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冒険者編⑬

翌日――

王都冒険者ギルド。


朝のギルドは、夜の酒場の顔とはまるで違っていた。

窓から差し込む光が広間を照らし、依頼掲示板の前には冒険者たちが集まっている。

装備を整える者、仲間と相談する者、受付と真剣な顔で話す者。


昨日のような酒と笑いの喧騒ではなく、**仕事の空気**だった。

その掲示板の前に、トリニティの三人も立っていた。

アルマは腕を組みながら依頼書を一枚ずつ読んでいる

「薬草採取……」


ぺらり

「鉱石採取……」


まためくる

「迷い猫探索……」


ノエルが横から覗き込む

「なんか……」


少し拍子抜けした声

「平和な依頼ばっかりね」


すると、後ろから笑い声が聞こえた

「そりゃそーだろ!」


振り返ると、昨日酒を奢ってくれた冒険者の一人が肩をすくめていた

「物騒な依頼はたまにしかでねーもんさ」


別の冒険者も笑う

「毎日魔獣討伐だったら誰も生き残らねぇよ!」


ギルドのあちこちで笑い声が起きる。

ノエルは少し肩の力を抜いた

「そういうものなんだ」


レオナは掲示板を静かに見ていた。

そして一枚の依頼書を指さす

「で、あれば」


「鉱石採取はいかがでしょうか?」


アルマが依頼書を覗き込む

「山頂付近の坑道らしいので」


レオナは小さく微笑んだ

「景色良さそうです」


アルマの顔がぱっと明るくなる

「よし!」


「世界を見て回る第1歩で」


「王都を見下ろすとするか!」


ノエルが笑う

「いいねそれ!」


三人は受付へ向かった。

受付の女性が依頼書を確認する

「鉱石採取ですね」


帳簿を開く

「場所は南道の先にある山です」


「魔獣の目撃情報もありますので」


視線を三人に向ける

「お気をつけて」


レオナが頷く

「ありがとうございます」


こうして――

トリニティは王都を出発した。


---


王都南門。


門番に冒険者プレートを見せ、三人は街の外へ出る。

石畳の道がやがて土の道へ変わる。

遠くには山。

空は青く、雲がゆっくり流れていた。

アルマが両腕を伸ばす

「やっぱ外はいいな!」


ノエルも深呼吸する

「空気が違うね」


レオナは少し微笑んだ。

三人は歩きながら話す。

他愛もない話だが、それが楽しい。

アルマがふと思い出したように言った

「そういやさ」


山の方を見る

「村、入学してから一度も帰ってないなー」


ノエルも思い出す

「あー」


「確かに」


レオナも頷く。

アルマはにやりと笑った

「今度帰ろうぜ」


「卒業認定もらったって言ったら」


ノエルが笑う

「絶対驚くよね」


アルマが豪快に笑う

「ぎゃはは!」


「村長腰抜かすぞ!」


レオナもくすっと笑った。

山道を歩く三人。

昔と同じ。


山・空・風。

そして――


三人の会話。

だが、ひとつだけ違う。

彼らは今――


【冒険者】なのだ。


---


王都南方の山道。


道は決して整備されているとは言えなかった。

石がごろごろ転がり、木の根が地面から突き出し、場所によっては崖の縁を歩くような細い道になる

普通の旅人なら、何度も足を止めるような険しさだ。


しかしトリニティの三人にとっては違った。

アルマは岩から岩へと軽やかに飛び移る。

背中の大剣が揺れるが、本人はまったく気にしていない

「おー、懐かしい感じだな!」


ノエルもその後ろをひょいひょい登る。

足取りは軽い

「村の山のほうが急じゃなかった?」


レオナは少し後ろからついてくる。

だが息は乱れていない。

地形を冷静に見ながら歩いている

「確かに」


「この程度なら散歩ですね」


三人はすいすいと山を登っていく。

山間の村で育った彼らにとって、山道は庭のようなものだった。

途中――


茂みが揺れた。


ガサッ。


アルマの目が細くなる

「来るぞ」


**ガルルルッ!**


オオカミ型の魔獣が二匹飛び出してきた。


牙を剥き、低く唸る。

ノエルがすぐに手を上げる

「いくよ!」


氷が弾丸のように飛ぶ。


バキッ!


一匹の足が凍り動きが鈍る。


アルマが踏み込んで舞うような動き。

ショートソードが閃く。


ザシュッ!


