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異世界真っ向!〜クジラ亜人、荒波転生録〜  作者: 牡丹鍋
第2章 海賊島の戦い編
13/64

いざ海賊退治

 海賊討伐の前日




 日を跨ぐ少し前。









 シオサイ役場、村長執務室にて。





 村長が二つのグラスに丸氷を入れ、そこにウイスキーを注いだ。コロコロと音を立てながらグラスを揺らし、一つをランダスに手渡した。


「何の真似だ親父。ハマった小説か劇の真似か?俺は明日早いんだぞ」

「まあ明日がお前の最後の日かも知れん。最後に親子で酒でもどうかなと」

「残念ながら、あんたより先にくたばるつもりは無いね」


 村長がソファにドガッと腰を下ろすと、ランダスも向いのソファに腰を下ろした。お互い黙って酒を一口飲むとグラスをテーブルに置いた。壁掛け時計の秒針が時間を刻む音が静かに響き続ける。


「炭酸で割るんだったな」

「親父」

「ああ。ランダス、冒険者の数はともかくアバルバント兵の数が少な過ぎる。ウィヌ含めて20人。明日島に行くのが10人じゃと?」

「同感だよ。だが難しい交渉だったんだ。せびり過ぎても、奥手に出過ぎても怪しまれる。穏便に交渉を進めて、あの人数だ」

「島の警備に兵士が10人で、いったい何を守れるんじゃって話だがのう。まあ、居ないよりマシか。冒険者の数には文句無い。ルタイスが頑張ったのかの?」

「そんな所だ。ギルド長には前々から世話になってたらしい。世話焼かせてたんだろうけどな」


 ランダスが腕を組み、村長は顎髭を指で撫でる。


「ランダス。アバルバント側は何を隠してると思う」

「さあね。財宝を横流ししてたか、人質を売買してたか。はたまた、ただ無能なだけで俺たちから怪しく見られてるだけか。ただ今回一番怪しいのは人員とか対応が遅いとかじゃない。海賊の島に行くのに情報が少な過ぎるのに、出発が早い事。だろ?」

「うむ。今まで散々渋ってた癖に、シオサイに着いて明日には決行。島の地図は渡したが、あれは海賊が居着く前のだ。海賊が居着いてからの地図は無い。どこにどんな設備があるか、人数がどれ程か、要するに勢力がわからない。にしては、アバルバント側の人数が少な過ぎる」

「よっぽどの選りすぐりの腕自慢達なんだろうな。ガルバンダーら冒険者は信用できる」

「何故じゃ。雇われ冒険者はともかく、ギルド職員は皆、アバルバントの公務員じゃろ。よし、パパから一つ小言を享受してやろうランダス。こういう時の最後の担保は血筋だよ」

