐほっごえっあがっぼえっ許してッ」
「許さないが?俺の居ぬ間に故郷を襲った挙句、妹を人質に取った貴様らを許す道理が無いが?」
「ごっがっ、わっ、わかっ、わかっだあ、おし、教えるからっ」
「教える?ポロボラの居場所か」
ルタイスは足を海賊から降ろし、地面に靴底を擦る。そして銛の切先を海賊の首元に突き立てた。
「嘘は言うなよ。もし嘘を付いたらお前の体は」
モグリが停泊していた小型の海賊船を次々に毟るように破壊していく。顔を真っ青に震え出した海賊の首元に、ルタイスは再度切先を突き立てる。
「こうなる。俺ぁ、男同士の嘘が嫌いだ。女の嘘は好きだ」
「やかましいルタイスも砕こうか?」
「あ、すいません。ともかく知っているなら教えろ」
「わ、わわわわかった。ポロボラの兄貴は、島一番真ん中の最下層の部屋にいる」
「もう少しわかりやすく説明しろ」
銛を海賊の首にプスッと刺すと、海賊は顔を引き攣らせた。
「こ、この、この島の内部はくり抜かれてて通路や大小様々な部屋が繋がって俺ら海賊の根城になってる。ポロボラの兄貴が居るのはオクトランスの頭の部屋でもあった地下の大部屋だ」
「そうか。ならそこまで俺達を案内しろ」
「と、途中までならっ」
「は?」
「途中までしか知らねぇんだよっ、俺は下っ端戦闘員だぜ⁈丁寧な道案内ならもっと上の奴に聞けっっ」
「そうか。モグリ、どうするよ」
モグリは鉄の扉を軽く手首のスナップを効かせた裏拳で殴り、一発で扉を弾き飛ばすと根城の通路の先を指差した。
「ならそこまでの案内で良い。ポロボラに近づけば取り巻きが居るだろ。そいつらから聞けば良いし、最悪一番下まで掘ってしまおう。急がないと、多分ポロボラは前回みたいに逃げるよ」
「前回?村に来た時か」
「うん。あいつ、潜水艇みたいなんに乗って先に逃げたらしいから」
「じゃあ、急がないとな。ほら立て海賊。道案内の時間だぜ」
ルタイスが海賊の胸ぐらを掴んで立たせると、海賊は壁に寄りかかりながら歩き出した。
「そうか、ポロボラの、あに、野郎はやっぱ逃げてやがったのか」
「あ?何言って」
「待ってルタイス」
「あ?」
海賊を殴ろうとしたルタイスを制止し、モグリは海賊に歩み寄る。
「ここに居るって事は村の襲撃時メンバーじゃ無いって事だ。ポロボラはお前ら海賊に何て言って帰ってきたんだ?」
海賊は歯軋りしながら、壁を叩いた。
「あの野郎、村を押さえたって嘘付きやがった。だから宝も女子供も持ち帰らず、自分だけ帰ってきたと。今思えばおかしい話だ、味方一人も連れずに帰ってくるとは。あの野郎、嘘付いた上に仲間を見捨てやがった。やっぱオクトランスの頭に着いていくんだった」
ルタイスが頭を掻きながら溜め息を吐いた。
「そんな子供騙し、なんで帰ってきた時点で気付かなかったんだよ。まあお陰で、俺たち討伐隊に予想以上に狼狽えてる理由は理解したが」
「俺はそん時その場にいなかったが、自分の部屋から広場に出てそう仲間達に言いふらしていたらしい」
「⋯⋯まずいな」
モグリは扉の先に向かって駆け出した。ルタイスが海賊の背中を銛で叩き走るように促し、後に続く。
「海賊、早く道を教えろッ」
「な、何をいきなり慌ててんだ。あそこの階段を降れ」
「どうしたんだモグリ。確かに増援が来る前に急いだ方が良いが」
「そうじゃない。ポロボラはシオサイの村を潜水艇で抜け出した後、自分の部屋から出て来たんだ。恐らくその部屋には海に繋がる脱出用の抜け穴があるんだ。急がないと潜水艇でまた逃げるぞ」
「なるほど。逃げた場合はお前に任せるぞモグリ」
「ああ、だがその前に捕まえよう」
「無論だぜ。おら海賊、もっとキビキビ教えんかい」
「わ、わわわわかった。あの右手の通路だ」
ひたすらに走る3人の背後から、海賊の増援が迫る。
「見つけた‼︎味方も居るが構うか、撃ち殺せ‼︎」
海賊達が銃を次々と撃ち始め、モグリとルタイスは道案内の海賊を掴みながら手前の通路に身を隠した。島の岩で出来た壁の角が弾丸によりがたがたに崩れていく。
「おいこっからでも行けんのか」
「無理だこの先はただの船員の部屋だ」
「ルタイス、伏せてて」
「は、モグリ。幾らお前でも銃弾は危ないッ」
モグリは近くの部屋の鉄扉を「よいしょ」と外すと、盾にして銃弾を防ぎながら元の通路に出た。
ガガガガンッガンガンッッガガガガガガッ‼︎
「お。意外と頑丈で助かった。あらよ」
「わ⁈」
「ぬわあ⁈」
モグリは鉄扉を海賊達に蹴り飛ばした。海賊達は鉄扉に押され弾かれ、叫びながら散り散りになる。モグリは海賊が落としたマスケット銃を両手に持つと、膝で半分に叩き折る。海賊達は怯えながらも銃から武器を持ち替え、モグリに果敢に立ち向かってきた。
「あんたらのその気概は何処から湧いてくるんだ。何がそこまで」
「誰だか知らないが、たかが亜人が好き勝手暴れやがってッ」
