第2話 Stage 1:黄巾来襲、奪われたもの
「兄さま……」
綾の震える声。
「窓の外に、灯りが、いっぱい」
俺は布団から、跳ね起きた。
頭の中で警告音が、鳴っていた。
────────────────────────
[!]EMERGENCY
黄巾軍、李家屋敷へ侵入中
推定50名、武装あり
推奨アクション:直ちに家族の避難を
────────────────────────
「……マジか」
俺は息を呑んだ。
来た。
予想通り、いや、予想より、早かった。
転生から、三十二日。
家族に、警告した。
父にも、兄にも、母にも、何度も言った。
「黄巾が、来る」
「南陽郡から、来る」
「準備をしないと、危ない」
だが、家族は、信じてくれなかった。
『明、お前、考え過ぎだ』
『官軍が、ちゃんと止めてくれる』
『うちは、商家だ。賊にも、商売の話を、すれば通じる』
そんな、楽観的な言葉が、返ってくるばかりだった。
「父さんっ!」
俺は叫んだ。
そして綾の手を引いた。
「綾、起きろ! 早く!」
「兄、さま……?」
「逃げるぞ!」
俺は綾を、引き寄せた。
その小さな体は、震えていた。
────────────────────────
李綾 体調:パニック状態
武力2/知力25/政治10/魅力60 体質:虚弱
────────────────────────
「綾、深呼吸しろ。
大丈夫だ。俺が、いるから」
「……はい」
綾はこくりと頷いた。
俺はその手をしっかりと握った。
そして廊下に飛び出した。
廊下は、すでに、混乱していた。
母が慌てて、廊下を走ってきた。
「明っ! 明ぁっ!」
「母さん、こっちだ!」
「綾は無事ねっ!?」
「ああ、無事だ! 父さんと兄さんは!?」
「お父さまは、お店に降りて、賊と話そうとっ……」
「マジかよ……」
俺は頭を抱えた。
商人は、賊に金を払えば、見逃してもらえる、と思っている節がある。
だが、黄巾は、ただの賊じゃない。
宗教反乱だ。
彼らの目的は、金じゃなく、漢の打倒。
商人は、彼らの目から見れば、搾取する側だ。
話が、通じる相手じゃない。
「母さん、綾を頼む! 裏口から、外に逃げろ!」
「あなたは!?」
「俺は父さんを連れ戻してくる!」
「明っ! 危ないわっ!」
「いいから、行けっ!」
俺は母に、綾を渡した。
そして走り出した。
階段を、駆け下りた。
その下で、兄が剣を持って、待ち構えていた。
頭上に、文字。
────────────────────────
李澄(兄・22歳) 信頼度:78/100
武力25/知力60/政治65/魅力50 性格:実直・寡黙
状態:戦闘準備
────────────────────────
「兄さん!」
「明か」
「父さんは!?」
「店だ。
俺が、行く。お前は、母さんと綾を、頼む」
「いや、兄さん」
「言うな」
兄は俺の肩を、強く掴んだ。
「家族を、守るのは、長男の役目だ」
「……」
「お前は、まだ十六歳だ。
俺が、行く」
兄の目は覚悟していた。
俺の知っている、寡黙で真面目な兄じゃなかった。
そこには、家族を守る男の、覚悟が、宿っていた。
「兄さん、俺も行く」
「明」
「俺、剣は持てないけど、頭は使える。
父さんを、説得して、連れて帰る」
「……」
兄はしばらく黙った。
そしてゆっくり頷いた。
「お前、変わったな、本当に」
「川で溺れて、頭を打ったからな」
「……ふっ」
兄が笑った。
こんな時に、笑った。
「行くぞ」
「ああ」
店の方から、怒鳴り声が聞こえてきた。
俺と兄は廊下を、走った。
そして店の入口に、辿り着いた。
そこには、地獄が、広がっていた。
血。
火。
倒れた、使用人たち。
壊された、絹の反物。
そして店の真ん中に、父が立っていた。
頭上に、文字。
────────────────────────
李潤(父・45歳) 信頼度:83/100
武力15/知力55/政治70/魅力50 性格:実直
状態:負傷・出血中
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腕から、血が流れていた。
そしてその周りに、黄色い布を頭に巻いた男たちが、数人。
「商人風情が、抵抗するな!」
「金を出せばいいんだろう、と思うな!