「ありがたいね。安心してくれ。ルタイスと村の奴ら、モグリは何かあっても連れて帰るさ。ここらの海なら俺らの方が詳しい。じゃあ俺はもう寝るぞ」


 ランダスが空のグラスをテーブルに置いて立ち上がり、執務室のドアノブを握った。ランダスがそのドアノブを捻る前に、村長がグラスを空にした。


「ランダス。お前も死ぬなよ。引き継ぎの話とかまだ、なぁ~んにもしとらんし」

「はいよ」

「モグリに海神の話を口走った件も、まだ済んどらん」

「おやすみパパ」


 ランダスが村長の最後のセリフを聞くや否や、足早に執務室から飛び出したので、村長は笑いを堪えた。








 ◇ ◇ ◇








 翌日。



 シオサイ島 沖合にて。







 海賊討伐隊は、アバルバント軍の戦艦を筆頭に、ギルドの船が二隻追従している。


 アバルバントとギルドの船にはそれぞれ数人のシオサイ村の漁師が乗って、航海士の役割を担う。ランダスは仲間と共にアバルバントの戦艦に乗っていた。


 モグリとルタイスは真ん中のギルドの船の後方の甲板にて潮風に当たっていた。モグリは縁に腕を置き肘を立て顎を乗せ海を眺め、ルタイスは自前の武器を手入れしている。


「それが君の武器?」

「そうだが」

「三又の銛か、流石は漁師の息子だね」

「褒めてんのか貶してんのか」

「褒めてるよ。シオサイの村の人なら扱い慣れてるんでしょ」

「まあな」


 ルタイスは銛の切先を布で磨きながら、満足気に微笑む。モグリはその切先に目を凝らし、何かに気付いた。


「え、それスルドイカ?」

「そうさ。鋭いか?と聞かれたらスルドイカさ」

「あ、だる」

「特注品さ。完全に成熟し切って食せないレベルに硬くなったスルドイカを厳選して、名工に加工して貰った一品だ。こいつに貫けないものが無いと嬉しいな」

「願望かよ。なら、それは食えないんだね」

「人の武器を食おうとするな。いやまあ、モグリなら食べれるかもだが。食うなよ?」

「わかってるよ。高そうだし」

「払えるようになっても食うな。あ、そうだ」


 ルタイスは装備のコートの内側からナイフを数本取り出すと、持ち手をモグリに向けて差し出した。


「これは良い匂いがする」

「これもスルドイカのナイフだ。お前にあげるよ、切るなり投げるなり好きに使え。非常食にもどうぞ」

「ありがとう。大事にするよ」

「まあモグリはステゴロとは聞いてるけど、サバイバルナイフだと思って貰っといてくれ」

「そうするよ。良い匂いだ」

「一本ぐらい味見するか?」

「冗談だよ」


 モグリはスルドイカのナイフを懐に仕舞うと、ルタイスの隣に腰掛けた。


「モグリ、緊張してるか」

「うん」

「今更だけどごめんな。村の問題に巻き込んで」

「今更だね」

「~」

「対人戦は未知数だけど、海棲物にならどうにかなりそうだよ」

「そりゃ良かった。化け物は全部お前に任せるからよろしくな」

「その何でも貫きたい銛は使わないの?」

「人になら大抵突き刺さるんだよ」

「怖いね。コユが聞いたら泣いちゃい⋯⋯そうでもないか」

「あいつ肝座ってるからな。ってかさ、一つ聞きそびれてんだけど、お前とコユはな」


 話の途中でモグリがそっぽを向いたので、ルタイスがモグリの肩を叩いた。


「おい、お前とダチになった気ではいるが、お義兄さんなんて呼ばれる気は無いからなクジラ野郎」

「なあルタイス」

「あ⁈」

「あの人、知ってる?この船に乗ってんの漁師さん以外は全員冒険者だよね」

「ん⁈あ、ん?」


 モグリが顎で指した先には、昨日モグリがフナムシと話していた現場を見ていたであろうあの女性がいた。甲板の最後尾に立ち、目を閉じて潮風に吹かれている。


「名簿、全部目を通したんだろ?それにルタイスなら女性を見落とさないだろ」

「俺をなんだと思ってんだ。確かに名簿は目を通したけど。知り合い以外はよくは知らないね。せいぜい名前を聞いた事があります程度だ」

「そっか」

「なんだ?惚れたのか、ん?お前も隅におけないなぁ」

「違うそうじゃない。昨日港に呼ばれた時も、役場での会議でもあの人を見かけ無かったと思うんだよ」

「そうか?たまたまじゃないのか。会議は死角に居たとか、服装が違ったとか」

「うん、まあ、そうかも」

「いや、確かに俺の記憶に無いのもおかしいな」

「へ?」

「よく見たら綺麗な顔をしていらっしゃる。俺が忘れる訳が無いな」

「お前さ」

「名簿を見てくるよ。俺は権限あるんだけど船室から持ち出せないから、モグリには見せられない。それでも良いなら確認してくる」

「うん。頼むよ。余計な事すんなよ」

「おう。ギルド長に許可取ってくるわ」


 ルタイスは銛を背中に仕舞うと、急ぎ早やにその場を後にした。






 それにしても、これから争いが起こるとは思えない程穏やかな海だ。天気も晴れ、風も心地良く、海面は波低く凪いでいる。なんだか拍子抜けしそうになるが、周囲で武器や装備の手入れをする冒険者の真剣な表情を見てモグリは身を引き締めた。




 ◇ ◇ ◇




 数分後、ルタイスが戻って来た。


「お帰りルタイス」

「ああ。彼女はどっか行ったみたいだな」

「あ、本当だ。で、何かわかったかい」

「わかったぜ。なかなか、興味深い女性みたいだ。だがその話の前にもっと大事な了見がある」

「うん?」

「もうすぐ海賊島だ」






 船が減速し、3隻が斜め横に距離を取って並んだ。大砲や小舟の準備に冒険者や船員が慌ただしく動き始める。モグリとルタイスも前方の甲板に移動し、望遠鏡を2人で覗き込む。


「まだ遠くない?」

「いいや。こっちが見えてんだから、海賊側からもう見つかってんだよ。こっからは速攻で仕掛けるぜ。砲撃と遠距離攻撃を畳み掛けながら全速前進。冒険者を数チームに分けて小舟で島を取り囲むように上陸」