オオカミの首筋を切り裂くと、もう一匹が飛びかかる。

だがその瞬間――


**バチッ!**


紫電が走った。

オオカミの体が痺れ、地面に崩れる。


アルマが軽く剣を振って戦闘終了。


ほんの数秒だった。

アルマが肩を回す

「ウォーミングアップだな」


ノエルが笑う

「完全にね」


レオナも頷いた

「問題ありません」


三人は再び山を登り始める。


---


やがて山頂近く。


岩場の影に、レオナが足を止めた。

地図を見て周囲を確認する

「この辺りのはずですが……」


アルマが辺りを見回す。

風が強く草が揺れている。

ノエルも目を細めて探す

「それっぽいのないね」


アルマが岩陰を指さした

「ん?」


そこには――

小さな穴。


人一人がしゃがめば入れるくらいの入口。

岩に半分埋もれている。


レオナが近づく

「……ありました」


小さく頷く。

三人は中へ入る。


---


坑道の中は空気はひんやりしていた。


岩の匂い、湿った土。

古びた木の支柱がいくつか立っている。

壁にはツルハシで掘られた跡

「結構古いな」


アルマが天井を見上げる。

ノエルが壁を触る

「でも」


指で粉を払う

「最近誰か来てるよ」


レオナも床を見る。

足跡、崩れた石

「ええ」


「度々人が訪れている形跡があります」


完全な廃坑ではないらしい。

三人は奥へ進む。


松明の光、岩壁、静かな坑道。

アルマが言う

「鉱石どこだろうな」


ノエルも周囲を見回す

「それっぽいのないね」


レオナは壁を観察していた。

鉱石の層と岩の色。

だが――


三人とも、同じことを感じていた。

言葉には出さない。


だが心の奥で思っている

(こんな)


(何事もなく終わる依頼……)


(な訳がない)


坑道の奥は暗い。

そして――


静かすぎた。


億に進むと岩肌の色が少し変わっていた。

壁の一部に、鈍く光る鉱石の筋が見える。

レオナがランタンの光を近づけた

「これですね」


ノエルがしゃがみ込む

「ほんとだ」


アルマは背中からツルハシを取り出した

「よーし」


「仕事の時間だ」


ガンッ


ツルハシが岩に当たるり乾いた音が坑道に響いた。

何度か打ち込むと、鉱石が崩れて落ちる。

ノエルが袋に詰めレオナが確認する

「依頼の量はこれで十分です」


アルマが満足そうに頷く

「よし!」


目的は達成した。

だが――


三人とも、まだ警戒を解いていなかった。

坑道の静けさ、魔獣の匂い、妙に静かな山

(いつ襲ってくる……?)


誰も口には出さない。

だが同じことを考えていた。

三人は慎重に出口へ向かう。

足音を抑えながら。


周囲を見ながら。

そして――


坑道の外へ出た。


山の風が吹き込む。

草の匂いと青空。


何も起きない。

アルマがしばらく周囲を見回す。

そして突然叫んだ

「何もねーのかよ!!」


声が山に響く。


ノエルが笑う

「びっくりした」


レオナも小さく笑った

「……変に気を張りすぎましたね」


肩の力を抜いてノエルも伸びをする

「危険度低だったし」


「それでも道はそれなりに険しかったし……」


少し考える

「街育ちにはキツイかもって感じの依頼だったね」


アルマが近くの岩に飛び乗った。

ひょい、と軽い動き。

そのまま高い岩の上に立つ

「おー!」


「いい景色だぁ!」


ノエルとレオナも登ってくる。

そして――


目の前の景色を見た。


遠くに広がる王都。

白い城壁、無数の建物、中央にそびえる神殿。

その隣には学院の塔が夕方の光に照らされ、街が金色に輝いている。


ノエルが思わず声を漏らす

「本当ね……」


レオナも静かに見つめる

「美しいですね」


冒険者になって初めて見る――


‘‘外からの王都‘‘

アルマが指をさす

「あれ神殿だよな」


ノエルが言う

「うん、あの辺が学院」


レオナが遠くを見る

「村は……あちらですね」


三人はしばらく景色を見ながら話していた。

するとアルマがふと別の方向を見る

「ん?」


来た道とは違う方向。


山の向こうに――


【湖】


青く光る水面。

木々に囲まれた小さな湖が見えた。

アルマが指をさす

「あそこ行ってみない?」


ノエルの目が輝く

「探検!!」


レオナも微笑んだ

「いいですね」


こうして寄り道が決まった。


三人は岩から降りる。

風が吹く山道を下りながら――


トリニティは湖を目指して歩き出した。


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