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異世界真っ向!〜クジラ亜人、荒波転生録〜  作者: 牡丹鍋
第2章 海賊島の戦い編
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村救済対策会議

 シオサイ村 役場 会議室にて。



 島の役場の会議室に収まるには無理がある人数が席に着いていた。その為、議席の後ろに簡易的な折り畳み椅子が設置されたが、一度座ったら会議が終わるまで出れない満室具合だ。



 ルタイスとモグリが会議室に入ると、ランダスが二人に手を振った。隣の二席を空けていてくれたようで、早く座れ、と促している。


「なんだこの包帯はルタイス。頭ぶつけたのか」

「ちげぇよ。ギルマスにぶん投げられたんだよ」

「またか。お前はもっと、目上への礼儀を弁えとけ」

「親父がそのセリフを言うかね。ってかさ、それモグリにも言ってやってくんねぇかな」

「あ?モグリ、お前もなんかやらかしたのか」


 モグリが首を傾げ戯けて誤魔化すと、ランダスは笑って返した。


「まあ、少なくともここでは大人しくしとけよ。穏便に頼むぞ」

「だとよモグリ」

「ルタイスもだと思うけど」

「なんだ、もう呼び捨ての仲か。モグリは手強いと思ったんだがな」

「強要されました」

「人聞き悪い事言うな」




 ルタイスが周囲からの視線に気が付き、ランダスを見上げる。


「⋯⋯親父」

「ああ。気にするなよモグリ。別に捕えられたりはしない筈だ」

「わかってますよ」


 既に顔合わせを済ませた冒険者を除き、向かい側に並んでいるアバルバント兵達はモグリへ好奇の目線を向ける。資料を見るフリしてこちらを見たり、隣とヒソヒソとモグリを見ながら話したり、比較的近い席の兵士達は怯えた様子で武器の柄に手を掛けている者も居る。


「亜人ならあちらさんにもチラホラ居るのにな」

「俺は気にしてませんから」

「うむ⋯⋯」




 しばらく待っていると、村長とガルバンダーを始め、遠征隊の代表者と見られる軽武装した兵隊が数人入ってきた。


「私がアバルバントギルドマスター、ガルバンダーだ。今回の海賊討伐隊の共同代表者だ」


 ガルバンダーの隣に立っていた兵士が前に出ると、会議室にいる他のアバルバント兵が座ったまま姿勢を正した。モグリはその兵士の姿をまじまじと見つめる。


 会議の場には少々物々しい程重厚な銀色の装備を着込み、背中には赤いマントを羽織っている。顔は銀の兜で見えないが、立ち居振る舞いからギルド長と然程変わらない年齢の男性だろう。


 彼はガルバンダーが着席すると代わりに立ち上がり、咳払いをした。


「私はアバルバント軍のウィヌだ。ガルバンダーと同じく、共同担当者を勤める。では早速、今回の作戦の内容を私から話そう。質問はその後受け付ける」


 ウィヌが資料を手に取ると、役場の職員がシオサイ島の周辺海域地図を壁に貼り付けた。会議室の全員も資料や地図に目を通す。


「今回の討伐目標はシオサイ村を襲撃した深淵海賊団幹部、八潮圏が一人、オクトランスの部下。襲撃の主犯ポロボラ、及び直接の仲間達だ。だが討伐対象はオクトランスやポロボラが縄張りにしている島にいる海賊全員に及ぶ。島や海域にいる海賊は全て討伐対象。基本的に生死は問わないが、ポロボラやその他下っ端以上はなるべく生け捕りで頼む。尋問して情報を得たいのでな」


 ウィヌは地図を横目に説明を続ける。


「話を分かりやすくしたいので、海賊の居る島を一時的に海賊島と呼称する。討伐後は呼称を取りやめるので、ご了承願う」





「海賊島に向かうのは船員及び冒険者と、私とアバルバント兵10人。そして案内係にランダス氏や漁師数名。残りのアバルバント兵やギルド職員は島の警護及び、襲撃被害の調査の為に島に残留する。そして⋯⋯」


