第5部 親友
一つの身体を媒体に二つの心は宿るのか……。
「それは愚問ですよ。シオン……あぁ、寒くなってきましたね。」
「……別室に通そう。談話室でいいか?」
「ええ。構いません。」
ゴウの立ち話が好きではないことをシオンは知ってる。玄関ホールにいては確かに体も冷えるだろう。
シオンは近くの談話室に案内しようと階段を上りながらゴウの言葉に眉間をよせた。
「愚問……。それは僕が愚かだと言っているのか?」
「そうですシオン。あっそこのお嬢さん。紅茶を持ってきてもらいます?」
通りすがりのメイドに紅茶を頼むことも忘れないゴウのちゃっかりした性格。それはシオンの言葉をはぐらかすようだ。
シオンはため息をはきながら階段上って長い廊下にある一室のドアノブを回した。そこにはローテーブルに椅子が2脚を中心に本棚などが両端に置かれ、落ち着いた雰囲気をかもし出していた。
何事もないようにゴウが真っ先に椅子に座り、シオンもそれに続く形で席に着き口を開いた。
「毎度思うんだが、我が物顔で屋敷を歩かないでくれるか。ここは僕の屋敷だぞ。」
「そこは幼なじみのよしみでしょう。それでどんな話でしたっけ?」
「一つの身体に2つの魂はやどるのかーだ。」
「そうでしたねぇ。では教えましょうか。」
ゴウはどこから取り出したのかチョコの包みを出し食べ始めた。
「例えば、魔術師たちの武器があるでしょう。その武器には魔力をためることが出来ますね。それは知ってますか?」
「……知ってる。僕の場合はそんなの必要ないがな。それは貴様も同じだろ。」
「えぇ。僕もシオンと同じように“血”さえあればいいです。だけど一般の魔術師は違います。武器が必要だ。」
クスクスと笑いながらまた一つチョコを口に含んだゴウ。シオンは進まない会話にイライラしつつあった。頬杖をつき軽くゴウを睨んだ。
「……その武器がなんだ。」
「その武器には魔法を入れますよね。炎の力、雷の力、水、氷、そして自然。または召還獣。それらはたった一つの武器に入ります。」
武器があるだけでは魔法を使えない。その魔法の元となるそれぞれの魔力が必要だ。シオンのような炎が使いたければその炎の魔力を武器に注ぐ必要があった。
そしてゴウはこれで分かりませんかねぇと言いたげなニヤニヤした表情でシオンの顔をのぞき込んだ。
「分かります?シオン。一つの媒体に2つの力が宿っているんですよ。」
「まさか……。」
「そうです。分かってくれました。あ、紅茶が来たようですよ。シオン。」
シオンが目を見開いたところでガチャッと入ってきたメイドが失礼しますと言って紅茶のセットをテーブルに並べていく。シオンが下がれと言うと一礼してさっそうと出て行った。
ゴウは嬉しそうに2つのカップに紅茶を注ぎそのうちの一つに口を付けた。
「武器も身体も元を正せば一つの媒体なのですよ。」
「サクラは……だとしたらありえることなのか。2重人格なんかじゃない。」
「いえ2重人格です。その身体に2つの魂が宿っているんですから。しかしどうするんですか。」
「どうするって。」
「あの娘をあなたが養うつもりですか。記憶喪失で身元も分からないんでしょう?」
チョコをまた食べ始めるゴウ。舌で転がしその甘さを楽しむ。
「貴方の家はフォース家でしょう。規律と文化に厳しい家系なためお堅い人も多いことでしょう。だけど僕の家なら貴方の家ほどではありませんが養うことが出来ます。心が広い方々が多い、チョコよりも甘い人たちの集まりですから。」
シオンは困ったように表情を曇らせた。
ゴウの言うとおり自分の家は厳しい。本家の親たちにばれれば彼女を守ることは出来ないだろう。2館の本家から離れた屋敷にいるとはいえそれも時間の問題だと言える。だけどー
シオンは顔をあげ決意を決めた。
「いや、僕はやることがある。」
「少なからずあの玩具を遊ぶ……はい?」
ゴウはチョコをガリッとかみ砕いた。だって任せてくれるものだと思ってたのに。
「僕はやることがあるんだ。聞こえなかったか。」
「えぇ。やること、とは?」
「調べたいことがある。サクラを助けるためにも。」
「それは構いませんが……なんて言い訳を?」
「実験体だとでもいうさ。仮にもそうだろう。」
「そうですか。」
2重人格を調べるきっかけになるとでも言えばいい。シオンはぎりっと拳をにぎった。
そして紫蝶とはなんなんだ。あのサクラの言葉が気にかかった。
そこでゴウは紅茶を飲み干し、また紅茶をそそいだ。うまく話が進まなかったためふて腐れたようだ。
「やっぱりフォース家の紅茶はおいしいね。だけどお菓子はおいしくない。」
また取り出したチョコを食べるゴウ。ゴウは一度も紅茶セットとメイドが一緒に持ってきたお菓子に口を付けることがなかった。自分で持ってきたチョコを食べるゴウは本当にこの家が出すお菓子を嫌っているようだ。
「茶葉はフォース地方の特産品だ。お菓子はこれくらいがいいだろう。」
シオンはお皿にのせられたクッキーを口に含む。甘さ控えめでかりっとして美味しい。このくらいがいいのにゴウは甘さが足りないと言う。
「甘くないお菓子はお菓子ではありません。そんなの僕の地方では売らせません。」
「フィフス地方はお菓子とかファッションの店が多いよな。一度サクラを連れて行こうかな。ドレスを新調してやりたい。」
フォース地方は気品ある落ち着いた地方だが、隣のフィフス地方は華やかで格調高い。フォース家と同じように地方名になるまでの前歴を持つ地方頭首のフィフス家。遊びと行楽が目的とし、装飾店からお菓子、靴の専門店やドレス専門店、カジノなどもある。あの世界でフィフス家はそこを統括するとても身分が高い家なのだ。
「ドレス……ですか。いいですね!ぜひ来てくださいよ。サクラさんに似合いそうな服を取り寄せましょう。」
「そうか。なら今度、行くとしよう。」
「あの子はスタイルがいいですからピンクのドレス、いえ黄色も……。」
楽しそうにゴウがドレスの話をするのをシオンはクスリと笑いながら聞いていた。こういうところではそれらしい顔になる。
とりあえず僕は書物を読みあさることにしよう。




