↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
10/12

第10話 反撃の瞬間

美咲は、震える足で、それでも立っていた。


肩は大きく上下し、呼吸は乱れている。


腕にはまだ痺れが残り、拳を握るだけでも痛みが走った。


健人が、そんな美咲を見て目を細める。


「まだ立ち上がる気か」


「……当たり前でしょ」


掠れた声だった。


それでも、その言葉ははっきりと健人へ届いた。


「妹の前で、こんなところで終わるつもりない」


健人は鼻で笑った。


「強がってんじゃねぇよ」


「強がってない」


美咲は痛む拳を、もう一度ゆっくりと握り直した。


「あなたが一番、強がってる」


「……あ?」


健人の眉が動く。


「女は弱いって、自分に言い聞かせてるだけでしょ」


「ふざけんな」


「本当のこと言ってるだけ」


美咲は一歩、前へ出た。


足元はまだふらついている。


それでも、退かなかった。


「陽菜を傷つけたことも、私を見下してることも、全部認めたくないだけ」


「うるさい!」


健人が踏み込んだ。


低く唸るような声とともに、拳が振り下ろされる。


美咲は完全には避けきれず、腕を交差させて受け止めた。


衝撃が腕を突き抜け、肩まで重く響く。


「くっ……!」


身体が後ろへ流れそうになる。 健人はそれを見逃さなかった。 


「ほら見ろ」


さらに距離を詰める。


「結局、その程度だ」


美咲は歯を食いしばった。


痛い。 怖い。 身体はもう限界に近い。


それでも、目だけは健人から逸らさなかった。


「……違う」


低い姿勢から、美咲が拳を突き出す。


鈍い音が響いた。


拳が健人の脇腹を捉える。


「……っ!」


健人の身体がわずかに止まった。


「今のは……」


「まだ、終わってないって言ったでしょ」


美咲は荒い息を吐きながら、ゆっくりと身体を起こす。


そして、後ろにいる陽菜へ声を投げた。


「陽菜、見てて!」


美咲は振り返らなかった。


やがて、震えた声が返ってきた。


「……うん」


その一言を聞いた瞬間、美咲の拳にもう一度力が入った。


美咲は健人を見つめる。


その目から、少しずつ恐怖が消えていく。


「あなたが女を弱いと思ってる限り」


「私は、ここで下がらない」


健人の顔が歪んだ。


「うるせぇな……!」


再び健人が襲いかかる。


今度の拳は、美咲の顔を狙っていた。


美咲は身体をわずかに逸らし、拳を紙一重でかわす。


その瞬間に生まれた隙へ、短く拳を叩き込んだ。


「ぐっ……!」


健人の身体がのけぞる。


息が上がり、足にも力が残っていない。


それでも、健人から目を逸らさずに言った。


「痛いよね?」


「……ぁ?」


「陽菜も、同じくらい痛かったんだよ」


健人の表情がわずかに固まる。


「腕を掴まれて」


「押し倒されて」


「怖くて、逃げた」


美咲の声は静かだった。


「それをあなたは、『そんなつもりじゃなかった』で済ませようとした」


「……違う」


「何が違うの?」


美咲は、さらに一歩踏み出した。


「違うって言えるなら」


「ここで、私を倒してみなさい!」


「……!」


その言葉に、健人の顔から余裕が消えた。


今までなら、美咲が何を言っても笑っていた。


女だから。


自分より弱いから。


どうせ最後には屈すると思っていたから。


けれど今は違う。


目の前にいる美咲は、何度倒されても立ち上がってくる。


「てめぇ……!」


健人が怒りに任せて突っ込んだ。


美咲は逃げなかった。


真正面から受け止める。


身体に衝撃が走るが美咲は倒れなかった。 


「お姉ちゃん……!」


陽菜の声が、後ろから響いた。


その声を聞いた瞬間、美咲はもう一度だけ拳を握り直した。


小さく息を吐き、残った力をすべて拳に込める。


踏み込み、拳を振り抜く。


短く、確かな衝撃が伝わった。


健人の身体が大きく揺れ、そのまま体勢を崩す。


「な……」


健人の足が、もつれる。


初めてだった。


健人が、美咲の前で完全にバランスを失った。


美咲は荒い息を吐きながら、その姿を見つめる。


そして、ゆっくりと一歩を踏み出した。


もう、見下ろされる側ではなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。