 ウィヌが兜越しにモグリに視線を向けると、アバルバント兵や冒険者達もモグリを見る。モグリはその視線を感じつつ、動揺せずにウィヌを見つめ返した。


「あなたにも助力頂きたい。モグリ」

「⋯⋯はい。シオサイの皆の為に頑張ります」

「クラーケンや海賊を蹴散らした貴殿が居れば、こんなに心強い事は無い。して、海賊島の海賊の勢力についてだが、オクトランスは現在島に居ないと見ている。理由はポロボラの行動。今まで好き勝手に暴れているとは言え、村との取り決めた海域やシオサイ島に直接被害を及ぼすような行動は無かった。これはオクトランスが何らかの理由で現在海賊島におらず、ポロボラが海賊島の支配権を代わりに担っているからだと推測している。シオサイ島を押さえたと言う成果を、オクトランスに差し出そうと行き急いだ結果だと我々は睨んでいる。故に、討伐決行はオクトランスが戻る前に迅速に行う」




「決行は明日の早朝。潮の流れが島から外に向かっている内に出発する」








 ◇ ◇ ◇







 会議はその後、1時間程続いた。


 細かい人員配置の仕方や、報酬の分配(これは報酬の量や質次第の為、討伐後に再度話し合い予定)。









「ま、明日の早朝出発ってのは英断だな。村にこんだけの船と武装した兵士や冒険者が居たら、攻めてくるなんて海賊の馬鹿共でもわからあ。気付かれてるかはさて置き、時間の問題なのは間違い無いからな」


