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第三話 お泊り戦争③

 芸術公園を後にした後、俺たちはバスを使って隣町へとやって来た。

 桃地ヶ丘さんの言葉の真実を確かめるため、そして結晶を食べた彼女の体に異常がないか心配だったために誘いに乗ったのだが、


「ぬぅ、ここが桃地ヶ丘さんのお宅……何とも言えぬ良い香り……!」


「お邪魔するの三回目だけど、毎度のことながらドキドキしちゃう……!」


 なかなか立派な一軒家の玄関に踏み入った途端、俺と相乃は立ち尽くしてしまう。嬉しさやら緊張やらで頭が真っ白になり、何が何だか分からない。


「あらぁ? 二人ともどうしたのぉ? 早く上がってぇ。さっそくお菓子食べましょぉ」


「ああ、お邪魔させてもらおう。おい相乃、目を覚ませ。『愛の波動』を噴き出し過ぎだ」


「ンォ!? ああ、いけない、もっちーの家に来るといつも頭がバグっちゃうのよね……」


 家に上がると、「用意してくるからここで待っててねぇ」とリビングに通された。ソファに並んで座り、キッチンへと向かう桃地ヶ丘さんの様子を窺っていると、「とりあえず体は何ともないみたいだね」と相乃が耳打ちしてくる。


「ああ、それについては安心して良さそうだな。しかし最近仲良くなった友だちが『波動結晶』を買って来てくれると言っていたが、誰のことか分かるか?」


「私たちのグループの誰かではないと思うよ。もう一年の付き合いだけど、それらしいものを持ってたとこ見たことないし。愛多知君こそ知らないの? 誰か買いに来なかった?」


「食事目的で買いに来る者はさすがにいないな。というか、愛を抱いていないと作れないのだから、そんな目的で来られても用意できん」


「そうだよねぇ。じゃあ別の何かと勘違いしてるのかなぁ」


「そうであって欲しいところだ。でなければ……」


「でなければ、なに? 何か思い当たるふしがあるの?」


「あ、ああ。プライドをかけて否定したいところだが、もしかしたら――」


 と説明しようとしたところ、「お待たせぇ」と桃地ヶ丘さんが戻って来た。

 てっきり彼女が言うお菓子とやらをお盆に載せて来るのかと思ったのだが、「よーいしょ、よーいしょ」と彼女は重そうにガラスのショーケースを引っ張って来た。

 そしてそのケースには、大小様々な『波動結晶』が無数に飾られていた。


「だあああああっ! そ、そういうことだったのか……ッ!!」


「あ、愛多知君、あれやっぱり『波動結晶』だよね? 一体どういうことなの?」


「……九パーセントだ」


「え、九パーセント?」


「元々縁結びの依頼達成率は九十九パーセントだったが、忙しさにかまけて杜撰な仕事をした結果、九十パーセントまで落ち込んでしまった、という過去があってだな。その消えた九パーセントがここに集まっている……」