我らは、漢を、滅ぼすために、来た!」
「お前のような、民を搾取する商人こそ、敵だっ!」
父はそれでも毅然と立っていた。
「うちは絹を適正な価格で、売っている。
搾取は、していない」
「黙れっ!」
賊の一人が、剣を振り上げた。
「父さんっ!」
兄が叫んだ。
そして走り出した。
「兄さん、待っ……!」
俺の制止は、間に合わなかった。
兄は剣を抜いた。
そして父の前に、立ちはだかった。
「父上を、傷つけるな!」
「お、若いの!」
賊が笑った。
「商人の息子か。
血の気の多い」
「……」
兄は剣を構えた。
姿勢は、悪くなかった。
だが、明らかに相手の方が、慣れていた。
「兄さんっ!」
俺は駆け寄ろうとした。
その時。
「明っ! 下がれっ!」
兄が叫んだ。
そして剣を振った。
「ぐっ」
賊の一人が、後退った。
兄の剣が、相手の腕をかすめた。
────────────────────────
李澄(兄) 武力25
vs 黄巾賊(推定武力40)
戦闘判定:劣勢
────────────────────────
「兄さんっ!」
俺は叫んだ。
そして自分の頭の中に、ウィンドウを呼び出した。
────────────────────────
[!]EMERGENCY
戦闘発生
推奨アクション:信頼度ポイントで臨時援軍を呼ぶ
必要ポイント:100pt(Cレア兵卒×3)
現在のポイント:12pt
ポイント不足。
────────────────────────
「ふざけんなっ!」
俺は舌打ちした。
ガチャを引く時間も、援軍を呼ぶ時間も、ない。
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[!]WARNING
李澄の信頼度低下:78 → 75
戦闘で恐怖を感じています
【可能アクション】
・声をかけて、奮起させる(信頼度+効果)
・自分が前に出る(リスク大)
・逃走を促す(信頼度下降)
────────────────────────
「兄さんっ!」
俺は叫んだ。
「兄さんは、絶対家族を守れる男だっ!」
「俺は信じてるっ!」
兄がはっと、こちらを見た。
そして目が変わった。
────────────────────────
李澄 信頼度:75 → 90(+15)
状態:奮起
武力25 → 30(一時補正)
────────────────────────
「……明」
兄は息を、吐いた。
そして剣を握り直した。
「分かった」
兄が剣を振った。
その動きは、さっきまでとは、別人だった。
迷いが、なかった。
「ぐっ」
賊の一人が、剣を取り落とした。
兄はその隙に、父を、後ろに引き寄せた。
「父上、後ろにっ!」
「澄っ……」
父が目に涙を浮かべて、兄を見た。
「明、こっちだ!」
俺は頷いて走った。
そして父と、兄と、合流した。
「兄さん、よくやった」
「……お前のおかげだ」
「逃げるぞ! 裏口から!」
俺と、兄と、父。
三人で、店の裏口に、走った。
しかし。
裏口の前に、別の賊が立っていた。
二人。
両方とも、武装している。
────────────────────────
黄巾賊(武力40)×2
[!]WARNING
退路を遮断されています
推奨アクション:別の経路を探す
────────────────────────
「ちっ……」
俺は舌打ちした。
「父上、お怪我は」
「……大丈夫だ」
父は息を切らせていた。
腕の傷は、深そうだった。
「兄さん、こいつら、二人いる。
お前一人じゃ、無理だ」
「分かってる」
「待て、別の道を……」
「明!」
兄が俺の肩を、掴んだ。
「お前と父上は、裏庭から、塀を越えろ。
俺が、こいつらを、引きつける」
「……は?」
「行けっ!」
「いや、待ってくれ、兄さん」
「明、お前は、頭を使うんだろう?
