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青春!探偵!ひとだすけ部!  作者: 北極鳥ユキ
第Ⅳ話「邂逅」
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Part32「邂逅Ⅳ」

 銃声が鳴っている。怒号が響いている。

 血と硝煙の匂いがする。家や人の焼け焦げる嫌な臭いがする。


 クラウスおじいちゃん、エリザおばさん、コーシャ先生、ロゼお姉ちゃんとクルトお兄ちゃん……家族たちとはバラバラになってしまって、今は生死すら分からない。


 お父さんはわたしのことを片腕で抱きしめて、もう片腕に拳銃を握りしめながら走る。

 怖くて、ただ怖くて、何も見たくなくて、その体に顔をうずめていた。


 銃声が響く。誰かが戦っている。

 話し声が聞こえてきて、お父さんは足を止める。

 わたしのことを建物の影に隠すと、両手で拳銃を握りしめた。


 そして、銃声。叫び声、罵倒。


 こわい。こわい。身を小さくしてうずくまる。

 少しすると「もう大丈夫」と呼びかけられた。お父さんは体や服のあちこちに返り血を付けた状態で、わたしのことを抱き上げた。


 家の影から路地に出ると、そこには二つの死体が転がっていた。

 父の足が速くなる。揺れる腕の中で、落ちないように必死にしがみつく。


「とまれ!」と叫ぶ声が聞こえてきて、ピュンと何かが近くを通り抜ける。細い路地を何本も超えて、柵を超えて庭を駆け抜けて、町の中を行くあてもなく逃げ続けた。


 父のうめき声がして、体が倒れる。


 わたしは腕の中から投げ出されて地面に転がった。

 父は脇を抑えながら苦悶の表情を浮かべて起き上がり、地面に転がった拳銃のところまではね飛んで、近づいて来た男に向かって引き金を引く。


 一人死んだけど、周りにはまだ沢山の敵がいた。近づいて来た敵と父が目の前で揉み合いになる。父も相手もお互いに死に物狂いで、あっさりと死ぬし、殺すことができる。


 こわい、このままじゃ、お父さんが死んじゃう。


 そんな時、パスンと鈍い音がして、敵の頭が吹き飛んだ。真っ赤な花みたいに血が噴き出して、血液で壁に赤い模様を描く。体は制御を失って、壁に向かって崩れ落ちていた。

 二人して何が起こったのかと目を見開く。


 路地の向こうに何人かの兵士が立っていた。

 カービンライフルを構えていたのはその中にいる一人で、戦闘服を着こむ他の兵士たちと違って、鼠色のウィンドブレーカーという、私服と大して変わらないような格好だった。


 また敵かと思ったけど、父も兵士もお互いに銃を下げる。

 兵士たちは全員が腕に白と青の腕章を付けていた。あれはバイエルンの色だ。


「ミュンヘン共和国軍だ。遅れて申し訳ない」


 私服の兵士の横を縫って、迷彩戦闘服を着た兵士が父に駆け寄る。


「衛生兵! 彼の治療を!」

「俺はいい。それより、その子を保護して後方に送ってくれ。俺の娘だ……」


 腹部を抑えながら、もう片方の手で父は指をさす。

 辺りで慌ただしく動く兵士たちの中で、どうしよう……と辺りをきょろきょろ見ていると、さっきのカービンライフルの人、私服の兵士が近づいて来た。


「怪我はない?」


 その顔を見て、心臓がどきっと音を立てた。その人はとっても綺麗で美人でかっこいい人だった。栗毛の髪に透き通るような白い肌。その外見は妖精(エルフ)のように神秘的ですらあった。