「えっ!? それって、私が知らないところでこんなに告白されてたってことぉ!? 二十個以上はあるよね!?」


 などと騒いでいる間にも、「何だか楽しそうねぇ」と桃地ヶ丘さんはケースより『波動結晶』を取り出し、皿に盛り付けていた。しっかりと手で触れているのに平然としている。


「ま、待ってくれ! それに触れても何も感じないのか!?」


「感じるってぇ?」


「心がときめいたり胸がきゅんっとしたり、誰かの切ない記憶が見えたりしないのか!?」


「えー何それぇ? あんまりにも美味しそうで心がふわふわすることはあるけど、そんな不思議なことは起こらないよぉ」


 桃地ヶ丘さんはそう言いながら結晶を取り出し、ぱくりと食いついた。


「んー! このリンゴの飴細工はさっぱりしてて食べやすいわぁ! 夕飯前のおやつにぴったり!」


「待て待て待てっ! そんな当たり前のように食べるんじゃないっ!」


「駄目よもっちー! それ食べ物じゃないからっ!」


「えー? もしかして展示用と勘違いしてるのかなぁ? 大丈夫、これは全部食べられるやつだよぉ。とっても美味しいから、二人も食べてみてぇ」


 桃地ヶ丘さんはそう言って、俺たちの口に『波動結晶』を突っ込んできた。

 ぐむ!? と未知の体験に体を強張らせるが……あら不思議。口の中に甘みが広がり、幸福感が湧き起こった。


「な、なんてこった! 本当に美味しいではないか……!」


「嘘でしょ、ガラス細工っぽいのに柔らかいんだけど!」


「不思議よねぇ。それぞれ食感が違ってねぇ、コリコリだったり、サクサクだったりするのよぉ。ほら、これも食べてみてぇ。ギョルンギョルンって感じの食感で面白いわよぉ」


「何だその食感――っ!? ほ、本当だ、ギョルンギョルンとしか言いようがない!」


「何この新感覚っ! あ、ぁあ、頭の中がかき回される感じがするぅ!」


 あれはどうだ、これはどんな味だ、と俺たちは和気あいあいと食べ比べて笑い合った。

 好きな人の家でお茶会をし、幸せを共有する。何て素敵な昼下がりだろう。

 あんまりにも幸せだったので、俺は「ちょっと失礼」と言ってベランダより外に出ると、


「波ァーーーッ!!」


「波ァ、じゃないよ愛多知君。いちいち波動を撃ち出さないでよ」


「すまん、気持ちが昂って、つい……」


 出すものを出し切ってすっきりした俺は、室内の桃地ヶ丘さんを冷静に観察する。

 何も感じていないかのように結晶を食べているが、よくよく見てみると結晶は必死に愛の輝きを灯しており、桃地ヶ丘さんにそれを伝えようとしている。

 だが、輝きは掌でストップしており体まで到達していない。


「少し席を離れる。まなみ君、ちょっとこちらへ……」


 相乃を呼んで、もう一度庭に出る。「ねえ、大丈夫かな。すごい勢いで食べ続けてるけど」と相乃は食べ続ける桃地ヶ丘さんを窺いながら近づいてきた。


「腹を壊すことはないだろう。自分で食べてみて分かったが、胃の中に入る前には消滅するようだ。どうやら噛み砕く、というか壊れるとすぐに消滅してしまうようだな」


「体に害がないなら安心だけど、でも何で影響ないのかな? 告白した人の愛が足りなかったってこと?」


「いや、食べると『ぽかぽか』すると言っていたように、少なからず愛が伝わっているはずだ。それでも何も心境の変化がないのは……おそらく彼女が未発達だからだろう」


「未発達? そうかなぁ、私の目にはすごく発育の良いボディのように見えるけど」


「このスケベめ。そういうことではなくて精神のことだ。思い出したのだが、俺が初めて『波動結晶』を作った時、貰った相手は暖かさを感じたものの、それの正体に気づけなかった。その『波動結晶』を贈った方も贈られた方もまだ小学生だったため、性愛に目覚めてなかったからだ」


「ま、まさかもっちー……まだ恋愛が何なのか本質的に分かってないってこと?」


「ああ、おそらくは。傍にいるお前こそ思い当たる節があるのではないか?」


 その問いに相乃は答えなかったが、その沈黙こそが答えだった。

 俺たちはそっと室内に視線を向け、カリカリモグモグモシャモシャモッチモッチギョルンギョルンと咀嚼している桃地ヶ丘さんを観察する。

 『愛』を口いっぱいに頬張って頬はほんのりと染めている姿は、心底幸せそうだ。


「あのうっとりとした表情……『愛』を受け取った人たちと同じ表情だ。それをまさか『美味しい』と勘違いするだなんて……俺たちは難しい恋をしてしまったようだな……」


「そうだね。でも」


「ああ。たまらなく可愛いくて、愛しくて、守ってあげたいって思ってしまうな」


「ね。あぁ……もっちーを眺めてるだけで幸せ」


 ふふふふと微笑み合うものの、しかし恋の難易度が高まったことが重く圧しかかってくる。『愛』を理解していないと『波動結晶』が効果を発揮することはない。

 そうなるとお手上げなのだが、とはいえ諦めるという選択肢はありえない。部屋に戻って次に食べる結晶を選ぼうとしていた桃地ヶ丘さんを観察する。性愛に目覚める兆しはないか、彼女に恋愛観を芽生えさせるような特別な結晶はないかと目を凝らす。