俺たち全員が、ここで死んだら、母さんと綾は誰が守る?」
「……」
俺は息を呑んだ。
その通りだった。
俺たちが全員、ここで死んだら。
裏口から逃げた母と綾もいずれ、追いつかれる。
誰かが、囮になる必要がある。
「兄さん、俺が……」
「お前じゃ、囮になれない。
お前は、剣も、持てんだろう」
「……」
兄の言う通りだった。
俺は剣を持ったこともない。
ここで囮になっても、すぐに殺される。
兄なら、まだ時間を稼げる。
「……分かった」
俺は頷いた。
そして兄の肩を、掴んだ。
「兄さん、絶対生きてくれ」
「ああ」
「絶対迎えに行く」
「ああ」
兄は笑った。
覚悟の、笑みだった。
そして賊に向かって走り出した。
「お前らっ! 俺が相手だっ!」
賊の二人が、振り向いた。
「商人の若造かっ!」
俺と父はその隙に、裏庭に走った。
裏庭。
塀の向こうから、母と綾の声が聞こえた。
「明! お父さま!」
「綾、母さん!」
俺は塀に、駆け寄った。
そして父を、押し上げた。
「父上、上れ!」
「明、お前は」
「俺もすぐ後を、上る!」
父はなんとか、塀を、越えた。
その時。
「ぎゃっ……!」
店の方から、叫び声がした。
兄の声だった。
「兄さん……っ!」
俺は振り向こうとした。
その時。
「逃すかっ!」
別の賊が裏庭に走り込んできた。
剣を振りかぶっていた。
「明っ!」
母の叫び声。
そして。
「兄さま!!」
塀の向こうから、綾の悲鳴。
俺は振り向いた。
賊が剣を振り下ろした。
時間が、ゆっくり流れた。
その剣の軌道は――俺じゃなく、その向こうの、何かに、向かっていた。
そう、思った瞬間。
塀を越えて、こちらに、戻ってきた、小さな影が、あった。
────────────────────────
李綾(妹・12歳) 信頼度:100/100
状態:兄を守ろうとしている
────────────────────────
「綾っ……!」
俺は叫んだ。
そして自分の体を、動かした。
考える、暇は、なかった。
体が、勝手に動いた。
俺は綾を、押しのけた。
そして自分の体で、その剣を受けた。
「ぐ……」
胸に、衝撃。
熱い、何か。
そして痛み。
ものすごい、痛み。
「ぐぼっ……!」
口から、血が溢れた。
「兄、さま……っ!」
綾の絶叫。
俺は地面に、倒れた。
そしてその背中を、綾の小さな手が必死に、揺らした。
「兄さま、兄さまっ! 起きて、起きてください!」
「あ……あ……」
俺は目を開けた。
綾の顔が滲んで見えた。
涙で、ぐちゃぐちゃに、なっていた。
「綾……」
「兄さま、お願いっ、死なないで、死なないでっ!」
俺は最後の力で、手を伸ばした。
そして綾の頬に、触れた。
「綾」
「兄さま……っ」
「ごめん、な」
「……」
「もっと強くなっておけば、よかった」
「……っ」
「お前を、守る、って、約束、したのに」
「兄さま、兄さまっ……!」
俺の意識が、薄れていった。
頭の中でシステムの、声がした。
────────────────────────
[!]CRITICAL
プレイヤーの生命活動が停止します
自動セーブ地点:転生3日目朝
ロード時、寿命1ヶ月消費
寿命:5,078日 → 5,048日(30日減少)
……死亡を、確認しました。
────────────────────────
「……」
俺は最後に、綾の顔を見た。
そして。
「お前は、生きろ」
「俺が必ず迎えに来る」
そう、心の中で呟いた。
意識が暗転した。
「目を覚ましたか、若僧」
低い、威厳のある声がした。
俺は目を開けた。
そこは――どこかの庭園だった。
桃の花が満開だった。
ピンクの花びらが、ひらひらと舞っている。
足元には、苔むした石。
横には、澄んだ池。
向こうには、東屋。
そして東屋の中で、白髪白髭の老人がお茶を飲んでいた。
「ここに来るのは、初めてじゃな。よく来た」
俺はしばらく声が出なかった。
