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第一話 ふれるな危険!③

「はーい、次は袖を通しますよぉ。腕を上げましょうねぇ」


 ほのぼのとした声で桃地ヶ丘さんが言うと、「は、はぃぃ……」と恥ずかしそうな相乃の声が聞こえてくる。俺は背中を向けているため詳しい状況を見ることはできないが、相乃は桃地ヶ丘さんに服を着せてもらってデレデレのようである。『愛の波動』が撃ち出されるように体から噴き出し、俺はボクサーのごとくスウェーで避けていた。


 理科室の爆発は桃地ヶ丘さんの服を吹き飛ばしてしまったため、彼女のために俺たちは保険室へとやって来ていた。ジャージを借りて着せてあげるのが目的だったのだが……それがどういうわけか、桃地ヶ丘さんが留守でいない保健室の先生の代わりに相乃を診察し、怪我がないと分かると服を着せ始めたのである。

 自分のことより他人を優先する、その慈愛溢れる行いに心がときめいてしまう。「もう自分でやるって……んふっ! くすぐったいよぉ、やだぁもっちーったらぁ!」という相乃の声が実に楽しそうで羨ましい。やだぁなんて言うなら替ってもらいたものだ。


「はーい、お着替え終わりですよぉ。良かったわぁ、怪我がなくてぇ。でも不思議ねぇ、あんなに近くで爆発があったのに、どこにも傷がないなんてぇ」


「フ、それは当然だ。あの爆発は元々『愛の波動』だからな。愛は人を幸福にするためのものだから、決して人体に害を与えたりしない。不思議な話だが、物が壊れて破片が散ったとしても人間には当たることはないし、吹き飛ばされてしまったとしても愛が優しく包み込んでくれるため怪我をすることはない」


「愛のはどぉ? うーん、言ってることさっぱり分からないけど……とにかく花火があんなに近くで爆発したのにみんな無事で良かったわぁ」


「花火? まあ、そういうことでいいか……それより桃地ヶ丘さん、そろそろ君も服を着るといい。もう相乃を着替えさせ終わったのだろう?」


 相乃の世話ばかりで全裸のままだった桃地ヶ丘さんは、「ええ、そうさせてもらうわねぇ」とカーテンの向こうに消えていった。


「……あぁん、もっと見てたかったのにぃ」


「……何がもっとだ、このスケベめ。見られただけでも幸運だろうが」


「……幸運って、ふぅん、愛多知君も見たかったんだ?」


「……それは見たいに決まっている。当たり前だ」


「……は、はっきり言うんだね。じゃあスケベなのは同じじゃん」


「……一緒にするな。俺は事情があってなかなか会うことができないのだぞ? だからこそ、彼女のどんな姿でも目に焼き付けたいのだ。やましい気持ちは一切ない」


「……ほほう、じゃあ良かったね。今からマジマジと見れるじゃん。ジャージ姿だけど」


「……ジャージでは駄目だ! 袖はしわしわゴムタイプだし、硬い襟が変形しているせいで酷く格好悪い! これでは桃地ヶ丘さんの愛らしさを損ねてしまう! そして何より……やけに腹回りに余裕があるせいで、あの豊満な体つきを隠してしまうではないか……!」


「……やっぱりスケベじゃん! ドスケベじゃん! でもその意見には超同意。うちのジャージ、ダサ過ぎてもっちーの魅力を半減させるんだよね」


 体育で見たことがあるのだろう、相乃は残念そうな顔をする。なので俺は何も期待せず出てくるのを待っていたのだが、「おまたせー」とカーテンから現した彼女のジャージはぱっつんぱっつんで体の凹凸が浮き出てしまっており、へそが見えてしまっていた。

 どうやら用意したものは一つ下のサイズだったらしい。横を向くと相乃と視線が合い、言葉を交わさずとも「これはこれでアリだな」と意思疎通ができた。


「仕方ないとは言え、無断で借りちゃったからねぇ。先生に伝えに行かないとぉ」


「待て待て、桃地ヶ丘さん。君のせいではないのだから君が行く必要はない。俺と相乃がここで教諭を待って伝えておくぞ」


「そぉ? 良かったわぁ、これから人と会う約束があったのぉ。それじゃあお願いねぇ」


 保健室の前で立ち止まり、こちらに振り返って手を振る桃地ヶ丘さん。俺と相乃は扉が閉まるまで笑顔で手を振り返した。

 が、閉じた瞬間、それぞれ別のベッドにダイブした。


「んにゃあああああっ! もっちー可愛いよぉ! ン可愛いよぉ! 裸のまんま私の服着せちゃったり、すっごいエッチな格好なのに気づかない天然ぽいとこが何とも言えず心の奥を刺激するのぉ! んんんん、ちゅきちゅき大ちゅき!」


