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冒険者編⑪

宿の部屋。


昼前の柔らかな光が窓から差し込んでいた。

朝よりも部屋の空気は少し落ち着いている。


ただ――

まだ完全に元気とは言えない様子の二人がいた。

アルマは椅子に座り、頭を押さえている。


髪はまだ少し爆発している。

ノエルはベッドの上で毛布にくるまったまま、ようやく顔だけ出していた。


扉が静かに開きレオナが戻ってきた。

外の空気を吸ってきたからか、顔色はすっきりしている

「ただいま戻りました」


二人を見る。


そして小さな紙袋を机の上に置いた

「散歩していたら」


「ニールさんとお会いしまして」


袋を開けると焼き菓子の甘い香りがふわりと広がった

「紅茶と茶菓子をいただいたので」


穏やかに微笑む

「よろしければ」


ノエルが布団から腕だけ出した

「ぅー……」


まだ少し二日酔いの顔だ

「ありがとう……」


焼き菓子を一つ取ってもそもそ食べる。


アルマは椅子に寄りかかったまま言う

「俺は寝て少し楽になったわ……」


まだ少し頭を押さえている

「酒ってすげーな……」


昨日の騒ぎを思い出す。

ギルド、笑い声、乾杯。

少しだけ笑った。


レオナは紅茶をカップに注ぐ。


‘‘トクトクトクトク‘‘


湯気が立ち上る三つのカップ。


レオナは二人を見ながら思う

(そう)


(私たちはトリニティですから)


三人で一つ。


一人で考えるよりも、三人で考える

(自分一人じゃなく)


アルマとノエル

(2人の意見を聞いてみるのも)


紅茶を一口

(大事なことですね)


レオナは焼き菓子を一つ取った。

そして二人を見る

「ところで」


「少し聞いてもよろしいですか?」


ノエルは焼き菓子をもぐもぐしながら顔を上げる。

アルマは紅茶をすすりながら首を傾げる。

宿の部屋の静かな昼。


トリニティの三人の時間が、ゆっくり流れていた。

レオナはカップを持ったまま、静かに二人を見た

「私の魔法に」


「何か足りないと思ったことはありますか?」


アルマは紅茶を飲みながら、ぼーっとした顔をしていた。

頭はまだ完全には回っていない

「え?」


「なくね?」


あっさりした答えだった。

レオナは少しだけ目を丸くする。

アルマは続けた

「制御すげーし」


指を軽く振る

「回復もきっちりしてくれるし」


そしてレオナを見る

「戦場を広い視野で見てくれるし」


アルマは肩をすくめた

「むしろ俺らの命綱だろ」


レオナは小さく笑う

「ふふ」


「ありがとうございます」


そして視線をノエルへ向ける。

ノエルは眠そうにしながら焼き菓子をもぐもぐ食べている。

レオナは優しく尋ねる

「ノエルは何かありますか?」


ノエルは少し考える

「ぅーん……」


「特にないけど……」


レオナは少し前のめりになる

「……強いていえば……?」


ノエルはしばらく考えぽつりと言った

「ぅー……」


焼き菓子をもう一口

「そんだけ制御が上手なら」


少しぼんやりした声

「私だったら」


机を指でトントン叩く

「自分の魔法作るかな……」


レオナの目が少し開く。

ノエルは続ける

「私の頭じゃ術式とか考えれないから無理だけど……」


大きな欠伸

「ふわぁぁぁ……」


再び机に頬をつける。

半分眠っている。


だがレオナの頭の中では、その言葉が残った

(自分の……魔法……?)


頭の中に浮かぶ。


氷のバラ。


ノエルの凍結。


美しく、そして強い

(ノエルの氷のバラのようなもの……)


レオナは自分の魔法を思い出す。

紫電・回復・制御。

ニールの言葉

‘‘過剰回復で焼く‘‘


レオナは小さく首を傾げる

(過剰回復で焼くのではなく)


(電気そのものを……攻撃に……?)


