第3話 Stage 1:今度こそ、守るための29日
「兄さま、お湯冷ましをお持ちしました」
綾のお湯冷まし。
もう何回目だろう。
二週目に入って、二日。
俺はベッドの上で、何度も同じ朝を迎えていた。
もちろん、本当は二日目だ。
だが、頭の中には、一週目の三十二日分の記憶が、生々しく残っている。
妹を、守って、死んだ。
兄が囮になった。
父が傷を負った。
母が泣いていた。
すべて、過去のものになった。
それでも頭の中の記憶は、消えてくれない。
────────────────────────
残り寿命:5,046日(一週目から30日減)
[!]黄巾の波及まで:27日
第一段階:荊州の実権を掌握せよ
信頼度ポイント:12pt(前回死亡時に凍結)
配下:張小六(Bレア、襄陽郊外)
主人公の地位ランク:Rank 0(商家の次男坊・補正×1.0)
────────────────────────
「兄さま? お湯、冷めちゃいますよ」
綾の声で、俺は我に返った。
「あ、ああ、ありがとう」
俺はお椀を受け取った。
ゆっくりお湯を飲む。
温かい。
喉が、潤う。
生きてる、という、当たり前のことが、これほど、ありがたいと感じたことは、なかった。
「綾」
「はい」
「お前、お父さまと、お母さまは、もうお店に?」
「はい、朝早くから」
「兄さんは?」
「お兄さまは、二階で、帳簿を……」
「分かった」
俺はベッドから立ち上がった。
今日から、本気を出す。
二十七日。
たった、二十七日。
だが、二十七日もある。
一週目の俺は家族との時間を大事にして、信頼度ポイントを少しずつ稼いで、街の情勢を眺めていた。
のんびり、しすぎた。
今度は、違う。
「綾、ちょっと出かけてくる」
「お出かけ、ですか? まだ、病み上がりですよ?」
「もう大丈夫だ」
俺は綾の頭に手を置いた。
「お前のことは、絶対に守る。
約束、覚えてるか?」
「あ、はい、もちろん覚えてます。
昨日、おっしゃってましたよね」
「ああ」
俺は頷いた。
昨日。
二週目の、昨日。
ロード直後、俺は綾を抱きしめた。
そして「お前のこと絶対守る」と、約束した。
一週目の俺はそれを口だけだった。
結果、妹を、巻き込んだ。
今度は、違う。
「綾、留守の間、絶対家から出るな」
「は、はい?」
「絶対に、だ」
「……はい」
綾は不思議そうな顔をしたが、こくりと頷いた。
────────────────────────
李綾(妹・12歳) 信頼度:88 → 90(+2)
基礎+1 × 補正×1.0 × Cレア×1.5(家族補正) = +2
現在の合計:14pt
────────────────────────
「あれ?」
俺はウィンドウを見て首を傾げた。
「家族補正?」
注意書きをよく見ると、家族には「家族補正」が付くらしい。
レアリティとは別の、特別補正。
これがなかったら、Cレア相当の妹でもまだまだ上がりにくかったのか。
「ありがてぇシステム……」
俺はその小さな頭をもう一度撫でた。
そして部屋を出た。
二階に上がると、兄が机に向かっていた。
頭上に、文字。
────────────────────────
李澄(兄・22歳) 信頼度:55/100
武力25/知力60/政治65/魅力50 性格:実直・寡黙
[家族/Cレア相当]
────────────────────────
信頼度、55。
一週目では、何度か話して、65まで上げた。
だが、ロードしたことで、この数字は、最初の値に戻っている。
……というか。
そうだ。
ロードした瞬間に、また、信頼度を、ゼロから積み上げ直さなきゃならない、ってことだ。
「ふっざけんなよ……」
俺は心の中で毒づいた。
だが、文句を言っても、始まらない。
「兄さん」
「……明か」
兄は振り向きもせず、答えた。
一週目と、同じ反応。
だが、俺は知っている。
この男が家族のために、命を懸けられる男だ、と。
賊の前に立ちはだかって、剣を握った、あの兄の姿は、本物だった。
「兄さん、聞きたいことがある」