「ぐおおおおおおっ! 俺はてっきり心が広くて大人な女性なのかと思っていたが、あんな天然性があったとは! 母性と相まって絶妙な愛らしさを演出している! 余計に心惹かれるではないか!」


「分かる、分かるわぁ! 最初私も大人な女性だなぁって思ったもん! いつも穏やかに話して、誰にでも優しくて、でもノートの端で切っちゃった指を優しく吸ってくれちゃったりして! ティッシュで包めばいいのに、わざわざチュッパチュッパ吸うの!」


「なにっ、指を!? ぬぅぅ、羨まし過ぎて悶えそうだ……!」


「へへーん、いいでしょいいでしょ! それが私が恋に落ちたきっかけなんだぁ!」


「ほほう、それは素敵な思い出だな。だが俺が恋に落ちたきっかけもなかなかなものだぞ」


「へえ、何がきっかけなの? 教えて教えて!」


「あれは入学式の一週間前のことだ。町中で裸でいたところ、彼女に出会ったのだが」


「どういう状況!? これもう露出狂で確定じゃん!」


「断じて違う。色々と事情があるのだ。まあとにかく、全裸でいたとき彼女に出会ったわけだが……周囲が変態だ露出狂だと騒ぐ中、彼女だけは忌避せず俺に近づき、スーパーで買って来てくれたビキニパンツを与えてくれたのだ。『良かったらこれを着てね』と優しく暖かい微笑みを浮かべてな」


「ズボンでいいのに、下着ってところがもっちーらしいわぁ。ビキニっていうセンスがより『らしさ』を感じる……」


「ともかく全裸の俺を軽蔑することなく、暖かな笑顔で救おうとしてくれた彼女が女神のように思えてな。それで恋に落ちてしまったのだ。あの時の彼女の笑顔を思い出すと、たまらなく胸が苦しくなって――」


 話していると鼓動が高まり、愛が溢れ出しそうになる。

 いかん、このままでは――と俺は必死に気持ちを抑えようとするが、桃地ヶ丘さんへの愛を抑えるなど到底無理なことだった。俺の体から迸った『愛の波動』が小爆発を起こし、着ていたジャージを木っ端微塵に吹き飛ばしてしまった。


「ぎょわっ! また裸ぁ!? 何でいきなりジャージが吹き飛ぶのよ!?」


「……見られたからには仕方がない。説明しておこう。恥ずかしながら自分が放つ波動は上手に制御できなくてな、愛する人を想うと衝撃破となって服を吹き飛ばしてしまうのだ」


「もしかしてそれが学校に通えない理由? もっちーを前にしたら裸になっちゃうから」


「まあそれもあるが……問題は制服なのだよ」


「制服?」


「一着何万とかかる制服を毎日吹っ飛ばしていたら、破産してしまうだろ」


「ああ……何と言うか……すごく現実的な問題だね」


「というわけで今は仕事に集中し、何着でも制服を買えるよう金を溜め込んでいたのだが……さっきの男子生徒十人分マイナスだ。後で新しいものを用意して謝罪に行かなければ」


「あっ、そうだった……大丈夫、あれは私のせいだから、私が全部出すよ」


「依頼料に三百万も出したのだ、手持ちはそんなに残ってないだろう? 俺が全部持つから、代わりに君は男子たちの心を癒してやれ。それと今の話を秘密にするのだ。自分の恋に翻弄される恋愛カウンセラーなど笑い種だからな、知れ渡ったら仕事に支障が出る」


 話を終えて新しいジャージに着替えていると、「……愛多知君はちゃんと前に進んでるんだね」と相乃が静かに言った。見ると、先ほどのテンションはどこに行ったのやら、目を伏せてちんまりと座っている。


