第三話 お泊り戦争⑥
時刻は八時半。当然外は暗く、どの家庭もテレビを観るなり、ゲームをしたり、漫画を読んだり、宿題をしたり、ゴールデンタイムを思い思いに過ごしているはずである。
……が、この区画の人たちは外に出て来ており、桃地ヶ丘邸の前で大騒ぎしていた。
なぜなら、家全体が『波動結晶』に包まれ、まるで氷漬けのような様相だからである。
「ク、クク、やってやったわ……これでもっちーの貞操は守られた……」
「かもしれんが、これはこれで辱めなのではないかと思うのだが?」
風呂に入っていたのだから当然裸なわけで、家を見上げる桃地ヶ丘さんはバスタオルで体を包み、冬用の丈の長いコートを着ただけの格好だ。まあしかし、「飴細工が膨張するなんて不思議ねぇ。でも、じゅる……お菓子のお家みたいで素敵! とても美味しそぉだわぁ! じゅるり……」という様子なので、気にしていないようではあるが……。
「や、やってくれたな……ワタシたちの愛の城を封鎖するなんて……!」
同じくバスタオルにコート姿の波之良氏が恨み言をぶつけてくる。さすがにこれには参ったようで、げっそりしていた。
「まさか裸で放り出される覚悟を決めてかかってくるとは……恐れ入ったよ」
「フン、俺たちは全裸に慣れているからな! この程度なんてことないのだ!」
「いや仲間に入れないでくれる!? コート着てるから何とか我慢できてるだけだよ! 愛多知君みたいにバスタオル一丁で平然としてられるほど頭おかしくないからね!」
「頭おかしいとはなんだ! 俺だって桃地ヶ丘さんの前で乳首を晒すのは恥ずかしいんだからな!」
「ええ、そこぉ……?」
「おいお前たち、漫才している時ではないだろうが。家をこんなにして、一檎に今晩どこで過ごせと言うつもりなのかね?」
うっ、と相乃は言葉を詰まらせる。彼女はだらだらと汗を流しており、何も考えてなかっただろうことは明白だった。
やれやれと溜息が出る。どうやら俺が尻ぬぐいをしてやらなければならないらしい……。
「俺は結晶化させた愛を元に戻すこともできる。一旦封印を解くから、仕切り直しというこで――」
と俺が相乃と波之良氏に説明していたところ、「あ、そうだ、いいこと思いついちゃったぁ!」と桃地ヶ丘さんが手を合わせて声を上げた。
「良かったら、まなみんの家でお泊り会の続きしない?」
「え、私の家?」
「うん! これぐらいの量なら食べ切れるけど、さすがに時間かかっちゃうから、今晩はまなみんの家に泊めてくれないかなぁ?」
俺たちは思わず顔を見合わせた。
相乃の家は俺たちのホームであり、桃地ヶ丘さんにとってアウェイである。
主導権がこちらにあるその密室へ、コートを脱げばほぼ裸の桃地ヶ丘さんがやって来る……だと?
「ねえ、駄目かなぁ?」
上目遣いでの無邪気なおねだり。
その甘美な響きに、俺たちはごくりと唾を飲み込んだ。