「うむ」
「うちの店、護衛は、何人いる?」
兄の手が止まった。
そしてゆっくり振り向いた。
「お前、なぜ、そんなことを聞く?」
「ちょっと考えたんだ」
俺は慎重に言葉を選んだ。
「黄巾は、北だけじゃない。
江南にも、来る。
南陽郡から、襄陽にも、波及するかもしれない」
「……」
「だから、護衛が、必要だと思う」
兄はしばらく俺を見つめていた。
そしてぽつりと。
「お前、川で頭を打ったのか」
「……まあ、そう思ってくれ」
「ふっ」
兄は苦笑した。
そして机の引き出しから、書類を取り出した。
「うちの常雇いの護衛は、二人だ」
「たった、二人?」
「商家としては、これでも多い方だ」
「……」
「ただし、襄陽の街には、傭兵を雇える場所がある。
非常時には、追加で、五人くらいは雇える」
「五人……」
俺は頭の中で計算した。
一週目、襲ってきた賊は五十人。
二人プラス五人で、七人。
全然、足りない。
「兄さん」
「うむ」
「もう少し多く、雇えないか?」
「お前、いくらかかると思ってる?
一人あたり、月に銀十両だぞ」
「……」
「七人で、月に七十両。
うちの絹の売り上げの、半分が、消える」
「……」
商人の現実は、シビアだった。
護衛を増やせば、儲けが減る。
だが、護衛を増やさなければ、命が危ない。
一週目の俺はこれを、知らなかった。
「兄さん」
「うむ」
「もし、俺が銀を稼いできたら、護衛を、増やせるか?」
「お前が?」
兄が目を細めた。
「どうやって、稼ぐ」
「……それは、これから考える」
「ふっ」
兄は笑った。
「明、お前、本当に変わったな。
川で溺れたのが、よかったのかもしれん」
「酷い言い草だな」
「事実だ」
────────────────────────
李澄 信頼度:55 → 58(+3)
基礎+2 × 補正×1.0 × 家族補正×1.5 = +3
現在の合計:17pt
────────────────────────
「兄さん、もう一つ」
「うむ」
「兄さん、剣の腕、どのくらいだ?」
兄の眉が、わずかに動いた。
「いきなりなんだ」
「ちょっと答えてくれ」
「……一年ほど、町の道場に通った。
基本は、できる。だが、実戦は、ない」
「武器は、持ってる?」
「家に一振り、ある」
「……」
俺は一週目の襲撃を、思い出していた。
兄が店で抜いた剣。
賊の腕をかすめた、あの一撃。
兄の剣は、家にあった、その一振りだったはずだ。
だが、それは、賊が二人になった時、押し負けた。
兄が囮になった時、兄を守れなかった。
もっといい剣が、必要だ。
そして思い出した。
天女の、ヒント。
「兄に、剣を」
……あれは、こういう意味、だったのか。
「兄さん」
「うむ?」
「いい剣を買おう。
今の剣じゃ、ダメだ」
「お前、本気か」
「ああ」
兄はまた、しばらく俺を見つめた。
そしてふっと笑った。
「明、今日、お前と話してると、不思議な気持ちになるな」
「そうか」
「ああ。
まるで、お前が、未来から来た男のようだ」
「……」
俺はぎくり、とした。
まさか、本当にそうだとは。
「冗談だ」
兄が笑った。
「だが、剣の話は、考えてみよう。
父上に、相談してくる」
「ありがとう、兄さん」
────────────────────────
李澄 信頼度:58 → 63(+5)
基礎+3 × 補正×1.0 × 家族補正×1.5 + 信頼ボーナス×0.5 = +5
現在の合計:22pt
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「ふぅ」
俺は息を吐いた。
家族補正があっても、なかなか上がらない。
これが、補正なしの一般人だったら、もっと辛いんだろうな。
俺は兄に頭を下げて、部屋を出た。
階段を、降りながら、俺は頭の中で計画を立てていた。
二十七日で、やるべきこと。
一、護衛を、増やす(銀の確保)
二、兄に、良い剣を渡す
三、ガチャを、引き続ける(信頼度ポイント稼ぎ)
四、張小六と、合流する
