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八年前『結婚する』と言った幼馴染が、俺を睨みながら弁当をくれる  作者: 芦名 雅


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第13話 彼氏の家は難易度が高い

テスト前の日曜日、茜は陸の家で勉強することになった。付き合う前なら何度も来たことがある。小学生の頃など、自分の家より長くいた日もあった。


 なのに玄関の前で、茜は五分立ち尽くした。


「何してるの?」


 ドアが開き、陸の母親が顔を出した。


「ひゃっ」


「あら茜ちゃん。入って入って」


「お、お邪魔します」


 リビングへ入った瞬間、母親は満面の笑みになった。


「聞いたわよ」


「何をですか」


「陸と付き合ったんでしょ?」


 茜は固まった。


 二階から陸が降りてくる。


「母さん!」


「何よ。おめでたいことじゃない」


「誰から聞いたの!」


「陸から」


 茜が陸を見る。


「違う、聞かれたから答えただけ!」


「......別に怒ってない」


 むしろ少し嬉しかった。陸が家族に自分のことを話してくれた。それが恋人として認められたように感じた。


 しかし安心したのも束の間、母親はアルバムを持ってきた。


「茜ちゃん、これ覚えてる?」


 そこには幼稚園の二人が写っていた。茜は陸の頬にキスをしている。


「わああああ!」


「これ、結婚式で使えるわね」


「使いません!」


「母さん、しまって!」


 二人同時に叫び、母親は楽しそうに笑った。


 陸の部屋へ逃げ込んでからも、茜の心臓は落ち着かなかった。


「昔は普通に入ってたのにな」


「今は違うでしょ」


「何が?」


「......関係が」


 陸も少し赤くなった。


 その反応を見て、茜はようやく自分だけではないと分かった。


 勉強を始めても、肩が触れるたびに気になる。消しゴムを同時に取ろうとして指が重なる。目が合う。二人とも逸らす。


「全然進まないね」


「陸が集中しないから」


「茜もだろ」


「私はしてる」


「じゃあこの問題」


「......分かんない」


「ほら」


 笑い合った。


 夕方、茜が帰ろうとすると、陸の母親が弁当箱を一つ渡した。


「これ、昔茜ちゃんのお母さんから借りたままだったの」


 小さな子供用の弁当箱だった。蓋には星の絵。


「懐かしい......」


「陸に初めて卵焼き作ってきた時のよ」


 茜は蓋を撫でた。


 好きな人に食べてもらいたいという気持ちは、もしかするとずっと変わっていない。


「今度、これで作ろうかな」


「量足りないだろ」


「じゃあ、おかずだけ」


「楽しみにしてる」


「......うん」


 今度は素直に答えられた。

 勉強に区切りがついた頃、陸の父親が仕事から帰宅した。リビングで顔を合わせた瞬間、茜は反射的に立ち上がって頭を下げた。


「お、お邪魔してます」


「おお、茜ちゃん。大きくなったなあ」


 父親はしみじみとそう言うと、すぐに母親と目配せをした。何かを察したような二人の様子に、茜は嫌な予感がした。


「陸から聞いたよ、色々」


「な、何をですか」


「いいコンビじゃないか、お前たち」


 陸が慌てて割り込んだ。


「父さんまで何言ってんの」


「照れるな照れるな」


 からかい半分の空気の中、茜はいたたまれず陸の部屋へ避難した。閉じたドアの向こうから、両親の楽しそうな笑い声が聞こえてくる。


「賑やかな家だね」


「昔からこう。悪いな」


「ううん。......ちょっと羨ましい」


 その一言に、陸は少しだけ表情を変えた。


「茜んちは?」


「うちも似たようなもん。お母さん、最近やたら陸のこと聞いてくるし」


「聞かれて何て答えてるんだよ」


「べ、別に、普通のこと」


 誤魔化す様子に、陸は追及しなかった。だが、二人の家族が、こんなにも自然に自分たちの関係を喜んでくれていることに、茜は密かに安堵していた。八年前に途切れたはずの縁が、ちゃんと繋がり直している。そのことを、今日また一つ実感した気がした。




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