 すると、妙なことに気づいた。


「む、これはどういうことだ? ショーケースの結晶……合計すると依頼失敗率の九パーセントを越えてしまうぞ」


「数え間違いじゃない? 愛多知君と同じ力を持った人がいるわけじゃあるまいし」


「確かに『愛』に干渉できるやつは俺以外知らないが……しかし、どれもこれも見覚えがあるな。まさか……計算に入れていなかった、結果を報告に来なかった者の結晶か?」


 ちょうど気になっていた結晶に桃地ヶ丘さんが手をかけたので、「一檎さん、それを贈ってくれた人が今どうしているか知っているか?」と訊ねてみた。


「実はそいつと知り合いでな。連絡が取れなくなったもので、ずっと気になっていたのだ」


「知り合い? あらぁ、愛多知君もクロりんと知り合いだったのねぇ」


「クロりん? 誰のことだ? 名前は確か……そう、高峰琢磨という背の高いイケメンだったはずだが」


「高峰君? イケメン? うぅん、これを買って来てくれたのは女の子だけどぉ」


「女の子? いやそんなはずは……待て、買って来てくれただって?」


「ほらぁ、ここに来る前に話した子だよぉ。最近仲良くなって、飴細工を買って来てくれるっていう」


「それは告白しに来た男子のことではなかったのか?」


「あららぁ? 何だか話が噛み合わないねぇ。あのねぇ、去年は色んな男の子が買って来てくれたんだけど、今手に持ってるこれとか、あとこれとこれと、これなんかはクロりんが買って来てくれたんだよぉ」


 その謎の女性が買ってきたという結晶は、全て告白の結果報告を寄越さなかった者たちの結晶だった。

 一体クロりんとは何者なのだろうか――相乃と顔を見合わせていたところ、玄関から物音が聞こえてきた。ご家族の誰かが帰宅したようである。


「ただいまー。一檎ー、ワタシが帰ったぞー」


 姿を現したのは、質の良いブレザーとスカートに身を包んだ、背が高くショートヘアの女性だった。リビングに入って来た彼女はこちらに気づくと、「おや、お客さんか」と端正で中性的な顔に驚き浮かべてみせた。


「お邪魔しております。一檎さんの同級生の愛多知と申します」


「ど、どうも、お邪魔してます。相乃です」


「一檎が学校の友だちを家に呼ぶなんて珍しいな。どれ、一服したらワタシも輪に入れてもらおうかな」


 彼女はそう言って、ブレザーを脱ぎながらダイニングテーブルに向かう。非常に自然な動作だったので桃地ヶ丘さんのお姉さんだと思ったのだが、


「ちょっともっちー。あんな綺麗なお姉さんがいたの?」


「おや、まなみ君も一檎さんのことで知らないことがあったのだな。というか、数回遊びに来たというのに初対面なのか?」


 そのように訊ねたところ、「ふふ、違うよぉ」と桃地ヶ丘さんは可笑しそう笑った。


「噂をすれば何とやらねぇ。彼女がクロりんよぉ」


「なぬ!? 『波動結晶』を買ってきてくれる友人の!?」


「ちょっと待って! 何で友だちが勝手に家に上がってきて、我がもの顔でお茶飲んでるの!? まるで家族みたいじゃん!」


 不審な視線を向けた先のクロりんとやらは、「おや、ワタシのことで盛り上がってるようだね」と笑って桃地ヶ丘さんの横に座った。キザったらしく足を組む姿は、そのボーイッシュな見た目と相まって様になっている。


「挨拶が遅れてすまなかったね。ワタシは波之良(はのら)黒子(くろこ)、高校三年生だ。一檎からはクロりんって呼ばれている。先輩だからといって気を使わず、君たちもその愛称で呼んでくれ」


「ご丁寧にどうも。しかし、俺は波之良氏と呼ばせていただく」


「あのぉ、先輩。いきなりで悪いんですが、もっちーとはどういう関係なんですか? 何だか妙に距離が近いように見えますけど」

 波之良氏はソファに深く座り、腕を背もたれの上に伸ばしている。相乃はその腕が桃地ヶ丘さんの背後を通っているのが気に食わないようで、声に不快感が滲んでいた。


「どういう関係って、そりゃ友だちだよ。去年の秋ぐらいに知り合って、それからの仲だ」


「ほら、まなみん。去年の秋に百合園高校の文化祭に遊びに行ったでしょぉ?」


「ああ、あのお金持ちの娘さんたちが集まる女子高?」


「迷子になった時にお世話になった生徒会長さんがクロりんなんだよぉ。それから仲良くなって、時々会ったりしてたんだぁ」


「そ、そうだったんだ。し、知らなかったなぁ、そんな交友関係があったなんて……あの、すごく親しい感じ、なのでしょうか? 勝手に家に上がって、勝手に食器使って……まるで家族みたいな……」