五、街の情報を、集める
六、家族を、説得して、避難の準備をさせる
七、自分の地位を、上げる(ランクアップで信頼度上昇率UP)
やることが、多すぎる。
だが、やらなきゃならない。
……ふと思った。
「これ、リゼロのスバルって、こんな気持ちだったんだろうな」
俺は苦笑した。
ロード直後の主人公の絶望と決意。
ある意味、なろう小説で、何度も読んだやつだ。
まさか、自分が、その立場になるとは。
「やれやれ……」
俺は口元を緩めた。
そして玄関に向かった。
玄関で、母と、お春が洗濯物を、運んでいた。
「あら、明。お出かけ?」
「ああ、ちょっと街に」
「もう大丈夫なの?」
「うん、大丈夫」
「無理は、しないでね」
「分かってる、母さん」
母は優しく微笑んだ。
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陳氏 信頼度:68 → 70(+2)
基礎+1 × 補正×1.0 × 家族補正×1.5 = +2
現在の合計:24pt
────────────────────────
そしてお春がこちらに、近づいてきた。
「明さま、お出かけなら、私がご案内を……」
「いや、一人で大丈夫だ」
「ですが、まだ病み上がりで……」
「お春」
俺は彼女の目を見た。
「お前は、綾を、頼む。
ずっと、綾の側に、いてやってくれ」
「あ、はい」
「綾は家から絶対に出すな」
「は、はい?」
「頼む」
お春は不思議そうな顔をしたが、頷いた。
「……分かりました」
────────────────────────
お春 信頼度:50 → 52(+2)
基礎+2 × 補正×1.0 × Cレア×1.5 = +3(端数調整+2)
現在の合計:26pt
────────────────────────
俺は二人に、頭を下げて、家を出た。
襄陽の郊外。
春の風が、心地よかった。
道は、土埃が、舞っている。
馬車や、行商人が、行き交う。
俺はしばらくその風景を、眺めていた。
一週目では、ほとんど、街に出なかった。
出る必要が、なかったから。
そして出ようと思った時には、もう賊が来ていた。
今度は、違う。
「まずは、ガチャの配下、張小六と、会ってみるか」
俺は頭の中の地図を、確認した。
────────────────────────
ガチャ獲得済み配下:張小六(Bレア・22歳)
位置:襄陽郊外・西方向、徒歩で約一時間
[向かう] [後にする]
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「行ってみるか」
俺は西の方向に、歩き出した。
一時間ほど、歩いた。
民家が、まばらになっていく。
田畑が、広がる。
そして小さな農家が、見えてきた。
庭で、若い男が鍬を振っていた。
頭上に、文字。
────────────────────────
張小六(22歳・農夫の息子) 信頼度:80/100
武力35/知力12/政治10/統率20/魅力30
性格:素直、忠実
[Bレア/ガチャ獲得済み・配下化済み]
────────────────────────
「李明様!」
男が振り向いて俺を見るなり、ぱっと顔を輝かせた。
「あんた、知ってんの? 俺のこと」
そしてなぜか、自分でも不思議そうな顔をした。
「いや、変だな……
俺、あんたに会うの、初めてのはずなのに、
ずっと、あんたを探してた気がするんだ」
俺は心の中で頷いた。
これが、ガチャの効果か。
ポイントを払って、信頼関係構築のフェーズを、丸ごとスキップした結果。
相手の中に、最初から「主従の縁」が結ばれている。
日に焼けた肌。
たくましい体。
そして人のよさそうな、まっすぐな目。
日に焼けた肌。
たくましい体。
そして人のよさそうな、まっすぐな目。
そしてその目には、初対面のはずなのに、深い信頼の色があった。
「李明様、ええと、俺、農夫の息子の、張小六、と言います。
なんか、あんたのこと知らないはずなのに、
心の奥で『この人だ』って、確信があって」
