第1部 "出会い"なんて運命。
こちらの連載小説は中世の貴族、そして異世界を融合させました。
ほのぼのになるといいです。
私はいったい何をしているのだろう。
池を眺めてる?そう今の私は池を見てるんだ。
綺麗な水が透き通って池の下面が見える。そこには小さい魚が追いかけっこしている。
少女はいきなり池に映った自分の顔を見てベタベタと顔に触れた。
少女は10にも満たない幼い顔立ちをしている。それでいて白百合にも劣らぬ肌、大きな蒼い瞳、向日葵のような金色の長髪は世の女性どもが見たら羨ましげに溜め息をつくだろう。そして薄着の白いワンピースの胸元には銀で作られた紫色の蝶のネックレスが眼をひく。
池の周りの林がガサッとゆれ少女は一瞬で振り向いた。
「…………誰?」
そこには汚い格好の男どもが群れていた。手には拳銃が握られている。
しかしその男どもは一瞬黙り込んだ。あまりの少女の美しさに声が出なかったのである。
その内の一人の男が本来の目的を思い出し口を開いた。
「さっさと金目のものを出せ!」
少女は眼を丸くした。
「金目のものってなんですか?」
「はぁ!?あんたそんなことも知らないのか?金になるもん……いやとりあえず持ってる物だしやがれ!」
「私……何も持ってないの。」
今度は男達が眼を丸くしケラケラ笑い始めた。
「だったらさ別のもんで払ってくれよ。」
「あんた、いい顔してるもんな。こいつ売れば金になるか!」
「上玉だな!さっさとひっとらえようぜ!」
小汚い男どもは少女にじわりと近づいた。恐ろしい顔に少女も意味を察したのか一歩引いた。
速く逃げなくちゃ行けないのに。体が動かない。誰か……誰?私は誰も……。
その時、茂みががさっと揺れた。
「そろいもそろって下劣だな。礼儀をわきまえないところはネズミよりもタチが悪いな。」
茂みから現れた少年と白い馬にその場にいた少女も男どもも眼を見開いた。
先に口を開いたのは薄汚い男どもだ。
「なんだ?ガキ。こっちは楽しみ中なんだよ。邪魔するんじゃねぇよ。」
「そうだぜ。ヤケに身なりがいいじゃねーか。だったらあんたが金を出すか?」
少年は馬から降り、やれやれと溜め息をつく。
少年は貴族が着るような上等な服を着こなしていた。白を主本に3つ揃いのスーツにロングブーツ。白の手袋にシルク・ハット。蒼いネクタイにはアクセサリーなのか銀の宝珠が飾られている。
シルク・ハットをとった青年は気品あふれる顔立ちをしていた。顔の作りがよく金髪に緑の眼が印象的にも宝石のように綺麗で見惚れてしまう。
「悪いがそこらへんにいるのと一緒にされては困るんだ。僕はこの森を領地に持つフォース家の第2子、シオン・フォースだぞ!」
「そんなのしったこっちゃねーな!」
「親方!フォース家といえばこの国きっての武道家です!王が命じれば国一つ潰せる勢力を持つんです。」
「それも2番目のシオンって野郎はもっともその残酷性をもつ王国直属騎士。15という若さとは裏腹に殺した数は1000にも勝るとか……。」
「なっなに!?」
だらだらと汗をかきながら後ずさる男達。
「ふっ……そこまで知ってるのなら話が早い。今なら逃してやる。それとも……今ここで短い命を終わらせるか?」
シオンが眼を細め冷笑を浮かべるのと同時に悪寒が走った男どもは「ひィっ!!!」と走って草むらへと逃げてしまった。
その光景を見ていた少女はポカンとした表情で男どもが逃げた草むらを見た。
いったいなんだったのだろう?あの人達は何がしたかったの?