胸の、刺された場所が、痛む気がした。
体は、無傷のはずなのに。
「綾は……」
俺は絞り出すように、聞いた。
「綾は無事か」
老人はゆっくり頷いた。
「妹は、無事じゃ。
兄もな。父も、母も無事じゃ」
「……」
俺は息を吐いた。
そしてもう一度聞いた。
「兄さんは、無事、なんだな」
「うむ。お主が囮になった隙に、兄は賊を倒して、塀を越えた」
「……そうか」
俺は頷いた。
良かった。
家族は、無事だった。
だが。
「俺は死んだ、んだな」
「うむ」
老人はお茶をすすった。
「お主はよくやった。
妹を守って、死んだ。
立派な、最期じゃった」
「……」
俺は自分の手のひらを、見た。
血は、付いていなかった。
傷も、なかった。
ここは、死後の世界、なんだろう。
そして俺は思い出した。
寿命タイマー。
セーブ&ロード。
死に戻り、と書かれていた、能力。
「……戻れる、んだよな?」
俺は聞いた。
「うむ」
老人は頷いた。
「お主は戻れる。
ただし、寿命を一ヶ月、削る」
「……」
俺は息を吐いた。
「やってくれ」
「うむ」
老人は満足げに、頷いた。
そしてふと表情が、変わった。
「李明、その前に、一つ、大事なことを、伝えておく」
「……?」
「お主、誰の心も、信頼度100まで、上げられんかったか」
俺はしばらく考えた。
「……綾も88まで、しか」
「だろうな」
老人が頷いた。
「お主、いいか、よく聞け」
老人が初めて、本気の顔をした。
「ロードすると、信頼度は、リセットされる」
「……ですよねー」
「だが、もし、誰かの信頼度を、100まで、上げられたら」
「……」
「その者の『心の鍵』だけは、お主の中に、残る」
「心の、鍵?」
「うむ。
絶対の信頼関係を築いた相手の、心の奥底。
その者が、何に興味を持ち、何に心を開くか。
その答えが、お主の中に、永遠に残る」
「……マジか」
「マジじゃ」
老人は深く頷いた。
「次に戻された時、信頼度はゼロから積み直しじゃ。
じゃが、100まで上げた相手の『心の鍵』だけは、お主の知識として、残る」
「……」
「次の周回では、その鍵を使って、効率的に、心を開かせろ」
俺は息を呑んだ。
これは、死に戻りの、本当の意義だ。
ただ、何度も死ぬんじゃない。
一周ごとに、賢くなる。
一周ごとに、武将たちの心をより深く理解する。
「死ぬ前に、なるべく多くの者と、深い絆を築け」
老人が続けた。
「それが、お主の本当の武器じゃ」
「……はい」
俺は深く頭を下げた。
そしてふと思った。
一週目の俺は誰の信頼度も、100にできなかった。
だから、今回は、何の情報も、継承されない。
二週目の俺はまっさらな状態で、また、家族と出会う。
「ふっざけんなよ……」
俺は心の中で毒づいた。
だが、しかし。
今回、知った。
死に戻りの、仕組みを。
これからは、誰かの信頼度を100にしてから、死ねば、次に活きる。
「分かりました」
俺は頷いた。
「次は、絶対誰かを100にしてやる」
「うむ、その意気じゃ」
老人が笑った。
そして表情を、戻した。
「ところで、お主サウナは好きか?」
「……は?」
「儂はな、最近サウナにハマっておってな」
「……いや、ちょっと待ってください」
俺は目の前の老人を、見つめた。
「いま、そういう、話、する場面ですか?」
「うん? いつ話せばいいんじゃ?」
「いや、もう少しシリアスな空気を……」
「ロウリュとは何か、お主は知っておるか?」
「いや、知ってるけど」
「そうか! よくぞ知っておった!」
老人が興奮した。
「儂もな、ロウリュをやってみたいんじゃ。
じゃが、儂の住むこの仙境には、サウナがなくてな」
「……」
俺は頭を抱えた。
「いやちょっと待ってください、本当に」
「うん?」
「俺、いまものすごく、シリアスな状況、だったんですよ」
「うむ、そうじゃな」
「妹を、守って、死んだんですよ」
「うむ」
「家族のために、死を、覚悟して」