「……」
俺は頷いた。
「俺もだ。お前のこと知ってる気がする」
「やっぱり、そうですか」
張小六は嬉しそうに、笑った。
「李明様、何でも俺に言ってください。
俺、農作業しかできないけど、力仕事は得意です。
あんたのためなら、何でもします」
ガチャの効果が、現れている。
信頼度80、即時配下化。
主従の絆が、最初から、構築されている状態。
これは、本当に便利だ。
「張小六」
「はい!」
「お前、聞いてほしいことがある」
「はい!」
「うちの店、近々、賊に襲われるかもしれない。
黄巾の、賊だ」
張小六の目がわずかに見開かれた。
「黄巾……北の連中ですか?」
「ああ。南陽郡から、襄陽に波及してくる」
「……」
「お前、力仕事、得意だよな」
「はい!」
「お前には、家族の避難を、手伝ってほしい。
もし、賊が来たら、うちの妹と、母さんを、安全な場所に連れ出してほしい」
「分かりました! お任せください、李明様!」
即答だった。
ガチャの配下は、本当にありがたい。
「給料は、月に、銀二両、出す」
「いやいや、李明様」
張小六が首を振った。
「俺、給料なんて、いらないですよ」
「は?」
「俺、ただ、李明様のお役に、立ちたいだけです。
あんたに仕えること自体が、俺にとっての報酬、というか」
「……」
俺はウィンドウを見た。
信頼度80。
配下化済み。
絶対に近い、忠誠。
これが、ガチャの真価か。
「いや、給料は、ちゃんと払う」
俺は首を振った。
「お前にも、家族がいるんだろう?
働いてもらう以上、対価は、必要だ」
「李明様……」
張小六は目を潤ませた。
「ありがとう、ございます」
そして深く頭を下げた。
「明日から、毎日、夜は、うちの店の近くに、いてほしい。
そして、何かあったら、すぐに駆けつけてほしい」
「はい! お任せください!」
────────────────────────
張小六 信頼度:80 → 85(+5)
基礎+5 × 補正×1.0 × Bレア×1.0 = +5
※ガチャ配下は信頼度80スタートのため、80→90の範囲で
軽い加算が積み重なり、すぐに絶対忠誠(90以上)になります
現在の合計:17pt
────────────────────────
「……」
俺はウィンドウを見て頷いた。
ガチャ配下は、最初から、強い。
「じゃあ、よろしく頼む」
「はい、李明様!」
俺は張小六と、別れた。
帰り道。
俺は襄陽の中心街に向かった。
街は、活気があった。
商人、武人、農民、子供。
たくさんの人の頭上に、信頼度の数字と、ステータスが、浮かんでいた。
大半は、Cレアの数字。
たまに、Bレアの誰かが、混じる程度。
そしてふと俺はある場所に目を奪われた。
街の隅。
寂れた酒場の前に、男が一人、座り込んでいた。
中年の、いや、初老に近い、男。
無精髭。
古びた服。
そしてその腰には、立派な剣。
だが、男は明らかに酒を飲みすぎていた。
顔は赤く、目は虚ろだった。
そしてその男の頭上に、浮かぶ文字を、俺は見た。
────────────────────────
黄忠 字:漢升 45歳
武力:92/統率:88/知力:68/政治:65/魅力:80
[Sレア]
状態:浪人・酒浸り
信頼度:30/100
[!]警告:Sレア武将は信頼度上昇率が極めて低い
補正値:×0.4
目安:基礎+5でも+2しか上がりません
────────────────────────
「……」
俺はしばらくその文字を、見つめた。
「……マジか」
俺の声が震えた。
黄忠。
字は、漢升。
後の、蜀の五虎大将軍の、一人。
老将ながら、関羽と一騎打ちで互角に渡り合った、伝説の弓の名手。
その男が。
こんなところで。
浪人として、酒浸りに、なっている。
「……マジかよ」
俺はもう一度呟いた。
そして震える足でその男に、近づいた。
黄忠はこちらに、気づいた。
そしてゆっくり顔を上げた。
赤い目が俺を、捉えた。
男はしばらく俺を見つめた。
そしてぽつりと、呟いた。
「お主、儂に、何か用か」
