第四話 その日、少女は一歩を踏み出した③
そんなこんなで迎えた翌日。しっかりと身支度し、昼食に俺お手製トンカツを食してから二人で家を出た。
海浜公園に向かう前に豪邸跡地へ寄り、俺の波動結晶を回収。それからでも約束の十七時より三十分早く到着する見込みだった。夕景がどれほど綺麗なのだろう、どれほど素敵な告白にすることができるだろう、と余裕ぶってワクワクしていたのだが、
「早く、早く! 遅いよ、愛多知君!」
「ま、待ってくれ……ヒィ! お、重くて進まんのだ……ハァ……!」
気づけば約束の時間まで三十分を切っていた。マリア像ならぬ桃地ヶ丘さん像があまりにも重く、駅から公園へと続く坂道で台車が進まなくなってしまったのである。
「くぅ……愛が重いとはこのことか……!」
「上手いこと言ってないで、もっと必死に押してよ! 私も手伝うから!」
相乃の力を借りてどうにか登り切り、俺たちはその場でぜぇぜぇと息を吐いた。しかし時間が迫っているので休んでもいられず、眩暈を覚えながらも歩き始める。
「これでは心を落ち着けている時間はなさそうだな……相乃、告白の言葉はちゃんと考えてきたか? これから練る時間はないぞ」
「もちろん用意してきたよ。告白するって決めてから、ずっと考えてきたんだから。あ、そういえばだけど、告白ってどっちが先にするつもりだった?」
相乃はそのように訊ねながら、波止場広場へと続く道へ入ろうとする。しかし通行止めのフェンスが設置されており、俺たちは次の分かれ道を目指すことにした。
「どちらが先って、俺は同時を想定していたのだが? 君のサポートもするが、自分の恋を諦めたりはしないと言っただろう。有利な先攻は譲れんぞ?」
「大丈夫、先を奪おうなんて思ってないよ。でもお願い! 先に告白してくれないかな?」
んん? と俺は相乃に視線を送る。聞き間違いかと思ったのだが、彼女は至って真剣な顔で「ね? 私は後攻でお願いします!」と手を合わせてきた。
「本当にいいのか? 俺が先で。もしも俺の告白に桃地ヶ丘さんがオーケーを出したら……そうでなくとも俺の愛を知って俺に興味を持ってしまったら、君の勝ち目は相当薄くなってしまうぞ?」
「いいから、いいから。こうやって結晶を作ってくれたことだし、私は満足だから。もう依頼は完遂したと思って、自分のために告白してよ」
むぅ……先手を取れるなど、これ以上ない好条件だが……相乃の態度は腑に落ちない。こざっぱりとした表情からは臆しているようには感じられないし、本当に感謝を伝えるためだけでここまでするだろうか?
真意を訊ねようと口を開きかけた時、通行止めのフェンスが目の前に現れた。「むっ、こっちもダメか」「もう、何でこんな日に……」と苛立ちを口にしつつ、俺たちは仕方なしに大きく迂回することにする。
「……いや、やはり駄目だ! どう考えても後攻は不利だろう! それが分かっていて先を奪うことはできん! 俺は君にもベストな告白をして欲しい!」
「私がいいって言うんだからいいんだってば! 私のことは気にしないでよ!」
「できん! これは俺の矜持の問題だ! 君の気持ちを知っていながら不利を押しつけて告白するなど、『縁結びの神様』の名折れというもの! それに、君を親友と思っている桃地ヶ丘さんに顔向けできなくなってしまう!」
「はぁ……もう、頭硬いんだから! ほら、これは前言った秘策ってやつなの! だから素直に受け入れて!」
「なら、どういうことか説明するのだ! このままでは俺は気になってまともに告白できんぞ! 妙な提案をして俺をかき乱した責任を取れ!」
「え、ええ? もう、何でこうなるのよ……愛多知君の分からず屋!」
やっていることは譲り合いなのだが、だんだんとヒートアップしていき「何なのだ、お前は! 俺と平等に戦え!」「いいから先陣切って! もっと自分の恋心を大切にしなさいよっ!」と怒鳴り合いに発展してしまった。まったく、昨日は昨日でらしくないことを言うし、今日は今日で妙なことを言い出すし、彼女の心模様はどうなっているのだ……?
