第4部 入れ違い
「あっ……時間が。シオっ……。」
「サクラっ!?」
いきなり倒れこんだサクラを抱き抱える。
「いったい何が起こっているんだ。紫蝶とはなんだ?」
シオンは解けることのない疑問にイラツキながらも悲しげな顔をした。
パカッパカッパカッ
規則正しい蹄の音。揺られてる感覚。肌に感じる涼しい風。サクラはうっとりと目を開けた。
「シオンさん!」
「あぁ起きたか?……サクラだよな?」
「あっ、はい。サクラですけど……あのさっきシオンさん召喚魔を倒そうとかしてましたよね?あれ……私寝てたんですか?」
サクラのきょとんとした顔にシオンは心配そうに目を見開いた。
「覚えてないのか?」
「シオンさんがちょうど倒した後……私?あれ?何してたんだろう?」
「いや、気絶してたんだよ。サクラ。気にするな。」
「…………?」
森を抜けると大きな城にサクラは口が塞がらなかった。
「大きい……。」
「何か言ったか?」
「シオンさん、屋敷に行くんじゃなかったんですか?」
「これが僕の屋敷だが?」
「嘘ですよね!?屋敷じゃないです。城ですよ!」
サクラは驚きの表情でシオンの腕を握った。それもそのはず門の前には噴水があり、周りには馬や羊などにかたどられた木々が立ち並んでいた。鮮やかな夕日を映すその場は誰もが息を飲むほどの豪華だと思わせる造り。アーチ上の花は赤と白のバラで飾られていた。これがこの国の直属騎士の地位を持つフォース家の実態だ。
「綺麗です……。」
「ふっ。気に入ったか?それならフォース家直属の庭師も報われるという物だ。」
「いいですねぇ。一度会ってみたいです。」
「そうだな。サクラとなら話が合うだろう。」
シオンがサクラを抱え馬から降りると手をとり階段を上がり扉を開けようと取っ手に手をかけた。
「良いか?サクラ。」
「何ですか?」
「何があっても驚かないでくれ。」
「……?はい。」
「じゃあ行くぞ。」
シオンが扉を開けると床一面が薄い水色タイルに壁の白が目を引いた。エプロン姿の女性やえんび服姿の男性が全ての動作を止め、自分達より一回りも若い主に頭を垂れた。
『お帰りなさいませ。シオン様。』
口を揃えて言う相手はサクラの隣にいるシオンだ。
シオンがただいま、と何気なく言うと各人が自分の作業に戻りだす。
「……やっぱり偉い人なんだ。」
サクラは自分の顔が引き攣るのを確認した。
一人のエプロン姿の女性がシオン様!といって駆け寄る。20歳前後の容姿は美しいが、赤毛に綺麗な紅茶色の目を隠すよう大きな丸眼鏡をかけているためか印象はきつく見える彼女は若くしてフォース家女中最高位に就くエリス・フロンチェである。
「シオン様。そちらのお嬢様はどうなさったんですか?身なりからして貴族階級の者には見えませんが。」
「あっあの私……。」
「僕の客だ。大切な客だから丁重におもてなししろ。サクラと言う名だ。部屋は僕の隣の部屋が空いていたな。そこにしろ。」
「客室ではないのですか。それにどこの家の者ですか。」
「エリス、余計な詮索はするな。屋敷以外の者にも他言するな。僕の命令だ。」
「シオン様。しかしこのような見ず知らずの少女を屋敷に上げるなどご両親になんて説明なさるおつもりですか。」
「あの人達は本邸にいる。どうせばれやしないさ。……それに2番目の僕には興味さえ持ってないよ。」
シオンが悲しげに目を細めるとエリスは胸を掴むような思いで口を大きく開いた。
「シオン様!違います!!」
「黙れ。とりあえずサクラを休ませろ。」
「……御意。」
しぶしぶと頭を下げるエリスにサクラは下を見つめた。
「私帰ります。」
「何言ってるんだ?ここがサクラの家だろ。今日からサクラは優しい日に照らされて朝起きて夜暖かいベッドで寝るんだ。その他のことは使用人に任せればいいだろ?」
「だけど迷惑ですよね。わた……。」
「すごく素敵な方ですね。シオン、貴方には勿体なく感じます。」
えっ?とサクラが驚き振り返るとある少年が優しげに微笑んでいた。
グレーの鋭い瞳、焦げ茶色の髪を後ろで黄色いリボンを使い一つにしている。優しい笑顔。青のチョッキに黒のネクタイ。ハーフパンツは同じ青。フォース家の隣の領地を支配下に持つゴウ家の第一子、ゴウ・フィフス。シオンとは隣同士の領地を持つことから幼なじみの関係が続いていた。
その幼なじみの少年にシオンの眉間にシワがよる。サクラは目をぱちくりさせ戸惑っていた。
「……ゴウ。やっぱり来ていたか。」
「嫌そうな顔するんですね。その娘はどうしたんですか?拾ったんですか?」
「僕の物だ。手出しはするなよ。エリス、サクラを連れていけ。」
エリスは失礼します。と言うとサクラについて来るように促した。
「シオンさん。あっあの!」
「ゴウと話がしたいんだ。休んでいろ。」
「さぁ、サクラ様こちらです。」
連れていかれるサクラを見ているとゴウがクスクスと口元を抑えながら笑っている。
「僕は手を出したりしませんよ。親友の気に入ってる玩具に興味は持たないですから。」
「サクラは……玩具じゃない!僕にとって……。」
ゴウはシオンの迷う顔に検討が付きニッコリ笑った。
「会って1時間もしてないですよね。それなのにそこまで陶酔しているとは一目惚れですか?」
「陶酔などしてない!サクラは記憶がなくて泉にいたんだ。自分が誰かも歳も生まれも分からない。あのまま置き去りには出来なかっただけだ。」
「記憶喪失の少女……ですか。にしては意識がはっきりしてますね。見た目には僕達より4、5歳若いでしょう。そのわりには態度が大人……いや子供独自の無邪気差が欠けているというんでしょうか。」
「ゴウ、お前も感じたか。さすが自然を味方にする者だ。だがそれ以上に驚いたことが……。」
「どうしたんです?」
「一つの身体の中に2つの魂は宿るのか?」
シオンのあまりにも重大そうな口ぶりにゴウは溜息をはいた。
この世をなんだと思っているんでしょう?