「……」
一週目の、夢のような展開とは、違う。
こいつは、まだ俺のことを「主」とは、認めていない。
当たり前だ。
商家の次男坊。
Rank 0、ただの若僧。
そんな俺に、Sレアの英雄が、初対面で心を開くわけがない。
だが、俺は頭の中の通知を、思い出した。
────────────────────────
[!]縁発見
半径50km以内のSレア武将「黄忠」が、
あなたを「興味のある若者」として認識しました。
※ガチャで引いていなくても、行動次第で「縁」が発生します。
※ただし、信頼関係を築くには、長い時間と労力が必要です。
────────────────────────
「興味のある若者……」
俺は息を呑んだ。
これは、まだ最初の一歩。
「黄忠さん、ですよね」
俺は丁寧に、聞いた。
「お主、儂のことを、知っておるのか」
「……知ってます」
「ほう」
黄忠は酒の入った杯を、一気に空けた。
そしてにやりと笑った。
「お主、何故、儂に、声をかけた?」
「俺は家族を、守りたい。
そして、近々、賊に襲われる、と、確信しています」
「ほう」
「だから、強い人を、雇いたい」
「儂が強い、と、見えるか?」
「はい」
俺はまっすぐ、答えた。
「あなたの、目を見れば、分かります」
「……」
黄忠の目がわずかに見開かれた。
「お主、面白いことを、言うな」
「すみません、生意気を」
「いや、いい」
────────────────────────
黄忠 信頼度:30 → 32(+2)
基礎+5 × 補正×1.0 × Sレア×0.4 = +2
現在の合計:38pt
────────────────────────
「……」
俺はウィンドウを、見た。
上がった。
たった、二ポイント。
「ですよねー」
俺は心の中でため息をついた。
Sレアは、本当に上がらない。
もし、俺の地位が、もっと高ければ。
例えば、Rank 6、荊州実権者なら、補正×4.0。
そしたら、同じことを言って、+8、上がる。
だが、今の俺はRank 0。
商家の次男坊。
黄忠を、信頼度80まで、上げるには。
ざっと計算して、五十回くらい、こんなやり取りを、しなきゃならない。
「……気が、遠くなりそうだな」
だが、やるしかない。
「黄忠さん」
「うむ?」
「俺の家族、賊に襲われたら、皆殺しに、されると思います」
「……」
「父も母も兄も妹も。
全員、死ぬ」
「……」
「あなたが、いれば、それを、止められるかもしれない」
「……」
「お願いします」
俺は深く頭を下げた。
「家族を、守って、ください」
しばらく沈黙が、流れた。
黄忠は無言で、酒を、見つめていた。
そしてぽつりと、言った。
「……お主本気か」
「本気、です」
「儂はもう四十五だ。
弓も、剣も、昔ほどでは、ない」
「それでもいい、です」
「……」
黄忠はしばらく考え込んだ。
────────────────────────
黄忠 信頼度:32 → 36(+4)
基礎+10(命を懸けた頼み) × 補正×1.0 × Sレア×0.4 = +4
現在の合計:42pt
────────────────────────
「……」
俺はウィンドウを見てため息をついた。
命を懸けた頼みでも+4。
これが、Sレアの厳しさ、か。
だが、+4でも+4だ。
やれることを、やる。
黄忠は立ち上がった。
ふらりと、よろけた。
だが、その立ち姿は、酔っ払いの、それじゃなかった。
武人の、それだった。
「李明、と、言ったな」
「はい」
「儂は何も、約束は、しない」
「はい」
「だが、お主の家に行ってみる。
話を、聞いてやろう」
「……っ」
俺は息を呑んだ。
「ありがとう、ございますっ!」
「礼は、まだ早い」
黄忠は笑った。
────────────────────────
黄忠 信頼度:36 → 40(+4)
基礎+10(行動の決断を引き出した) × 補正×1.0 × Sレア×0.4 = +4
現在の合計:46pt
[!]黄忠が家を訪問する意志を示しました。
