表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/43

32 防衛するエルメス

 悪魔達の正面からの攻撃が始まった。

 それは恐ろしいものだった。

 何が恐ろしいかというと、特別なことは何もしてこないのだ。

 特別なことは何もせず、ワールの街の城壁を破壊しようとするのだ。

 ワールの街に当然ながらある防衛兵器では、悪魔達を傷つけることが出来ない。

 稀に傷つけたとしても、すぐに治癒されてしまう。

 その時必要とするのが、殺した人間であった。


 人間を食べて悪魔は回復する。

 魔物の肉なども食べていたが、人間の肉や血はその比ではない。

 ほとんど薬とさえ思えるほど速く、悪魔達の傷は治るのだ。


 という情報を、エルメスは得ていた。

 わざわざゴンベスに聞いたわけではなく、過去の悪魔に関する研究から、それは知られている。

 だから人間を避難させることは、単に被害を抑えるだけでなく、悪魔の継戦能力を下げる効果もあったのだ。


 ここまでは上手くいっている。

 そう思いながらもエルメスは、一つの要素を修正していた。

 それは悪魔達の、攻撃手段の変化速度である。


 これが普通の人間の軍であれば、作戦計画の変更までに、もっと時間がかかる。

 人間の軍であればもっと数は多いし、装備も決まっているし、命令の伝達と編成に時間がかかるのだ。

 だが悪魔は、その少数がゆえに、対応が早い。

 空中からの攻撃をあっさりと諦め、今は城壁への攻撃を行っている。

 悪魔の移動は早く、通常の迎撃兵器ではまず当たらない。特に大型兵器は駄目だ。

 かといって通常の矢や魔術など、その防御力の前にはなかなか有効ではない。

 悪魔は巨体のものが多いが、かといって鈍重ではない。


 それでも通常の戦力で、悪魔を消耗させることには成功していた。

 個人で扱うものではあるが、ワールの街でも上位の弓使いは、極度の精度と痛烈な打撃力を併せ持つ。

 それでも悪魔を一撃で倒すほどではないが、中には急所を貫通し、倒すことに成功する者もいた。

 まったくもって、弓矢というのは素晴らしい武器である。




 悪魔達は若干の距離を取った。

 ワールの街からも投石器やバリスタが届かない距離だ。

 攻めあぐねてくれるなら、なんともありがたい。


 そう考えていた時間は、本当に短かった。

 エルメスなどは一応相手の姿が見えるので、超遠距離からの攻撃をしようかとも考えた。

 しかしそれが相手の攻撃を再開させることになるかもしれなかったので、エイルには言えなかった。

 結論だけを見るなら、攻撃はすべきであった。

 エルメスの魔術なら、相手が対処するまでに数体は倒せただろう。

 だが結局悪魔の使った魔術によって、その選択肢はなくなった。


 悪魔達は土の魔術で土塁を築きながら、大規模な破壊攻撃を行ってきた。

 魔術の破壊だけではなく、巨大な石を操って投げつけてきたのだ。

 石を作りだし射出する魔術はある。

 しかし悪魔のそれは、もっと純粋な、巨石を投石器のように射出するというものである。


 悪魔達は動ける。

 しかし城壁の投石器は動けない。

 悪魔達の取った手段は、実に堅実であり、当然のものであった。


 巨石はワールの街の堅牢な城壁にもダメージを与えていた。

 ワールの街の城壁は、当然ながら投石器の攻撃を想定した強度がある。

 しかし悪魔の放つ巨石は、形もさることながら純粋に質量で上回っていた。

 城壁が破壊されていく。

 そしてそれに対して、こちらからは有効打を与えられない。

 戦闘の局面は変化しようとしていた。




 司令部の空気は重かった。

 城壁からやや距離があり、造りも堅牢であるこの建物は、さすがに悪魔の投石を恐れることはない。

 しかし市街地においては、城壁を超えた投石による被害が出つつある。

 またこのままでは、悪魔は確かに魔力を消耗するかもしれないが、こちらはそれ以上の被害を出すという観点では一致していた。


 このまま攻撃が続いた場合、援軍の到着以前にワールの街の城壁は、修復不可能なまでに機能を喪失するかもしれない。

 またそんな状態では、せっかくの援軍が来援しても、ワールの街の軍と協調して行動することは難しいだろう。


 篭城を続けるか、それとも攻撃を開始するか。

 悩ましい二択である。

「いや、篭城しかないでしょう」

 低いうなり声の中で、エルメスの声は明るく響いた。

「こちらから攻撃した場合、悪魔達は自分たちが作った土塁を利用して、こちらに継続的な出血を強いることができます」

「しかし街が破壊されているんだぞ!」

「破壊させておけばいいでしょう」

 エルメスはあくまでも冷静だった。

「悪魔の攻撃が城壁を超えてくると言っても、それは城壁近辺の民家を破壊する程度です。そこから住民を避難させるだけの土地は、ワールの街にはいくらでもある」

 エルメスはワールの街の地図の上に、指を置いた。

「現在悪魔達の攻撃は、北門にのみ集中しています。悪魔は強力ですが、数が少ない。東西の門に被害がなければ、援軍との挟撃には充分です」


 エルメスの意見は、別に特別に優れたものではない。

 人間の国家同士の争いでは、篭城においてそういった手段を取ることもある。

 だがパガン王国は泰平の時代が長く続き、また相手が悪魔という特殊なだけに、常識を当てはめることが出来ていないのだ。

「北からの攻撃は放置か?」

 エイルの問いにも、エルメスは明確に答えた。

「悪魔が接近しない限りは、放置でいいでしょう。そしてその間にもう一つ、破壊された城壁との間に土壁を作る。魔術師を総動員すれば、そう難しくないはずです」

 幹部たちが顔を寄せ合う。中でも必死で考えこんでいるのは、魔術兵団の長だ。

「……悪魔達の動きにもよるが、土壁の魔術でそこまでのものを作るのは難しい。いざ戦闘時に魔力が枯渇していたのでは、冗談にならん」

 こういう場合上に立つ者は、叱咤激励するか、欠点に気付いて足踏みする者の二者に分かれる。

 そして残念ながら魔術兵団の団長は、後者に属するものであった。


 しかしエイルは違う。

「エルメス、お前一人で出来ないか?」

「やっていいんですか?」

 やれと言われれば出来るエルメスである。だがそれは、魔術師たちの顔を潰すことにはならないのだろうか。

 この騒動が終わった後の就職を考えると、無駄な軋轢は生みたくないエルメスである。

「やれ。じゃないと例の話はなしだ」

「分かりました」


 そしてエルメスはワールの街の内部に城壁よりも強固な土壁を作り、魔術師たちを愕然とさせるのであった。

次回投下は一日遅れるかもしれません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