「その表情と言葉から察するに、恋に落ちてから最低でも一年以上経ち、その間全く進展がなかった……といったところじゃないか?」


「さすが縁結びの神様、大正解。入学してすぐの頃からもっちーが好きだったんだけど……ただの仲良しな友だち止まり。何度も喉から気持ちが溢れそうだったけど、『友だち』である私といる時のもっちーがとても楽しそうだから……」


「自分から関係を壊すことはできなかった、と。友情は友情で素敵なものだからな、変化させることに抵抗があるのは理解できる」


 俺がそう言うと、「うーん、抵抗か」と相乃は煮え切らない態度を取った。


「そうじゃないんだけどね……ただ私は、もっちーを守りたいってだけで」


「守りたい? どういう意味だ?」


「…………、ううん何でもない。とにかくさ、一年ずっと傍にいるだけで何もしてこなかったんだよね。でももっちー、やっぱりモテるんだよ。ひっきりなしに男が寄って来て告白するの。それを傍で見ながら、いっつもハラハラしてた。もっちーが誰かを気に入っちゃうんじゃないかって、誰かがもっちーの心を射止めるんじゃないかって……」


 相乃は話しながら貧乏ゆすりを始める。


「きっと今も告白を受けに行ったんだと思う。『人と会う』って言う時は大抵そうだから」


 最初はさりげない動作だったが、徐々に大袈裟になっていき、


「まさか行かないでなんて言えるわけもないし……いつもいつだって見てるしかないんだよね。いや、見てもいないか。影で膝抱えて、お願い戻って来てって祈るしかなくて……」


 ズダダダダダッ! と最早貧乏ゆすりは掘削並みに激しい。「お、おい、床のパネルが少し浮いてきてしまっているぞ。一体どうしたんだ?」と声をかけるが、俯いてぶつくさ言う相乃の耳には届いていないようだ。


「あぁ不安だ……今日は誰だろう、五組の新田君か、生徒会書記の多々良君か……誰にせよ、今のもっちーは危険……あんなエッチな格好を目の前にして、性欲の権化である男子高校生が普通でいられるのか……むぁーっ! じっとしてられない!」


 相乃は立ち上がると「ちょっと見てくる!」と言って窓を開けるや否や外へ飛び出した。


「おい待て、人の恋路を邪魔する気か? いくら君から依頼を受けているとはいえ、そんなことは許さんぞ!」


 引き止めようと窓に近寄り、相乃を呼び止めるが――シュンッ、と相乃の姿が消えてなくなる。「残像だと!?」すでに彼女の姿は遠くにあり、校舎裏に向かって爆走していた。


「な、何て速さだ。陸上部に入ったら間違いなくエースだな――と、感心してる場合じゃない! 早く止めねば!」


 『縁結びの神様』などと呼ばれる者として告白の妨害は断じて許せん。という使命感もあるが、人の恋路を邪魔するなど後ろめたい思いを抱えると『愛の波動』が濁ってしまう場合がある。良質な『波動結晶』を作るためにも絶対に止めねばならない。

