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40 妄想とエルメス

 エルメスには妄想癖がある。

 その中には地獄から悪魔達が押し寄せて、地上を蹂躙し、そんな悪魔達に対抗出来るのは自分だけだ! というものがあった。

 ……その妄想が、現実となっている。

 ゴンベスからの話を聞いた時、エルメスは全力でそれに対抗出来るように準備を始めていた。


 だが甘かった。

 まさか本当に、魔王級と戦えるのが自分だけとは思っていなかった。

 軍や民衆に被害があまり出ない程度にこっそりと動き、それで得られる称賛程度で充分だと思っていたのだ。

 東と北からの援軍を待って、それで包囲して悪魔を壊滅させる。

 そんな予定でいたのだが、悪魔達が強すぎた。


 しかしエルメスは、妄想しだしたら徹底する偏執者でもある。

 エリクサーは99個まで貯めるタイプだ。

 そして彼は今、過去の自分を全力で誉め讃えたい気分であった。

 なにしろ魔王が強すぎた。




 本当に甘く見ていた。

 強すぎてごめんなさい、などとは口が裂けても言えなかった。

 趣味で作っていた魔術や杖を、まさか実戦に投入することになろうとは。


 光線の一撃で、アスモデウスには穴が空いて倒せると思っていた。

 魔力的にはエルメスの方が上なのだ。悪魔の肉体が頑丈でも、強力な魔術ならば山をも砕く。


 だが、実際は思惑通りにはいかない。

 山なら動かないのだから、吹き飛ばすのは簡単なのだ。

 絶対に命中する攻撃は、命中率にリソースを振っているため、破壊力としては充分でない。

 今まではずっと充分だったのだが、今回だけは違う。


 アスモデウスは被弾しても大丈夫な攻撃と、回避すべき攻撃を的確に見分けていた。

 戦闘勘がある。まあ魔王であるからには神話時代に神々と高度な戦闘を行っていたはずなので、それも当たり前ではあるのだろう。

 つまり、普通に強い。

 アスモデウス一人で、他の悪魔全部よりも強いのではないだろうか。


 この時エルメスは知らないが、アスモデウス旗下の幹部級悪魔は、ワールの軍を蹂躙しかけていた。

 数体の上位悪魔が、数の有利を許さない強さを持っている。

 1の攻撃力を100回繰り返しても、100の防御力を突破する、累積した力にはならないのだ。

 ようするに水鉄砲を100回かけても、鎧を壊すことが出来ないのと同じである。

 ……錆びて壊れるぐらいの根気があるなら別だろうが。




 さて、光線は効かない。熱線は当たらない。

 アスモデウスの攻撃は、直接肉体に受けたら確実に死ぬ。

 この状態でエルメスはまず、防御に全力を振るった。


 死んだら終わりなのである。最悪逃げ出して、後日アスモデウスを倒すという選択も、本当に最悪だが想定すべきだ。

 だがもちろんそれは最後の手段なので、エルメスは知る限りの魔術を使うことを決心した。

 中には大地を汚染するような危険な魔術もあるが、幸い周辺は人の気配がない。戦闘後に洗浄すればいいだろう。


 あれを使おう。

 エルメスは防壁の出力を強化した。

 アスモデウスに攻撃を当てる方法を考えるより、回避不可能の広範囲魔術を使う方が簡単だ。

 前世のエルメスでさえ危険視して、実戦で使ったことは一度しかなかった。

 周辺への悪影響がひどいので、どうすれば少しでも毒が弱いか、実験だけは何度もしたものだ。

 あれはまさにこの時のためにあったのだろう。

 エルメスは集中を始めた。




 相手を甘く見ていたのは、アスモデウスも同じであった。

 そして今もまだ、甘く見ている。


 エルメスは確かに強い。

 防御手段も攻撃手段も、並の悪魔なら全くもって対処のしようがない。

 逆に言えばアスモデウスならばいくらでも対処できる。

 自分の防御を抜いてくるような魔術を使ったのは驚いたが、威力に速度が伴っていない。

 それにエルメスは片端から、使い捨ての魔道兵器を使っている。

 あれが尽きた時、エルメスには対抗手段はなくなる。


 それまで待ってもいいし、より強力な攻撃をしてもいい。

 そんな選択肢を持つアスモデウスは、油断をしていたわけではないが、切迫してはいなかった。

 むしろ人間ではあるが、エルメスを部下にしたいとまで考えていたのだ。

 エルメスの手によって失った戦力なら、エルメスを加えれば以前より強大になるということだ。


 だがエルメスは違う。相手の戦闘力が判明した以上、一瞬でも早く敵を征圧するのが鉄則だ。

 特にお互いの攻撃力が突出している場合、先に攻撃することと、先に命中させることが、勝敗を分ける部分なのだ。

 手加減をする気がないエルメスは、その点では有利だった。




 杖を出して結界を強化する。今から使う魔術は、そういった配慮なしでは使えないものだ。

 周辺を再確認。ある程度の環境破壊は仕方がない。

 そして更に杖を出す。これは魔術制御の補助だ。


 完全な準備を終え、エルメスは魔術を発動させた。




 それはエネルギーであった。

 最初は魔力であったが、発動するにあたって純粋なエネルギーへと変化した。

 正確には魔力を使って、エネルギーを生み出したのだ。


 物理法則のおかしなこの世界でも、ある程度の法則は存在する。そしてその法則の上で、エルメスの魔術は発動した。

 アスモデウスは強大な魔力が発生したのとほぼ同時に、もっと純粋なエネルギーが発生したのも感知した。

 それは光速よりも一瞬だけ遅い刹那。しかしそれは、生死の境。


 核分裂。

 熱核破壊兵器とほぼ同じ現象をエルメスは魔術で生み出していた。

 普通の炎の魔術が発する温度は、せいぜいが2000度。人間を焼き尽くすには充分であるし、金属もかなりが融解する。

 しかし核兵器の熱量は、数万度となる。桁違いだ。下手をすれば金属を融解ではなく蒸発させる。

 その熱量に合わせて、空気が爆発的に動く衝撃波。

 実際の核兵器もそうだが、光の速さで熱が通り過ぎた後、空気の爆発が残った物体を破壊する。


 その日、ワールの街の東に、大きなキノコ雲が発生した。

京アニ……ひどい話。

よく死ぬまで苦痛を与え続けろとか言う人もいるけど、更生の意思のない犯罪者は、速やかに死刑を執行すべきだと思いますよ。

生かしておくだけでも税金から食費などが使われるんですから。

強制労働をさせるにも、閉じ込めて管理するだけのコストが、税金から払われてるんです。

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