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『三国志に転生したら死に戻りRPGだった件  〜寿命14年、武将ガチャで天下統一を目指す40代独身営業マン〜』  作者: ライディーンたけ


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第2話 Stage 1:黄巾来襲、奪われたもの


「兄さま……」


綾の震える声。


「窓の外に、灯りが、いっぱい」


俺は布団から、跳ね起きた。


頭の中で警告音が、鳴っていた。



────────────────────────

[!]EMERGENCY

 黄巾軍、李家屋敷へ侵入中

 推定50名、武装あり

 推奨アクション:直ちに家族の避難を

────────────────────────



「……マジか」


俺は息を呑んだ。


来た。


予想通り、いや、予想より、早かった。


転生から、三十二日。

家族に、警告した。

父にも、兄にも、母にも、何度も言った。


「黄巾が、来る」

「南陽郡から、来る」

「準備をしないと、危ない」


だが、家族は、信じてくれなかった。


『明、お前、考え過ぎだ』

『官軍が、ちゃんと止めてくれる』

『うちは、商家だ。賊にも、商売の話を、すれば通じる』


そんな、楽観的な言葉が、返ってくるばかりだった。


「父さんっ!」


俺は叫んだ。


そして綾の手を引いた。


「綾、起きろ! 早く!」


「兄、さま……?」


「逃げるぞ!」


俺は綾を、引き寄せた。


その小さな体は、震えていた。



────────────────────────

李綾 体調:パニック状態

武力2/知力25/政治10/魅力60 体質:虚弱

────────────────────────



「綾、深呼吸しろ。

 大丈夫だ。俺が、いるから」


「……はい」


綾はこくりと頷いた。


俺はその手をしっかりと握った。


そして廊下に飛び出した。




廊下は、すでに、混乱していた。


母が慌てて、廊下を走ってきた。


「明っ! 明ぁっ!」


「母さん、こっちだ!」


「綾は無事ねっ!?」


「ああ、無事だ! 父さんと兄さんは!?」


「お父さまは、お店に降りて、賊と話そうとっ……」


「マジかよ……」


俺は頭を抱えた。


商人は、賊に金を払えば、見逃してもらえる、と思っている節がある。

だが、黄巾は、ただの賊じゃない。

宗教反乱だ。

彼らの目的は、金じゃなく、漢の打倒。

商人は、彼らの目から見れば、搾取する側だ。


話が、通じる相手じゃない。


「母さん、綾を頼む! 裏口から、外に逃げろ!」


「あなたは!?」


「俺は父さんを連れ戻してくる!」


「明っ! 危ないわっ!」


「いいから、行けっ!」


俺は母に、綾を渡した。


そして走り出した。




階段を、駆け下りた。


その下で、兄が剣を持って、待ち構えていた。


頭上に、文字。



────────────────────────

李澄(兄・22歳) 信頼度:78/100

武力25/知力60/政治65/魅力50 性格:実直・寡黙

状態:戦闘準備

────────────────────────



「兄さん!」


「明か」


「父さんは!?」


「店だ。

 俺が、行く。お前は、母さんと綾を、頼む」


「いや、兄さん」


「言うな」


兄は俺の肩を、強く掴んだ。


「家族を、守るのは、長男の役目だ」


「……」


「お前は、まだ十六歳だ。

 俺が、行く」


兄の目は覚悟していた。


俺の知っている、寡黙で真面目な兄じゃなかった。

そこには、家族を守る男の、覚悟が、宿っていた。


「兄さん、俺も行く」


「明」


「俺、剣は持てないけど、頭は使える。

 父さんを、説得して、連れて帰る」


「……」


兄はしばらく黙った。


そしてゆっくり頷いた。


「お前、変わったな、本当に」


「川で溺れて、頭を打ったからな」


「……ふっ」


兄が笑った。

こんな時に、笑った。


「行くぞ」


「ああ」




店の方から、怒鳴り声が聞こえてきた。


俺と兄は廊下を、走った。


そして店の入口に、辿り着いた。


そこには、地獄が、広がっていた。


血。

火。

倒れた、使用人たち。

壊された、絹の反物。


そして店の真ん中に、父が立っていた。


頭上に、文字。



────────────────────────

李潤(父・45歳) 信頼度:83/100

武力15/知力55/政治70/魅力50 性格:実直

状態:負傷・出血中

────────────────────────



腕から、血が流れていた。


そしてその周りに、黄色い布を頭に巻いた男たちが、数人。


「商人風情が、抵抗するな!」


「金を出せばいいんだろう、と思うな!