「まあそうだな。ほとんど家族のようなものだよ。何せ、一緒に暮らしているからな」


「えっ、一緒に暮らしている!? どういうこと、もっちー!?」


「今ねぇ、お父さんとお母さんが旅行でいないんだぁ。クロりんが遊びに来た時にその話をしたらねぇ、寂しくならないようにって、お泊りしに来てくれたんだよぉ」


「そう、そういうことなのさ。かれこれ一週間は経つな」


 そう言いながら波之良氏は桃地ヶ丘さんの体に視線を流し、肩を抱いて引き寄せる。

 そして、肩を抱く手を下にスライドさせると、彼女のたわわな乳房の片方に手をかけた。


「うおおおおおい!? 波ァ之良氏ぃぃぃ!? 突然何をしているのだァ!!」


「なああああああ!? いきなり何セクハラしてるんですかァ!? もっちーのおっぱいを揉みしだくなんて、何て羨ましいッッッ!!」


「ははっ! ただのスキンシップだよ! スキンシップ!」


 そう言いながら、彼女は桃地ヶ丘さんの乳房を揉みしだく。その嫌らしい手つきに俺は猛抗議しようとするが、


「んひゃあ! くすぐったいよぉ!」


 と身を捩って頬を上気させる桃地ヶ丘さんの姿がどことなく官能的で、俺は相乃と同じタイミングでごくりと唾を飲み込んでしまった。


「ダメだったら、クロりん! もう、すぐにイタズラするんだからぁ!」


「悪い、悪い! 一檎の反応が楽しくてつい、な! でも、もう少しいいだろう? いつも大好物を買って来てあげてるんだからさ」


「えー? 今日はイタズラされたのにまだ貰ってないよぉ? 一回のイタズラで一個買ってくるって約束なのに、いけないんだぁ」


「ふふ、ちゃんと用意してるよ。今日はなかなか可愛らしいのが手に入ったんだ」


 波之良氏は桃地ヶ丘さんを解放すると、どこからともなく小ぶりな箱を取り出した。

 ケーキで桃地ヶ丘さんを篭絡してあんな卑猥なことをしているというのか? 何て卑劣なやつだ! ……などと俺は憤るのだが、箱の中身を見た俺は驚愕で言葉を失ってしまう。


「さあ、今日は女神の飴細工だ。しかも、ほら、よく見ると顔が君に似ているだろう?」


「わぁ、とても綺麗で可愛いわぁ! さっそく味見したいけど……じゅる……でも食べ過ぎは良くないからねぇ。保存しておこうかなぁ。じゅるり……」


 桃地ヶ丘さんは結晶をショーケースに移すと、「うんしょ、うんしょ」とキッチンへと押して行く。

 彼女の姿が見えなくなったのを確認し、俺は波之良氏を睨みつけた。


「……波之良氏、あの結晶をどこで手に入れた?」


「結晶? 飴細工のことかい? あれは今人気のパティスリーで買ってきたものだよ。隣町の外れにあってね、道が入り組んでいて、口で説明するのは難しい――」


「とぼけるな! あれは俺が作り上げ、依頼人に提供したものだ! 愛が一切伝わっていなかったところを見るに、贈られるべき相手は君ではないはずだが!?」


 波之良氏は「なに?」と小さく呟き、表情から笑みを消す。

 その瞬間、今まで浮かべていた笑みが張りつけたものだったことが分かった。真顔の彼女の眼つきは鋭く、それが本性であるかのように様になっていた。


「そういえば、君……愛多知と名乗っていたか? まさか、愛多知伝真と言う名ではないだろうな?」


「その通り俺は愛多知伝真だ。プロの恋愛カウンセラーであり、『縁結びの神様』として名が通っている」


「なんてこった……まさかあの結晶の製作者が現れるとは……」


「驚いていないで質問に答えろ! あれをどうやって手に入れたのだ!」


「やれやれ、作った本人が出てきてしまっては誤魔化しようがないな。あれは塩ザンギ屋の店員から貰ったんだ」


「貰った? そんなはずはない! あれは意中の相手に渡そうとしていたものだぞ! 昨日の今日で何があったというのだ!?」


「さあね。ワタシはただ『くれないか』と頼んだだけさ。彼は一檎に結晶を渡すか迷っていたんだが、臆病風に吹かれたのか『自分には必要ない』と言って譲ってくれたんだよ」


「なっ、彼の想い人も桃地ヶ丘さんだったのか? 一体何人を虜にしているのやら……と、それよりも一体彼に何をした? 臆病風だなんて嘘が通じると思うなよ!」


「本当にワタシは頼んだだけだよ。そう、ワタシはいつも頼むだけなんだ。そしてみんなはワタシと一檎を祝福するかのように、うやうやしく差し出してくるのさ」


「いつも、ということはやはりあのケースに飾られていた結晶の一部は君が手に入れてきた物なんだな? 目的は何だ! なぜそんなことをする!」 


 その問いに応えず、彼女は再び笑みを浮かべる。

 先ほどの爽やかな笑顔と違い、何かを画策しているかのような不気味な笑みだった。


「ところで、そちらの君……相乃だったか? 君の名前は初耳だな。一檎の友人と言っていたが……そういえばワタシがおっぱいを揉んだ時に、『何て羨ましいことを』とか口走っていたが、君、まさか一檎のことが好きなのか?」