【紫電」


雷とは違う。

焼き、縛り、流れる力。


レオナの目に少し光が宿る。

そして二人を見る

「ありがとうございます」


「やってみる価値ありそうです」


アルマはまだぼーっとしている

「おー……」


ノエルは半分寝ている。


レオナの中で、小さな何かが形を作り始めていた。


【トリニティ】


三人の言葉が、確かに一つの力になっていた。


~~~~~~~~~~~~


レオナは宿を出て、迷いなく王都の中央区へ向かって歩いていた。


朝の散歩とは違い、今の歩みにははっきりとした目的がある

(思いついたなら)


自分の胸に手を当てる

(試さないと、前には進めません)


ニールとノエルの言葉。

そして自分の考え。

それらが頭の中で術式として形になっていた。


---


一方その頃、宿。


アルマは椅子にだらんと座っていた。

ノエルはまだベッドの上でごろごろしている。

アルマがぼそっと言う

「……なんか気づいた?」


ノエルは顔だけこちらに向ける。

まだ半分眠そうだ

「たぶん」


「魔法の練習だと思う……」


そして天井を見る

「私たち今ポンコツだから……」


アルマは少し笑った

「確かに」


二日酔いの戦力外二名である。


---


王都 魔法研究所。


石造りの建物の中は静かだった。

廊下には魔法式の図や研究記録が並び、研究員たちが忙しそうに行き来している。

レオナは受付に声をかけた

「ニールさんはいらっしゃいますか?」


少しして研究員が戻ってくる

「呼んできます」


数分後、廊下の奥から白衣の男が現れた。


ニールは眼鏡を軽く押し上げる

「おや」


「いかがされましたか?」


「忘れ物ですか?」


レオナは首を横に振った

「いえ」


「新しい魔法の構想を練ったので」


少しだけ緊張している

「ご教示いただきたく……」


ニールの眉がわずかに上がる

「……ほう?」


レオナは紙を差し出した。

そこには細かく書き込まれた術式。

魔力の流れ、制御構造、紫電の流動計算。


ニールはそれを受け取る。

そして――


黙って読む。


時間が少し流れる。

廊下の音が遠くなるほど、ニールの視線は紙に集中していた。

真剣な顔で眼鏡の奥の目が細かく動く。


やがて顔を上げた

「これは」


静かに聞く

「一人で考えたのですか?」


レオナは少し首を振る

「ノエルにアドバイスを貰って」


そして言う

「自分で考えてみました」


ニールはしばらくレオナを見ていた。

そしてゆっくり頷く。


満足そうだった

「なるほど」


「この術式は」


指で構造をなぞる

「拘束の意味合いが強い魔法ですね」


雷を束ねて流動させ、対象を縛る。


ニールは頷いた

「欠点らしい欠点が見当たりませんが」


ペンを取り出し

「少し手直しを」


さらさらと書き足す。


魔力循環・雷の収束角度・紫電の連鎖構造。

数行の追加をして紙を返した

「これでよし」


レオナを見る

「成功すれば」


「あなたのオリジナル技になりますね」


---


魔法研究所 試験場。


巨大な石の広間。

床には無数の魔法陣。

壁には強固な結界が張られている。

ニールは腕を組む

「ここは結界が張られています」


「遠慮なくどうぞ」


レオナは紙を見る。


術式、魔力の流れ、頭の中で組み立てる

(落ち着いて)


深呼吸して紫電をイメージする。


流れる電気を束ねる。


巻いて縛る。


レオナは手を前に出した

「―――」


魔力が流れる。


次の瞬間

**バリバリバリバリッ!!**


激しい雷鳴のような音とともに空中に紫の光が走る。


一本。


二本。


三本。


**三本の紫電。**


それらは渦を巻くように回転しながら中央へ収束していく。

空気が震え電気が空間を裂く。


紫の雷が螺旋を描き床をかすめた瞬間――


**ジジッ**


石の床が焦げた。

紫電が通った跡が黒く焼けている。

レオナの目が少し大きくなる

(すごい……)


自分の魔法。


自分で作った術式。

それが形になっている。

ニールは腕を組んだまま見ていた

「ふむ」


「出力が低くとも」


床の焦げ跡を見る

「術式をしっかり制御したら」


「これほどの規模になる」


そして小さく頷く

「良い魔法です」


その評価は、研究者としての真剣な言葉だった。


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