「うむ」
「それなのに、第一声がサウナ?」
「いや、第一声は『目を覚ましたか』じゃろう」
「……」
俺は息を、吐いた。
そしてふっと笑った。
なんだか、この老人を見ていると、力が、抜けた。
死を覚悟して、必死で、戦って、刺されて、死んで、最後に泣いて、絶望して。
それが、全部、馬鹿馬鹿しく、思えるくらい。
「……あんた、神様、なんだよな」
「うむ。儂は天命を司る者じゃ」
「マジで?」
「マジじゃ」
「『マジ』って使うんだ」
「お主が使うから、儂も使ってみた」
「……」
俺は苦笑した。
そしてふと視界の端に、気づいた。
池の畔に、誰かが、立っていた。
白い天女装束。
長い黒髪。
透き通るような肌。
そして――息を呑むほど、美しい。
「……あの、神様」
「うん?」
「あちらの、お方は……?」
俺の質問に、老人は得意げに胸を反らした。
「うむ、よくぞ聞いた。あれは、儂の――」
「うちのコじゃ」
「うちのコ……」
「弟子のようなものでな。名は明かせんが」
「あ、あの、お話、してもいいですか」
俺はつい、聞いてしまった。
老人はにやりと笑った。
「お主、彼女いない歴、何年じゃ?」
「……十二年です」
「ふぉっふぉっふぉ!」
老人は声を上げて笑った。
「儂もな、若い頃はモテたものじゃが」
「……」
「いやな、儂はまだ若い。お主と比べれば、まあ、千倍ほど若い」
「あんた、何歳なんですか」
「五千歳じゃ」
「……」
「五千歳でも心は若い。
あのコと話すのは、儂の役目じゃ。
お主のような若僧には早い」
「いや、俺、四十二歳ですけど」
「ふん、まだまだじゃ」
老人は嬉しそうに天女に手を振った。
天女は静かに微笑んだ。
俺の方には、視線も向けない。
「……」
くそ、神様、邪魔だぞ。
俺は心の中で毒づいた。
そして不思議なことに。
その時、初めて、俺は笑った。
転生から、ずっと、緊張していた。
家族を守る、ために、必死だった。
そして死んだ。
その絶望の直後に、こんな間抜けな神様と、天女と、サウナの話と。
「……ありがてぇ」
俺は呟いた。
「うん?」
「いや、こっちの話です」
俺は首を振った。
そして老人に、聞いた。
「俺、戻れるんですよね」
「うむ」
「いつから、戻れる?」
「ロードは、転生3日目の朝、にセーブされておる。
今は、転生32日目じゃ。
つまり、お主は29日分、巻き戻る」
「……29日」
「うむ。
その分、妹と、家族と、関係を築き直さなあかんがな」
「……」
俺は頷いた。
「ステータスも、見られるんですよね」
「うむ」
────────────────────────
【死後の世界ステータス確認】
【PLAYER】李明(中身:田中健一)
残り寿命:5,048日(5,078日 - 30日)
【YEAR】中平元年(西暦184年)3月末 ← NEW
メインクエスト進捗:第一段階・残り5,048日
第一段階:荊州の実権を掌握せよ
信頼度ポイント:12pt(死亡時点で凍結)
ガチャ可能回数:0
史実フラグ:
[!]黄巾の乱:勃発済み、荊州への波及(南陽郡経由)
配下:張小六(Bレア・農夫の息子)
自動セーブ地点:転生3日目朝
【死因の記録】
・1回目:黄巾賊の襲撃、妹を庇って斬られる
────────────────────────
「……」
俺はステータスを、見た。
「中平元年。西暦184年」
「……マジか」
「マジじゃ」
「黄巾の乱、もう始まってる」
「うむ。二月にな」
俺は頭を抱えた。
「最悪のタイミングじゃねぇか……」
「ちなみに、お主の住む荊州・襄陽には」
老人はにっこりと笑った。
「すでに南陽郡経由で、賊が侵入し始めておる。
今回お主が遭ったのは、その先発隊じゃ」
「……ですよねー」
俺はため息をついた。
「俺が次にロードされる、転生3日目の朝から、襲撃まで、29日」
「うむ。準備しろよ、若僧」
「……はい」
俺は頭を下げた。
