第4話 終わったはずだった
別れから三週間が経っていた。
美咲は健人からの連絡をすべて既読無視にしていた。
最初の数日は未読が溜まっていったが、やがてメッセージは途絶え、電話もかかってこなくなった。
美咲はそれを「ようやく諦めたのだ」と解釈していた。
陽菜には、最低限のことしか話していない。
「健人と別れた。もう家には来ないから」
それだけだった。
理由を深く問われることもなく、陽菜は「そうなんだ」と短く頷いただけだった。
姉の顔色を伺うように、それ以上踏み込まなかった。
変化が起きたのは、その一週間後だった。
妹の陽菜のスマホに、見知らぬ番号からメッセージが届いた。
『陽菜。俺、健人。美咲とは別れたけど、お前のことは心配してる。最近どうしてる?』
陽菜は画面を見たまま、少し固まった。
返信すべきか迷っていると、続けてメッセージが来た。
『突然でごめん。でも、美咲がお前のこと嫌いになったとかじゃないから安心して。俺が悪かったんだ』
言葉は丁寧で、心配しているように見える。
陽菜は結局、短い返事だけ送った。
『お元気ですか。姉は普通にしてます』
それが始まりだった。
健人からの連絡は、それ以降、時々来るようになった。
最初は「授業頑張ってる?」「寒いから風邪ひくなよ」といった、兄のような内容。
陽菜は「はい」「気をつけます」とだけ返していた。
だが、徐々にメッセージの時間帯が夜遅くなり、内容も変わっていった。
『今日、駅前で似てる子見てさ。つい陽菜かと思って追っかけそうになった』
『お前、前より髪伸びただろ?似合うと思う』
陽菜はスマホを持つ手が、少しだけ重くなるのを感じた。
ある夜、陽菜がリビングで宿題をしていると、美咲が部屋から出てきた。
「陽菜。最近、誰かと遅くまで連絡してない?」
「……別に」
陽菜は答えを濁した。
健人とのやり取りを、まだ美咲に言えずにいた。
別れた元彼氏だ。
姉が嫌な思いをするかもしれない。
それに、健人は「心配してるだけ」と言っている。
美咲は陽菜の顔をじっと見たあと、「何かあったらすぐ言って」とだけ残して、自分の部屋に戻っていった。
その夜、陽菜のスマホがまた光った。
『今度、ちょっとだけ会えない?話したいことがあるんだ』
陽菜は画面を見つめ続けた。
返信欄に指を置いたまま、なかなか文字を打てなかった。
カーテンの隙間から見える夜の闇が、以前より少し濃く感じられた。