その顔をみて少年はさっきとは打って変わって少年らしくクスクス笑い始めた。
なんとも面白い顔だ。しかも顔が整ってるだけにその表情がかわいらしくて仕方ない。
シオンは片膝をついて少女へと手を捧げる。
「最近ああいう輩が多くてな。警備が怠っていた。すまない。大丈夫か?」
「……はい。あの!あなたはいったい?」
「僕はシオンだ。ここの領地、フォース地方を束ねる家系の者なんだが……。聞いたことないのか?」
少女の手を引っ張り立たせる。少女のワンピースについた砂を払ってあげる優しい一面をみせ、シオンは期待するような眼差しを向ける。
「さっぱり分からないんですけど。」
少女の一言にシオンは溜め息をついた。
フォース家といえば、この地方に住んでる者なら口を合わせて知ってる、と答えるだろう。
なんといっても、国の3割はフォース家が支配しているのだ。王に服従を誓っているため町民に無駄な税金を取り立てることもしない。そのため善良な領主として名が高いため代々伝わる家系が地方名にまでついたほどだ。
「……困ったな。これでも有名な方だと思ったのに。」
「すみません。あっあの私が何も知らないだけなんで。」
「いやいい。それで貴女の名前は?」
その瞬間、少女の顔に色がなくなり、ふせる。
シオンはどうしたのか心配になり首をかしげた。
「別に名乗りたくないのならいい。せめてどこの街から来たのか教えてもらえないか?もう日も暮れる。馬で送ってやろう。」
「私の名前は……分からないんです。なぜここにいるのかも。どこから来たのかも。ただこの池の近くにいてそれで眺めてたんです。」
少女の悲しげな表情にシオンは黙り込んだ。
記憶喪失というものか?確かに少女の姿はここら辺では見かけない格好である。森に入るというのに薄着では死を意味するものだ。
よく死ななかったな……。この森にはウサギや鹿など無害な動物がいるが狼や猪、熊などもいる。運が良いのか。それともこの池の神話か。
とりあえずこの少女を森に置いてくなど僕の家系にかけて出来ないし、とりあえず……。
「僕の家に来い。」
「えっ悪いです。遠慮します。」
少女は手を精一杯振って拒絶した。
「だったらどうするつもりだ?名前も分からないのなら自分の居場所も分からないんだろ。僕の家でゆっくり考えればいいさ。」
少女はシオンの言葉にゆっくり頷くと頭を下げる。
「……お願いします。」
シオンはニッコリ、満足げな笑顔で少女の髪を撫でた。
「気にするな。ほら来い。馬に乗るぞ。ここから屋敷まで結構時間がかかるからな。その間、一般的なことを教えてやる。」
少女は嬉しそうにシオンの後を追った。
シオンの馬は、気立てが良く白い毛並みに朱い瞳だ。
シオンが最初に乗り、少女を引き寄せ腰を置かせる。シオンが手綱を握ると目の前に座る少女はあまりの高さにシオンの胸板に抱き着いた。
初めて乗った……。馬ってこんなに高いんだ。
その様子を悟ったシオンは柔らかい口調で少女に視線を送る。
「どうした?馬は初めてか?」
「……はい。」
「安心しろ。速く走らせたりしないし、落としたりしないからな。」
シオンの優しさに少女は目をまるくした。
「私、勘違いしてました。」
「……何をだ?」
「さっきの人達、シオンさんが人を殺すって言ってたものだからシオンさんがすごく冷徹な方だと思ってたんです。」
「…………。」
「でも優しい方なんですね!」
少女の笑顔にシオンは悟られないように溜め息をついた。
僕が優しい……か。ありえないな。あの盗賊達が言ってた通り、王国直属騎士たる僕は最前線で戦う特攻騎士。国に逆らう者達は容赦無く切り捨てる。そんな僕が優しいなどありえない。
「……とりあえず聞くが君はどこまで知ってるんだ?」
「何をですか?」
「この国や物事についてだ。名前や出身が知らないだけか?」
「……たぶん。」
「まぁ最低限の知識はあるようだな。」
少女の動作や口調からして全て分からないと言う訳ではない。10歳ぐらいにしては落ち着きのある方だ。
シオンは少し安堵した。
「……あのシオンさん。」
「なんだ?」
「私は何も望みません。だけど一つだけ願いがあるんです。」
「…………?」
「私に名前をくれませんか?」
少女の切ない目にシオンは少女を見た瞬間から考えていたことをポツリと呟いた。