言い合いながらも俺たちは先へと進んでいたのだが、またしても通行止めのフェンスが立ちはだかった。その先の道にも、その先も、先の先の道にもあり――
「どうなっているのだ、これは? どこもかしこも通行止めではないか」
「うーん……ちょっと気になってたんだけど、分かれ道では必ず一方向だけ進めるようになってて、一本道みたいになってなかった? まるでここに誘い込むような……」
気づけば俺たちは海浜公園の外れにある赤レンガ倉庫街にいた。用事のある人がいないのか、通行止めのフェンスのせいなのか、まったく人気がない。
と、思ったのだが、
「――っ! 相乃、下がれッ!」
相乃の背後にある倉庫の屋上から、『いわゆるパチンコ(スリングショット)』でこちらに狙いをつけている者の存在に気づいた。
慌てて相乃の肩を引き、飛んできた黒い球体から身を守る。球体は地面にぶつかって割れ、中身の液体が罅割れたハートマークの染みを作った。
「これって、『嫉妬の波動結晶』?」
「波之良氏! 無防備な人間を背後から撃つとは、卑劣にもほどがあるぞ!」
ライダースーツ姿の波之良氏を睨みつけると、彼女は屋根より飛び下り、まるでヒーローのように格好つけたポーズを決めて着地する。
それを合図に何十人もの百合園高校の制服を着た者たちが姿を現し、それに混じって出てきた益華は波之良氏の横に立った。
「やあやあ、愛多知伝真に相乃さん。約一週間ぶりだね。何やら急いでいたようだけど、どこへ行くのかな?」
「ちっ……茶番はいい! 俺たちの目的を知っているからこその不意打ちだろう?」
「さっきの通行止めのフェンス、先輩たちの仕業ですよね? こんな人気のないところに誘い込んで襲ってくるなんて卑怯ですよ!」
「卑怯? おいおい、決闘の日は明日だというのに、それを反故にして告白しようとしているお前たちが言えたことか?」
相乃は痛いところを突かれたと言わんばかりに動揺するが、俺は鼻を鳴らしてみせた。
「確かに約束を破ったことは認めるが、君にそれを咎める資格はあるのか?」
「ほう? どういうことかな?」
「桃地ヶ丘さんには今日この公園に呼び出したことを秘密にするよう約束してもらった。そして知り合い(棚マッチョさん)の協力により、君が彼女に接近しなかったことも判っている。それで俺たちの行動が筒抜けだったとなれば、あとは盗聴しか考えられない」
盗聴!? と驚いた相乃は慌ててポケットや財布の中を探り始める。その様子を見た波之良氏は、クスクスとあざけ笑った。
「そんなところを探しても無駄だよ。君たちには何もしてないからね」
「と、いうことはまさか、もっちーに持たせてるの!?」
すると今度は益華がニタァと笑みを浮かべ、
「ンフ……そ、その通りよ。と、盗聴器を財布と通学鞄、あと制服に仕掛けてあるわ」
「そしてワタシがあげたお守りの中にも入っている。常に胸ポケットに忍ばせてくれているおかげで、会話だけではなく咀嚼音から居眠りによる寝言すら聞こえるのさ」
「そ、咀嚼音に寝言!? そんなの、もっちーの胸に耳が包み込まれているようなものじゃない! な、何て下品なのっ! 恥を知れッ! で、寝言は何て!?」
「相乃、君、実は波之良氏のことそんなに嫌いじゃないだろ。気が合うようだし」
「馬鹿なこと言わないで、愛多知君! 私はあんな汚らしい手は使わないわ! どうしようもなく寝言が聞きたい時は土下座でお願いするもん!」
もん! って、こいつにプライドないのだろうか。まあそれは置いといて、とにかく波之良氏との対決は免れないらしい。俺は相乃を背中に隠し、いつでも動けるように構えた。
「何かを仕掛けてくるとは思っていたが、ここまで下衆な真似をしでかすとは予想外だったよ。こうなったら、こちらも容赦はしないぞ」
「何を格好つけているんだい? 囲まれて絶体絶命って状況、分かってる? もしここから逃げ出す手段があるならやってみればいいさ」
波之良氏は挑発的に両腕を開き、無防備な状態を晒してみせた。
さっと周囲に視線を走らせると、この日のために用意してきたらしい新たな親衛隊たちによって全方位囲まれている。また、全員が『嫉妬の波動結晶』とスリングショットを握っていた。大見栄を切ったはいいが状況を打破する手段は今のところ思いつかない。
