冒険者編⑫
魔法研究所・試験場。
まだ空気の中には、紫電の焦げた匂いが残っていた。
床に残る黒い焼け跡はさっきレオナが放った魔法の跡だ。
レオナはその跡を見つめながら、まだ少し胸の高鳴りを感じていた
(私の魔法……)
自分の手で作った術式。
それが確かに形になった。
その余韻の中で、ニールがゆっくり口を開いた
「君は賢い」
腕を組んだまま、レオナを見る
「だが」
「少々頭がかたい」
レオナは少しだけ苦笑した。
思い当たる節はある。
ニールは続けた
「ノエル君とは反対です」
軽く歩きながら言う
「彼女は感覚で魔法を放っています」
ノエルの氷のバラは感覚で生まれた魔法
「理論で魔法を放つと」
「こうなります」
次の瞬間。
空中に――
魔法陣がひとつ。
淡く光る円の隣に――
もうひとつ。
さらにもうひとつ。
魔法陣が増えていきレオナの目が少し見開かれる
(……!)
魔法陣は三つ。
それぞれ回転を始める。
回転し重なり、歯車のように噛み合う。
そして――
一つの巨大な魔法陣へ収束した。
複雑な紋様、重なった術式、完全な構造。
ニールは小さく何かを呟いた瞬間。
**ドォン!!**
魔法人形が大爆発した。
すさまじい爆風と衝撃。
破片が飛び散るが試験場の結界が衝撃を吸収し、空気が震える。
レオナは思わず声を漏らした
「……すごい……」
ニールは何事もなかったかのように説明する
「今のは」
指で魔法陣を示す
「初級の爆発魔法を3発分」
「魔法陣として展開」
そして重ねる仕草
「重ね合わせ」
「同時に発動したものです」
クイッと眼鏡を押し上げレオナを見る
「レオナ君であれば」
少し口角が上がる
「ここまでで私が何を言いたいか」
「わかりますね?」
レオナの目が輝く。
理解した。
完全に理解した
「はい!」
力強く答える。
ニールは満足そうに頷いた
「よろしい」
それ以上は何も言わない。
レオナなら分かる。
そういう信頼の頷きだった。
---
魔法研究所を出たレオナは、王都の通りを歩いていた。
昼の光が石畳を照らしている。
人々の声、商人の呼び声。
だがレオナの頭の中では、別のものが動いていた
(そうか)
思考が一気に繋がる
(術式を重ねる方法があったんだ)
ニールの魔法、三つの魔法陣、重なった爆発
(単純な爆発魔法を重ねてあの威力なら……)
歩きながら、頭の中で計算する。
術式構造・魔力循環・紫電の流れ
(強力な魔法を重ねたら……)
さっきの魔法を思い出しがら
‘‘螺旋の紫電‘‘
三本の雷が回転し収束
(さっきの螺旋雷を)
目が少し大きくなる
(重ねることが出来たら……)
胸の奥が少し熱くな
(私も)
(火力として動けるかもしれません!)
今までのレオナは支援、回復、制御。
それが役割だった。
だが――
【トリニティ】
三人の顔が浮かぶ。
アルマとノエル
(私も)
(もっと戦えるかもしれませんね)
王都の通りを、レオナは軽い足取りで歩いていった。
~~~~~~~~~~~
宿の廊下を歩くレオナは心の中に、小さな確信のようなものが灯っている
(まだ完成ではありませんが)
魔法研で見たもの。
ニールの魔法、術式の重ね合わせ
(方向は見えました)
トリニティの一員として、もう一段階上に進めるかもしれない。
そんな予感があった。
レオナは扉の前で一度呼吸を整え、軽くノックする
「ただいま!」
扉を開けると部屋の中は昼の光に満ちていた。
アルマは机の横で腕を回している。
どうやら軽い体操をしていたらしい
「おー、おかえり!」
すっかり元気だ。
二日酔いの面影はもうない。
ノエルはベッドの上に座っていた。
髪を軽く整えながら、レオナの顔を見る。
そしてすぐ気づいた
「すっきりしてる顔してる!」
少し身を乗り出す
「いい事あった?」
レオナはその言葉に小さく笑った
「ふふふ……」
少しだけ楽しそうだ。
そして二人を見て言った
「私も」
胸の前で手を軽く組む
「戦闘でもっと役に立てるかもしれません」
アルマとノエルが同時に目を瞬かせる。
レオナは続けた
「お二人のお陰です」
本当に嬉しそうだった。
アルマとノエルは顔を見合わせる。
そして同時に思った
「「???」」
完全に意味がわかっていない。
アルマが首を傾げる
「え?」
ノエルも眉を寄せる
「私たち?」
アルマが言う
「何かしたっけ?」
ノエルも腕を組む
「焼き菓子食べたくらいしか……」
レオナはそれを見て、くすっと笑った
「それでも」
「十分です」
アルマとノエルはまだよく分かっていない。
だがレオナの様子を見る限り――
**何か良いことがあったらしい。**
アルマは肩をすくめた
「まぁいいか」
「強くなるなら大歓迎だ」
ノエルも頷く
「うん!」
「トリニティ強化だね!」
レオナはその言葉を聞いて、静かに頷いた
「はい」
三人のパーティー、トリニティ。
それぞれが少しずつ強くなっていく。
その歩みは、まだ始まったばかりだった。