 会議後、ルタイスとモグリは村のとある丘に寝そべっていた。ピクニックシート代わりの古い絨毯の上で、二人はそよ風を浴びながら青空を見上げている。


「オクトランスが島に居ない確証が無いのに突撃するに至ったアバルバント側の意図とか、色々な裏の思惑が気になるけどよ、まずは海賊をとっちめてからだよな」

「だね。今になって手を貸してくれるのには何か裏はありそう。俺に何の詮索もせず、討伐に同行させるなんてな。同行ってより監視だろうからね」

「な」


 ルタイスはモグリに煮干しを分けると、二人で煮干しをボリボリと食べる。モグリはほぼ丸呑みだが。


 ルタイスはモグリの方に体を向けると、二ヘラァと笑みを浮かべた。


「ってか、遂に人前で堂々と言ったな。港でもガルバンダーさん達の前で言ったらしいじゃんかよぉ」

「何が?」

「シオサイの村の為にって」

「あぁ」

「嬉しいねぇ。モグリ~」

「うん。けどルタイスは今日初めましてだからその勘定には入ってないよ」

「は」

「モグリ様、お兄ちゃーーん」


 モグリに飛び掛かろうとしたルタイスは、こちらに走ってくるコユの声に振り向いた。起き上がってコユに向かって手を振る。


「おおコユ。よくお兄ちゃん達がここだって分かったな」

「うん!モグリ様の気配がしたから!」


 と言いながら、コユはモグリに抱き付いた。ルタイスは数秒固まった後に、モグリの顔にぐんっと自身の顔を近づける。


「何のつもりだモグリ。殺すぞ?」

「俺何もしてないの明白だよね」

「黙れコユから離れろ殺すから。離れないなら殺すぞ?」

「はいかYESで答えろってか」

「お兄ちゃんうるさいッ」


 コユがモグリに抱き付いたまま、ルタイスの顔面を踏み抜いた。ルタイスは血を鼻と口から吹き出しながら後ろに倒れる。


「別にモグリ様はロリコンじゃないもん」

「コユ、他の弁明無かったかな」

「モグリ様。明日海賊倒してくれるんでしょ?」

「うん。俺に出来る事はするよ」

「モグリ様は強いから心配はしてないけど、頑張ってね。お兄ちゃんは死なないでね。相続とか面倒だから」


 ルタイスはタオルで血を拭き取りながら起き上がると、胡座をかきながらコユに微笑む。


「酷いなお前。お兄ちゃんはな、コユの為に頑張るんだぞ」

「10歳児に蹴られて血出してる冒険者とか、誰でも心配するよ。相手は海賊だよ?大丈夫そ?」

「安心しろ。俺もただのうのうと冒険者ライフ送ってた訳じゃない」

「あそ」

「んな事よりモグリから離れなさい。モグリが困ってるよ?ね、コユ」


 ルタイスが両腕を広げてコユに微笑むが、コユは「嫌」とモグリに再度抱き付いた。


「モグリ様、嫌?」

「嫌かな。ルタイスがうるさいから」

「は、お前」

「わかった。お兄ちゃんがうるさいからいけないんだ。黙っててお兄ちゃん」


 撃沈したルタイスは地面に人一人が入る大きさの横向きの穴を掘るとその前で喉元にナイフを突き立てた。


「あとねコユ」


 モグリはコユの背中を優しく叩いた。


「あんまりルタイスをいじめないであげて。コユを心配してるんだよ」

「なんで?」

「こんな得体の知れない男に可愛い妹を不用意に近付けたくないのさ」

「そんな⋯⋯」


 コユとルタイスが固まり、ルタイスはモグリに振り返った。


「いや、別に、お前が怪しいからとかじゃなくてだな、」

「わかってるよルタイス」

「あ、ああ。お前急な自虐辞めろよな」


 コユは固まっていた表情から一点、顔をパァと明るく瞳を輝かせた。


「今、私の事を可愛いって言いました⁈」

「違くてね。ルタイス目線の話をだね」

「モグリ貴様、俺が村に来る数日の内にコユと何があったか詳しく話せ。そうすれば殺してやる。だがな、話さないなら殺す」

「ミエラさああああんっ」





「何わちゃわちゃしてんだお前ら」

「ん?」


 人の声がするので顔を上げると、港で見た冒険者数人がモグリ達を見下ろしていた。


「どこにも居ないと思ったら、モグリさんと仲良くお昼寝とはな。この子が噂の妹さんか」

「そうさ。ほら、コユ。挨拶しなさい」


 ルタイスにそう言われたコユは残念そうにモグリから離れると、立ち上がって冒険者達に一礼した。


「コユです。いつも兄がご迷惑をお掛けしています」

「お世話になってます、だろ。なんで迷惑前提なんだよ」

「しっかりした妹さんだな。聞いてくれコユちゃん。ルタイスの奴な、酔っ払うとすぐ君の話を始めるんだ。止まらなくてな」

「や、やめろよ本人の前で」

「そんな事より、」


 コユが辺りを頻りに見渡す。


「コユ、どうしたんだ」

「モグリ様が居なくなってる」

「は⁈今の数秒の内に⁈」

「あいつ人が集まってる場所嫌いだからな。一瞬の隙に逃げられたんだよ。あははは」

「あははは、じゃない‼︎お兄ちゃんが酔っ払って私の話をするから‼︎」

「罪が遠回し過ぎるだろ。挨拶しなさいって言ったからじゃなくて?」

「それは礼儀上普通じゃん」

「お前の善悪の基準おかしいよ」






 ◇ ◇ ◇









 という訳でルタイス達の喧騒から脱げ出したモグリは、









 今は使われていない、静かな古い港に来ていた。



 砂浜の外れまで伸びている堤防の縁に座り、テトラポットに押し寄せる波を眺めながら、その波音や潮の香りを感じていた。


 少々、人に当たり過ぎた。明日は否が応でも常に大人数で行動する。今のうちに気分を落ち着かせねば。





 いつもなら、一人でこんなに海に近づけばシオサイ村の人が「モグリさんが海に逃げる気だああああ」と言って、駆け付けてくるだろう。だが今は村人達も客人の対応や、明日からの準備に忙しいらしく、ここまで足を運ばないようだ。お陰でのびのびと休める。




「にしても、ランダスさん達を心配させない為に気にしてないなんて見栄切ったけど」


 先程の役場の会議での、モグリに向けられた好奇の視線を思い出していた。本来出現しない筈のマッコウクジラの亜人。そもそも海棲生物の亜人でさえ珍しいこの世界。アバルバント兵や冒険者達からの、あの視線。






 怯え、恐怖、興味、嫌悪。







 転生前のモグリ。艾理だった頃にも似たような経験がある。あの日以降、自分を閉まった艾理への、忌み嫌うような視線。


 当たり前だ。態度が悪いなんてもんじゃ無かった筈だ。なんせ最低限以下のコミュニケーションしか取っていなかったのだから。






 転生して、少し変わった。いや、自分を変えた今のモグリには分かる。



「そりゃあ、得体が知れない物には誰だってそうなるよな。」


 亜人なら同じ部屋に何人も居た。虎や犬、蛇の亜人。顔がまるまる動物の人から、耳だけ動物の人。モグリは全身がほぼマッコウクジラだが、全身が犬の人も居た。理屈上、大差無い筈だ。