 我らは、漢を、滅ぼすために、来た!」


「お前のような、民を搾取する商人こそ、敵だっ!」


父はそれでも毅然と立っていた。


「うちは絹を適正な価格で、売っている。

 搾取は、していない」


「黙れっ!」


賊の一人が、剣を振り上げた。


「父さんっ!」


兄が叫んだ。


そして走り出した。


「兄さん、待っ……!」


俺の制止は、間に合わなかった。


兄は剣を抜いた。

そして父の前に、立ちはだかった。


「父上を、傷つけるな!」


「お、若いの!」


賊が笑った。


「商人の息子か。

 血の気の多い」


「……」


兄は剣を構えた。

姿勢は、悪くなかった。

だが、明らかに相手の方が、慣れていた。


「兄さんっ!」


俺は駆け寄ろうとした。


その時。


「明っ! 下がれっ!」


兄が叫んだ。


そして剣を振った。


「ぐっ」


賊の一人が、後退った。


兄の剣が、相手の腕をかすめた。



────────────────────────

李澄(兄) 武力25

vs 黄巾賊(推定武力40)


戦闘判定:劣勢

────────────────────────



「兄さんっ!」


俺は叫んだ。


そして自分の頭の中に、ウィンドウを呼び出した。



────────────────────────

[!]EMERGENCY

 戦闘発生

 推奨アクション:信頼度ポイントで臨時援軍を呼ぶ

 必要ポイント:100pt(Cレア兵卒×3)

 現在のポイント:12pt


ポイント不足。

────────────────────────



「ふざけんなっ!」


俺は舌打ちした。


ガチャを引く時間も、援軍を呼ぶ時間も、ない。



────────────────────────

[!]WARNING

 李澄の信頼度低下:78 → 75

 戦闘で恐怖を感じています


【可能アクション】

 ・声をかけて、奮起させる(信頼度+効果)

 ・自分が前に出る(リスク大)

 ・逃走を促す(信頼度下降)

────────────────────────



「兄さんっ!」


俺は叫んだ。


「兄さんは、絶対家族を守れる男だっ!」


「俺は信じてるっ!」


兄がはっと、こちらを見た。


そして目が変わった。



────────────────────────

李澄 信頼度:75 → 90(+15)

状態:奮起

武力25 → 30(一時補正)

────────────────────────



「……明」


兄は息を、吐いた。


そして剣を握り直した。


「分かった」


兄が剣を振った。


その動きは、さっきまでとは、別人だった。

迷いが、なかった。


「ぐっ」


賊の一人が、剣を取り落とした。


兄はその隙に、父を、後ろに引き寄せた。


「父上、後ろにっ!」


「澄っ……」


父が目に涙を浮かべて、兄を見た。


「明、こっちだ!」


俺は頷いて走った。


そして父と、兄と、合流した。


「兄さん、よくやった」


「……お前のおかげだ」


「逃げるぞ! 裏口から!」


俺と、兄と、父。

三人で、店の裏口に、走った。




しかし。


裏口の前に、別の賊が立っていた。


二人。

両方とも、武装している。



────────────────────────

黄巾賊(武力40)×2


[!]WARNING

 退路を遮断されています

 推奨アクション:別の経路を探す

────────────────────────



「ちっ……」


俺は舌打ちした。


「父上、お怪我は」


「……大丈夫だ」


父は息を切らせていた。

腕の傷は、深そうだった。


「兄さん、こいつら、二人いる。

 お前一人じゃ、無理だ」


「分かってる」


「待て、別の道を……」


「明!」


兄が俺の肩を、掴んだ。


「お前と父上は、裏庭から、塀を越えろ。

 俺が、こいつらを、引きつける」


「……は?」


「行けっ!」


「いや、待ってくれ、兄さん」


「明、お前は、頭を使うんだろう?

