冒険者編⑦
地下空間。
倒れたトラ型魔獣の巨体は、すでに形を保てなくなっていた。
肉体は崩れ、黒い霧のように溶けるように消えていく。
まるで最初から存在していなかったかのように。
だが――
床の上には、**黒い破片**が残っていた。
砕けた核の欠片。
小さく、黒く、鈍い光を宿している。
レオナがしゃがみ込み慎重にそれを拾い上げた。
指先に少しだけ紫電を走らせ、魔力の反応を確かめ静かに言った
「この核の欠片…」
「持っていきましょう」
ノエルが首を傾げる。
「え?」
レオナは続ける
「明らかに‘‘人為的‘‘です」
核の内部構造、魔力の流れ。
自然発生の魔獣とは違う意図的に作られた何か。
ノエルは壁の術式を見上げた
「魔力異常は……」
床の魔法陣を見る。
壁から流れてきた術式
「術式展開が吸ってたんだね」
中央の水晶玉に魔力が集まり、核を起動させる。
レオナは頷く
「恐らく」
「侵入者への防衛装置のようなものですね」
アルマは腕を組む
「面倒なもん作りやがって」
戦いは終わった。
三人は地下を後にし、女神像を元に戻して廃修道院を離れる。
そして――
森を抜け、夜の道を進み王都へ戻った。
――――――
王都の夜。
ギルドの扉を開く。
**ギィ……**
中はまだ賑わっていた。
酒を飲む冒険者、依頼書を確認する者、笑い声、騒がしい空気。
三人が入ると、何人かの冒険者が気づく
「お、例の新人か」
「あの腕相撲の嬢ちゃんだ」
「帰ってきたな」
アルマは少し照れくさそうに頭をかく。
だが三人はそのまま受付へ向かった。
レオナが一歩前へ出て背筋を伸ばす。
そして静かに言った
「トリニティ」
「報告します」
その声には、冒険者としての落ち着きがあった。
ノエルは横で腕を組む。
アルマは大剣を背負ったまま立つ。
三人の初任務。
受付の女性は帳簿を開き、ペンを構える
「報告をどうぞ」
声は落ち着いている。
だがその表情は真剣だった
「廃修道院の魔力異常について報告します」
周囲の冒険者も少し耳を傾け始める
魔力異常という言葉は、ギルドでは珍しくないが――
学生上がりの新人が調査に行った話となると、気になる者も多い。
レオナは続け
「廃修道院内部を調査したところ」
「地下空間を発見しました」
受付が書き留める。
レオナの声は淡々としていた
「地下の壁一面には術式が刻まれていました」
少しだけ間を置く
「何の術式かは不明です」
ノエルが横で頷く。
アルマは腕を組んだまま聞いている
「最奥部にも同様の術式があり」
「中央に、魔力を吸い上げる水晶玉が設置されていました」
受付の女性のペンが止まり少し顔を上げる
「魔力を吸い上げる……?」
レオナは静かに頷いた
「はい」
そしてポーチから小さな布を取り出してカウンターの上へ置く。
布を開くと中には――
黒い破片。
レオナはそれを指でつまみ上げ
**コト……**
カウンターの上に置いた
「中から」
その破片を見つめながら言う
「これが出現しました」
受付の女性の目が細くなる。
周囲の冒険者もざわめく。
黒い核の欠片。
ただの石ではない。
鈍い光を宿し、微かに魔力を感じさせる。
レオナは続けた
「同時に魔力が集まり」
視線を受付へ戻す
「トラのような魔獣が生成されました」
アルマが腕を組んだまま言う
「かなりデカかったぞ」
ノエルが付け加える
「でも倒したけどね」
レオナは小さく頷く
「撃退しました」
そして静かに言う
「おそらく」
核を見る
「‘‘人為的なもの‘‘かと」
受付の女性はしばらく黙っていた。
そしてゆっくり息を吐く。
帳簿に何かを書き込む。
その様子を見ていた冒険者の一人が低く呟く
「……人為的?」
別の冒険者が腕を組む
「魔獣を作る装置か?」
ギルドの空気が少し変わった。
ただの調査報告ではない。
**何か妙なものが動いている。**
そんな気配が、場に広がり始めていた。
受付の女性はしばらく核の欠片を見つめていた。
黒く、鈍い光を宿した破片。
小さなものだが、ただの石ではないことは誰の目にもわかる。
やがて受付は静かに頷き、帳簿に報告を書き込んだ。
ペンが紙を走る音だけが一瞬、カウンターの周りを支配する。
そして顔を上げた
「報告、確認しました」
レオナに視線を向ける
「今回の件はマスターに精査していただきます」
核の欠片を布ごと丁寧に回収する。
その動作からも、この件を軽く扱っていないことが伝わる。
そして柔らかく微笑んだ
「お疲れ様でした」
引き出しから報酬袋を取り出しアルマが受け取ると
金貨と銀貨が軽く音を立てた。
ノエルが覗き込み
「おぉ」
少し嬉しそうな声。
レオナも小さく息をつく。
依頼は無事完了だ。
そのとき後ろから大きな声が響いた
「やるじゃねーか!」
振り向くと、さっきの腕相撲の大男が笑っていた。
酒のジョッキを掲げている。
その隣の冒険者も笑っている
「おい!」
「こっちこいよ!」
「奢ってやる!!」
さらに別の声
「まだ学生だろ?」
「飲めるのか?」
ギルドの中が一気に賑やかになる。
笑い声、テーブルを叩く音
「トリニティ!」
誰かが名前を呼ぶ
「初任務でレアな任務こなすとはやるじゃねーか!」
「新人にしちゃ出来すぎだ!」
アルマは少し照れくさそうに笑う
「へへ」
ノエルは少し驚いている
「すごい歓迎……」
レオナはその光景を見て、静かに微笑んだ。
冒険者たちは荒っぽい。
酒臭く声も大きい。
だが――
仲間の成功は素直に喜ぶ。
それがこの場所の空気だった。
アルマが言う
「行くか?」
ノエルが笑う
「行こう!」
レオナも頷く
「少しだけなら」
三人は冒険者たちのテーブルへ向かった瞬間、誰かが椅子を引く。
ジョッキが並び肉料理が運ばれる
「新人歓迎だ!」
「トリニティに乾杯!」
ギルドの夜は、まだまだ終わりそうになかった。