「昨日の通りだね」

「ほぉら見つかった。見ろモグリあの岩場の影、海賊の奴らが船乗って出てくらあ」


 ルタイスの指差す先、海賊島の岩場の隙間から次々と小型の海賊船が飛び出してくる。


「モグリ、準備良いか?」

「うん」

「始まるぞ」







 ウィヌが戦艦の上に設置された台に乗り、拡声器を手に取った。


「海賊が動き出した。只今より、海賊討伐作戦を決行するッ。正面突撃はこの戦艦が担う。他二隻はそれぞれ島の側面に回り込み、海賊の逃げ場を無くせ。冒険者達の上陸を援護しろ。砲撃、遠距離攻撃準備」

「砲撃、遠距離準備完了‼︎‼︎」

「よし」


 大砲が島を狙い、銃火器使いや魔法使い達も狙いを定める。島に乗り込む小舟にも、既に冒険者が搭乗済みである。


 ウィヌが剣を抜き、海賊島に向かって振りかざした。


「攻撃開始ッッッッ」


 合図と共に、アバルバント戦艦とギルド船が砲撃と遠距離攻撃を開始。同時にギルドはそれぞれ島の側面に移動を始める。更に小舟が次々に海賊島に向けて出発。魔法使いが防壁を貼り、盾持ちが盾を構え、それ以外の冒険者達はえんやこらとオールを必死に漕ぎ続ける。


 海賊側はどうにか早急に出撃はしたものの、討伐隊の先手必勝突撃に面食らっているようで既に砲撃で数隻沈んでいる。





「す、凄い。これが戦いか」


 モグリが望遠鏡を覗いて呆気に取られていると、ルタイスが望遠鏡をひったくった。


「感心してる場合かバカ。俺らも行くんだろうがよ」

「そうだった。あれ、俺達って自由に暴れていいって言われてたよね」

「そうさ」


 ルタイスとモグリはガルバンダーから「お前らは勝手に暴れてこい。」と言われている。無責任な。と思った反面、これは恐らくアバルバントやギルドの直接の指示を受けずに動けという、ガルバンダーからの暗号だろう。


 とは言え。


「でもこの船って島の側面に行くやつだよね。って事は俺らも⋯⋯」

「いいや」

「じゃあ今から戦艦に」

「いいや」

「え?」


 ルタイスは勢いよく船の縁に飛び乗ると、銛を握って海賊島を見据える。屈伸し、首を鳴らすとモグリに振り向いた。髪を掻き上げ、屈託の無い笑顔を浮かべる。


「船乗るより、モグリは泳いだ方が速いだろ?」

「いやまあ、そうみたいだけど。ルタイスも泳ぎ速いの?悪いけど俺の背中に乗せるとかは嫌だよ」

「村の英雄の背中に乗るなんて、そんな無礼する訳ないだろ」

「はあ」


 ルタイスが海賊島に向き直り、銛の切先を真っ直ぐに海賊島に差した。


「俺はな、モグリ。めちゃくちゃ海賊を仕留めてよぉ」


 ルタイスが海に向かって飛び降りた。


「物凄く、賞賛されたいッ」





「え、ルタイス?泳いで行くのお前」


 海面に着地する直前、彼の足腰が青く光った次の瞬間、ルタイスは海賊島に向かって爆速で駆けて行った。バシャバシャと音を立てながら、海戦で揺れる海上を進んで行く。


 モグリは身を乗り出し、


「ありゃ?」


 と驚いていた。すると背後からルタイスの知り合いの冒険者が近づいて、モグリの横に並んだ。


「ルタイスの魔法知らないのか?あんなに話してたのに」

「あいつ女性の話しかしないんですよ」

「ん、確かに。ルタイスの魔法属性は水。シオサイの村人はだいたい水魔法使いらしいがな。んでどういう訳かあいつは⋯⋯」

「あいつは?」

「物覚えする前から、ああやって海面を歩いたり走ったりしていたらしい。あいつの異名は、潮騒の風穴」

「ほえ~」






「じゃあな小舟に乗ってる奴ら、お先に~♪」

「はいはいお気をつけて」


 ルタイスは冒険者を乗せた小舟を全て抜かすと、海賊が放った銃弾や矢を、水を螺旋状に纏った銛で弾く。更に加速し、海賊船に向かって狙いを定める。銛に纏った螺旋状の水の勢いが増し、ルタイスの瞳も青く光る。海賊船の側面に猛進し、