 俺たち全員が、ここで死んだら、母さんと綾は誰が守る?」


「……」


俺は息を呑んだ。


その通りだった。


俺たちが全員、ここで死んだら。

裏口から逃げた母と綾もいずれ、追いつかれる。


誰かが、囮になる必要がある。


「兄さん、俺が……」


「お前じゃ、囮になれない。

 お前は、剣も、持てんだろう」


「……」


兄の言う通りだった。


俺は剣を持ったこともない。

ここで囮になっても、すぐに殺される。


兄なら、まだ時間を稼げる。


「……分かった」


俺は頷いた。


そして兄の肩を、掴んだ。


「兄さん、絶対生きてくれ」


「ああ」


「絶対迎えに行く」


「ああ」


兄は笑った。

覚悟の、笑みだった。


そして賊に向かって走り出した。


「お前らっ! 俺が相手だっ!」


賊の二人が、振り向いた。


「商人の若造かっ!」


俺と父はその隙に、裏庭に走った。




裏庭。


塀の向こうから、母と綾の声が聞こえた。


「明! お父さま!」


「綾、母さん!」


俺は塀に、駆け寄った。


そして父を、押し上げた。


「父上、上れ!」


「明、お前は」


「俺もすぐ後を、上る!」


父はなんとか、塀を、越えた。


その時。


「ぎゃっ……!」


店の方から、叫び声がした。


兄の声だった。


「兄さん……っ!」


俺は振り向こうとした。


その時。


「逃すかっ!」


別の賊が裏庭に走り込んできた。


剣を振りかぶっていた。


「明っ!」


母の叫び声。


そして。


「兄さま!!」


塀の向こうから、綾の悲鳴。


俺は振り向いた。


賊が剣を振り下ろした。


時間が、ゆっくり流れた。


その剣の軌道は――俺じゃなく、その向こうの、何かに、向かっていた。


そう、思った瞬間。


塀を越えて、こちらに、戻ってきた、小さな影が、あった。



────────────────────────

李綾(妹・12歳) 信頼度:100/100

状態:兄を守ろうとしている

────────────────────────



「綾っ……!」


俺は叫んだ。


そして自分の体を、動かした。


考える、暇は、なかった。


体が、勝手に動いた。


俺は綾を、押しのけた。


そして自分の体で、その剣を受けた。


「ぐ……」


胸に、衝撃。

熱い、何か。

そして痛み。


ものすごい、痛み。


「ぐぼっ……!」


口から、血が溢れた。


「兄、さま……っ!」


綾の絶叫。


俺は地面に、倒れた。


そしてその背中を、綾の小さな手が必死に、揺らした。


「兄さま、兄さまっ! 起きて、起きてください!」


「あ……あ……」


俺は目を開けた。


綾の顔が滲んで見えた。


涙で、ぐちゃぐちゃに、なっていた。


「綾……」


「兄さま、お願いっ、死なないで、死なないでっ!」


俺は最後の力で、手を伸ばした。


そして綾の頬に、触れた。


「綾」


「兄さま……っ」


「ごめん、な」


「……」


「もっと強くなっておけば、よかった」


「……っ」


「お前を、守る、って、約束、したのに」


「兄さま、兄さまっ……!」


俺の意識が、薄れていった。


頭の中でシステムの、声がした。



────────────────────────

[!]CRITICAL

 プレイヤーの生命活動が停止します

 自動セーブ地点:転生3日目朝

 ロード時、寿命1ヶ月消費


 寿命:5,078日 → 5,048日(30日減少)