 相乃はドキリと跳ね上がり、「え!? な、なんのことかなぁ?」と誤魔化そうとしたが、見透かされているのを悟ったのだろう。覚悟を決めたように座り直し、頷いた。


「そ、そうです! 私はもっちーのことが好きです! それが何か!?」


「ああ、愛多知伝真とどうして一緒にいるのかと思えば、なるほど……そういうことか。じゃあ……かなり本気な恋なんだね」


「え、ええ、そうですとも!」


「そうか、それは残念だ。君、なかなか愛らしい見た目をしているから可愛がってあげようかと思ったんだけど」


「はい? ちょ、どこ見てるんですか! 女同士だからって体を舐め回すように見ていいわけじゃないですからね!」


 君がそれを言うのか? と視線を向けると、「やめて、見ないで、私自身もどうかと思ったから……」と相乃は顔を逸らし、ツインテールの片方で目元を隠す。更にじっと見つめていると、最終的にツインテールの毛先で両目を完全に覆ってしまった。


「一檎が好き、と言うわりには愛多知伝真とずいぶん近しい仲のようだね。まるで恋人のようではないか。ここでくだを巻いてないで、デートにでも行くといいよ」


「はあ!? 恋人じゃないんですけど! こんな女性物の下着をつけて走り回って悦んでるような人は好きになりませんけど!」


「おい、君のためにやったことなのに何て言い草だ! 訂正しろ! 俺はまだ悦びは覚えていない!」


「な、なかなか奇妙な関係のようだね……まあ何にせよ、これからワタシと一檎は食事にでかけるんだ。君たちにはお引き取り願おう」


 そう言って、波之良氏はパンパンと手を叩いた。

 するといつから潜んでいたのやら、波之良氏と同じ制服を着た女子が六人、ソファやテーブルの陰、廊下から姿を現した。


「お呼びですか、波之良様」


「我ら、波之良様親衛隊こと――」


「『波之良様を愛し隊』――」


「ここに参上!」


「どのような御用でしょうか?」


「さあ、どんなご命令でもお申し付けください」


 揃いも揃ってスタイルが良く、端正な顔立ちをしており、どことなく桃地ヶ丘さんと雰囲気が似ている。そんな彼女たちを背後に並ばせてふんぞり返った波之良氏は、優雅な動作で片手を上げた。


「お客様がお帰りだ。家の前まで送ってやれ」


 それを合図に、「「「ハッ!」」」と親衛隊たちは声を揃え、俺たちを取り囲むと腕を引っ張って来た。


「ぬぁっ! 何をする!? 話はまだ終わってないぞ!」


「も、もっちー! この人たちを止めて――って、陰に隠れて結晶食べてる!? あぁ駄目、夢中でこっちに気づいてないっ!」


 強引に家の前まで引きずり出された俺たちは慌てて中に戻ろうとするが、親衛隊たちが敷居の前で一列に並び、壁となって俺たちを阻んできた。


「真実が知りたければ塩ザンギ屋の彼に会いに行ってみればいい。いや、そうすることをおすすめするぞ」


 親衛隊の向こうにいる波之良氏は不敵な笑みを浮かべ、家の中へ引き返して行った。

 強引な手を使えば中に戻ることもできるだろうが、親衛隊たちが強気に睨みつけてくるのは、井戸端会議中の奥様方の目に気づいているからだろう。警察沙汰になって桃地ヶ丘さんに迷惑をかけることだけは避けたい、という俺たちの心理が分かっているのだ。


「も、もう、何なのあの人! 人んちで偉そうにふんぞり返っておっぱい揉んで、私の体を品定めしたりして……ムキィーー!! 何様なのよぉっ!!」


「ぬぅ、あの挑戦的な態度……やはり俺の依頼者に何か悪さをしたに違いない。急ぐぞ、相乃! 彼の身が心配だ!」


 今、桃地ヶ丘さんの傍を離れて良いのだろうか。

 そんな不安が過るが、何も出来ず突っ立っているわけにもいかない。答えを知るため、「ウッキャキャ!」と荒ぶっている相乃を引き連れて一先ずその場を後にした。


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