第2部 魅力てきな彼の顔
「サクラ…………。」
「えっ?」
「“サクラ”がいいと思うんだがどうだ?」
「サクラ……。」
少女は嬉しそうにポツリとつぶやいた。
名前があるというだけでなんて暖かいんだろう。
「シオンさん!ありがとうございます!」
「別にたいしたことじゃない。……気になっていたんだがそのネックレス。」
「これですか?」
「あぁ。ちょっといいか。ここから魔力を感じるんだ。かすかだけど……。」
少女ーサクラは手にとってシオンへと渡した。
シオンはその蝶の部分を握りしめ、瞳を閉じた。
「えっ!?」
サクラは声を漏らした。
シオンが持ってる拳を包むように赤い円上の中に文字やら数式が浮かんだからだ。浮かんだかと思うと手の中に吸い込まれてしまった。
まるで文字一つ一つが意思を持つみたい……。
「……なるほどな。これが媒体となってるのか。中身がなんなのか知りたいが僕の力では無理なのか。」
「あっあのシオンさん?」
「中に包まれているのは希少価値とみて間違いないな。最上級召喚魔、いや魔法か?しかしこんなに小さい器に入ってるのだから、押さえる力がない。」
「シオンさ~ん??」
「ということはあまり力がない物か。なら僕の魔法で解除出来ないのはなぜだ?中に何が入っている?召喚魔に壊させるか?いやでも媒体が壊れては意味がないな。」
「シオ……。」
「なぜだ。僕の力が足りないというのか。僕は国の上級魔術師にも並ぶ力をもつ。力だってフォース家の血をもつ。この歳にして王国直属騎士だというのに……侮辱しているのか!?」
シオンさんって熱中すると忘れやすいタイプなのかな?
ちょっと存在を否定されているようで苦しいんだけどなぁ。
サクラは切なくも笑った。
「シオーンさん!!!」
「……うわっ!なっなんだ。えっと……サクラどうした?」
「今、私の名前忘れませんでした?それに私さっきから呼んでたんですけど。」
「そっそんなわけないだろ。僕が付けた名前だからな。呼んでたことに気づかなかったんだ。」
ちょっと動揺しているようにシオンは空を見た。
サクラは話を戻したくて気にすることなく興味深い眼でシオンを見つめた。
「さっきのなんですか?」
「……?さっきのとは?」
「シオンさん眼をつぶってましたよね。あの時、赤い字とか円が出てたんです。」
「あぁ。“魔法陣”のことか。」
「……魔法陣?」
シオンは得意げに笑って説明する。
「僕たち王国に仕える者達は魔法を扱うんだ。それは知ってるか?」
「魔法……。火とか水を出したりとか出来たりするんですよね!」
「そういうことを知ってるなら話が早い。その魔法の扱い方は様々なんだ。だが人の中には魔力が存在しない。そのため魔力が貯められている媒体、魔法陣が刻まれている物を使うことで人は魔法を扱える。杖が一般的だが、最近では剣や弓矢でも魔法を使えるようになったな。」
「でもシオンさんは使ってなかったですよね。」
「僕は特別だ。あえていうなら“血”の中に魔力があると言っていいかな?僕の中にある血自体が魔法。魔法陣があらわれるのは媒体となる僕が使ったからだ。分かったか?」
えっと……魔法を扱うためには魔力が注がれている武器を使うことが普通。だけどシオンさんは特別で、(なんで特別か聞いたらきっとフォース家がうんたらかんたら……言いそうだから聞かない。)武器を使わずに魔法が使えるってことかなぁ。
「そこまで難しい顔をしなくていいぞ。別に記憶喪失の低脳な少女が覚える話しにしては過酷だからな。」
「それ馬鹿にしてるんですか?シオンさんも結構若そうですね。いくつですか。」
「今年で15になるな。……それより、その媒体についてだがサクラが持っていたネックレスにも感じられたんだ。中身の魔法陣が知りたいんだが遮断されていて分かりそうにない。サクラについて何か分かるかと思ったんだけどな……。」
シオンは眼を細める。手に持つネックレスをサクラに返した。
サクラは返されたネックレスを見つめ蒼い瞳を向ける。
「思ったんですけど……シオンさんの魔力が足りないとかじゃないんですか?」
「そんなわけあるかっ。僕は王国直属騎士だぞ。その僕がそんなことあるはずが。」
「こんなに小さいのにわからいんでしょう?」
「…………。それとこれは関係ない。」
「それにシオンさん。15になるのに王国直属騎士とかありえない気がするんですけど。」
「……そうか。そこまで言うなら僕の力を見せてやる。」
馬を止めようとしたとき、木の陰から人の気配を感じたシオンは黙り込んだ。
なんだ。人?さっきの奴らか。いや違う!これは……。
「シオンさん!あれっ!」
サクラが茜色の空を見上げ声を上げた。
そこには10メートルを超えるであろう大きい鳥らしきものが飛んでいた。
「漆黒の翼は絶望を呼び起こす最上級召喚魔“大鴉”!なぜこんなところに……。」
大鴉は大きな翼をひるがえしシオンの元へと向かう。そしてその大きなクチバシから鋭く黒い針を何百本も放った。シオンは馬からとっさにサクラ共々降り、馬を森へと逃すと草陰に隠れる。
「僕達を狙っているのか。……!さっきの……。」
さっきと同じような人の気配は感じられない。逃げたのか……。
シオンは舌打ちした。召喚魔は召喚した者を倒すか召喚魔自体を倒す必要がある。
俄然、召喚者を倒す方が楽なのだ。
「シオンさん。あれはなんなんですか!?」
「召喚魔だよ。魔法より高度の魔力が必須とされる『獣の形をする魔力持つ媒体』といえば分かるか?」
「それって危ないんじゃないですか。速く逃げましょうよ!」
「……っふ。いいだろう!サクラよく見てるといい。僕の強さを!」
何がいいだろう!ですかっ!私は逃げようって……。
不安そうなサクラとは違い、余裕そうに笑ったシオンはサクラが見た表情の中で、もっとも楽しそうで魅力的に見えた。