 ……死亡を、確認しました。

────────────────────────



「……」


俺は最後に、綾の顔を見た。


そして。


「お前は、生きろ」


「俺が必ず迎えに来る」


そう、心の中で呟いた。


意識が暗転した。




「目を覚ましたか、若僧」


低い、威厳のある声がした。


俺は目を開けた。


そこは――どこかの庭園だった。


桃の花が満開だった。

ピンクの花びらが、ひらひらと舞っている。

足元には、苔むした石。

横には、澄んだ池。

向こうには、東屋。


そして東屋の中で、白髪白髭の老人がお茶を飲んでいた。


「ここに来るのは、初めてじゃな。よく来た」


俺はしばらく声が出なかった。


胸の、刺された場所が、痛む気がした。

体は、無傷のはずなのに。


「綾は……」


俺は絞り出すように、聞いた。


「綾は無事か」


老人はゆっくり頷いた。


「妹は、無事じゃ。

 兄もな。父も、母も無事じゃ」


「……」


俺は息を吐いた。


そしてもう一度聞いた。


「兄さんは、無事、なんだな」


「うむ。お主が囮になった隙に、兄は賊を倒して、塀を越えた」


「……そうか」


俺は頷いた。


良かった。


家族は、無事だった。


だが。


「俺は死んだ、んだな」


「うむ」


老人はお茶をすすった。


「お主はよくやった。

 妹を守って、死んだ。

 立派な、最期じゃった」


「……」


俺は自分の手のひらを、見た。


血は、付いていなかった。

傷も、なかった。


ここは、死後の世界、なんだろう。


そして俺は思い出した。


寿命タイマー。

セーブ&ロード。

死に戻り、と書かれていた、能力。


「……戻れる、んだよな?」


俺は聞いた。


「うむ」


老人は頷いた。


「お主は戻れる。

 ただし、寿命を一ヶ月、削る」


「……」


俺は息を吐いた。


「やってくれ」


「うむ」


老人は満足げに、頷いた。


そしてふと表情が、変わった。


「李明、その前に、一つ、大事なことを、伝えておく」


「……?」


「お主、誰の心も、信頼度100まで、上げられんかったか」


俺はしばらく考えた。


「……綾も88まで、しか」


「だろうな」


老人が頷いた。


「お主、いいか、よく聞け」


老人が初めて、本気の顔をした。


「ロードすると、信頼度は、リセットされる」


「……ですよねー」


「だが、もし、誰かの信頼度を、100まで、上げられたら」


「……」


「その者の『心の鍵』だけは、お主の中に、残る」


「心の、鍵?」


「うむ。

 絶対の信頼関係を築いた相手の、心の奥底。

 その者が、何に興味を持ち、何に心を開くか。

 その答えが、お主の中に、永遠に残る」


「……マジか」


「マジじゃ」


老人は深く頷いた。


「次に戻された時、信頼度はゼロから積み直しじゃ。

 じゃが、100まで上げた相手の『心の鍵』だけは、お主の知識として、残る」


「……」


「次の周回では、その鍵を使って、効率的に、心を開かせろ」


俺は息を呑んだ。


これは、死に戻りの、本当の意義だ。


ただ、何度も死ぬんじゃない。

一周ごとに、賢くなる。

一周ごとに、武将たちの心をより深く理解する。


「死ぬ前に、なるべく多くの者と、深い絆を築け」


老人が続けた。


「それが、お主の本当の武器じゃ」


「……はい」


俺は深く頭を下げた。


そしてふと思った。


一週目の俺は誰の信頼度も、100にできなかった。

だから、今回は、何の情報も、継承されない。


二週目の俺はまっさらな状態で、また、家族と出会う。


「ふっざけんなよ……」


俺は心の中で毒づいた。


だが、しかし。


今回、知った。

死に戻りの、仕組みを。

これからは、誰かの信頼度を100にしてから、死ねば、次に活きる。


「分かりました」


俺は頷いた。


「次は、絶対誰かを100にしてやる」


「うむ、その意気じゃ」


老人が笑った。


そして表情を、戻した。


「ところで、お主サウナは好きか?」


「……は?」


「儂はな、最近サウナにハマっておってな」