「おとーさん……しんじゃう?」

「大丈夫、死なないよ。キミもよく頑張ったね」


 そう言うと、その人はわたしのことを抱きしめてくれた。

 顔に柔らかい感触のもの当たる。そこでやっと、その人が女性であることに気が付いた。


 その人が、わたしの王子様。わたしの初恋の相手。

 女性なので『王子様』が正しいかは分からないけれど、わたしにとっては紛れもなく絵本に出てくる白馬の王子様だった。


 わたしはその人に懐いて、少しの間一緒にいることになった。

 ヴァイセンシュタインの町が敵の手から解放され、戦いが全て終わったその時も傍に居てくれた。クラウスおじいちゃんや、エリザおばさん、コーシャ先生……他にも町の人が沢山死んでしまって、泣きじゃくっていた時も傍に居てくれた。


 その人と別れたのは、難民としてミュンヘン共和国に移住した日だった。別れるときは最後まで泣いていたことを憶えている。引き留めたけど、王子様はどこかに行ってしまった。

 その後、再会することは二度と無かった。


 その人が数年前に町を追放された、お父さんとお母さんの親友だったことは、数年後に知った。母が死んだ紛争──故郷ヴァイセンシュタインと近隣の自由都市ホーフが紛争になった際に、敵地に単身乗り込んで兵士も民間人も一緒くたに虐殺した戦争犯罪者だった。


 彼女の正体が何だったとしても、そんなこと大して気にならなかった。

 だって、王子様はわたしのヒーローだったから。


 わたしはそれから、来る日も来る日も王子様に再開することを願った。


 もう一度、王子様に会えますように。


 ***


 四月最後の土曜日。

 準備とか今できることは粗方終えた。


 何も言わずに去ることになるから、帰国について補足するために手紙だって書いてみっちゃんに渡しておいた。準備はこれで終わり。

 そう、終わりだ。これで全部……。


 目を伏せていると、ピロリンとデバイスが軽快な音を立てた。


『正多:今,大丈夫?』

『ロッテ:うん! どうしたの?』

『正多:今から会えないかな』


 素直に言って、びっくりした。


 彼とは学校で毎日会っていたけれど、こういう風に誘われるのは初めてだったのだ。ここで会ってしまえば帰国への決心が揺らぎそうだったけど、断れば悔いが残ると思った。最後に会うのが最初にできた友達であることには運命すら感じた。


『ロッテ:分かった! どこに行けばいい?』


 指定されたのは学校に向かうときに合流するいつものバス停だった。

 短い間だったが、思い出の場所だ。彼がそこを指定したのは、単に自分の家から近い程度の理由だったのかもしれないが、これにだって運命的なものを感じた。


 時間を指定されたので、少し急いで支度を済ませる。とはいえ……急いでいるといっても、今日は土曜なので制服のままという訳にはいかない。身だしなみには少しだけ気合を入れた。


 いつもと変わらない程度……のつもりだったけど流石に分かるようで、待ち合わせ場所まで運転してくれるイェシュケには「デートにいくのか?」とあっさりバレてしまった。

 あの事件からそれほど経っていないのに、イェシュケはもういつも通りの様子だ。見た目では分からないが、流石に軍人らしいタフさをもっているらしい。


 これがいわゆる男女のデートと言うヤツなのか、それはまだ分からない。しかし、やっぱり期待はあった。波木正多はとても良い人で、二人きりでも一緒に居たいと思える相手だった。


 優しくて、誰かを助けることができて。

 きっと、ああいう人が、また誰かの王子様になるのだろう。


「イェシュケよりもカッコよくて、とっても優しい男の子と遊びに行くの」

「ほーう。俺よりカッコいい奴なんてそういないから、ぜひ顔を見てみたいね」

「紹介してあげるけど、妬いちゃダメだよ?」


 移動中はお互いに軽口を言い合ってクスクスと笑った。


 思えば迂闊だった。


 標的が自分にあるうちは、友達は安全だと思い込んでいた。帰国すれば、それで全て解決だと楽観視していた。だから、完全に油断していた。


 バス停に波木正多の姿はなかった。


 代わりにそこに立っていたのはあの青年……アダム=ユリウス。


 なぜ。なんで。どうして。


 セータ君のデバイスを持っているの?


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