 そういうわけで俺も外に飛び出し後を追うのだが、角を曲がったところですぐに相乃の姿を見つけた。次の角に身を隠し、校舎裏を窺っている。

 何だ、本当に見るだけのつもりだったのか。俺はほっと息を吐き、「覗き見もそれはそれで趣味が悪い。保健室に戻って、後で結果を聞くべき――」と声をかけようとした。

 その時、相乃の体から『愛の波動』が膨れ上がり、手の形に変形して襲ってきた。


「へぇあ!? な、何だそれは!? ぬわぁーーーーーっ!!」


 咄嗟に逃げるが間に合わず、『愛の波動』を思い切り浴びてしまう。ギリギリで力を制御し爆発は免れたが、クレーターができるほどの力によって押し潰されてしまった。


「お、おい、今のは何だ! 波動が手の形になって俺を叩き潰してきたぞ!?」」


「あれ、愛多知君も見に来たの? 波動が何だって?」


「手の形になって俺をぺしゃんこにしたんだよ! まさか君、波動をコントロールする能力を持っているのか!?」


「そ、そんなのないよ! ただその不安で心臓がばくばくしてるから、そのせいかも」


「告白を受け入れるのではないかという不安か? やはり桃地ヶ丘さんは男といるのか」


「う、うん。ちょうど今、告白しようとしところで……っ!? やばっ、こっち来てる!」


 相乃はあわあわと辺りを見回し、外と学校の敷地を隔てるフェンスの傍に捨てられていたスチール棚を見つけると、俺の腕を掴んで引きずり込んできた。


「くぬぉッ!! な、何とか力のスイッチを切るのに間に合った……が、相乃ぉ! 無闇に俺に触るんじゃない! また爆発するぞ!?」


「しっ! 静かに聞こえちゃうよ!」


 相乃は無遠慮に俺の体を端に押しつけ、戸をそっと開いて外の様子を窺う。俺からは見えないが、「あらぁ? すごい音と一緒にまなみんの声が聞こえたんだけどぉ」と桃地ヶ丘さんの声が聞こえてきた。


「……なあ、ここまでしっかり隠れる必要あるのか? 友だちなんだから、素直に気になって付いてきたとでも言えばいいだろう」

「……覗き見は趣味が悪いって言ったのは愛多知君でしょ! 知られたら恥ずかしいし、嫌な気持ちにさせちゃうじゃん!」


「……む、それは非常によろしくないな。しかし……今爆発しないのは力のスイッチを切っているからなのだが、これがなかなかしんどいのだ。このまま我慢し続けると穴という穴から虹色の液体が噴き出してしまう」


「……怖っ! 何の液体なのそれ?」


「……さあな。とりあえず俺は『愛汁』と呼んでいる」


「……何でもかんでも『愛』をつければいいわけじゃないと思うよ?」


「……とにかく、このままだと俺の汁で棚の中が一杯になるぞ。そしてどういうわけか服を溶かしてしまうのだ。また全裸にされるのは嫌だろう?」


「……ええっ!? それは嫌だ……けども、今更出ていけないよ! 男女二人がこんな密室でくっついてただなんて、どう言い訳すればいいの!?」


「……まあ待て、彼女は全裸の人間に笑顔で施せる女神のような人だ。酷い誤解を受けようが、真摯に事情を説明すればきっと理解してくれるはず」


 俺は戸の出っ張りに手をかけるのだが、「……はっ! ちょっと待った!」「ぐえっ!」腕で喉元を抑えられ壁に押しつけられる。同時に「おーい、桃地ヶ丘さん! 話の途中でどこ行くんだよぉ!」と男子の声が聞こえてきた。


「……む? この声は、まさか告白相手か?」


「……う、うん。やっぱり生徒会書記の多々良君だった。眼鏡の貴公子とか言われてるぐらい美形なんだよ……もしかしたら、今度こそもっちーを射止めちゃうかも……」


 不安そうに言葉を並べ立てる相乃。戸の隙間から食い入るように二人を見つめ、目玉だけ外に飛び出してしまいそうなほど瞼を見開いていた。


「ごめんねぇ多々良君。友だちの声が聞こえた気がして、どうしても気になっちゃってぇ」


「いや、いいんだ。これで気になることもないだろうし、改めてお話させて欲しいんだが」


「うん、いいわよぉ。それでお話ってぇ?」


「君の魅力はさっき語りつくしたからね、本題に入らせてもらう。僕は……君のことが大好きなんだ! どうか付き合ってくれないだろうか!」


 おお、なかなか男らしいやつではないか。好きな人に先を越されて告白されてしまったのは少し悔しいが、彼に好感を覚える。

 だが、「……やめてぇぇ! だまされないでぇぇぇえ! そいつの本性は爽やかイケメンじゃないのぉ! 粘着質なのぉ! 私は身をもって知ってるのぉぉおお!」と相乃は喉から血を吐きそうなほど苦し気に声を絞り出していた。

 彼の何を知っているのかわからないが、何にせよ決めるのは桃地ヶ丘さんである。部外者の俺たちではない。ただ答えを待つのみである。


「あらぁ、好きって本当ぉ? その気持ち、とっても嬉しいわぁ」


 桃地ヶ丘さんの声は実に穏やか。「う、嬉しい? そうか、それは良かった!」と男子は彼女の反応に喜びをみせる。俺たちは狭いスチール棚の中、ごくりと唾を飲み込み、暑さのせいだけではない汗を拭った。