「……いや、ちょっと待ってください」


俺は目の前の老人を、見つめた。


「いま、そういう、話、する場面ですか?」


「うん? いつ話せばいいんじゃ?」


「いや、もう少しシリアスな空気を……」


「ロウリュとは何か、お主は知っておるか?」


「いや、知ってるけど」


「そうか! よくぞ知っておった!」


老人が興奮した。


「儂もな、ロウリュをやってみたいんじゃ。

 じゃが、儂の住むこの仙境には、サウナがなくてな」


「……」


俺は頭を抱えた。


「いやちょっと待ってください、本当に」


「うん?」


「俺、いまものすごく、シリアスな状況、だったんですよ」


「うむ、そうじゃな」


「妹を、守って、死んだんですよ」


「うむ」


「家族のために、死を、覚悟して」


「うむ」


「それなのに、第一声がサウナ?」


「いや、第一声は『目を覚ましたか』じゃろう」


「……」


俺は息を、吐いた。


そしてふっと笑った。


なんだか、この老人を見ていると、力が、抜けた。


死を覚悟して、必死で、戦って、刺されて、死んで、最後に泣いて、絶望して。

それが、全部、馬鹿馬鹿しく、思えるくらい。


「……あんた、神様、なんだよな」


「うむ。儂は天命を司る者じゃ」


「マジで?」


「マジじゃ」


「『マジ』って使うんだ」


「お主が使うから、儂も使ってみた」


「……」


俺は苦笑した。


そしてふと視界の端に、気づいた。


池の畔に、誰かが、立っていた。


白い天女装束。

長い黒髪。

透き通るような肌。

そして――息を呑むほど、美しい。


「……あの、神様」


「うん?」


「あちらの、お方は……?」


俺の質問に、老人は得意げに胸を反らした。


「うむ、よくぞ聞いた。あれは、儂の――」


「うちのコじゃ」


「うちのコ……」


「弟子のようなものでな。名は明かせんが」


「あ、あの、お話、してもいいですか」


俺はつい、聞いてしまった。


老人はにやりと笑った。


「お主、彼女いない歴、何年じゃ?」


「……十二年です」


「ふぉっふぉっふぉ!」


老人は声を上げて笑った。


「儂もな、若い頃はモテたものじゃが」


「……」


「いやな、儂はまだ若い。お主と比べれば、まあ、千倍ほど若い」


「あんた、何歳なんですか」


「五千歳じゃ」


「……」


「五千歳でも心は若い。

 あのコと話すのは、儂の役目じゃ。

 お主のような若僧には早い」


「いや、俺、四十二歳ですけど」


「ふん、まだまだじゃ」


老人は嬉しそうに天女に手を振った。

天女は静かに微笑んだ。


俺の方には、視線も向けない。


「……」


くそ、神様、邪魔だぞ。


俺は心の中で毒づいた。


そして不思議なことに。


その時、初めて、俺は笑った。


転生から、ずっと、緊張していた。

家族を守る、ために、必死だった。

そして死んだ。


その絶望の直後に、こんな間抜けな神様と、天女と、サウナの話と。


「……ありがてぇ」


俺は呟いた。


「うん?」


「いや、こっちの話です」


俺は首を振った。


そして老人に、聞いた。


「俺、戻れるんですよね」


「うむ」


「いつから、戻れる?」


「ロードは、転生3日目の朝、にセーブされておる。

 今は、転生32日目じゃ。

 つまり、お主は29日分、巻き戻る」


「……29日」


「うむ。

 その分、妹と、家族と、関係を築き直さなあかんがな」


「……」


俺は頷いた。


「ステータスも、見られるんですよね」


「うむ」



────────────────────────

【死後の世界ステータス確認】


【PLAYER】李明(中身:田中健一)

残り寿命:5,048日(5,078日 - 30日)

【YEAR】中平元年(西暦184年)3月末 ← NEW


メインクエスト進捗:第一段階・残り5,048日

第一段階:荊州の実権を掌握せよ


信頼度ポイント:12pt(死亡時点で凍結)

ガチャ可能回数:0


史実フラグ:

 [!]黄巾の乱:勃発済み、荊州への波及(南陽郡経由)


配下:張小六(Bレア・農夫の息子)


