第6話 Stage 1:旅人の来訪
◆ 前回のあらすじ
五日目、ついに江夏王家との商談に臨んだ主人公・李明。
黄忠の助言「相手の腹を読め」を活かし、
商談を成功させて、地位ランクが Rank 0 → Rank 1 へ。
そして、馬車の中で累計100ptに到達し、
死に戻り後の初ガチャを引いた結果は……
Fレアスキル「肩こりが治る」。
「ですよねー」と主人公はぼやいたが、
四十二歳の田中健一としては地味にありがたい。
帰宅後、妹・李綾と『楚辞』を読みながら、
信頼度100に到達、興味スイッチが完全解放された。
そして夜、新たな縁の予兆。
知略に長けた、若き軍師の卵が、近づいている――。
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六日目の朝。
俺は黄忠と朝食を食べていた。
父も母も兄も、もう黄忠のいる食卓に慣れた様子だった。
ただ、俺の頭の中には、昨夜のウィンドウの通知が、まだ残っていた。
「知略に長けた、若き軍師の卵」
……誰だろう。
心当たりが、ありすぎる。
三国志には、知略の若者が、何人もいる。
諸葛亮はまだ三歳。
龐統もまだ若い。
司馬懿はもっと若い。
となると、誰だ。
「ふぅん」
俺は心の中で考えながら、粥をすすった。
「李明、どうした」
黄忠が、こちらを見た。
「いえ、ちょっと考え事を」
「うむ」
「黄忠殿、もしかしたら、今日、新しい縁が、訪れるかもしれません」
「ほう」
黄忠は、にっこり笑った。
「お主、もうそんなに、人を集めるのか」
「家族を、守るためです」
「うむ」
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黄忠 信頼度:67 → 70(+3)
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朝食後。
父と、新部門の絹の話を、しばらくしていた。
そして、玄関で待つこと、しばらく。
戸が控えめに叩かれた。
俺は深呼吸して、戸を開けた。
そこに、男が立っていた。
中年の手前くらい、二十代半ば。
だが、服が、目に入った。
質素な衣だが、よく見ると、襟元にわずかな血の痕。
古いものだが、洗いきれていない。
そして、靴。
底が極端に削れている。
長距離を歩き続けた者の靴。
鋭い、知性を感じさせる眼差し。
だが、その奥に、何か影が、ある。
簡単に、心を許してはいけない、誰か。
主人公の俺の中の、四十二歳の営業マンの勘が、警告を発した。
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???(25歳・浪人)
武力:75/統率:80/知力:90/政治:75
[Aレア]
[!]興味スイッチ発動
・「噂で気になる若者」に興味
・興味ボーナス:+15
初期信頼度:ベース25 + 興味+15 = 40/100
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「あの、どちら様、でしょうか」
俺は、慎重に聞いた。
「儂は徐庶、字は元直、という」
「徐庶……殿」
名前が、思い出される。
徐庶。
字は元直。
後の劉備の最初の軍師。
……マジか。
だが、史実の徐庶は、若い頃に、人を殺して、逃亡している。
その後、剣を捨てて、学問に身を投じた。
つまり、この男には、過去がある。
ただの善人じゃない。
だから、襟元の血の痕。
だから、影のある眼差し。
「お主、絹屋の李明、で間違いないか」
「はい」
「儂、ある噂を聞いてな」
「噂、ですか」
「うむ。
絹屋の李家の次男坊が、黄巾が来ると言っている、と」
ど直球の質問が、続いた。
「お主、何故、黄巾が来ると確信しておる?」
俺はしばらく考えた。
正直に話すか、はぐらかすか。
徐庶の眼差しは、嘘を許さない、と告げていた。
営業マンとして、二十五年。
こういう相手には、誠実が一番だ。
「徐庶殿、答える前に、一つ聞いてもよろしいですか」
「うむ」
「あなた、最近、北の方から来られましたよね」
徐庶の眉が、わずかに上がった。
「……何故、そう思う」
「靴です」
「靴?」
「底が、北方の硬い土でしか、削れない減り方を、しています」
「……」
「そして、襟元の汚れ。
南方の柔らかい土ではなく、北方の戦場の砂。
血の痕も、残っています」
「……」
徐庶はしばらく無言だった。
そしてぽつりと。
「お前、観察眼が、鋭いな」
「ありがとうございます」
「儂は、確かに潁川から来た」
「潁川……」
「うむ。
戦場を見た。
民が踏みにじられた」
徐庶の目に、わずかに、悲しみが、よぎった。
「李明殿、率直に聞かせてくれ」
徐庶は続けた。
「お主の予言は、何に基づいておる?」
俺は、まっすぐ徐庶を見た。
「予言、ではなく、推測です」
「ほう?」
「南陽郡の状況、官軍の動き、商人の情報網。
それらを総合すると、黄巾が襄陽に来るのは、必至です」
「具体的には、いつ」
「およそ、二十四日後」
徐庶は、しばらく俺を見つめた。
「日にちまで、特定するか」
「はい」
「お主、ただ者では、ないな」
「ありがとうございます」
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徐庶 信頼度:40 → 50(+10)
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そして、徐庶は提案した。
「李明殿、もしよろしければ、お主の家に、お邪魔してもよいか」
「えっ」
「儂、放浪の身。
お主の話を、もう少し、聞いてみたい」
「もちろん、ぜひ」
俺は深く頭を下げた。
ただし、心の中では、警戒も、忘れていなかった。
徐庶の過去には、何かがある。
すぐに、全てを信頼することは、できない。
居間で、お茶を出した。