「ワタシは狙った獲物を逃さない。例えワタシに興味がなくとも、力で捻じ伏せ必ずハーレムに加えてみせる! さあ、新生親衛隊よ、こいつらの愛を壊してしまえ!」
彼女が手を挙げると、親衛隊たちが一斉にスリングショットを構えた。全方位に囲まれていては俺でもかわすことは叶わないだろう。
となれば方法は一つ。俺は心の中で桃地ヶ丘さんに謝罪し、桃地ヶ丘さん像のスカート部分を捲りあげた。
「相乃、飛び込めッ!」
「え、あ、うん!」
我ながら感動的な美しさを誇る像の脚の間に入り、スカートを下ろす。撃ち出された『嫉妬の波動結晶』が危うく身に届きそうだったが、間一髪スカートが弾き飛ばした。
「あれ、結晶の弾が消えて……あ、そうか! 嫉妬は愛に触れたら消えるんだっけ」
「その通り。だから今は防げているが……」
波之良氏は腰に拳を当て「ハァァァァア!」と体に力を込めている。どうやら嫉妬の感情を昂らせているらしく、益華が彼女の周辺の空気を手で搔き集めると、途端『嫉妬の波動結晶』が出来上がった。弾切れは期待できそうもない。
「益華、君は俺たちのこの状況を見て何も思わんのか! 取り囲んで滅多撃ちにするなど、心根の優しいお前らしくないぞ!」
「ふへ……だ、大丈夫、怪我しないように強度は落としてるから……水風船を当てられたぐらいの衝撃に調整してある……」
「そういう問題ではないだろう! 良心が痛まないのかと言っているのだ!」
「い、痛まないことはないし……すごく引け目を感じてはいるけど……あ、あたしも波之良氏と同じ。手に入れられないなら、何だってするつもりなの……だから、その女の『波動結晶』を奪うわ! そ、そして師匠の頭を憎しみでいっぱいにさせて、あ、あたしを忘れられなくしてやるんだから……!」
「ごちゃごちゃと何を言ってるかわからんが、今回も『波動結晶』を奪って桃地ヶ丘さんに与えるのか? それで気を引こうなど幼稚が過ぎるぞ!」
「んふふ、どうかしらねぇ? そ、それ、あたしたちに勝つために強力な愛を込めたんでしょう? 愛の強さに比例して美味しく感じるようだし、た、食べさせたら感動して心を許すかもしれないじゃない……『こんなに美味しいものを用意してくれるだなんて、何て愛おしい人なんだろう』って具合に、ね」
「っ! 結晶を奪うだけに飽き足らず、ここまで愛を育てた努力すらも奪おうとは……何て強欲なっ!」
「ふへ、ふへへ……強欲はその女も同じじゃない。そのおっきな像だけじゃなく、て、手に持ってるケーキ箱にも結晶が入ってるんでしょう? 二つも結晶を贈って告白しようだなんて、ど、どんだけ欲しがってるのよって話じゃない……」
「待て、益華。この大きな像は相乃のものではないぞ」
「え……じゃ、じゃあ誰の……?」
「誰のって、ここにいるではないか」
「ここ? どこ?」
「だから、目の前だ。この結晶は俺が桃地ヶ丘さんに告白するためのも――むぐぅ!?」
いきなり口に定期入れを押し当てられ、勢いでひっくり返されてしまう。「いきなり何をする!」と相乃に文句を言うと、「君こそ何言っちゃってくれてるの!? こんなヤバい状況で!」と怒鳴り返された。
何のことだ? と困惑していると、
「は……え……『俺が桃地ヶ丘さんに告白するためのもの』……?」
益華は『嫉妬の波動結晶』を作る手を止め、ぽかんと口を開いたまま硬直する。波之良氏も嫉妬を昂らせる作業をやめ、訝し気に益華に顔を向けた。
「あ、あの……じゃ、じゃあ、師匠は桃地ヶ丘一檎が好きってこと……?」
「ああ、そうだ。出会いは去年。彼女の優しさに惚れ、それ以来想い続けている」
それがどうした? と訊ねても返事はない。
益華はぷるぷると震え、目をまんまるに開き、口をぱかぁと開くと、
「ええええええ、し、師匠が恋ぉぉぉおおをを!? そ、それは駄目でしょぉぉおお!?」
「駄目とは何だ。俺も年頃の男子だぞ? 恋の一つや二つしていても普通だろうが」
「一つも二つも駄目でしょぉぉおお! それは、ああ……駄目だよォぉぉおお!! そ、そそそ、そんなのあたしが許しませんけどぉぉぉぉおお!?」
なぜか錯乱した益華は、俺が結晶を作る時のように目の前に手を突き出した。