自動セーブ地点:転生3日目朝


【死因の記録】

・1回目:黄巾賊の襲撃、妹を庇って斬られる

────────────────────────



「……」


俺はステータスを、見た。


「中平元年。西暦184年」


「……マジか」


「マジじゃ」


「黄巾の乱、もう始まってる」


「うむ。二月にな」


俺は頭を抱えた。


「最悪のタイミングじゃねぇか……」


「ちなみに、お主の住む荊州・襄陽には」


老人はにっこりと笑った。


「すでに南陽郡経由で、賊が侵入し始めておる。

 今回お主が遭ったのは、その先発隊じゃ」


「……ですよねー」


俺はため息をついた。


「俺が次にロードされる、転生3日目の朝から、襲撃まで、29日」


「うむ。準備しろよ、若僧」


「……はい」


俺は頭を下げた。


「では、ロードを発動するぞ」


老人が手をかざした。


「あ、待ってください」


俺は最後に、天女の方を、見た。


天女はこちらを見ていた。


そして唇が、わずかに動いた。


「兄に、剣を」


それだけ言って、また微笑んだ。


「おっと、お主何を話そうとしておるか!」


老人が慌てて間に入った。


「あのコと話すのは、まだ早い! もう戻すぞ!」


「いや、神様、別に俺、ナンパしようとして」


「うるさい、戻れ!」


老人が手をかざした。


視界がぐにゃりと歪んだ。


「あ……」


俺は桃の花びらが舞い散る中で、意識を失った。




「兄さま、お湯冷ましをお持ちしました」


知らない、いや、知っている声。


俺は目を開けた。


そこは、ベッドの上だった。


そして隣で、妹の綾が椀を持って、心配そうに俺を覗き込んでいた。


「兄さま、お湯冷ましをお持ちしました」


俺はしばらくその顔を見つめた。


涙で、ぐちゃぐちゃに、なっていた、あの顔。

「兄さま」と、絶叫した、あの声。

俺の頬を、必死に、触っていた、あの小さな手。


それが、今、ここにある。


無事に。


笑顔で。


「綾」


俺は震える声で、その名を呼んだ。


「……綾」


「は、はい? 兄さま、どうされたんですか?」


俺はベッドから起き上がった。


そして綾を、強く抱きしめた。


「お、お兄さま……?」


「綾……」


「ど、どうされたんですか? 何か、悪い夢でも?」


「……ああ、悪い夢を見た」


俺は笑った。


涙がこぼれた。


「お前が、死ぬ夢だ」


「……」


「もう絶対見たくない」


俺は綾を、ぎゅっと、抱きしめた。



────────────────────────

李綾 信頼度:72 → 80(+8)

獲得ポイント:+8

現在の合計:8pt

────────────────────────



「……」


俺はポイントを、見た。


そして苦笑した。


「死に戻り、RPGかよ」


俺は呟いた。


「だが、よし、来やがれ」


「今度こそ、絶対守ってやる」


俺は綾を、離した。


そしてその目をまっすぐ、見た。


「綾、お湯冷まし、ありがとうな」


「は、はい……」


「これから、俺、忙しくなる」


「兄さま?」


「お前にも、いっぱい、迷惑かけるかもしれない」


「あ、はい?」


「だが、覚悟、しろよ」


俺はニッと笑った。


「お前のこと絶対守る」



────────────────────────

李綾 信頼度:80 → 88(+8)

獲得ポイント:+8

現在の合計:16pt

────────────────────────



「ふふ、変な兄さま」


綾が笑った。


俺の知っている、優しい、聡明な、十二歳の妹。



────────────────────────

【SYSTEM】


Stage 1:襄陽の春、再開幕(2周目)

メインクエスト:天下統一(第一段階:荊州の実権掌握)

残り期限:5,048日(30日減少)


[!]黄巾の波及まで:29日


Game Restart

────────────────────────



死に戻り、RPG。


二週目、スタートだ。


田中健一、四十二歳。

李明、十六歳。


商家の次男坊が、家族を守るために、二度目の人生を走り出す。


今度こそ、絶対に、悔いを残さない。




次回予告


Stage 1:今度こそ、守るための29日


転生3日目の朝、ロード完了。

李明は、覚悟を決めた。


「家族に、信じてもらえないなら、自分で動く」

「武器を集める。人を雇う。情報を集める」


29日後の襲撃に備え李明は、本気を出す。


[!]サブクエスト発生

 ・兄に剣を渡す(天女のヒント)

 ・襄陽の町で武装商人を雇う

 ・張小六と合流する


そしてその町で、李明は、ある男に、出会う。


「お主が儂の主に、なる男か」


無精髭を生やした、40代の浪人風の男。


頭上に、文字。


黄忠こう ちゅう 字:漢升 45歳

武力:92/統率:88/知力:68/政治:65/魅力:80

【Sレア】


「……マジかよ」


[次話に続く]


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