「知らない海賊に襲われた村人達の気持ちは考えられないのか。好き勝手に言いやがる」
振り下ろされたサーベルを横に避け、後ろに引いた右手で海賊の顔面を殴り飛ばした。飛びかかって来た海賊を、振り下ろしてきたハンマーごと頭突きで砕いて壁にめり込ませ、同時に切り掛かってきた海賊2人をタックルで薙ぎ倒し、後頭部を床に強打させ気絶させる。残った1人は、「や、やあ~‼︎」と槍を持って突進してきたが、モグリは冷静に槍の木材の部分を片手で掴んだ。海賊は突進の勢いそのままに、槍の石突を鳩尾にめり込ませる。
「ぐうえ⁈お、げぇ」
「お、お大事に」
海賊は血とゲロを吐き出しながら倒れる。モグリは槍を掴んだままその海賊から視線を外し、背後の通路に視線を向けた。
「おいモグリ、大丈、大丈夫だよな知ってた」
通路から顔を覗かせたルタイスが、目の前に広がる蹂躙劇に安堵して出て来た。
「なんとかなった。けど急ごう。味方側も入ってるからそんな多く追っ手は来なそうだが」
「だな。ポロボラが逃げ出すタイムリミットが刻々と近付いてる。ほら海賊、こっちの先だったな」
「あ、ああ。そうだ。突き当たりの階段を下だ」
「よし急ごうぜモグリ」
「うん」
階段を降ると、下から物騒な物音が響いてきた。
「味方が海賊と戦ってんだな。俺達が来た道からすると、ここは何処だ?」
「この下は中央広場だ。ポロボラは広場の先の大扉の先の筈。そっからは知らん」
「本当か?」
「本当だ本当、マジだ。俺だって怒らせたお前らの相手はしたくねぇよ」
「そうか」
階段を降り切ると、ルタイスは海賊の後頭部を銛で殴った。
「があ⁈⁈」
ルタイスは倒れ込んだ海賊を近くの柱にもたれかかせる。
「海賊に同情なんて微塵もしないが、裏切られたって事には同情してやる。ここまで道案内してくれたしよ。寝てろ、戦う意志の無い奴は拘束されるだけだ。刑務所行きだがな」
「そうか、そりゃいい。気をつけろ、ポロボラのお抱えは、ヤバいぞ⋯⋯。がくっ」
海賊が気絶すると、ルタイスは広場の揉みくちゃな戦闘に目を向ける。
「ルタイス、優しいのな」
「別に。殺しても良いが、俺は暗殺者じゃなくて冒険者だからな。冒険者も誰も、最後は義理人情ってな」
「あっそ。で、どうする?」
「あっそってお前。えっと、あの先だろ?確かに扉の近くにやたら海賊の奴らが密集してらぁな。無理矢理突破しちまおうぜ。モグリが扉壊してくれ。邪魔してくる海賊は俺や他の冒険者に任せろ」
「わかった。真ん中突っ切るかい?」
「当たり前だ。最短距離で行くぜッ」
ルタイスが銛に水を纏わせると、モグリと目を合わせて同時に駆け出した。周りで海賊と戦っている冒険者達も、突っ走るルタイスとモグリが見えると意図を理解し、2人を守る様に陣形を組み変える。
広場は円状に広がり、吹き抜け三階分の通路や広場から放射状に繋がる四方の通路から海賊が続々と集まってきていた。
冒険者の1人が海賊と鍔迫り合いながらルタイスに声を掛ける。
「ルタイスッ、無事だったか‼︎」
「当然。まだ報酬受け取ってないからな」
「ははは。親父さん達とガルバンダーさん達は、海賊に捕まってた人達を保護して一旦船に戻ってる。別隊がウィヌ隊長らと組んで根城を虱潰しにしてる。俺らはただただ奥に奥に突っ走ってたらここに来たが、この先にポロボラが居るんだな⁈」
「恐らくな‼︎」
「ならこのまま行け‼︎モグリさんルタイス、暴れてこいッ」
「助かるぜ」
「助かります」
「打ち上げの宴会、ルタイスの奢りだぜ皆んな‼︎‼︎」
「は?」
冒険者達が一斉に歓喜の雄叫びを上げる。
「は?おま、お前ら、わかったよ。なら死ぬなよお前ら‼︎」
「そっちもなぁ。おら‼︎」
大扉の前に近付いたモグリとルタイスを、大扉を守っている海賊らが迎え撃つ。
「ここは通さないぜ、テメェら‼︎」
「水魔法、不可避のトライデント二十連撃」
「え」
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッ‼︎‼︎‼︎
「ぎゃあああああああ⁈」
ルタイスの攻撃で海賊が一瞬で仕留められた。大きな水飛沫と共に飛ばされ、床に転がった所に冒険者がとどめを刺していく。ルタイスは満足気に髪を掻き上げながら床に銛を当て、火花を散らしながら薙上げる。その火花が瞬時に水飛沫に変わり、すぐさま波に変わった。
「モグリ、波に乗れっ」
「助かる」
モグリはルタイスの作り出した波に飛び込み、その波の中で急激に加速。更にルタイスが銛を大扉に向け「はっ‼︎」と突き出した事により波自体も加速。
「ふんっ」
頭を後ろに引き力を貯め、腰から首、全身を使った頭突きを繰り出した。
「だあ」
ドッ
ガァアアアアアアアアアアアアアンッッ
けたたましい破壊音と共に鉄の大扉を開けながら破壊し、大扉の先の部屋に飛ばした。モグリも波に乗りながら部屋にスライディングして入室する。
続く。