徐庶は、ゆっくりとお茶を飲みながら、俺を観察していた。
「李明殿」
「はい」
「お主、いくつだ」
「十六です」
「十六で、その目をしているか」
「……はい」
「不思議じゃな」
徐庶は、ふっと笑った。
そして、改めて口を開いた。
「儂、ここまで来る前に、ある男に会った」
「ある男?」
「儂の友、石韜と言う。
潁川の塾で、一緒に学んだ仲だ」
「……」
「彼は儂に、こう言った。
『お主が、その若僧に会ったら、面白いことが起こるかもしれん』、と」
「……」
「だから、儂、来たのだ」
「ありがとうございます」
徐庶はしばらく俺を見つめた。
そしてぽつりと。
「李明殿、儂、お主に、ある提案がある」
「うむ?」
「もしお主が、本当に家族を守り抜けたら」
「はい」
「儂、もう少し、お主と付き合ってみたい」
ただ、その言葉には、重みがあった。
「付き合ってみたい」は、「仕えてもよい」とは違う。
徐庶は、まだ、俺を、見定めている。
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徐庶 信頼度:50 → 60(+10)
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「徐庶殿、ありがとうございます」
俺は深く頭を下げた。
居間に、黄忠が、入ってきた。
二人を、紹介した。
「儂、黄忠と申す」
「徐庶でござる」
「ほう、潁川の出か」
「黄忠殿は、お主、武人か」
「うむ。
元・官軍の弓隊長だ」
黄忠は、ふと、何かに気づいたように、徐庶を見た。
「お主、剣を、捨てたか」
徐庶の表情が、わずかに、固まった。
「……何故、分かる」
「武人の勘だ。
お主、若い頃に、剣を握っておった。
だが、今は、握っていない」
「……」
徐庶は、しばらく、無言だった。
そして、ぽつりと。
「儂、若い頃、過ちを犯した。
それで、剣を、捨てた」
「うむ」
黄忠は、深く頷いた。
「過去は、変えられん。
だが、今、何を、するかは、お主次第だ」
徐庶の目が、わずかに、揺れた。
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徐庶 信頼度:60 → 65(+5)
黄忠の言葉で、心が動いた様子
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昼。
母が、徐庶の分も含めて、昼食を用意した。
「徐庶殿、たんとお食べくださいな」
「かたじけない」
徐庶は、ぺこりと頭を下げた。
そして、母の作った料理を、一口食べた。
「……うまい」
ぽつりと言った。
「儂、母の手料理を、最後に食べたのが、いつだったか」
「徐庶殿の、お母様は……」
母が心配そうに聞いた。
「儂、放浪の身でな。
母を、潁川に置いてきた」
「まあ」
「いつか、母を、迎えに行きたいのだが、まだ、その時ではない」
徐庶は、目を伏せた。
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徐庶 信頼度:65 → 70(+5)
母への話で、心を開きかけている
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昼食後。
徐庶が、しばらく李家に滞在することになった。
「李明殿」
徐庶が、ぽつりと言った。
「はい」
「儂、お主の家を、自分の家のように、思って、いいか」
「もちろん」
「ありがとう」
徐庶は、深く頭を下げた。
だが、その目には、まだ、影が残っていた。
そして、その夜。
俺は自分の部屋で、頭の中のシステムを開いた。
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【6日目終了:リザルト】
主要な縁の状況:
・徐庶(Aレア・新規):40 → 70(順調に上昇)
・黄忠(Sレア):70 → 73(着実に上昇)
・張小六(Dレア・配下):85
家族:
・李潤(父):82
・李澄(兄):78
・李綾(妹):100(完全解放)
・陳氏(母):74
[!]今日の重要進捗
・徐庶(Aレア)と縁を結ぶ
・徐庶の過去(剣を捨てた経緯)の一端を知る
・徐庶が李家に滞在開始
[!]黄巾の波及まで:24日
[!]累計信頼度ポイント:43pt
(次のガチャまで、あと57pt)
地位ランク:Rank 1(補正×1.3)
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「……」
俺はウィンドウを、見つめた。
徐庶は、確かにAレアの逸材だ。
だが、簡単に、信頼関係を結べる相手じゃない。
過去の影。
守るべき母。
そして、自分を見定めようとする眼差し。
……一人の人間として、本気で向き合わなきゃならない。
そして、その夜中。
居間で、徐庶と黄忠が、二人だけで、話していた。
「黄忠殿」
「うむ」
「あの若僧、どう見る」
「ふむ……」
黄忠は、夜空を見上げた。
「不思議な男だ。
商家の息子にしては、目が違う」
「儂もそう思う」
徐庶は頷いた。
「黄忠殿、明日、儂、ある男を、迎えに行こうと思っておる」
「ほう?」
「儂の友、石韜だ。
彼にも、あの若僧を、見せたい」
「うむ」
二人は、しばらく、無言で、夜空を、見ていた。
そして、徐庶が、ぽつりと。
「儂、まだ、決めかねておる」
「何を」
「あの若僧に、本気で、仕えるか、どうか」
「……」
「もう少し、見させてもらおう」
徐庶の目が、暗闇で、光った。
次回予告
Stage 1:徐庶の友、現る
七日目。
徐庶が、もう一人の友・石韜を迎えに行く。
[!]新たな縁の予兆
徐庶の友・石韜
知略型、ある特徴を持つ男
そして、その日、李明は知ることになる。
徐庶が、まだ、自分を「主」として認めていない、ということを。
[次話に続く]