すると、その掌の中に黒い球体が現れる。先ほどから作っていた『嫉妬の波動結晶』かと思われたが、それはあっという間に大きくなっていき――
あんぐり口を開いてしまうほどに俺たちは仰天してしまう。
益華は機関銃型の結晶を作り上げてしまったのだ。
「あ、ああああ、愛多知君! 何かものすごい禍々しいものが見えるんですけど!?」
「ま、ままま、益華、き、君、何てものを……! い、いや、大丈夫、まさか撃てやしないだろう! きっと見せかけに違いない!」
俺は希望的観測を口にして笑ってみせるが、
「は、波之良氏ぃ! 早くやっちゃって! し、しし、師匠を、師匠を取り戻して!」
「オーケー、益華! 君の想いを乗せてぶっ放してあげるよ!」
波之良氏が機関銃のグリップを握り、トリガーを押し込んだ途端、スポポポポポポ! と気の抜けた音ではあるが凄まじい勢いで『嫉妬の波動結晶』が撃ち出された。
「ぎゃああああああっ! しっかり弾出てるじゃんっ! 全然見せかけじゃないじゃん!」
「くっ、像に罅が! こ、これだけの力を持つ『嫉妬』、どうやって生み出したのだ!?」
「愛多知君の馬鹿、鈍感! 君がわっかり安ぅい地雷を踏むからでしょうが! もうどうするのよ、これじゃあ相手が疲れ果てるまで待つこともできないよ!?」
頭上からはぱらぱらと結晶の欠片が落ち、像のスカートのあちこちに綻びができてしまっている。このまま何もしなければ、俺たちは間違いなく『嫉妬』塗れにされてしまう。
「……相乃、先攻は君に譲ってやる。だから、全力で告白してこい」
「き、急に何? 先攻を譲るって、愛多知君はどうするつもりなの?」
「丹精込めて作っただけに、できればやりたくなかったが……しかし、ここまでぼろぼろにされてしまっては、この像は告白には使えまい。よって――こうするのだ!」
俺は片膝を突き、像の足に手を当てる。
そして力を発動――結晶を一度元の愛へと戻す。それを俺の全身に纏わせ、再度結晶化させた。
出来上がったのは、指先、胴体、頭、全てを包み込む桃色の全身鎧――
「これぞ我が最終兵器【対相乃防爆装甲・フェニックス】ッ! 思いついたのは良いものの愛が足りずに作ることができなかったが、桃地ヶ丘さん像によって実現するに至った! さあ目に焼き付けろ、我が愛の美しさを! そして思い知れ、我が愛の強さをッ!!」
せっかくなのでヒーローっぽくポーズを取るのだが、一様にぽかんと口を開けてこちらを見つめてくる。おかしい、これを思いついた時は思わず感嘆を漏らし、格好良さに溜息を吐いて崩れ落ちると想像していたのだが……。
「おい愛多知伝真、格好つけているところ悪いが……これは何の冗談なんだ? それで自身の身を守れるかもしれないが、相乃は無防備を晒してしまっているぞ?」
「そ、そうだよ、愛多知君! 私はどうすればいいのよ! ていうか、何で対私用!? 敵は向こうでしょうがっ!!」
「相乃よ、ともに暮らし、何度も爆発してきたというのに分からないのか? こうして全身を包み込んでしまえば、君に触れても爆発しないということ。それはつまり、こういう手段を取れるということだ!」
俺は波之良氏たちに背を向け、相乃を抱え上げた。「ひぃあっ!?」と声を上げる相乃をできるだけ体で包み込むようにし、全速力で親衛隊たちの間に突っ込む。
「なっ、強行突破か?」
「あ、ああ、師匠が逃げちゃう……! う、撃て、早く撃ってぇー!」
機関銃、そして親衛隊たちのスリングショットから次々に『嫉妬の波動結晶』が撃ち放たれる。が、それら全てを鎧で受け止め、相乃に当たりそうなものは腕で薙ぎ払った。
親衛隊たちの隙間を縫うように駆け抜け、包囲網を抜けると相乃を地面に下ろし、
「ここは俺が食い止める! だから先に行け、相乃! 俺に負けないよう、全力の告白をしてくるのだッ!」
腕を広げて『嫉妬の波動結晶』を受け止めながら、俺は相乃に叫んだ。
彼女は少し躊躇っていたが、「わ、わかったよ! 絶対後で追ってきてよね!」と全速力で駆け出す。「逃がすな、追えッ!」と波之良氏が怒鳴るが、「そうはさせんッ!!」持てる全ての力を使って反復横跳びすることにより、一瞬だけ動きを止めることに成功。それだけで十分、相乃はその健脚でもって姿をくらましてしまう。