 それにこの世界、国では亜人は人類として共存していると聞いていた。



 なのにあの視線。



 仕方ないとは言え⋯⋯。





「少し、来るもんがあるな」




 これが人と関わるという物か。















「とは言え、人と人の距離感は大事だと思う。コユはどうしようかな。早めにミエラさんに言って貰わなきゃ、ランダスさんとルタイスに殺されそうだし」


 モグリは逃げ出した時に持ってきた煮干しの袋を開けて、徐にボリボリと頬張り始めた。四角い頭に煮干しを乗っけて、頭を振って口に放り入れたり。真上に投げて口を開けて咥えてみたり。誰が見ても暇人と取れる行動を繰り返していると、煮干しを一つ取りこぼしてしまった。


 落とした煮干しを目で追うと、テトラポット同士の隙間に落ち、波に飲み込まれた。もったいないが、まあ、何かの魚の餌にでもなるか。と、モグリは視線を戻そうとした。




 そのモグリの視界に、テトラポットの上で蠢めく小さな物が写った。



 フナムシだった。



 転生前の人間のままであったら、全身を嫌悪感が駆け巡っている景色だった。だが、マッコウクジラの亜人だからか、特にそういった感覚は無かった。クジラからしたらフナムシなんて嫌悪する対象ですら足り得ないからだろう。


 モグリが改めて下を覗き込むと、10匹程のフナムシが、1匹の白いフナムシを角に追いやっていた。体当たりしたり、脚に噛み付いたりして嫌がらせをしているようだった。


「フナムシにそんな習性あるのか?」


 白いフナムシはかなり衰弱しているようで、触覚を揺らして身体を震わせてその場で他のフナムシからの攻撃に堪えていた。


 白いフナムシ、脱皮直後の個体だろうか。


 何にせよ。今のモグリにとってその光景は、如何にもし難い物だった。



 モグリは堤防の上に転がる小石を2、3個手に取ると、指で弾いて白いフナムシを虐めている他のフナムシやその近くに当てた。途端にフナムシ達はサササッとテトラポットの影に一斉に消えていった。


 白いフナムシはそれでも尚、体を動かせないようでその場で触覚を動かしているだけだ。


 モグリは近くの水溜りに1匹の煮干しを浸してふやかすと、軽く潰してから白いフナムシの近くに落とした。フナムシは確か雑食性。弱っていても、ふやかして潰した煮干しなら食べられるだろう。


 白いフナムシは落ちてきた煮干しに驚き、触覚をピンッと張ったが、すぐにそれが餌だと気付いた。脚で口元に手繰り寄せると、ゆっくりと煮干しを齧り始めた。モグリはその様子を見て安心したように深呼吸した。胡座をかいて頬杖付きながら、フナムシを見守る。


「食べ終わるまでは見守ってあげるよ。なんだか、君を放って置けないんだ」










 その時だった。




 ザクッ。




「え」


 モグリの後ろから足音がした。振り返ると、冒険者らしき人物が立っていた。


 白金色のマントを羽織った下に、白を基調とした防具を身に付けた、短い黒髪の若い女性だ。背中に携えた金色の柄から、武器は剣だろうか。


 ショートカットの下から、モグリに冷たい視線を向ける。その澄み切った黒目と、全身に纏った冷気のような雰囲気にモグリは身震いした。この人、港はともかく、会議の場に居ただろうか。服装が違ったのか、顔を隠していたのか。いや、今は、そんな事より。





 モグリは固唾を飲んで女性を見据える。


「あ、あの。いつからそこに?」


 その女性は表情を変えずにしばらく黙り込んでいたが、やがてモグリから顔を背けた。そして、


「貴方が石を投げる直前から」


 と囁くように吐き捨てると、その場を後にした。





 モグリは海に向き直ると再度深呼吸した。





「⋯⋯」





『食べ終わるまでは見守ってあげるよ。なんだか、君を放って置けないんだ』





 聞かれていた。






「⋯⋯」







 深く項垂れ、モグリはしばらく立ち上がる事が出来なかった。




 続く。

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