「水魔法、不可避のトライデントッッ」




 バガアアアアアンッッッッッ‼︎‼︎‼︎




「ぎゃあああああああああ⁈」


 ルタイスが海賊船の反対側から船の瓦礫と共に飛び出し、同時に海賊船は彼が開けた風穴から見事に大粉砕した。乗船していた海賊達は無惨に吹き飛ばされ、次々に海に落ちていく。落ちた海賊は近くの冒険者らが遠距離攻撃で仕留めていく。


「はははははっ。海賊島にゃあ、俺が一番乗りだぁ‼︎全員俺が、とっちめてやらぁ‼︎」


 声高々に宣言するるたに、ガルバンダーが拡声器越しに声を掛ける。


『あそう。ならルタイス、急いだ方が良いぞ~』

「へ?」

『モグリが泳いでるぞ~。あちらさんの船を5隻沈めて』

「はあ⁈」


 ルタイスが辺りを見渡すと、向こうの方で海賊船が次々と爆発四散していた。ルタイスは口角を上げ、その視線の先の、荒波を立てて6隻目を粉々に叩き潰しているモグリを嬉しそうに睨む。


「怪物かお前は。まあ、そんぐらい強くなきゃ、コユを預けらんねぇからな」





 ◇ ◇ ◇





「ふんっ」


 モグリは粉砕した海賊船の帆柱を、島の沿岸で砲撃していた海賊に放り投げた。海賊達は情けない叫び声を発しながら帆柱に潰されていく。モグリは泳いでいた速度のまま海面から飛び出すと、海賊が船を出していた岩場に頭突きをした。岩場は簡単に崩れ、出航寸前の海賊船や海賊が岩に伸されながら海に沈んで行く。


「あ。不味かったかな。ここから海賊のアジト内部に入れたかも。まあいいや、味方の船がこっち来やすくなるだろ」


 と、10名程の海賊がモグリの背後から忍び寄り、襲い掛かった。モグリも足音で気付き振り返ったが、それよりも早くモグリに呼びかける声が聞こえた。


「モグリ伏せろ」

「あいよ」


 呼びかけ通りにモグリが伏せると、ルタイスが海賊を銛で突き刺し飛ばした。刺し溢した海賊も、ルタイスは瞬時に首と胴体を銛で突いて薙ぎ払った。


 ルタイスが銛に付いた血を銛を回して飛ばし、再度銛に螺旋状の水を纏わせる。


 モグリも立ち上がり、周囲を見渡した。味方が続々と上陸を始め、島で海賊と冒険者が激しい戦いを始めた。武器と武器がぶつかり合い、弓矢や魔法、銃弾が飛び交う。アバルバントの戦艦も位置につき、引き続き砲撃や遠距離攻撃を続ける。






 モグリは目の前に広がる激戦を眺めながら、ルタイスを横目に見た。


「ありがとうルタイス」

「気にすんな。それにクラーケンに殴られて無事な奴に、下っ端海賊のちゃっちい攻撃なんか効かないだろ」

「クラーケンのはまあまあ痛かったよ?」

「まあまあ痛かったよ?で普通は済まないんだよ。ま、何にせよ第一段階はクリアだぜ」

「みたいだ」


 ルタイスは先程モグリが崩した足元の岩場を見下ろす。モグリが気まずそうにルタイスの顔を覗き込む。


「やっぱ不味かったかな」

「いや?お陰で上陸がスムーズになった」

「なら良かった」

「けど、俺達はこっから侵入しようぜ。正面は、今からガルバンダーさんとウィヌ隊長が暴れ散らかして突破するだろうから」

「わかった。でもどうすんのここ。俺が崩しちゃったんだよ」

「任せなさい」


 ルタイスは海に体を向けると、島から離れるように飛び退いて着水した。そして銛を岩場に狙いを定め、体を低く構える。


「着いてこいよモグリ」

「え、うん」

「よし。オラアアアアアアアアア‼︎」


 銛の切先からルタイスの全身を螺旋状の水が纏い、ルタイスが力強く踏み込んだ。




 ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガカッッッッッッ




 猛進突撃。ドリルライナーのようになったルタイスが崩れた岩場を粉砕しながら突き進み始めた。モグリは「やるなあ。」と感心しながら襲い掛かってきた海賊を蹴り飛ばした。そしてモグリも海に飛び込み、猛スピードで突き進むルタイスの後を追う。


「凄いとは思うんだけど、なんか、うん。海の上を走る。うん。今はスライディングしてるから波乗りみたいになってるけど、いつもそうしたら良いんじゃないかな」





 続く。

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