「で、では、僕と付き合ってくれるってことで――」


「でもぉ、付き合うのは無理かなぁ」


「なっ!? どうしてだ? 僕に好きと言われて嬉しいんだろう!?」



「それは単純に、好意を持ってくれたことに対してだよぉ。多々良君だからという意味じゃないのぉ」


「そ、そんな、僕は学年で一、二を争う人気者だぞ? 少しぐらい、告白されたのが僕だからこその喜びがあるはずだろ?」


「うーん、どうだろぉ。多々良君に興味がないわけじゃないけどぉ、あったわけでもなくて、普通だったからなぁ」


「ぐ、ぬぬ、嫌いと言われるよりキツい答えをそんな無垢な笑顔で言うなんて……しかし! 嫌いじゃないのなら試しに付き合ってくれてもいいじゃないか! 僕が恋人なら箔がつくってものだし、楽しい日々が待っているかもだぞ!?」


「そういうことなら、やっぱりお断りするねぇ。だって、大切なお友だちといるとすごく楽しいからぁ。私はそれで十分満足なんだぁ」


「お友だちだと!? 一体誰のことだ! 俺は誰に負けていると言うんだ!?」


「えっとねぇ、かななちゃん、ニノニノ、うっきぃ、そしてまなみん!」


 口にしたのは、あくまでも友人の名前。しかし最後の名前だけは、特別であるかのようにほんの少し弾んでいた。「もっちぃ……!」と相乃は目に涙を浮かべ、昨日俺の豪邸で見せたのと同じぐらいの『愛の波動』を放った。


「……あばばばばばば! こんな狭いとこでそんなに波動を発するぬぁ! が、我慢が、我慢の限界がきちゃうぅぅうう!」


「……えっ、ちょっとやめてよ変な汁出さないでね!?」


「……無茶言うな! く、ぬぅ、こうなったら最終手段だ!」


「……な、なにする気なの?」


「……以前空を飛ぶ鳩型の結晶を作ったことがある! その応用で、このスチール棚に結晶を纏わせて棚ごと移動するのだ! 君の『愛の波動』、がっつり使わせてもらうぞ!」


「……そ、そんな方法があるなら最初からやってよ! 幾らでも使っていいから、早くこの場を離れて――ん? な、なんか多々良君の様子がおかしいんだけど……まさか、私の時みたいに強引に迫るんじゃ!? どうしよう、このままじゃもっちーが襲われちゃう!」


 相乃が何か言っているが、俺は『波動結晶』を作るのに必死で半分も聞いていなかった。

 頭に思い浮かべるのは地を高速で駆ける動物。しかし、「早くなんとかしないと!」だとか「波動を使ってあいつを倒せない!?」だとか「もうあいつをぶん殴ってきてよ! ねえ早くして!!」などと騒がしいせいでイメージがぐちゃぐちゃになってしまう。


「何が友だちだ。何がまなみんだよ……そんなエロい格好して誘ってるくせに、僕をふるなんて……くく、これはお仕置きしないといけないなぁ!」

 外で何やら動きがあるようだが、もう限界だった。俺はスチール棚に結晶を纏わせるとすぐさま動くように念じる。

 するとガコンと音を鳴らし、棚が浮き上がった。


「……ぬぅぅ、動けぇ! 人気のないところへ行くのだぁ!」


 命令を唱えた途端、棚は上下に揺れながら前と進み始めた。「ふへへ! 君は今日僕の手によって、その蕾を開くのだ――ぐへぁ!?」と声が聞こえて視界が大きくぶれるが、最早気にしている余裕はない。


「やった! ナイス、愛多知君! 多々良のやつ、顔面が地面に突き刺さってるよ! もっちーに手を出そうとするからだ、バーカバーカ! ざまぁみろっ!」


「う、うぅ……喜んでいるところ済まないが……もう駄目……」


「えっ、駄目って何が?」


「もう……『愛汁』が出ちゃう……」


「へ……えっ!? 待って、こんな密着状態で出されたら……うひぃっ! ジャージが溶け始めてる!? 何とかもうちょっとだけ我慢して!」


「も、もう無理……三、二、一……!」


「あ、やだっ、やめて――ぎにゃぁああああああああああああああっ!!」


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