「では、ロードを発動するぞ」
老人が手をかざした。
「あ、待ってください」
俺は最後に、天女の方を、見た。
天女はこちらを見ていた。
そして唇が、わずかに動いた。
「兄に、剣を」
それだけ言って、また微笑んだ。
「おっと、お主何を話そうとしておるか!」
老人が慌てて間に入った。
「あのコと話すのは、まだ早い! もう戻すぞ!」
「いや、神様、別に俺、ナンパしようとして」
「うるさい、戻れ!」
老人が手をかざした。
視界がぐにゃりと歪んだ。
「あ……」
俺は桃の花びらが舞い散る中で、意識を失った。
「兄さま、お湯冷ましをお持ちしました」
知らない、いや、知っている声。
俺は目を開けた。
そこは、ベッドの上だった。
そして隣で、妹の綾が椀を持って、心配そうに俺を覗き込んでいた。
「兄さま、お湯冷ましをお持ちしました」
俺はしばらくその顔を見つめた。
涙で、ぐちゃぐちゃに、なっていた、あの顔。
「兄さま」と、絶叫した、あの声。
俺の頬を、必死に、触っていた、あの小さな手。
それが、今、ここにある。
無事に。
笑顔で。
「綾」
俺は震える声で、その名を呼んだ。
「……綾」
「は、はい? 兄さま、どうされたんですか?」
俺はベッドから起き上がった。
そして綾を、強く抱きしめた。
「お、お兄さま……?」
「綾……」
「ど、どうされたんですか? 何か、悪い夢でも?」
「……ああ、悪い夢を見た」
俺は笑った。
涙がこぼれた。
「お前が、死ぬ夢だ」
「……」
「もう絶対見たくない」
俺は綾を、ぎゅっと、抱きしめた。
────────────────────────
李綾 信頼度:72 → 80(+8)
獲得ポイント:+8
現在の合計:8pt
────────────────────────
「……」
俺はポイントを、見た。
そして苦笑した。
「死に戻り、RPGかよ」
俺は呟いた。
「だが、よし、来やがれ」
「今度こそ、絶対守ってやる」
俺は綾を、離した。
そしてその目をまっすぐ、見た。
「綾、お湯冷まし、ありがとうな」
「は、はい……」
「これから、俺、忙しくなる」
「兄さま?」
「お前にも、いっぱい、迷惑かけるかもしれない」
「あ、はい?」
「だが、覚悟、しろよ」
俺はニッと笑った。
「お前のこと絶対守る」
────────────────────────
李綾 信頼度:80 → 88(+8)
獲得ポイント:+8
現在の合計:16pt
────────────────────────
「ふふ、変な兄さま」
綾が笑った。
俺の知っている、優しい、聡明な、十二歳の妹。
────────────────────────
【SYSTEM】
Stage 1:襄陽の春、再開幕(2周目)
メインクエスト:天下統一(第一段階:荊州の実権掌握)
残り期限:5,048日(30日減少)
[!]黄巾の波及まで:29日
Game Restart
────────────────────────
死に戻り、RPG。
二週目、スタートだ。
田中健一、四十二歳。
李明、十六歳。
商家の次男坊が、家族を守るために、二度目の人生を走り出す。
今度こそ、絶対に、悔いを残さない。
次回予告
Stage 1:今度こそ、守るための29日
転生3日目の朝、ロード完了。
李明は、覚悟を決めた。
「家族に、信じてもらえないなら、自分で動く」
「武器を集める。人を雇う。情報を集める」
29日後の襲撃に備え李明は、本気を出す。
[!]サブクエスト発生
・兄に剣を渡す(天女のヒント)
・襄陽の町で武装商人を雇う
・張小六と合流する
そしてその町で、李明は、ある男に、出会う。
「お主が儂の主に、なる男か」
無精髭を生やした、40代の浪人風の男。
頭上に、文字。
黄忠 字:漢升 45歳
武力:92/統率:88/知力:68/政治:65/魅力:80
【Sレア】
「……マジかよ」
[次話に続く]