訪問段階の信頼度:40
雇用段階の信頼度目安:60
配下化条件:80
────────────────────────
「……長い道のりだな」
俺は心の中で呟いた。
信頼度80に、するためには。
まだまだ信頼を、積み重ねなきゃならない。
だが、それでも第一歩は、踏み出せた。
ガチャで引いていない、Sレア武将。
諸葛亮には、まだ遠い。
だが、Sレアの黄忠が家を訪問してくれる、というところまで来た。
これは、十分な、進歩だ。
黄忠と一緒に、襄陽の街を歩いた。
黄忠は思った以上に、しっかり、歩いていた。
酔いが、覚めてきたのか、それとも、最初から、そこまで酔っていなかったのか。
「李明」
「はい」
「お主、いくつだ」
「十六、です」
「若いな」
「はい」
「商家の息子が、なぜ、こんなに、剣呑な話をする」
「……予感が、あるんです」
「予感、か」
「はい」
黄忠はしばらく考えた。
そしてぽつりと。
「儂もな、最近、嫌な予感が、あった」
「え?」
「夜空を、見ると、嫌な気が、たまっておる。
戦は、近い。
大きな戦、だ」
「……」
「だが、官軍に戻る気は、ない。
儂を、追い出した連中の、下に、もう一度つけと言われても、御免だ」
「分かります」
「だから、儂は酒に、逃げていた」
「……」
「だが、お主面白い」
黄忠が俺を、見た。
「商家の息子に、こんな話を、聞かされるとはな」
「……」
────────────────────────
黄忠 信頼度:40 → 42(+2)
基礎+5 × 補正×1.0 × Sレア×0.4 = +2
現在の合計:48pt
────────────────────────
「お主、もう少し地位があれば、儂ももっと真剣に話を聞いてやれるんじゃがな」
黄忠がぽつりと言った。
「地位、ですか」
「うむ。
商家の息子、というのは、悪くないが」
「商家の息子は、ダメですか」
「いや、ダメではない。
ただ、儂のような、官軍の出だった者からすれば、まだ軽い」
「……」
俺はウィンドウの「地位ランク」を、思い出した。
Rank 0。
ただの、商家の次男坊。
これが、Rank 3、県の名士なら。
Rank 5、州牧配下の重臣なら。
きっと、黄忠はもっと心を開いてくれる。
「黄忠さん」
「うむ?」
「俺、必ずもっと上に行きます」
「ほう?」
「県の名士に、なります。
郡の重要人物に、なります。
いずれ、荊州の実権を、握ります」
黄忠が目を瞬かせた。
「お主、本気でそう、思っておるのか」
「はい」
「……ふっ、ふははっ!」
黄忠は声を上げて、笑った。
「面白い!
商家の次男坊が、荊州を、握る、か!」
「俺は本気です」
「うむ、本気だな。
お主の目を見れば、分かる」
────────────────────────
黄忠 信頼度:42 → 48(+6)
基礎+15(壮大な野望の表明) × 補正×1.0 × Sレア×0.4 = +6
現在の合計:54pt
────────────────────────
「お、上がった」
俺はウィンドウを見てガッツポーズした。
+6。
Sレアにしては、まあまあの上昇。
やはり、大きな野望を語ると、上がりやすい。
家に戻った。
黄忠を、紹介した。
父も母も兄も最初は、戸惑った。
突然、酒臭い浪人を、連れて帰った息子。
だが、俺は必死に、説明した。
「この方は、元、官軍の弓隊長です。
俺は、この方を、家の警備として、雇いたい」
「明、何を、言ってるんだ」
父が困惑した。
「父さん、信じてください。
俺、絶対家族を、守りたいんです」
「……」
父はしばらく考えた。
そして黄忠を、見た。
「黄忠殿、と、申されたか」
「うむ」
「あなた、本当に官軍の出か」
「うむ。証文は、ない。
不当な処分で、追われた身だからな」
「……」
父はまた、しばらく考えた。
そしてぽつりと。
「明、お前、この方を、信用しているか」
「はい」
「では、儂はお前を、信用しよう」
父は頷いた。
「黄忠殿、お世話に、なります」
「……」
黄忠の目がわずかに見開かれた。
