第3部 もう一人の君
「サクラ!ちゃんと見といてくれよ。見ていなかっただなんて話にならないからな。」
「…………。」
「サクラ!聞いてるのか?」
「あっ……はい!ちゃんと見てますからケガとかしないでください!」
私ったらつい見惚れてた……。シオンさんって格好いいから。って今はそんな状況じゃない。どこか隠れた方が良いよね……。そうサクラは思い邪魔にならないように近くの木陰に身を近付けた。
「ひゃうっ!!」
首筋にぬめっとした感触。後ろを振り返ると先ほどの白馬がいた。
「どうしたの?」
白馬は返事をするように体を揺らすとシオンをスッと見つめた。
「あなたも心配なんだね。一緒にシオンさんを見ていようね。」
サクラが白馬を撫でると白馬は頷いた。
僕の愛馬−タリタンがサクラを守るように付き添ったのを確認する。
きっと何があってもサクラを守り通すんだろう。何しろ僕が調教した馬だからな。性格は良いはずだ。シオンはそう思いながらクスリと音を立てて笑った。
「さぁて……あまり長引かせたくない。さっさと殺ってしまおうか。」
シオンは大きく左手を振り下ろした。
ギュエエェー!!!
その瞬間に大鴉の羽が大きい炎に包まれ体中が燃え焦がれた。燃える羽。燃える黒い鳥。背景の夕焼けに負けないぐらいの赤。朱。茜色。悲痛に鳴きわめく滑稽な鳥ほど惨めな物はない。
ギュエ−!!!
大鴉はまだ諦めが着いていないのか暴れだす。
「無駄なことだな。とどめは弓か。獣を狩るには遊び心が大切だ。」
何もなかった大気から赤い火花が集結し弓と矢がシオンの手元に現れた。魔法で呼び出した武器だ。
大鴉に向かい矢先を合わせる。大鴉はまた翼を大きく羽ばたかせ強風を巻き起こした。細かい火花が木々へと降り注ぐ。
「大気へと帰れ。大鴉。」
シオンの矢は炎に包まれ風さえも敵わない速さで大鴉の心臓部を大きく射ぬいた。
ギュエェー!!!!!
絶叫が絶え間無く響き大鴉は火の粉となりチリチリと消えてしまう。まるで何もなかったかのように……何も残らない。
「最上級召喚魔も対したことないな……。召喚者が力のない者だったのか手応えがない。」
シオンが弓を手放すとパッと火の粉となり弓は跡形もなく消えた。
さて、サクラはどう思っただろうか?僕の完璧な勝利に腰を抜かしていてもおかしくないはずだ。
パカパカっとタリタンの足音に背後を振り向く。タリタンが嬉しそうに頬を擦り寄せてきたので軽く撫でてやった。
「…………?」
シオンはある違和感を感じて辺りを見回す。サクラがいない。どこに!?
「タリタン!サクラはどこに行った!?」
タリタンは鼻を鳴らすと近くの木陰へと踵を返した。
シオンはタリタンの後を追うと一人の少女がスーッと寝ていた。
「眠り姫……。」
意識もせず出た言葉にシオンは、はっとしてサクラの体を抱き上げた。
軽いな。それに本当に綺麗な顔立ちをしている。僕が見惚れるだなんて今までになかったことなのに……。無自覚にシオンはサクラの金の前髪を手で梳いた。
「んっ…………。」
サクラがぼんやりと目をゆっくり開ける。
「起きたか?」
「きゃ〜!!シオンがお姫様抱っこしてる!」
「なっ!首に手を回すな!降ろすぞ。」
「そんな冗談言わないでよね!シオンって本当にカッコイイ〜。」
なっなんだ?サクラってこんなにテンション高かったか。まるで別人。いや歳からすればこのテンションが当たり前か?いきなり敬語が抜けてるだなんて僕としては許せない。シオンはどこか間違っている解釈をしているが、サクラに対し一歩近づいた。
「サクラ。おいっ。」
「やっぱり出てきて正解だった!体を動かせるって素晴らしい〜。」
シオンは手から力を抜かしどさっとサクラを落とした。
「きゃっ!痛いんだけど。」
「どういうことだ?」
「はっ?」
「お前はサクラなのか?」
サクラは砂埃を払いケロンと笑った。落ち着いた笑顔とは違う楽しそうな笑顔。
「サクラだよ〜!だけどシオンが知ってるサクラじゃないけどね〜。」
「どういうことだ?」
「シオン怖い〜。眉間にシワシワ!」
「ふざけるな!本当のサクラはどこだ!」
「怒らないでよ。ここ。」
サクラは胸を指した。
「心の中にサクラはいるの!私とシオンが名付けたサクラって子は別人格なの〜。一つの体に2つの魂みたいな感じですっ!」
キャハキャハと無邪気に笑うサクラにシオンは目がふさがらない。
「それよりシオン!この子の為に紫蝶を見つけて欲しいの!」
サクラ……いやもう一つの人格サクラの切羽詰まった表情に空気が変わった。