「な、何て足の速さだ……! もういい、全員戻れ! あれでは追いつけん!」
「フハハハハ! 残念だったな、波之良氏ぃ! 相乃はこの後、無事告白することだろう! ひとまず君の策略は失敗に終わっってしまったなぁ!」
「まだだ! まだ終わらん! 向かう場所は波止場広場なのだろう? なら君を倒し、急いで向かえばまだ間に合う!」
波之良氏、そして親衛隊たちは一斉に俺目がけて『嫉妬の波動結晶』を撃ち放ってきた。衝撃はさほどではないが、結晶に込められた『嫉妬』の力があまりにも強すぎる。愛を超圧縮した鎧だというのに罅が入り始めた。
「最終兵器だとか何から知らないが、案外脆いじゃないか! 何もできず、悔しさに涙しながら朽ち果てるといい!」
「あ、あたしたちの勝ちだ! さ、さあ恋なんて忘れて、いつもの師匠に戻って……!」
勝ち誇るように声を張り上げる、波之良氏と益華。
止まない攻撃の雨の中、俺は防御のため交差していて腕を解き、直立してみせた。
「波之良氏はともかく……益華よ。君は興奮するとすぐに思考が止まる。悪い癖だぞ」
なに? と二人は顔を曇らせこちら窺ってくる。
そんな彼女たちの目の前で、俺はゆっくりと身をかがめた。
「先ほど見せた通り、俺は結晶を解くことも可能! また、この鎧は愛というエネルギーの塊である! それを今この瞬間、解き放てばどうなると思う!」
問いかけながら、俺は思い切り地面を蹴り跳躍してみせた。
「必殺! 【飛翔セシ全裸ノ舞】――ッ!!」
チュィィィィィィィィィィィィィイイイイイイイン――ズドンッッ‼
鎧を元の波動に戻すと、爆発的に膨れ上がる。そこへ内より放った力が伝播し、倉庫街全体を包み込むほどの大爆発を起こした。俺の愛が吹き荒れ、「きゃあああっ!」「わあああっ!」「何これぇ!?」とあちこちで悲鳴が上がり、親衛隊たちも波之良氏も、益華も宙に巻き上げられる。
「フゥゥゥゥゥン――ハッ!」
空に自身の肉体を飾った後、俺は地上へと帰還する。これが競技ならば高得点を狙えるほどに完璧な着地だった。
そんな俺の目の前には、服がびりびりに破けた親衛隊たちが転がっていた。それほどまでに俺の愛が激しかったのか、一様に気絶してしまっている。
彼女らはそれでいいとして、問題は波之良氏と益華だが――
「ふむ、まだ意識があるか。なかなか根性があるではないか」
どうやら二人は他の者たちより強烈に爆風を浴びてしまったようだ。俺と同じく全裸になってしまっている。しかし二人は必死に手を突き、立ち上がろうとしていた。
「怪我はないし体に痛みもないはずだが、しかしあれだけの俺の愛を浴びたのだ。体の底、心の内がぼんやりと暖かく、何とも言えず幸福な気持ちだろう? 親衛隊に倣い、さっさと夢の世界へ落ちていくがいい」
「そ、そうは行くか……! わ、ワタシは……欲しいと思ったものは絶対に手に入れる……一檎をハーレムに加え、毎日ワタシの身の周りの世話をさせるのだ……!」
「ん、ンヒ……し、師匠は渡さない……ぜ、絶対に、誰のものにもさせない……!」
「ふぅむ、卑しいながらも尊敬に値するしぶとさだな。よかろう、その気なら相手してやる! 全力でかかってくるがいい!」
こうなったら俺が根性を叩き直してやる!
そのように覚悟を決め、腰に手を当てて待ち構えていると、二人は「ぬおおおっ!!」「ふんがぁっ!!」と顔を上げた。
そして、ぴたりとフリーズする。
視線は俺の股間。彼女たちの瞳には、俺の大事なものが映っていた。
「ぎぃぃぃぃぃあああああッ!! 男の恥部がぁぁぁあぁあ!?」
「んほおおおおおっ!! し、ししょ、しし師匠の大事なアレが丸見え――ブシュッ!!」
波之良氏は白目を剥き、バタンと倒れて泡を吹いてしまう。益華は鼻血を噴き出し、やはり倒れ込むのだが、なぜか幸せそうな顔をして気を失っていた。
「いかん、丸出しなのを忘れていた。俺のキングタートルは刺激が強すぎたようだな」
想像以上に早く決着が着いたので、急げば約束の時間に間に合うかもしれない。だが、敵対しているからといって波之良氏たちを放っておくわけにもいくまい。俺は急ぎ地面に転がる少女たちに『波動結晶』で作った服を着せ始めた。