「儂を、信用するのか」
「息子が、信用すると、言いましたから」
「……」
黄忠はしばらく無言だった。
そしてぽつりと。
「儂はいい家に来たようだ」
────────────────────────
黄忠 信頼度:48 → 54(+6)
基礎+15(家族からの信頼を見せた) × 補正×1.0 × Sレア×0.4 = +6
現在の合計:60pt
李潤(父) 信頼度:60 → 66(+6)
基礎+4 × 補正×1.0 × 家族補正×1.5 = +6
現在の合計:66pt
[!]黄忠の段階:警備引き受け前段階
信頼度60到達で、警備として正式雇用予定
────────────────────────
信頼度、54。
まだ警備として正式雇用には、達していない。
だが、ここから、共同生活を始めれば、毎日、信頼度を積めるはずだ。
焦らず、地道に、やる。
ガチャで引いた配下と違って、Sレア武将は、簡単には付いてこない。
だが、その分、信頼を勝ち取った時の喜びは、大きい。
その日の夜。
俺は自分の部屋に戻った。
そして頭の中の、システムを、開いた。
────────────────────────
【2日目終了:リザルト】
信頼度ポイント獲得:+49pt(合計61pt)
主な獲得:
・張小六(既に配下):+5(80→85、配下化済みの微増)
・黄忠 :+24(縁発見、地道に積み中)
・李澄(兄) :+8
・李潤(父) :+6
・李綾(妹) :+2
・陳氏(母) :+2
・お春(侍女) :+2
[!]ガチャ配下と縁発見の対比
・張小六(ガチャ・Bレア):信頼度80スタート、即配下化済み
・黄忠(縁発見・Sレア):信頼度54、配下化までまだ遠い
[!]黄忠との縁、進行中
現在の信頼度:54(雇用前段階)
毎日の共同生活で、信頼度+2〜3が見込まれます。
現在のリソース:
・信頼度ポイント:61pt
・ガチャ可能回数:0(あと39ptで1回)
・配下:張小六(Bレア・信頼度85)、黄忠(Sレア・信頼度54・暫定)
[!]黄巾の波及まで:26日
第一段階:荊州の実権を掌握せよ
残り:5,045日
地位ランク:Rank 0(補正×1.0)
────────────────────────
「……」
俺はウィンドウを、見つめた。
二日で、66pt。
一週目とは、まるで、違う。
だが、Sレアの上がりにくさが、リアルに感じられる、二日でもあった。
「諸葛亮を、引くまでに、何日かかるんだ……」
俺はため息をついた。
「いや、引く前に、ガチャに10,000pt、必要なのか……」
「やれやれ」
そしてふっと、笑った。
「だが、やってやろうじゃねぇか」
死に戻りRPGの、二週目。
主人公はRank 0、商家の次男坊。
だが、いつか、必ずRank 6、荊州実権者に、なる。
そして諸葛亮を、引く。
そのために、まず、家族を、守る。
次回予告
Stage 1:兄に剣を街に銀をランクを上げろ
三日目。
黄忠を、家に置いた李明は、次の手を打ち始める。
・兄・李澄に、良い剣を渡すための、資金集め
・襄陽の街での、追加情報収集
・更なる配下のスカウト
・自身のランクアップへの道
そしてその動きを、見ている者が、いた。
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[!]新たな縁、発見
半径50km以内の人物が、あなたに興味を示しています。
名前:徐庶/字:元直
25歳・浪人中
[Sレア]
[!]注意:Sレア武将は、補正×0.4
信頼関係構築には、相応の地位と時間が必要です。
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「……マジかよ」
「Sレア、もう一人、か」
「ガチャ引く前に、もう一人、味方が増えるのか……」
「ありがてぇ……だが、信頼度上げるの、しんどいな……」
李明の二週目は加速していく。
ただし、Sレアの壁は、厚い。
[次話に続く]




